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Volume 18, No.4 Pages 318 - 320

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

3極ワークショップ:検出器ワークショップ
Three-way Meeting Report: Detector Workshop

初井 宇記 HATSUI Takaki

(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL Research and Development Division, RIKEN

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 検出器ワークショップは、APSの検出器リーダーであるRobert Bradford、PETRA-III(DESY)を代表してHeinz Graafsma、ESRFを代表してPable Fajardo、SPring-8を代表して初井が企画した1日の会議である。会議のアジェンダ[1]http://aps.anl.gov/Users/3Way/final_agenda.pdf、発表資料[2]http://aps.anl.gov/Users/3Way/presentations.html#detectorsともにwebにアップロードされている。各論については資料を参照されたい。
 会議はまず各サイトのOverviewから始まった。その後、各研究所のトピックについてプレゼンテーションがTechnicalセッションとして実施された。Overviewセッションの中で認識されたことは、各サイトでの検出器グループの役割が異なるということである。
 APSでは、施設全体の検出器のサポート業務がミッションの重要な割合を占めており、購入した検出器の評価やビームラインでの運用サポートに全メンバーが何らかの形で参加しているとのことであった。現在の開発としてはこれまでのCCD検出器開発の資産を生かした2つのプロジェクトの紹介があった。一つは、コダック社の民生用高感度CCDを複数活用した粉末解析用間接検出型CCDである。もう一つは、ローレンスバークレー研究所(LBNL)が開発した厚い空乏層をもつCCDを高速化して放射光用に展開するLBNLとの共同プロジェクト、FastCCDである。他に、燃料スプレー研究用として1次元の高速(6.5 MHz)検出器等も簡単な報告があった。
 また、APSの将来計画に呼応するものとしては、高速のハイブリッド検出器開発を考えているとの紹介があった。今はアメリカ内の研究所との連携を構築して、SLACとのハイブリッド型計数型2次元検出器(CPix2)開発、フェルミ研究所とのFASPAX検出器開発を進め始めているとのことである。前者は、ピクセルサイズが100 µmで6.5 MHzまで計数可能で、計測対象の光子エネルギーの下限値と上限値を同時に設定できるカウンターをピクセル内に持つものを予定している。これは日本国内でも広く利用されているPilatus検出器タイプ(ピクセルサイズ172 µm、計数速度2 MHz程度)の高機能化という方向性と理解できる。後者のFASPAX検出器は、Pilatus等と同様にセンサーと読出集積回路(ROIC)を接続するハイブリッド検出器であるが、読出集積回路の開発において高エネルギー物理分野で最高峰の実力を誇るフェルミ研究所の集積回路開発グループと組み、積分型でありながらピクセルあたり10万光子までを読み出すことを目指す研究開発である。このFASPAX検出器はさらに、6.5 MHzで最大48画像を一度に連続撮像できるバーストモードと呼ばれる機能も備えている。これにより計数型検出器で強い信号が入ったときに飽和してしまう問題やフレーム読出速度の制限を、新しい回路方式により取り除くことができる。主な用途は小角散乱を考えているとのことであった。FASPAX検出器は、後述するDESYが開発を主導しているEuropean XFEL用検出器AGIPIDとほぼ同様の機能を持つ。APS側はAGIPID検出器開発に参加することも考えたが、アメリカ主導のプロジェクトにするようにとのエネルギー省の強い要請を受け、現在のプロジェクト体制となっているとの説明があった。
 ESRFは、Ruat博士が検出器グループと装置開発部門を代表して発表を行った。間接型検出器の蛍光スクリーンをESRF内で製造できる設備を有していることを生かし、間接型の多様な空間分解能をもつ検出器開発を展開していることが報告された。光子を半導体で直接変換する直接変換型検出器については、所外との開発協力体制を築き特に実装部分を中心に参加しているとの報告があった。一般的にハイブリッド検出器ではセンサー部と読出集積回路(ROIC)をバンプ接続するが、ピクセルサイズが小さい場合は歩留まりが深刻な問題となり、ギャップのない大きなセンサー面を実現することが難しい。これに対する方策は、比較的大きなピクセルサイズとし、大型のセンサーに多数の読出集積回路を実装する実装方法で、スイスのPSI研究所が開発したPilatusなどで採用されている。一方、ESRFはCERNと協力して長年MEDIPIXプロジェクトに参加してきており、55 µmの小さなピクセルサイズに多くの機能を詰め込むことに成功している。この場合は、単位面積あたりのピクセル数(バンプ数)が多くなるため、大型のセンサーに多数の読出集積回路を実装すると歩留まりが下がってしまうほか、同じ寸法のギャップでもピクセル数に換算すると大きな不感領域が発生することになる。そこで、センサーと読出集積回路のユニットの端に存在する不感領域をなくしてしまう技術の追求が重要となる。このような目的でフィンランドのVTT研究所がEdgeless sensor技術を開発している。この技術は、センサー側の高電圧に対し保持するためのガードリング構造(1 mm程度)をセンサー切断面にイオン注入するEdgeless sensor技術に置き換えることでギャップを極めて小さくすることを原理的に可能にする。ESRFでは、Edgeless sensorについて試作結果を詳細に試験し、課題が若干残るものの実用化可能な段階にあることを報告した。
 また、ESRFでは高光子エネルギーへの対応を目的として、DESYとともにヨーロッパ全体のプロジェクトHIZPAD2に参加している。このプロジェクトではセンサー部をシリコンからより元素番号(Z)の大きな半導体材料に交換し、高光子エネルギー領域の感度を飛躍的に向上させるというものである。ESRFでは特にCdTeセンサーに注力しており、ビームラインでの利用実験を開始できる段階に到達している。発表では、結晶の品質に由来する不均一性、劣化など運用上の課題について報告がなされた。
 APS、ESRFともに、検出器の中で専門的な技能と投資、期間が必要となるX線2次元検出器の読出集積回路(ROIC)の開発を、研究所内の高エネルギーグループ(アルゴン研究所高エネルギー物理部門)や他の研究機関(フェルミ研究所、CERN等)との協力関係をうまく作り進めていく方針である。
 DESYに関しては、Graafsma博士のOverview発表につづき2件の講演が行われた。DESYの検出器グループは、DESYの関連する研究者全体の科学的成果を最大化するための開発に重きを置いているということであった。この場合、DESY関係研究者がDESY外の放射光施設で実験するための検出器開発/提供も含まれるとのことである。DESYではEuropean XFEL用の3つの主要検出器プログラムのうちの一つAGIPD検出器の開発統括を行っていることもあり、XFELの検出器開発とPETRA-III、FLASH用検出器開発を相乗効果が得られるプログラムとして実施していることが報告された。また将来の方向性として、Helmholtz-Cubeと題した3次元的な検出器構成を提案し、フレームレートがMHzオーダーで不感隙間のない検出器の開発を段階的に開発していくことが示された[3]http://aps.anl.gov/Users/3Way/presentations/Graafsma.pdf page.24
 現在開発を進めているものとしては、高光子エネルギー用として開発を進めているLAMBDA検出器についてPennicard博士が報告を行った。LAMBDAはセンサー材料CdTe、Ge、GaAsを利用することを想定している検出器で、PETRA-IIIでの高光子エネルギー利用をカバーすることを狙っている。読出集積回路(ROIC)はCERNが中心となって開発したMEDIPIX3を使用している。結論として3つのセンサー材料はすべて実験に利用できることが報告された。違いとしてはGeはリーク電流を押さえるための冷却が大変であるため、大型システムの実現には難があるが、データの質としてはもっとも問題がないのに対し、GaAsはやや不均一性があるが補正可能であること、GdTeは結晶としてはもっとも開発されている材料であるが、エージングや不均一性において高品質のデータを得るには更に改善の余地があるという結論が提示された。また次のMarras博士の発表では、European XFEL用のAGIPID検出器について報告があった。AGIPIDは12 keVに対して、1光子―1万光子までの計測を可能とする積分型のハイブリッド検出器である。ピクセルサイズは200 µmで、4.5 MHzの速度で最大352フレームを一度に連続撮像できる(バーストモード)。これはEuropean XFELのマイクロバンチ構造に対応するための機能であるが、PETRA-IIIでも高速撮像要求がある利用実験で使用する予定との発表であった。従来ハイブリッド検出器は高強度のX線が入射すると回路特性が変動するなどの影響が見られたが、この検出器の場合は様々な工夫を取り入れ、プロトタイプセンサーの試験結果から目標である10 MGy(1 Grad)までの耐久性が得られる見通しであることを示した。引き続いて、主にFLASH用の軟X線CMOS検出器PERCIVALについての発表がなされた。この検出器は軟X線用のCMOS検出器で、ラザフォード研究所が設計を担当しているものである。従来のCCDに比べ高速(10-120 frame/sec)で読み出せることを目指している。
 SPring-8では、発表者である初井が担当するSACLAでのmulti-port CCD検出器開発、および実際に運用するに当たってのデータ収集・解析の状況を報告した。特に大量データを扱う実験では実験条件の最適化にフィードバックするためのデータの可視化、および迅速解析が、ビームタイム後の解析に加えて極めて重要であることを示し、現状のシステムについて報告した。リング型光源でもX線2次元検出器の大量データ処理が近いニーズとして認識されていることもあり、データ収集、解析、データ保存のポリシーについて質問・議論が多くなされた。また、技術開発としてSACLA用に開発を進めているSOI検出器の現状について、多くの問題は解決されたが、センサーの歩留まりの改善や、データの補正方法などに課題が残されていることを報告した。さらに、SPring-8のアップグレードに向けては、コヒーレントフラックスの増大が期待できるため、コヒーレント利用実験に向けた開発計画を議論し始めていることを報告した。開発の進め方としては、開発の初期段階から企業との連携を重要視し、ハイブリッド検出器については企業との連携によって実現しようとしていること、また技術面でも民生用CMOSセンサー技術のX線分野への展開を考えていることを報告した。
 全体として、(1) Pilatusの成功に代表される光子計数型ハイブリッド2次元検出器の高度化、(2) XFEL用として開発されている直接検出型の高速積分型2次元検出器の開発とその展開、(3) 適用波長の拡大、具体的にはシリコン検出器で対応が困難な20 keV以上の光子エネルギーへの対応と軟X線対応、(4) 高速2次元検出器のデータハンドリングの4点が、会議の主題であったように思う。会議後の各施設のリーダーとの懇談では、現状から今後求められる新しい検出器開発へのシフトをどのように実現していくか、各施設の現状と方向性、進め方、研究所間の協力に対する考え方を議論することができ、私自身にとって非常に有意義な会議であった。参加させていただいたことに深く感謝申し上げます。

 

 

 

[1] http://aps.anl.gov/Users/3Way/final_agenda.pdf
[2] http://aps.anl.gov/Users/3Way/presentations.html#detectors
[3] http://aps.anl.gov/Users/3Way/presentations/Graafsma.pdf page.24

 

 

 

初井 宇記 HATSUI Takaki
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0802 ext 3948
e-mail:hatsui@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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