Volume 18, No.3 Page 202
理事長就任の挨拶
Greetings from President of JASRI
6月18日付けで理事長に就任いたしました土肥義治です。白川前理事長の方針を引き継ぎ、特定放射光施設のSPring-8とSACLAが学術と産業の発展に貢献できるよう全力を尽くしたいと思っています。これからは、「SPring-8利用者情報」に理事長の思いやお願いを、みなさまにお伝えしたいと考えています。今回は初回でもあり、まずは自己紹介をさせていただき、その後にJASRI組織運営の考え方を述べさせていただきます。
自然科学の研究推進と研究所運営にあたり、“焦らず、弛まず、諦めず”を信条にして、東京工業大学と理化学研究所で40年間余り働いてきました。1984年から、生分解性高分子の合成と高性能化に関する研究をライフワークとして進めてきました。研究室では、高分子科学に加えて分子生物学を専門とする研究者を採用して、異なる研究分野の融合を図ってきました。SPring-8を利用する研究を1999年から始め、酵素の結晶構造解析や高分子結晶の形態解析を進めました。微生物ポリエステルの生合成と分解に関与する2種類の酵素の結晶構造を世界に先駆け解明できたこと、あるいはポリエステル結晶の構造と形態を規定する力学因子や熱的因子を解明できたことなど研究を進展させることができました。
2004年に理化学研究所の理事(研究担当)に就任して、研究全般の管理運営を行うことになりました。その後に総括担当となり研究所経営も経験いたしました。2010年からは、社会知創成事業本部長として理研のイノベーション推進活動、とくに産学連携推進を担当いたしました。理事に就任してからは、特定放射光施設の運営に深く関与いたしました。2005年に放射光科学総合研究センターを開設して、SPring-8の利用研究と技術開発の推進とともに、X線自由電子レーザー施設(SACLA)の開発を進めました。SACLAの開発、建設、供用開始までの成功を確認でき安堵いたしました。2009年11月から始まった行政刷新会議の事業仕分けでは、理研の責任者として社会に対して研究事業の説明責任を果たすことが求められました。SPring-8においても例外ではなく、施設運営の透明性、成果の公開促進、利用料金の適正化など文部科学省と相談しながら検討を進めました。この難局を乗り切れたのは、多くの利用者の方々および地元自治体や産業界からの強力なご支援の賜でした。
公益財団法人JASRI経営の基本は、第一に公正で透明性の高い組織運営を実行すること、第二に放射光科学における高い技術力と調査能力を維持して学術と産業の発展に貢献すること、第三に利用者から信頼されるSPring-8およびSACLAの供用業務を行うこと、第四にJASRIの職員がやる気が出せて元気に活動する労働環境を整備することと考えています。JASRI経営にとって重要なことは、時代の変化に的確かつ柔軟に対応する組織運営を行うとともに、JASRI職員の高い研究能力、技術力、連携能力を保ちつつ、年間1万人を超える利用者の方々からの高い信頼を維持することです。とくに、SPring-8ユーザー協同体およびSPring-8利用推進協議会の方々とは、今後とも密接な連携を維持し強化して、学術と産業の発展に貢献できればと考えています。言うまでもなく、施設設置者の理研との密接な協議のもとでSPring-8とSACLAの研究施設の能力を世界最高レベルに維持することが重要と思っています。