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Volume 18, No.1 Page 1

理事長室から − 産業利用の今後 −
Message from President - For Successful Continuation of Industrial Applications - 

白川 哲久 SHIRAKAWA Tetsuhisa

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 平成21年6月、14年ぶりに理事長としてJASRIに帰ってきた私は、SPring-8の順調な拡大・発展を見て大変嬉しく思いました(SPring-8利用者情報 2009年8月号新理事長挨拶)が、特に喜ばしく感じたのは、SPring-8の産業利用の進展ぶりです。JASRIは設立にあたって経済界から大きな支援を頂きましたし、政策当局のご方針もSPring-8は基礎研究だけでなく産業界の利用を促進して我が国の産業競争力の強化に役立てるべき、ということでしたので、JASRIも産業界の方々とご相談しながら産業利用促進のお手伝いをさせて頂きました。
 しかし、SPring-8供用開始直後の数年間は産業利用の割合は小さく(共用ビームラインで数%程度)、かつ分野も創薬関係やエレクトロニクス分野などに限定されていたように思います。
 それが大きな転機を迎えたのは、文部科学省が産業利用促進策(トライアルユースや戦略活用プログラム)に本腰を入れ始めた平成13年ごろからで、平成18年ごろまでには共用ビームラインの産業利用の割合(利用課題数)は2割程度にまで上昇し、今日に至っています。また、同じく文部科学省の支援を受けたコーディネーター制度は大変有効で、新規ユーザーの発掘や利用分野の拡大が大いに進み、当初は予想しなかった企業(化粧品や食品会社など)や、素材関連でも金属や半導体から、高分子や建材などの広範な分野の製造業に利用の幅が広がっています。さらに、産学連携が大変活発に行われるようになったことも最近の特徴といえるでしょう。産業利用の割合と広がりの大きさは、諸外国の放射光施設と比較してSPring-8の大きな特色となっています。
 このように、活発な産業利用はSPring-8の大きな強みですが、現状をつぶさに分析し今後を展望すれば、次のような課題も明らかになって来ています。
 第一は、現在3本ある産業利用のビームラインを含め、共用ビームラインの建設が平成19年以降途絶えているため、企業が自由にアクセス可能なビームタイムが増えていないことです。産業用を含む専用ビームラインの建設は続いていますが、増大する産業界のニーズに十分応えられていません。
 第二に、第一の点とも関連しますが、企業ニーズの高まりを受けて、いわゆる成果専有利用課題の割合が急速に増えているため、成果非専有利用課題の倍率が上昇し一般の成果非専有利用課題数がかえって減少傾向にあることです。これは、新規ユーザーの開拓の大きな阻害要因となる可能性があります。
 第三は、産業界のユーザーの高度化によって、実験データの取得だけでなく、データ解析のニーズが高まっていることです。高輝度化や実験の自動化、測定代行サービスなどによって得られる大量のデータを解析し、有意な結果を導き出すためには、スパコン等の利用によるデータ処理の高度化も欠かせません。
 JASRIとしては、これらの課題に対応すべく、産業界から寄せられるニーズ・要望を的確に把握・分析して、SPring-8が産業界の利用者にとってよりuser friendlyなものとなり、我が国産業界の再生・競争力強化に少しでもお役に立てるよう取り組んで行く所存ですが、そのためには施設設置者である理化学研究所や政策当局のご理解が不可欠です。特に、上記の第一と第二の点に関しては、SPring-8の十分な運転時間の確保とともに、(理研ビームラインを含む)SPring-8全体のビームライン・ポートフォリオの見直し・最適化が避けて通れない大きな課題になると考えています。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794