ページトップへ戻る

Volume 18, No.1 Pages 59 - 60

6. 告知板/ANNOUNCEMENTS

最近のSPring-8関係功績の受賞
SPring-8 Related Achievements

Download PDF (189.57 KB)

※功績が認められ最近受賞されたSPring-8利用者等を掲載しています。

2012年度朝日賞 受賞
主催:朝日新聞文化財団
受賞者 神谷 信夫
大阪市立大学 理学部化学科 教授
沈 建仁
岡山大学大学院 自然科学研究科 教授
受賞テーマ 光合成における水分解・酸素発生の分子機構の解明
ビームライン BL44XU、BL41XU、BL38B1
研究内容  光合成において太陽の光エネルギーを利用し水を分解して酸素を発生させている光化学系II(PSII)の結晶構造を、大型放射光施設SPring‐8を利用して1.9 Åの分解能で明らかにしました。これによりPSIIの中で働くマンガンクラスターが、Mn4CaO5 の組成を持って「歪んだ椅子」の形をしており、また4個の内の1個のMnとCaにはそれぞれ2個の水が配位していることが世界で初めて明らかとなりました。太陽の光エネルギーを生物が利用可能な化学エネルギーに変換する反応の機構を解明することにつながるものであり、光合成および人工光合成に向けた今後の研究の進展につながる成果といえます。
受賞理由  朝日賞は「学術、芸術などの分野で傑出した業績をあげ、わが国の文化、社会の発展、向上に多大の貢献をされた個人または団体」に対して贈られる賞であり、お二人は長年にわたり光合成タンパク質の構造解析の研究を行ってこられ、光合成のなぞを解く鍵である「マンガンクラスター」の分子構造を解明されるという功績を挙げられたことが高く評価されました。
 本成果は世界に大きな衝撃を与え、アメリカの国際科学雑誌Scienceによって2011年に得られた画期的な10の科学成果「Breakthrough of the Year 2011」の1つに選出されています。

第10回ひょうごSPring-8賞 受賞
主催:ひょうごSPring-8賞実行委員会
受賞者 岸本 浩通
住友ゴム工業株式会社 材料開発本部材料第三部 主査
受賞テーマ 低燃費タイヤ開発への貢献
ビームライン BL20XU、BL03XU、BL40B2
研究内容  自動車におけるエネルギー消費の約20%は、タイヤの転がり抵抗によります。そのため、地球環境への負荷を低減させるために低燃費タイヤの開発が急務でした。しかしながら、タイヤ用ゴムは低燃費化させるとグリップ性能が低下する相反性能を示します。過去より、タイヤ転がり抵抗とグリップ性能は、ゴム中に配合されたシリカ等のナノ粒子が形成する階層構造が密接に関係すると考えられてきましたが、未だ良く分かっていませんでした。
 そこで本研究では、SPring‐8を利用し、二次元極小角/小角X線散乱(2D‐USAXS/SAXS)により数μm〜数Åまでの幅広い空間スケールでの構造解析を実施し、シリカの高次凝集構造がタイヤ低燃費性能に密接に関係することを明らかにしました。
受賞理由  岸本氏のグループは、SPring‐8の高輝度X線の特性を活かし、二次元極小角/小角X線散乱(2D‐USAXS/SAXS)によりゴムに添加したシリカ等のナノ粒子が内部で形成する階層構造を解析し、その構造が性能に深くかかわっていることを明らかにされました。さらに、シミュレーション技術も併せ、三次元構造を可視化することで、両末端マルチ変性ポリマーを開発し、従来製品より自動車の燃費を約6%低減させるタイヤ「エナセーブ PREMIUM」の開発に大きく貢献されました。また、同氏の先駆的な研究は、当該分野の利用の広がりにも大きく貢献しています。

第10回ひょうごSPring-8賞・奨励賞 受賞
主催:ひょうごSPring-8賞実行委員会
受賞者 髙木 由紀夫
エヌ・イーケムキャット株式会社 触媒開発センター 副センター長
受賞テーマ 第一級アミン合成および鈴木カップリング用Pd触媒の開発
ビームライン BL14B2
研究内容  本研究は、BL14B2のXAFS測定を用い、Pd工業触媒の合金化や担体材料による触媒構造の変化を調べ、触媒性能との関係を明らかにしました。
 Pd工業触媒は一般に安全性が高く、医薬品、化学品などの製造に広く用いられています。しかし、鈴木カップリング反応や第一級アミン合成において、副生成物やPd金属の混入が起きてしまい、後工程での精製処理が多くの場合必要であるという問題点がありました。
 本成果により、上記欠点を克服する対策を見出し、産業界のニーズにあった工業触媒の開発・実用化に成功し、市販を開始しました。これらの開発触媒は従来の触媒に比べて大幅に反応効率が向上し、産業あるいは社会が注目する新製品を生み出す可能性が十分にあります。
受賞理由  SPring‐8を利用して改良を重ね、開発に成功・市販化を公表した初めての工業触媒であり、今後放射光を利用した新工業触媒の開発・製品化や、産業界の競争力向上への寄与が期待されます。

2012年度仁科記念賞 受賞
主催:仁科記念財団
受賞者 細野 秀雄
東京工業大学 フロンティア研究機構 教授
受賞テーマ 鉄系超伝導体の発見
ビームライン BL02B2
研究内容  大きな磁気モーメントをもつ鉄は、超伝導発現には極めて不向きいうのが常識となっていました。細野氏は、フッ素ドープした層状ド化合物LaFeAsOがTc = 26 Kを示すことを2008年2月に発表しました。さらに高圧下で43 Kまで増大することを見出しました。このTcは銅系酸化物を除くと最高であり、これによって高温超伝導物質にはCu‐O結合が必須というこれまでの常識を覆しました。
受賞理由  細野秀雄氏は、固体化学の深い造詣と独自の物質センスにより3d 磁性元素の化合物で新規の超伝導体を創製し、物性物理の分野に新しい領域を拓かれました。特に鉄系超伝導の発見は、銅酸化物超伝導体に匹敵するインパクトを与えました。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794