Volume 18, No.2 Pages 80 - 81
3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS
SACLA利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the PRC (Proposal Review Committee) of SACLA
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
1.はじめに
世界最高性能のX線自由電子レーザーであるSACLAが完成し、2012年(平成24年)3月からその供用が開始されるに当たり、2011年(平成23年)12月9日にSACLA利用研究課題審査委員会(以下、本委員会)が立ち上がりました。私は本委員会の委員長を仰せつかり、2012A期、2012B期、2013A期の3期のSACLA利用研究課題審査を2年間にわたり担当しました。以下に、本委員会での審査の概要を報告いたします。
2.本委員会での審査に関して
2-1.審査方法に関して
SACLA利用研究課題の審査方法に関しては、SACLA利用者選定に関する最上位の委員会であるSACLA選定委員会(2011年8月5日開催)での決定事項に基づいて行うことを、第1回本委員会(2011年12月9日開催)で確認しました。基本的にはSPring-8で行っている方法を下敷きにしながら、SPring-8とSACLAの特徴の違いを勘案した課題審査を行うという方針です。具体的には、下記がその骨子です。
1)SPring-8で行っているレフェリー・分科会・審査委員会の3段階の審査を、SACLAではさし当たりは分科会に分けず、レフェリー・審査委員会の2段階で行う。その理由は、使用できるビームラインが現時点では2本(BL3、BL1)であること、応募課題総数は3桁未満と予想されること、従って、分科会に分けるより審査委員会で総合的に議論する方が効率的である、ということです。
2)原則として、本委員会委員が全ての応募課題の審査を行い、本委員会で調整の上、選定案を決定する。
3)重点戦略課題は、重要な利用研究課題であることを鑑み、ボーダーライン付近の課題については、一般課題に比して優先的な配分を行う。
4)年間ビームタイム設定は、SPring-8と同様、24時間連続運転、および、同時期を想定する。ただし、1シフトは12時間とする。
2-2.レフェリーに関して
本委員会の施設外委員(10名)は、レフェリーとして、応募課題の ①科学技術的妥当性(絶対評価)、②SACLAの必要性(絶対評価)、③実施の妥当性(絶対評価)、④重点戦略課題としての意義(絶対評価/重点戦略課題のみ)、⑤総合評価(相対評価)に関する審査を一課題あたり5名で事前に行い、本委員会に臨みました。施設側委員(5名)は、⑥実施可能性評価(絶対評価)、⑦奨励シフト数評価、⑧安全評価(絶対評価)の審査を事前に行い本委員会に臨みました。2012B期以降は、施設外委員の数を10名から15名に増やしました。理由は、施設外委員がカバーできる専門の範囲を広げ、専門にできるだけ近い委員がレフェリーを担当できるようにするためです。
2-3.本委員会での主な議論のポイント
本委員会では、上記のレフェリーによる審査の結果を踏まえて、総合的に課題の採否に関して議論を行いました。特に、供給できるビームタイムの制約との関係で、レフェリー審査結果が採否のボーダーラインの近傍にある課題に関して詳細に議論を行いました。その際、下記の点に留意しました。
①委員(=レフェリー)間の評価結果のバラツキの程度:採否ボーダーライン前後の課題(10課題程度)について、個別に各委員間の評価のバラツキを吟味。
②科学技術的意義およびSACLAの必要性(いずれも絶対評価)と総合評価の相関:上記ボーダーライン前後の課題について、科学技術的意義およびSACLAの必要性と、総合相対評価との相関を吟味。
③重点戦略課題:ボーダーライン上の課題で一般課題と重点戦略課題の評価が同じ場合は後者を優先。文部科学省委託事業(XFEL重点戦略研究課題)に係る課題については、「XFEL利用推進計画(H24.2.1、XFEL利用推進戦略会議)」における事項(注1)および第4回SACLA選定委員会(H24.4.23〜4.26メール開催)における審議結果を踏まえ、審査に際し一定の配慮。
④利用機会:申請者の多様性(申請者の重複、所属機関、国内外、産学、等)を確保するための配慮。
3.審査結果の概要
2012A期(シフト数=126)では、応募55課題に対して25課題を採択しました(採択率=45%)。採択された25課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は約60%でした。
2012B期(シフト数=154)では、応募49課題に対して27課題を採択しました(採択率=55%)。採択された27課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は46%でした。
2013A期(シフト数=117)では、応募59課題に対して24課題を採択しました(採択率=41%)。採択された24課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は52%でした。
以上のように、何れの期においても、採択率、および、シフト配分率はSPring-8の場合に比べて低く、SACLA利用に対する要求の強さを感じました。
なお、国外からの課題申請数は全申請課題数の25%程度であり、採択された課題数の割合も同程度でした。
4.まとめと今後の課題
国家基幹技術としてのSACLAが順調に立ち上がり、その利用研究が開始されました。SACLAから価値ある成果が創出されるために、本委員会が果たすべき役割の重要性をこの2年間の役割を通して実感しました。
今後、本委員会および利用研究課題の審査方法は、利用できるビームライン数の増加、応募課題数の増加、それに伴う分野の広がり等々が予想されることから、しばらくは、「走りながら考える」という姿勢で取り組むのが良いと思います。また、文部科学省委託事業(XFEL重点戦略研究課題)に係る課題に対する取り扱いも、原則を踏まえながら、引き続き「走りながら考える」という姿勢で取り組むのが良いと考えています。
最後になりましたが、活発なご議論をいただいた本委員会の委員の皆様のご尽力に感謝致します。また、本委員会の関係者各位に感謝いたします。
(注1)〈XFEL 利用推進計画 抜粋〉
「また、競争的資金や国のプロジェクトにおいて、審査・採択された課題については、既に科学技術イノベーション推進の観点から重要性が認められているものと考えられることから、その結果を尊重し、登録機関で行う選定においては一定の配慮がなされるべきである。」
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