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Volume 19, No.1 Pages 80 - 86

6. 告知板/ANNOUNCEMENTS

「専用ビームライン 中間評価」について
Interim Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 SPring-8の専用ビームライン(以下専用BLと記します)は、(独)理化学研究所以外の設置者が、その利用目的に添った計画を立案し、登録施設利用促進機関であるJASRIに設置した専用施設審査委員会およびSPring-8選定委員会において「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき検討評価され、選定されます。
 現在、SPring-8には国内外・産学官の設置者による19本の専用BLが稼働中です。設置が認められた専用BLは、その設置期間の中間期を目処に専用施設審査委員会等において、その使用状況および研究成果等の中間評価が行われ、継続、改善、中止等の判定が行われます。

 平成26年2月に開催しましたSPring-8選定委員会において、平成25年8月および9月の専用施設審査委員会で中間評価を実施した下記5本の専用BLの評価結果が審議され、ともに引き続きビームラインの運用を「継続」する旨の結果を得ましたので、財団より、各設置者へ通知いたしました。

 

中間評価実施専用BL
 1.サンビームIDビームライン(BL16XU)
 2.サンビームBMビームライン(BL16B2)
    (設置者:産業用専用ビームライン建設利用共同体)
 3.豊田ビームライン(BL33XU)
    (設置者:株式会社 豊田中央研究所)
 4.生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)
    (設置者:国立大学法人 大阪大学蛋白質研究所)
 5.東京大学放射光アウトステーション物質科学ビームライン(BL07LSU)
    (設置者:国立大学法人 東京大学)

 

 ※各専用BLの評価結果は次頁以降に掲載

 

 

「サンビームID/BM(BL16XU/BL16B2)専用施設中間評価結果」

 サンビームは、挿入光源のビームラインBL16XUと偏向電磁石光源のビームラインBL16B2より成り、産業用専用ビームライン建設利用共同体(以下共同体)が1998年から建設、1999年より運用を行なっている。現在の第二期設置契約期間(2008年8月~2018年8月)を開始するにあたり2007年に承認された計画に基づいた機器整備が着実に実施され利用されていること。『サンビーム年報・成果集』の発行等による利用成果発信への努力が認められること。硬X線光電子分光装置の新規導入等の今後の機器整備も適切な計画と評価できること等を鑑み、専用施設審査委員会(以下本委員会)は第二期後半も当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。
 なお、共同体の活動は放射光関係者への認知は進んでいる一方、一般社会における認知は必ずしも十分ではないと考えられることから、今後の利用成果についての情報発信の強化を期待する。

 以下、共同体から本委員会に提出された「サンビームID/BM中間評価報告書」と平成25年8月30日に開催された委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL16XU、BL16B2ともに各社の解析ニーズの高度化・多様化、利用技術の向上、並びに設備の老朽化や陳腐化を考慮して「世界最高の各種汎用測定」の実現を目指した機器整備が行なわれている。BL16XUの入射光形成機器については、二結晶分光器をピンポスト傾斜型直接水冷方式から液体窒素間接冷却型への更新と移相子光学系の利用可能なエネルギー範囲の拡大を計画通り実施している。強度分布の均一性の確保など更なるビームの質的向上を期待したい事項もあるが、実験ハッチに導入されるX線ビームの位置安定性の向上と8倍の強度増加を実現したことは高く評価できる。これによりBL16XUで実施する全ての実験、特にマイクロビームを用いたX線回折、蛍光X線測定、XAFS測定やXMCD測定の性能が向上し、分光器の更新は成功だったと認められる。
 BL16XUの実験装置の高度化は、ビームラインに設置された蛍光X線分析装置、回折装置、マイクロビーム形成装置の全てについて計画どおり実施されている。蛍光X線分析装置では、波長分散方式とエネルギー分散方式の二方式での測定を踏襲しつつ試料ステージの自由度を向上させ、波長分散方式において、コンプトン散乱を抑制した良好なスペクトルが得られるようにしている。また、シリコンドリフト検出器(SDD)への更新を通じてエネルギー分散方式での測定効率を向上させている。更に、第一期に設置されていた回折装置を廃して8軸回折計(Huber製)を導入することにより回折計の軸自由度と試料位置走査範囲の拡大、及びCdTe検出器を導入して高エネルギーX線の高感度・高エネルギー分解能X線回折を可能にした。マイクロビーム形成装置は、フレネルゾーンプレート(FZP)による集光機能を追加するとともに、垂直(鉛直)回転軸試料台と水平回転軸試料台の新設によりサブマイクロメータ集光ビームを用いたX線回折、蛍光X線測定、XAFS測定やXMCD測定のマッピング測定が可能となった。加えて大面積SDD(素子面積80 mm2)を導入によりマイクロビームを利用した蛍光X線マッピング測定を高感度化している。また、BL16B2が先行して導入していた反応性ガス供給・排気装置を新設し、ガス雰囲気下でのその場反応(in-situ)X線回折測定を実現している。
 BL16B2は実験ハッチへの6軸X線回折計、19素子SSD検出器、XAFS用ガス混合器、X線フラットパネル検出器の新規導入とXAFS用冷凍機の改造を計画通りに実施し、蛍光quick-XAFSや二次元XAFS、及び高エネルギーX線回折が可能となった。光学系・測定系の改良に加えて、反応性ガス導入装置の汎用化など、産業利用上必須の実験環境の充実など、産業利用に特化したビームライン構成として整備されている。以上の機器整備は他のビームラインとの比較において新奇性が高くはないが、標準的なものであり、産業利用を対象としたビームラインの「世界最高の各種汎用測定」を目標に整備を着実に実施していることは評価に値する。懸念としては、ビーム強度改善、検出器の2次元化等計測系のパフォーマンスが向上すると、処理できないほどの計測データが集積することになりかねない。単に記録装置(HDD)の容量不足だけでなく、データを処理して有用な結果解釈を得るプロセスに関わるパワーソースの不足も容易に予想される。これらいわゆるビッグデーターについて効率的な取扱いなど検討がなされることを期待する。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 業種の異なる13社が共同して運営する世界的にも稀な利用体制であるが、安全衛生、利用計画及び装置ごとにサブグループを設置する等の工夫で共同運営が円滑に行われていることは高く評価できる。人材育成も着実に進んでいると認められる。各社平等での利用・運営を原則としているが、新規技術の迅速な導入や成果創出の促進とは相容れない可能性もある上、建設当時の試行錯誤であった時期から相当進歩、発展しており、各社各業界で計測テーマや利用頻度にも差が出てきたと判断できることから、利用・運営方法を工夫し、最適なビームタイムの配分を検討することも必要と考えられる。
 共同体外のアカデミア等との連携についても活動が進んでいることは評価できる。実際、参画各社はサンビーム以外の共用ビームラインを適宜使用しており、計測手法等で巧みに使い分けている。SPring-8全体で考えた場合、専用施設といえどもSPring-8の他の先進的なビームライン装置との補完的な利用も必要であると判断できることから、さらなる共同研究など積極的な連携への取組を期待する。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 論文発表等は少ないものの、ある程度の特許出願やプレス発表が行われていることから利用成果が各社の技術開発活動に寄与していることをうかがい知ることができる。更に、サンビーム研究発表会を定期的に継続して実施している上、2011年度からはJASRIのSPring-8成果審査委員会により「公開技術報告書」として認定された当該年度の利用研究課題の成果を掲載した『サンビーム年報・成果集』を発行し利用成果の公開を促進する姿勢は高く評価することができる。一方、同成果集には、査読付き論文誌への発表に値する内容の報文が少なからず認められ、これらは、より広範な成果公開を行う観点から積極的に論文誌に投稿することが望ましい。また、放射光の産業利用が産業の国際競争力の強化や企業活動の活性化に大いに有用であることが広く社会一般に認知されることは、SPring-8及び放射光科学の発展の為にも極めて重要である。本委員会は、社会的影響力の大きな我が国の代表的な企業群より構成される共同体に、産業界における放射光利用成果の社会還元や情報発信の方法を積極的に検討し、放射光利用成果をより明瞭に公表するための努力を求めたい。

4. 「今後の計画」に対する評価
 試料高温加熱装置や、一次元、二次元検出器の導入、硬X線光電子分光装置の新規導入は、機器整備として標準的なものであり適切な整備計画と認める。また、各社からのニーズ調査と合意形成の上でこれらの機器整備を意欲的に行うことは評価する。より迅速な新規技術導入を実現するために共同体内で最新の技術情報が共有できるような取り組みを期待する。なお、硬X線光電子分光装置の導入はタイムリーな計画であり評価するが、ビームラインに設置された機器が増えるためビームタイム配分等について工夫が必要と判断する。繰り返しになるが、本委員会は機器整備と並行して利用成果についての情報発信の強化を強く期待したい。

以上

 

 

「豊田ビームライン(BL33XU)の専用施設中間評価結果」

 豊田ビームラインはSPring-8初のテーパーアンジュレーターを光源とするビームラインであり、豊田中央研究所の専用ビームラインという特性に対応して、研究目的を精選し、共用ビームラインでは実施困難な特徴のある研究を遂行出来るビームラインとして建設、研究がなされている。また数十人に上る定常ユーザーをグループ社内に育成し、利用者数としては約150名に上っている点はSPring-8における放射光利用研究がグループ社内に定着してきた現れとして評価出来る。専用施設審査委員会(以下本委員会)は、これらの実績を高く評価し、当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。

 以下、株式会社豊田中央研究所から本委員会に提出された「豊田ビームライン中間評価報告書」と平成25年8月30日に開催された委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 長年に亘るサンビームをはじめとする国内外の放射光施設を利用して研究を行ってきた経験を活かし、(1)排ガス触媒や二次電池等の機能性材料のリアルタイム解析と(2)金属やセラミックス材料の非破壊内部構造解析の二つを研究目的の中心に据え、それらの目的に適したビームライン、実験法の整備を着実に進めている。
 (1)の研究目的達成のためには、SPring-8で初めてテーパーアンジュレーターを光源として導入し、コンパクト結晶分光器や高速測定に対応出来る電離箱、信号処理系を開発・導入し、最短10 ms間隔でのXAFSスペクトル測定を実現している。また、自動車用排ガス処理触媒をはじめとする反応をオペランド条件下で測定するために、独立した実験棟を建設し、設定した各種のパラメータに基づき雰囲気等を自動的に制御出来る高速ガス反応解析システムを独自に開発し、設置している。独立した実験棟を建設したことにより、高圧ガス規制法の要求を満たし、かつ安全を確保しながら、実験に各種のガスを使用することを容易にしている。
 (2)の研究目的達成のためには、二次元検出器Pilatus 300 Kを備えた標準的な回折計を整備するほかに、多結晶材料中における結晶方位分布を非破壊で三次元的に観察する手法として走査型三次元X線回折顕微鏡(S3DXRD)を開発し、実証実験を実施している。
 これらのビームライン、実験装置の制御系をSPring-8の協力を得ながら、自力で開発していることは、実験条件の変化等に柔軟に対応出来るものと評価できる(企業であるので、ソフトに対するドキュメンテーションも十分になされているものと推測する)。
 一方、当初予定していたXMCD実験装置やエンジンベンチについては社内ニーズの関係から建設が見送られている。
 また、開発されたコンパクト結晶分光器技術はBL28XUやBL36XUにも展開されており、専用ビームラインで開発された技術が当該ビームラインに閉じずに、広くSPring-8を利用する研究者に活用されるように努力しているという観点で評価できる。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 一社専用のビームラインであり、社内の設備としてきちんと位置付けて安全管理され、常駐者も配置されている。当初は立ち上げ期と言うこともあり、それまで放射光を利用していた研究者による利用に限られていたが、徐々に利用者層が拡大し、現在では約150名の利用者に及んでいる。利用者の拡大と共に稼働率も85%程度まで上がっている。ビームライン責任者によりこれらの利用者に対して適切にビームタイム配分がなされ、常駐者の指導、支援の下に適切に研究が遂行されている。研究課題における成果専有/成果非専有の数のバランスも適切である。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 XAFS法を利用した排ガス触媒、二次電池、燃料電池関係の課題が約60%のビームタイムを占め、残りがゴムや樹脂を対象としたX線小角散乱、X線回折法を用いた応力解析、S3DXRDをはじめとする技術開発に充てられている。卑金属系排ガス触媒の過渡応答における触媒金属と担体の役割等の研究がなされ、それらはAngewandte Chemie International Editionに掲載され、PCCP(Physical Chemistry Chemical Physics)誌のCover artworkに選出される等優れた成果である。S3DXRDの開発も進み、実証実験の結果が出てき、論文執筆準備中とのことである。二次電池材料の評価においても、長時間ステーションを利用出来るという専用ビームラインの特徴を活かして成果を上げてきている。複合材料の解析においても、理論的解析とX線回折法を用いた実験的解析をうまく組み合わせて解析精度を上げている。これらの研究結果は技術開発と着実に結びつき、成果を上げていると判断される。
 成果非専有課題については、各種学術雑誌に発表されている他、SPring-8産業利用報告会の中でも報告され、そのプロシーディングスはJASRIより公開技術報告書として認定されている。報告された論文の中には高分子、自動車、電気化学と広い分野で受賞を受けていることは評価できる。一方で特許出願が1件というのはSPring-8を利用した成果を十分に捕捉できていないのではないかと懸念されるので、知的財産を含めた多方面の利用成果の確実な把握をお願いしたい。

4. 「今後の計画」に対する評価
 マイクロビーム形成、走査型3DXRD顕微鏡の実用化、X線CT、ラミノグラフィーの実用化と今後も計画が目白押しであるが、着実に達成することを期待する。
 二次元検出器から生み出される大量のデータ管理や走査型3DXRD顕微鏡のデータ処理等が課題として上げられたが、それぞれの専門家の協力も得ながらシステムやデータ処理ソフトの開発を行い、必要に応じてHPCIの活用等も検討されたい。
 トヨタグループはあいちシンクロトロン光センターにも専用ビームラインの建設を計画しており、放射光ビームラインを担当できる人材が必要となろう。また増加する利用者が放射光利用研究から正しい解析結果を得て技術開発にフィードバックできる様に、利用者に対する教育や人材育成を行う事が望まれる。
 BL33XUの設置やあいちシンクロトロン光センターへの専用ビームライン建設など、放射光を用いた研究成果の事業への効果に関するグループ内における啓蒙活動は進んでいると判断出来る。社会的に大きな影響力を持つ企業グループであることも意識し、SPring-8利用の有用性を広く社会に対する啓蒙、広報活動にも一層の注力をお願いしたい。

以上

 

 

「生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)専用施設中間評価結果」

 生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)は、生体内の組織化された機能を理解するために、多様な機構で反応系を制御している生体超分子複合体の立体構造をX線結晶構造解析法により解明することを目的として、大阪大学蛋白質研究所が建設し、1999年より運用を行なっている。現在の第二期設置契約期間(2008年8月~2018年8月)において、上記目的に適した装置の性能向上に取り組んでおり、数多くの論文発表を行い、生体等の機能・機構解明において高い研究成果を創出している。このことなどを鑑み、専用施設審査委員会(以下本委員会)は第二期後半も当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。ただし、台湾NSRRCとの協定とビームタイムの利用に関しては、SPring-8の利用制度の主旨と整合性を保つよう、蛋白質研究所が主体的に実施課題に関与することを検討すべきである。

 以下、大阪大学蛋白質研究所から本委員会に提出された「生体超分子複合体構造解析ビームライン中間評価報告書」と平成25年9月24日に開催された委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 本ビームラインは、アンジュレーターとSPring-8標準の二結晶モノクロメータ(DXM)による高輝度な平行ビームに特長があり、さらにエアベアリング式高精度ゴニオ、同軸望遠鏡による微小結晶のマウント、SPACEロボット機構によるサンプルスクリーニングを搭載することで、結晶格子が大きく、回折強度が弱く、X線損傷が大きい蛋白質超分子複合体結晶の測定に適した仕様となっている。これらの工夫と財源確保が十分に行われていることは、高く評価できる。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 本ビームラインは、大阪大学蛋白質研究所が設置・運営するものであるが、ビームタイムは共同利用にも適切に配分され、共同利用研究所としての使命を果たしている。特に、ビームライン運営経費に関し、多くの競争的資金を含む資金調達に、蛋白質研究所およびビームライン関係者の多大な努力が認められ、高く評価したい。一方、利用に関しては、全体の25%のビームタイムを台湾シンクロトロンNSRRCにほぼ無条件で配分している運営形態には、疑問が残る。台湾の構造生物学分野における研究レベルは非常に高く、成果の創出にも貢献しているが、本ビームラインにおける研究課題および研究成果に関して設置者側の関与・責任をもっと明確にすべきである。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 本ビームラインにおける研究活動のレベルは、極めて高く、難易度の高い超分子複合体や膜蛋白質を中心に、インパクトファクターの高い海外学術誌に多くの論文を発表しており、論文数も最近2、3年も増加傾向にある。これまでも、チトクロム酸化酵素の結晶構造解析に成功し、酸素還元に伴うプロトンポンプ機構やプロトン輸送機構の解明、分子量1000万の巨大蛋白質核酸複合体であるボルト(vault)粒子全体の構造解析に成功した。さらに細胞間の連携協調に関与するギャップ結合チャンネル機構コネキシン、核内遺伝子情報の核外輸送機構に係わるエクスポーチン・RNA複合体の構造決定、繊毛・鞭毛運動などを担う分子モーターであるダイニンの立体構造の解明、光合成中心における酸素発生の核である金属イオンを含む巨大蛋白質複合体の高分解能原子構造解明など、難易度の高い超分子複合体や膜蛋白質の構造解明に成功し、生体等の機能・機構解明に大きな成果を上げており、その研究成果は高く評価できる。

4. 「今後の計画」に対する評価
 生体超分子複合体の構造解析は、今後の構造生物学にとって極めて重要なテーマであり、蛋白質研究所としても重要な研究テーマである。このような難易度の高い目的に特化したビームラインを整備することは、同研究所のみならず、日本の構造生物学の推進にとっても重要な戦略である。SPring-8の数ある構造生物ビームラインの中での位置づけも明確であり、今後もこの方向での展開・成果が期待できる。縦集光系導入による微小結晶の構造解析や、検出器を含めたハードウエアの高度化により、さらなる発展を期待したい。

以上

 

 

「東京大学放射光アウトステーション物質科学ビームライン(BL07LSU)専用施設中間評価結果」

 東京大学放射光アウトステーション物質科学ビームライン(以下、本施設という)は、東京大学の専用ビームラインという特性に対応して、共用ビームラインでは実施困難な特徴のある物質科学研究の飛躍的進展を図ることを目的とし、30 m長直線部の長尺アンジュレーターに高分解能分光光学系と精選した測定装置を備えたビームラインとして建設された。本施設の大きな特徴であるアンジュレーター光源の可変偏光性を活かした研究の達成に遅れがあるものの、アンジュレーター光源の高輝度性を活かして得られた研究実績を評価し、専用施設審査委員会(以下本委員会)は本施設の設置と運用の「継続」を勧告することが妥当であると判断した。

 以下、東京大学放射光連携研究機構から本委員会に提出された「東京大学放射光アウトステーション物質科学ビームライン中間評価報告書」、平成25年9月24日に開催された本委員会での報告および討議、さらに委員会での「中間報告会質問への回答」と「中間報告書補足資料」に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 本施設を構成するアンジュレーター光源は、30 m長直線部に水平および垂直偏光を発生する8の字アンジュレーターを交互に8セグメント配置することにより、偏光面が水平あるいは鉛直の直線偏光だけでなく任意角度の直線偏光、左右円偏光の発生と円偏光度の高速切り替えが可能な仕様となっており、SPring-8初となるだけでなく世界的にも唯一の高輝度・高機能アンジュレーター光源である。高輝度の長尺アンジュレーターとスリットレスの高性能軟X線分光器をあわせた光源の構成は高輝度と高分解能を同時に実現するものとして高く評価できる。一方、現時点で利用可能なアンジュレーターの性能という点では、直線偏光モードは水平偏光または鉛直偏光アンジュレーターセグメントどちらかの単独使用、円偏光モードは左右いずれかに固定での使用となっている。高速円偏光スイッチングの実現と熱負荷によるアンジュレーターギャップ制限の解消に向けたR&Dが進められており、設置計画趣意書に掲げられた光源の性能目標を早期に達成することが強く期待される。
 実験ステーションとしては、時間分解軟X線分光実験装置、フリーポート、三次元走査型光電子顕微鏡、超高分解能軟X線発光装置が整備されている。時間分解軟X線分光実験ステーションは蓄積リング光源を用いた時間分解実験装置としては世界最高となる時間分解能50ピコ秒での軟X線光電子分光測定が可能となっている。フリーポートに設置された後置鏡による設計集光スポットサイズは水平50 µm、鉛直10 µmを達成している。三次元走査型光電子顕微鏡ステーションでは高輝度放射光をフレネルゾーンプレートで集光したナノビームによって、高空間分解能の二次元マッピング光電子スペクトルを得ることが可能となっている。さらに、スペクトルの放出角度依存性を利用した深さ方向の分析を加えた三次元空間解析を実現している。ナノビームのスポットサイズは70 nmを達成しており、エネルギー分解能100 meVともに世界最高性能となっている。超高分解能軟X線発光装置では、世界最高となる分解能10,000を達成し、大気圧下の液体試料や動作状態あるいは電位制御した電池での高分解能軟X線発光測定が可能となっている。以上のように、世界最高の性能目標を掲げて建設を進めてきた専用目的の実験ステーションについて、すべて目標を達成し、建設開始から短期間で利用実験を開始したことは高く評価できる。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 「中間報告書追加資料」に記載されている「実験課題数」は最大でも13で、この数年は横ばい状態であり、適切な課題数であるか疑問視する意見があった。一方、この「実験課題数」は報告資料の「共同利用実験採択数」と一致しており、同資料記載の「一般課題のビームタイム配分率<30%」や口頭報告での「共同利用は全ビームタイムの40%程度」を合わせ考えると、整備課題やBL独自の研究課題を合わせた全実験課題数は資料の「実験課題数」の倍以上となっているのではないかとの疑問もあった。利用者および利用目的を分けた課題数、利用時間数も把握し、運用状況に関する自己評価の精密化を図って欲しい。
 共同利用に対する取り組みについては、立ち上げ後の早い時期から審査や成果公開の体制の整備を進め全国共同利用を開始し、最近では共同利用課題の採択率50%という競争的な環境を維持しつつ外部ユーザーの利用が実質的に確保されていることは高く評価できる。また、共同利用が国内にとどまらず、国際共同研究が増加していることも評価できる。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 時間分解軟X線分光実験ステーションでは高時間分解能を活かして、半導体表面の光起電力効果における電子状態変化を直接観測し、半導体表面の触媒性能と密接に関係するキャリア輸送過程と表面再結合過程の寿命を分離して測定することに成功した。フリーポートでは、高輝度の微小スポットを活かした微小領域の二次元光電子分光測定が可能となる新しい分析器の開発研究が行われ、微細試料の拡大像の取得や偏光依存二次元光電子分光測定に成功している。三次元走査型光電子顕微鏡ステーションでは世界最高性能を活かして、グラフェン/金属界面の電子状態の直接観測などに成功している。超高分解能軟X線発光装置では、振動準位を分離した水の軟X線励起ラマンを観測することに成功し、世界最高の分解能を持ってのみ検出し得る振動エネルギーのわずかな違いから、水素結合のひとつが切断された水分子を選択的に励起していることを示すなどの成果がある。
 以上のように、実験ステーションでの研究成果はいずれも長尺アンジュレーターの高輝度性を活かした、極めて高い水準となっていることは高く評価できる。一方、本施設の大きな特徴であり、限定的な利用が可能になっている偏光可変性を積極的に活かした研究課題や研究成果は見受けられない。本施設の建設目的と計画目標の達成という観点から、光源から実験装置までを含めた本施設のみが成しえる可変偏光特性を活かした研究課題を早急に推進すべきである。
 成果の公開については、中間報告書追加資料の論文リストでは2010年から2013年までの学術雑誌への発表数は15報であり、権威ある学術雑誌への発表もあるものの決して多いとは言えない。特に最近の3年間は横ばい状態となっており、今後の成果公開数の増加が期待される。その他の研究成果公開として、S課題には発表が義務付けられている東京大学での研究会がこれまでに5回開催されていること、学会発表に対する表彰を含めた受賞件数が16件あること、新聞等への発表件数が7件あることは評価できる。

4. 「今後の計画」に対する評価
 計画では想定されていなかった問題の発生によるアンジュレーター光源の目標達成の遅れや、計画当初の目標に掲げられていながら具体的な研究展開が見られない生命科学分野など未達成の目標については、達成状況や問題点を客観的に把握したうえで具体的な達成計画の立案が必要であろう。さらに、計画通りに進んでいる部分も含めて設置提案書に掲げた本施設全体としての目標を実現するロードマップを明確にし、本研究機構における実施体制およびリーダーシップを確立していただきたい。
 本施設の大きな特徴である高輝度で偏光可変のアンジュレーター光源については、当初目標の高速円偏光スイッチングを早期に実現し、インパクトのあるオリジナルな研究を展開することを期待する。実験ステーションに関する今後の計画として挙げられている、軟X線共鳴磁気光学効果の実験は本施設の特徴である円偏光高速スイッチングが十二分に活かされる課題であり、超高分解能軟X線発光装置の差動排気による大気圧下試料の軟X線発光分光システムの開発は現時点での優位性からさらに国際競争力を高めるものであり、いずれも妥当なものであり、計画通り実現してもらいたい。

以上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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