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Volume 18, No.4 Pages 324 - 325

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第8回非弾性X線散乱国際会議(IXS2013)報告
Conference Report: 8th Conference on Inelastic X-ray Scattering (IXS2013)

平岡 望 HIRAOKA Nozomu

SPring-8 Taiwan beamline office, National Synchrotron Radiation Research Center, Taiwan

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 2013年8月11日から16日の間、米国カリフォルニア州スタンフォード近郊のSLAC国立加速器研究所(National Accelerator Laboratory)において、第8回X線非弾性散乱に関する国際会議(IXS2013)が開催された。この会議は3年毎に開催され、毎回おおよそ、北米、欧州、アジアからほぼ均等に参加者がある。今回は、参加者リストが発行されなかったため詳細は分からないが、同様な割合だと感じた。X線非弾性散乱は、4つの分野に分類されることが多い。まず、(1)電子励起による共鳴・非共鳴非弾性散乱、次に(2)格子あるいは分子振動励起による(非共鳴)非弾性散乱、そして、(3)コンプトン散乱ならびに磁気コンプトン散乱、最後に(4)核共鳴散乱である。筆者は、15年間、毎回この会議に参加しているが、大体この4つの分野の発表が、できるだけ均等になるように配慮されているように思う。しかし、今回は、口頭発表の8割程度が、電子励起の共鳴・非共鳴非弾性散乱の講演で、しかもそのほとんどが軟X線の共鳴非弾性散乱(S-RIXS)についてのものであった。配慮不足と言えなくもないが、良い研究成果をした人に講演を依頼した結果、こうなってしまったのであろう。言い換えれば、この分野の盛り上がりを反映したということだろう。



図1 会議中、学会会場に提示されていたIXS2013のバナー

 まず、SLAC研究所の所長であるC. C. Kaoの挨拶のあと、理論分光学の最前線で活躍する、F. De GrootやM. Haverkort、またJ. Van den Brinkの発表があったが、その著名な三者が全て銅酸化物におけるS-RIXS(2p→3d共鳴)を議論していたことが、この会議を象徴していたと思う。筆者の印象では、6年前の会議でも銅酸化物におけるRIXSの発表は多かったが、多くは硬X線を用いる研究(1s→4p共鳴)が多かった。それが3年前のIXS会議では、S-RIXSでスピン波(マグノン)の低エネルギー励起と、その分散を観測したとの、G. Ghiringhelliらの衝撃的な報告があり、そして別の機会では軌道波(オービトン)の分散を観測したとのT. Schmittらの報告を聞いた。今回は、「S-RIXSはいかなる励起も観測できる」との意の言葉を何回か聞いた。驚くべき進展である。
 格子振動による非弾性散乱、すなわちmeV高分解能非弾性散乱については、実験結果の報告というものは無かったが、新規ビームラインの現状報告が2つあった。ひとつはA. BaronのSPring-8におけるナノダイナミクスビームラインについての講演、もうひとつはY. CaiのNSLS-IIでの新規ビームラインの講演であった。前者は、従来どおりの20 keVX線を利用するビームラインであるが、後者は、10 keV付近のエネルギー領域において、極端な非対称配置で後方反射アナライザーを用いる新しいアイデアに基づいている(コリメーター結晶、分散結晶、波長選別結晶の頭文字をとってCDW配置と呼ばれる)。
 今回の会議で、筆者が一番興味をもって聞いたのはM. Beye、N. Rohringerらの誘導発光の講演である。これらはSASE-XFELを用いた(軟X線領域)発光実験であり、非線形光学の一種である。格子密度が少ないときは、入射X線強度に対し、発光X線強度は比例する。しかし、XFELは格子密度がはるかに大きく、非線形光学が現れる。発光X線が誘導輻射を導き、さらに発光X線が増える。その結果、入射強度に対し散乱X線強度は加速度的に増加し、もはや比例しなくなる。その特性を調べたのがM. Beyeの報告であり、アルゴンガスへの応用が、N. Rohringerの講演であった。後者は理論的研究であった。



図2 学会会場

 コンプトン散乱では、H. Yonedaの高温高圧ガスのコンプトン散乱実験が興味深かった。高エネルギーを用いて行うコンプトン散乱は、本来、高温高圧などの極端条件に有利なはずであるが、実際には報告例はさほどないように思われる。高出力レーザーを用い金属試料を気化させる。本来はXFELを用いた別種を想定したようだが、> 100 keVのエネルギーのX線の侵入長が数ミリにもいたることに気づき、始めた実験だそうである。温度に応じてコンプトンプロファイルの幅に若干の変化が観測されることが報告された。
 少し残念であったのは、核共鳴散乱の講演がひとつもなかったことである。核共鳴散乱は、アイソマーシフトやゼーマン分裂などの超微細構造を測定する弾性散乱と、フォノン部分状態密度を測定する非弾性散乱に分けられることが多い。後者はもちろんであるが、前者でさえも概念は非弾性散乱に類似するところが多い。特にSPring-8の核共鳴散乱ユーザーはアクティビティーも高いので、もっと参加頂ける環境を整えられないものかと思う。
 もうひとつ残念であったことがある。ポスター発表の時間があまりにも短かったことである。各ポスターの展示は1日に限られ、ポスターセッションの時間は昼休み込みの1時間半に制限された。またポスター会場とオーラルセッション会場が若干離れており、オーラルセッションの休憩の間にポスターを眺めるということもほとんどなかった。筆者自身、(口頭発表に加え)ポスターも準備していたので、物足りない感はあった。
 ちなみに今回の会議は、筆者個人にとっては非常に有意義なものであった。というのは2つ理由がある。筆者はX線ラマン散乱の磁気円二色性について口頭発表したが、これが思っていた以上の好評を得られたこと、もうひとつは次期IXS会議が台湾に誘致できたことである。慣例に従えば、次期IXS会議はアジアであったのであるが、慣例を覆すように他の大陸からも提案があったらしい。いずれも、新規シンクロトロン放射光施設を持つ国だったようで、運営委員会内ではかなり議論があったらしい。最終的には台湾に決定されたが、誘致の提案が多数あったことから、しばらくサイクルを3年から2年に短縮することも決定された。IXS2015@台湾が成功するよう微力ながら尽力したい思いと、また責任の重さを実感している。
 X線非弾性散乱ユーザーの皆様、またそれに関連する研究をされる皆様の、IXS2015@台湾へのご参加を、心よりお待ちしております。
 なお、IXS2013の口頭発表プログラムは、以下のWEBサイトで確認することができます。
https://conf-slac.stanford.edu/ixs-2013/scientific-program

 

 

 

平岡 望 HIRAOKA Nozomu
National Synchrotron Radiation Research Center, Taiwan SPring-8 Taiwan beamline
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-1867
e-mail:hiraoka@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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