Volume 18, No.2 Pages 85 - 86
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SPring-8ワークショップ「無容器環境が切り拓く新しいガラスサイエンス」機能性材料ナノスケール原子相関研究会報告
SPring-8 Workshop on Nano-scale Atomic-correlation in Functional Materials
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University
SPring-8ワークショップ 「無容器環境が切り拓く新しいガラスサイエンス」 機能性材料ナノスケール原子相関研究会 |
主 催:高輝度光科学研究センター(JASRI) 機能性材料ナノスケール原子相関研究会 |
協 賛:日本セラミックス協会ガラス部会 |
日 時:2013年3月17日(日)9:00〜12:00 |
場 所:東京工業大学 大岡山キャンパス |
定 員:約60名 |
参加費:無料 |
標記のワークショップが2013年3月17日に東京工業大学大岡山キャンパスにて開催された。本ワークショップは、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)の新しい研究会として2012年9月に発足した「機能性材料ナノスケール原子相関研究会」の最初の会合として開催が計画され、SPring-8ワークショップ事務局の協力と支援を受けることにより、SPring-8ワークショップの形での開催に至った。会場および日程は、公益社団法人日本セラミックス協会2013年年会のサテライトプログラムに合わせたものであり、学会会場が無償で提供されただけでなく、同協会ガラス部会の協賛により、日本セラミックス協会会員や年会参加者が本ワークショップに参加しやすい環境と整えていただいた。本稿では、はじめに関係各位の協力と支援に感謝申し上げる。
写真1 SPring-8ワークショップ会場
機能性材料ナノスケール原子相関研究会は、ガラス・セラミックスの材料科学を主な研究対象とし、SPring-8の放射光光源を利用した実験、関連技術の高度化、新しい実験解析手法の開発および理論計算の導入において、研究活動と研究者間の相互交流の場を提供することを目的として設立された。その記念すべき第1回の研究会会合として、基礎研究と応用研究の双方を材料科学的な立場から促進するという本研究会の目的に照らし合わせ、表題にあるように本ワークショップの主題を「無容器環境が切り拓く新しいガラスサイエンス」とし、多方面でご活躍の5名の方に講演を依頼したものである。講師の方々が活躍される分野は多岐にわたり、また、副題「超高温融体の熱物性計測・量子ビーム計測・大規模シミュレーションの協奏」が示すように、無容器環境で創製される新規なガラスや融体をキーワードとして、材料創製に始まり、その構造解析や物性測定に至る様々な研究分野の協奏的な発展が放射光や中性子、計算科学の積極的な利用を通してもたらされるという夢のある話である。
ワークショップの開催にあたり、研究会代表者である筆者より本研究会発足の経緯について簡単ながら説明させていただいた後、5名の招待講演者による講演が行われた。以下に、各講演の概要を記す。
無容器法を用いた新規ガラス材料の創製
………東京大学 井上博之 氏
ガス浮遊炉を用いた無容器法により新たな特性をもつ新規ガラスを作製し、構造解析により原子配列に見られる特徴について解説された。例として紹介されたのはBaO-TiO2系であり、融点が低く共晶組成に近いBaTi2O5組成において、直径2mm程度の真球に近いガラスが得られ、酸化物ガラスとしては極めて高い屈折率をもつものである。分子動力学法による構造解析によると、Tiの配位数は約5であり、酸素の最密充填構造というこれまでに知られたガラスの原子配列とは異なる興味深い特徴を有していることが示された。
静電浮遊法を用いた酸化物融体の熱物性測定—ISSでの実験にむけて
………JAXA 石川毅彦 氏
JAXAが取り組む静電浮遊法の位置付けが他の浮遊法(電磁浮遊、音波浮遊)との比較に基づいて説明され、静電浮遊炉の開発や液滴振動を利用した融体の熱物性測定の実績が挙げられた。酸化物融体を対象とした場合、蒸発の抑制や帯電の制御の観点から、金属合金系に比較して安定した浮遊や溶融が困難であるとの話であったが、絶縁体を高温で浮遊できる静電浮遊法の特徴を生かして開発が進められている国際宇宙ステーション(ISS)に搭載される浮遊炉の実験計画が紹介された。
動き出した高強度全散乱装置J-PARC NOVAと非晶質構造研究への展開
………KEK 大友季哉 氏
物質科学を含む幅広い分野の最先端研究を行うための加速器施設J-PARCと物質・生命科学実験施設の高強度全散乱装置NOVA(BL21)について、その優れた性能と中性子実験で得られる情報がこれまでの測定例に基づいて解説された。NOVAの一般利用の開始により、小角からhigh-Q領域に至るまで正確な全散乱測定が短時間、少量試料でも可能になり、SPring-8の放射光との相補的利用がより一層期待される講演であった。
高輝度放射光と大規模理論計算を併用した非晶質物質の原子・電子レベル構造解析
………JASRI 小原真司 氏
DVDやブルーレイディスクに利用されるGe-Sb-Te系高速相変化材料と無容器法で合成されたMgO-SiO2系ガラスについて、SPring-8での高エネルギーX線回折測定、元素選択性のあるX線異常散乱(AXS)測定と逆モンテカルロ法や第一原理(DFT)—分子動力学(MD)計算といった手法を併用することで、アモルファス構造における構成元素の繋がり方を解明した研究成果が紹介された。さらに、材料研究に特化し多様な実験手法を選択できる新たな実験ステーション設置の重要性を強調された。
計算物質科学が切り拓く新しいガラスサイエンス
………旭硝子(株) 高田 章 氏
最初に、P.W. Andersonの言葉を引用と共にガラス構造とガラス転移がガラス研究の両輪であることを示され、ご自身の研究を紹介された。局所構造の解析法として挙げられた“Structon”という概念や“Local Oxygen Packing Number(LOPN)”という指標による解析、局所構造に依存するエネルギー分布解析は、それぞれ動的構造単位解析、幾何学的解析、統計熱力学的解析による構造多様性のシミュレーションであり、ガラス研究の両輪を支える斬新なアイデアが分かりやすく解説された。
招待講演の後、JASRIの藤原明比古氏よりSPring-8の利用について、兵庫県立大学の梅咲則正氏より次回研究会の計画についての説明があった。本ワークショップ参加者は67名を数え、各講演に対して活発な討論が行われ、第1回研究会として盛会に終わったことを報告する。また、当日夕刻に開催された交流会にも講師の方々を含めて多数の参加があり、今後の研究会の活動について活発な議論が交わされた。
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