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Volume 18, No.1 Pages 25 - 27

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第5回SPring-8萌芽的研究アワード/萌芽的研究支援ワークショップ報告
The 5th Workshop on the SPring-8 Budding Researchers Support Program / Winners of Budding Researchers Award

高田 昌樹 TAKATA Masaki

SPring‐8 萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee

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1.はじめに
 SPring-8では、将来の放射光科学研究の発展を担う若い人材の育成を目的に、萌芽的・独創的な研究課題やテーマを創出する可能性のある大学院生を支援する「萌芽的研究支援プログラム」を実施しています。本プログラムは、大学院生自らが実験責任者としてSPring-8を利用できる制度で、平成17年度に開始して以降、昨年度までに約270課題が実施されました。
 一般課題と同じ基準による課題審査を経て採択される萌芽的研究支援課題は、成果発表も活発に行われており、これまで2度にわたり行われた外部有識者による評価においても、研究者としての自立意識を育む意義深い制度であると高い評価をうけるとともに、学生の研究をさらに奨励する施策の提言をいただき、支援の充実化を図ってきました。
 その一環として、平成20年度から、学生の若手研究者としての新しい利用分野の開拓や独創的な研究課題への挑戦を奨励することを目的に、同プログラムにおいて優秀な成果を上げた学生(当時)を表彰する「SPring-8萌芽的研究アワード」を設置しました。また、併せて、様々な分野、手法で研究に取り組むアワード受賞候補者による口頭発表やポスターセッションの議論を通じた異分野交流を推奨するため、「萌芽的研究支援ワークショップ」を開催しています。
 第5回を迎えたSPring-8萌芽的研究アワードは、2010A期から2011B期に実施された67課題を対象に、第一次審査として応募申請書による書類審査を行い、11月27日に開催されたワークショップにおいて口頭発表による第二次審査を行い、審査の結果、以下のとおり受賞者を選出しました。

第5回SPring-8萌芽的研究アワード 受賞者
 池田 暁彦氏
 (東京大学大学院工学系研究科)
 「物理吸着クリプトン単原子層のメスバウアー分光:表面電場勾配のプローブとして」
 松井 公佑氏
 (奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科)
 「Ni2P及び関連合金表面の原子構造・電子状態と触媒活性の比較」



2.萌芽的研究アワード
 SPring-8萌芽的研究アワードは、審査基準にもとづき審査を行い、最大2名に授与されます。審査基準は、
①研究テーマの新規性・独創性・発展性
②研究成果におけるSPring-8の有効性
③実施体制における主体性
の3項目で、第一次審査および第二次審査ともに、SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会の審査委員7名が審査基準ごとに5段階評価を行い、集計結果をもとに合議審査を行いました。
 書類審査では、今後の研究活動に役立てていただけるよう、応募者全員に、審査委員のコメント・アドバイス等をフィードバックしており、研究のさらなる発展を期待しています。



3.萌芽的研究支援ワークショップ(口頭発表・ポスター発表)
 11月27日、キャンパス・イノベーションセンター東京(東京都港区)にて開催されたワークショップには、約30名の参加がありました。
 アワード受賞候補者6名の研究成果発表は、生命科学、環境科学、触媒など多彩なテーマで、手法もX線回折、分光分析、XAFS、軟X線分光、核共鳴散乱など様々で、多種多様な研究発表となりました。また、研究へのアプローチも興味深く、口頭発表後に行われた審査会でも、審査委員から発表者のユニークな着目、独創的な手法に、面白味を感じた、とのコメントが聞かれました。
 口頭発表は人材育成の観点からディスカッションを重視し、発表時間20分に対し質疑応答10分と、質疑応答を長く設定していますが、審査委員から多くの質問があり時間を超過する場面もありました。異なる分野の審査委員からの多角的な質問に対しても、いずれの発表者もしっかりと答えており、自ら主体的に研究を実施するという本プログラムの趣旨が成果を上げつつあることがうかがえました。
 また、ポスターセッションでは、発表者が審査員や他の参加者と分野を超えて交流することができ、若手研究者にとって放射光利用を通じた異分野交流の機会ともなりました。



4.おわりに
 萌芽的研究アワードは回を重ねるごとに、研究テーマの分野が広がり、発表内容やプレゼンテーションの質も着実に向上しています。そのため、書類審査、口頭発表のいずれも、発表者の優劣を付けることが難しくなっています。また、学生が明確な目的意識を持ち、チャレンジングなテーマに意欲的に取り組む姿勢に接するたびに、本プログラムを遂行することの意義を改めて確認できることは、利用者を支援する立場のものとして喜ばしく思います。そして、SPring-8が、分野を超えてリーダーシップを発揮する人材を育成する揺籃でもあることを確信するようになりました。
 受賞者2名は、今後開催が予定されているSPring-8コンファレンスにおいて表彰され、多くの出席者の前で受賞講演を行う予定です。また、ワークショップで発表されたその他のプログラム参加者も、ポスター展示によりコンファレンスに参加する予定です。多彩な研究分野における若い研究者の独創的な利活用と、完成度の高い研究成果は、さらに次の世代の学生の放射光利用研究をエンカレッジし、多くの方に本支援プログラムの活用を考えていただく機会となると思っております。
 本支援プログラムは、支援の教育的効果を高めるため、平成24年(2012A期)から実験責任者の応募資格をこれまでの博士後期課程から博士前期(修士)課程まで拡大しています。また主要な大学を会場に、本支援プログラムの説明会を行い、プログラムの趣旨の周知に努めるとともに、学生の相談窓口を設けました。
 本支援プログラムを利用し、学生が大型研究基盤の先端活用を自ら考え経験する機会を得ることが、将来、研究開発の現場でリーダーシップを発揮する上で何らかのお役に立つことと思います。大学・大学院の指導教員の先生方にも、この点をご理解いただき、引き続き、萌芽的研究支援課題への学生の応募を奨励下さるよう、御協力をお願いいたします。

〇アワード候補者およびポスター発表研究タイトル一覧
1.「放射光白色X線によるウシ大腿骨皮質骨内部の残留応力測定」
   山田 悟史(北海道大学大学院工学研究院)
2.「Low and High Temperature Structural Investigation of YBa2Fe3O7
   Cédric Tassel(Kyoto University)
3.「両親媒性有機半導体化合物の単分子膜の構造解析と光電流特性に関する研究」
   赤羽 千佳(宇都宮大学大学院工学研究科)
4.「ヒ素およびセレンのカルサイトへの分配機構とその地下環境での役割」
   横山 由佳(広島大学大学院理学研究科)
5.「Ni2P及び関連合金表面の原子構造・電子状態と触媒活性の比較」
   松井 公佑(奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科)
6.「物理吸着クリプトン単原子層のメスバウアー分光:表面電場勾配のプローブとして」
   池田 暁彦(東京大学大学院工学系研究科)





〇萌芽的研究アワード審査委員会
委員長 高田 昌樹 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門長
委 員 岡田 明彦 住友化学株式会社 先端材料探索研究所 材料物性科学グループ
                             研究グループマネージャー
委 員 栗原 和枝 東北大学原子分子材料科学高等研究機構および多元物質科学研究所 教授
委 員 坂井 信彦 兵庫県立大学大学院物質理学研究科 名誉教授
委 員 鈴木 謙爾 公益財団法人特殊無機材料研究所 代表理事
委 員 鈴木 昌世 公益財団法人高輝度光科学研究センター 研究調整部長
委 員 八木 直人 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門副部門長



高田 昌樹 TAKATA Masaki
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750
e-mail:takatama@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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