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Volume 18, No.1 Pages 14 - 17

2. ビームライン/BEAMLINES

先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインBL36XUの稼働状況
BL36XU: Catalytic Reaction Dynamics for Fuel Cells

宇留賀 朋哉 URUGA Tomoya[1]、関澤 央輝 SEKIZAWA Ouki[1]、唯 美津木 TADA Mizuki[2]、横山 利彦 YOKOYAMA Toshihiko[2]、岩澤 康裕 IWASAWA Yasuhiro[1]

[1]電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター Innovation Research Center for Fuel Cells, The University of Electro-Communications、[2]自然科学研究機構 分子科学研究所 Institute for Molecular Science, Department of Materials Molecular Science

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 電気通信大学および分子科学研究所が中心となって建設を行った先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)が2012年11月に完成した。
 BL36XUは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発」プロジェクトの研究開発テーマ「時空間分解X線吸収微細構造(XAFS)等による触媒構造反応解析」の一環として建設され、高い時間・空間分解能をもつ専用XAFS計測ステーションを駆使して、燃料電池電極触媒の高性能化および高耐久性を実現するために必要な基盤情報を提供することを目的としている。本研究開発の目的およびビームライン設計の概要については、既に本誌 [1] [1] 宇留賀朋哉、唯美津木、岩澤康裕:SPring-8利用者情報 16 (2011) 81.で報告した。本稿では、BL36XUの整備状況および稼働状況について報告する。



1.はじめに
 BL36XUは、2010年9月より建設を開始し、約2年間の建設期間を経て完成し、2012年12月26日にSPring-8サイトで竣工記念式典が執り行われた(図1)。燃料電池研究の専用ステーションとして世界オンリーワンであり、かつ世界最高レベルの性能をもつビームラインである。BL36XUは、2012年10月より立ち上げ調整およびテスト計測を行い、2013年1月より本利用実験を開始した。以下ではまずビームラインの概要を述べる。



図1 BL36XU竣工記念式典(テープカット)


2.ビームライン概要
 BL36XUは、燃料電池の中で、特に固体高分子形燃料電池をターゲットとしており、電池発電動作下における電極触媒の化学反応状態および劣化過程をリアルタイムでその場観察し、そのメカニズムを解明することを目標としている。燃料電池触媒の反応・劣化過程の解明には、発電時における様々な時系列反応を100マイクロ秒から秒オーダーの時間分解能で追跡することが必要である。また、劣化過程では、触媒層内の触媒粒子の化学状態変化や凝集・溶解などが、どのような深さ界面で起こるのかを解明することが必要である。そのため、平面的な空間分解能と深さ方向の空間分解能を併せ持ったin situ計測法が必要となる。この実現のためにXAFS計測に求められた性能仕様は、時間分解能:100 μs、2次元空間分解能:200 nm、3次元空間分解能:1 μmである。これらはいずれも世界最高レベルの性能であり、全てを同時に実現するには、新しいビームラインの建設が必要であった。
 図2にBL36XUの光源および輸送系光学素子の配置の概要を示す。また、図3に実験ハッチ内に配置したXAFS計測装置類の様子を示す。BL36XUの光源やビームライン光学素子類の性能仕様については、文献 [1, 2] [1] 宇留賀朋哉、唯美津木、岩澤康裕:SPring-8利用者情報 16 (2011) 81.
[2] O. Sekizawa et al.: J. Phys. Conf. Ser. in press.
をご覧いただきたい。


図2 BL36XUビームライン装置類配置の概要


図3 BL36XU実験ハッチ内のXAFS計測装置類


 固体高分子形燃料電池(単セル)は、固体高分子膜(電解質膜)の両側にアノード触媒層とカソード触媒層を密着接合した膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を電気化学反応の中心部位とする。MEAは、その両側に反応ガス(水素、酸素など)を供給する流路をもつセパレータとガス拡散層を配する(図4) [3] [3] 岩澤康裕:SPring-8 Channel (YouTube)
http://www.youtube.com/watch?v=WR_4gnMDMUU&feature=youtu.be ; 研究成果(概略と動画)
http://commune.spring8.or.jp/finding/120601.html
。XAFS計測は、燃料電池セルに設けられた窓を通して行われる(XAFSセルの詳細は省略)。燃料電池セルは多層複合体であることに加え、内部の各層にガスおよび水分が混在するため、in-situ XAFS計測を行う上で、測定難度の高い対象の一つといえる。そのためBL36XUには、時間空間分解性能に加えて、固体高分子形燃料電池セルの構造や形状を考慮し最適化されたXAFS計測システムを構築することが併せて求められた。


図4 燃料電池の基本原理とin-situ透過XAFS測定


 以下では、BL36XUに整備した時間空間分解XAFS計測システムの概要について述べる。新規計測法の基盤となる技術は、BL36XUの稼働から直ちに利用実験を開始できるようするため、BL36XU建設と並行して、既存の共用ビームラインにおいてJASRI協力の下、開発を行った。



3.XAFS計測システム
3-1 時間分解XAFS計測システム
 BL36XUにおける時間分解計測は、時間分解能により、以下に述べる3つの計測システムを整備した。時間分解能10 ms のクイックXAFSシステムには、分光器として液体窒素冷却型コンパクト分光器 [4] [4] T. Nonaka et al.: Rev. Sci. Instrum. 83 (2012) 083112.を整備した。Si 111およびSi 220結晶をそれぞれ備える2台の分光器により、4.5~35 keVのエネルギー領域をカバーしている。高速X線検出には、電極間隔3 mmの高速イオンチェンバーとPINフォトダイオード検出器を整備した。本システムがBL36XUの基盤XAFS計測システムである。
 時間分解能800 μsのクイックXAFSシステムには、BL40XUで技術開発を進めた小型チャネルカット結晶とガルバノモーターとからなる高速角度走引分光器を導入した。本分光器は実験ハッチのHeチェンバー内に設置し、軽量化のため冷却機構は装備していない。入射X線による熱負荷を低減するため、ミラーによる高エネルギーX線除去、アブソーバーによる低エネルギーX線除去および、フロントエンドスリットの開口調整により、分光結晶への熱負荷を5 W以下に低減するように調整している。
 100 μs時間分解計測には、高濃度試料に対する高速計測専用に、エネルギー分散XAFS計測システムを導入した。分光器としては、ブラッグ型(4.5~12 keV)およびラウエ型(12~35 keV)のSi湾曲ポリクロメーターを整備した。検出器としては、高速CMOSカメラと可視光変換ユニットを組み合わせたX線イメージングシステムを整備した。
 これらの高時間分解XAFS計測を実現するために、光源としてエネルギー幅の調整可能なSPring-8標準真空封止型テーパーアンジュレーターを導入した。



3-2 2次元空間分解XAFS計測システム
 2次元空間分解XAFS計測システムとしては、試料内の触媒金属の担持量に依存して以下の2種類を整備した。透過法XAFS計測が可能な試料に対しては、透過イメージング型顕微XAFS計測システムを整備した。検出器としては、高空間分解能型X線イメージングシステムを用いる。これをクイックXAFS法と組み合わせることにより、時間分解能:1 s、空間分解能:500 nmの時間空間分解XAFS計測を実現した。
 蛍光法XAFS計測が必要な希薄濃度試料に対しては、BL39XUで技術開発を進めた高速走査型顕微XAFS計測システム [5] [5] T. Tsuji et al.: J. Phys. Conf. Ser. in press.を整備した。この計測法では、Kirkpatrick-Baezミラーにより集光したX線を試料に照射し、試料セルを高速ピエゾステージにより2次元連続走査し蛍光X線像を計測する。これを各XAFS計測エネルギー点で計測することにより、2次元XAFSイメージを構成する。空間分解能は、集光X線のサイズで決定される。BL36XUでは現状、100(水平)×110(上下)nm(半値幅)が実現されている。蛍光X線検出器としては、4素子Siドリフト検出器および、21素子Ge検出器を整備した。



3-3 3次元空間分解XAFS計測システム
 燃料電池は、上述したように多層構造をもち、電極触媒層の外側にガス拡散層やセパレータが存在する。このような構造に対応するため、BL47XUにおいて膜状試料に適用できる3次元空間分解XAFS計測法であるラミノグラフィXAFS計測法 [6] [6] T. Saida et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 51 (2012) 10311. を開発した。ラミノグラフィ法は、試料膜面を鉛直方向から30°程度傾けた回転軸の周りに回転しながら透過X線イメージを計測し、3次元再構成を行う手法である。この計測を各XAFS計測エネルギーで行い、3次元XAFSイメージを構築する。検出器は、高空間分解能型X線イメージングシステムを用いる。BL36XUでは、従来の10倍以上迅速な計測を可能とするシステムの整備を進めている。



3-4 燃料電池制御・調整システム
 燃料電池のin-situ実験に使用する装置類として、燃料電池の電気化学反応を制御・評価するシステムおよび、反応ガスの供給除害システムを実験ハッチに整備した。燃料電池の電圧制御や反応ガスの調整などは実験ハッチ外のPCより遠隔操作する。
 また測定準備室には、燃料電池試料の調整や電気化学計測をするための装置類を整備した。



4.今後の計画
 本研究開発プロジェクトは、5年間のプロジェクトであり、2013年2月時点で残る期間は、およそ2年である。今後、BL36XUの最先端性能をフルに用い、データ計測から解析までの一連のステップを迅速かつ効率的に行えるよう実験ステーション全体の構築を進める計画である。



謝辞
 BL36XUの建設に当たっては、JASRIの後藤俊治、高田昌樹、竹下邦和、高橋直、佐野睦、青柳秀樹、渡部貴宏、成山展照、大橋治彦、湯本博勝、小山貴久、仙波泰徳、竹内智之、古川行人、大端通、松下智裕、石澤康秀、工藤統吾、木村洋昭、山崎裕史、備前輝彦、清家隆光、新田清文、加藤和男、辻卓也、谷田肇、上杉健太朗、星野真人の各氏、および理化学研究所の北村英男、田中隆次らの各氏より、多大な協力をいただいた。また、JASRIの大野英雄前専務理事、理研の石川哲也播磨研究所長には多大なご配慮をいただいた。この場を借りて謝意を表したい。
 BL36XUの建設は、NEDO「固体高分子形燃料電池実用化推進技術/基盤技術開発/MEA材料の構造・反応・物質移動解析開発/時空間分解X線吸収微細構造(XAFS)等による触媒構造反応解析」プロジェクトから支援を受けている。



参考文献
[1] 宇留賀朋哉、唯美津木、岩澤康裕:SPring-8利用者情報 16 (2011) 81.
[2] O. Sekizawa et al.: J. Phys. Conf. Ser. in press.
[3] 岩澤康裕:SPring-8 Channel (YouTube)
  http://www.youtube.com/watch?v=WR_4gnMDMUU&feature=youtu.be ; 研究成果(概略と動画)
  http://commune.spring8.or.jp/finding/120601.html
[4] T. Nonaka et al.: Rev. Sci. Instrum. 83 (2012) 083112.
[5] T. Tsuji et al.: J. Phys. Conf. Ser. in press.
[6] T. Saida et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 51 (2012) 10311.



宇留賀 朋哉 URUGA Tomoya
電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター 特任教授
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1
TEL:042-443-5922
e-mail:urugat@spring8.or.jp

関澤 央輝 SEKIZAWA Ouki
電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター 特任助教
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1
TEL:042-443-5922
e-mail:sekizawa@pc.uec.ac.jp

唯 美津木 TADA Mizuki
分子科学研究所 物質分子科学研究領域 准教授
〒444-858 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
TEL:0564-55-7351
e-mail:mtada@ims.ac.jp

横山 利彦 YOKOYAMA Toshihiko
分子科学研究所 物質分子科学研究領域 教授
〒444-858 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
TEL:0564-55-7345
e-mail:yokoyama@ims.ac.jp

岩澤 康裕 IWASAWA Yasuhiro
電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター長・特任教授
( (兼) 大学院情報理工学研究科先進理工学専攻)
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1
TEL:042-443-5921
e-mail:iwasawa@pc.uec.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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