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Volume 26, No.2 Pages 242 - 245

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

利用系グループ活動報告
情報処理推進室 情報処理推進グループ
Activity Reports – Information-technology Promotion Group, Information-technology Promotion Division

佐治 超爾 SAJI Choji

(公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室 Information-technology Promotion Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 情報処理推進室・情報処理推進グループは、放射光実験にかかわる機器制御・データ収集システムや、情報・計算機技術を用いた実験データ処理の研究・開発を行っている。具体的には、実験データ収集・機器制御ソフトウェア、データ所外配送システム、実験ステーション用ユーザー認証システムなどの開発と運用に携わっている。また、ビームライン(BL)ユーザーが様々な登録や申請に用いる利用者情報支援システムの整備も行っている。今回は利用者に関連するシステムについて現状を報告する。

 

 

2. 利用者情報支援システム
 SPring-8 User Information(UI)システムはユーザーへの利用に関する情報支援を目的としたWebサイトであり、公開情報を扱うUIサイトと利用に関する手続きを行うマイページで構成されている。前回のリニューアルから10年が経過し更新を検討していたところ、科学技術・学術審議会量子科学技術委員会量子ビーム利用推進小委員会による『大型放射光施設(SPring-8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)中間評価報告書』にてユーザービリティ向上について指摘いただいたこともあり、Webサイトの刷新に取り組むこととなった。
 今回の刷新では「情報配置の最適化」を重要なテーマとして検討を進めた。現状のWebサイトは制度変更などへの対応で建て増し的にコンテンツが増加しており、新規ユーザーにはわかりにくい状態となっていた。そこで、課題申請・採択・来所・実験後というユーザーの状態によって情報を分類することにより、必要としている情報を素早く見つけられる構造への変更を目指した。まず「UIサイト」について利用推進部と共に取り組みを行い、過去のSPring-8/SACLA利用者情報[1][1] SPring-8/SACLA利用者情報 25 (2020) 352-354.にて既報の通り全面刷新を完了させ既に運用を開始している(図1)。

 

図1 全面刷新後のUIサイトトップページ

 

 

 次に「マイページ」について現在検討・実装を進めている。現行ページではすべての機能がトップページに羅列されており、必要な項目を探しづらい状態であった。これらの機能を先述のとおり分類し、メイン・サブメニューの構造で整理を行った(図2)。これによりユーザーは多くの情報から探し出さずとも必要な機能にたどり着けることが期待できる。

 

図2 新しいマイページ。ユーザーの状態による機能の分類・再配置がなされた。

 

 

 課題申請など情報を入力するページについては現行の縦型タブインターフェイスを再デザインし、タブとボタンの区別を認識しやすくすることで視認性と操作性の向上を目指している(図3)。ページ構造は大きく変更せず、既存ユーザーの違和感を最小限とすることを目指した。新しいマイページについては2021年度内に公開予定である。
 SPring-8では課題制度や設備などが継続的に改善されており、システムも変化に対応し続けることが求められる。効率よく対応できるようにユーザーからは見えづらい内部構造についても今後改修を進めていく予定である。

 

図3 情報入力ページの改善例。デザインの変更によりボタンとタブの識別がしやすくなった。

 

 

3. DARUMAによるデータ収集・計測システムの現状
 DARUMA(Data collection And control framework for X-Ray experimental stations Using MADOCA)[2][2] 中田 謙吾、他:SPring-8/SACLA利用者情報 24 (2019) 269.と呼ばれるBL向けのデータ収集・実験計測システムのソフトウェアパッケージ開発をしている。このパッケージは、SPring-8加速器制御で活用されている分散制御フレームワークMADOCA[3][3] T. Matsumoto et al.: Proc. ICALEPCS 2013, Proc. ICALEPCS 2015, Proc. ICALEPCS 2017.を基盤としており、SPring-8で標準的に使われる可読性が高いテキスト(SVOC文型)によるメッセージ通信を用いている。DARUMAを活用することで得られるメリットとしては、1)機器制御のプログラムとユーザーインタフェースのプログラムを分離して開発できるようになる、2)SVOCによる機器制御の抽象化によるプログラムの可搬性の向上、3)画像処理など機器制御以外のプログラムもSVOCの枠組みで部品化できる、4)実験計測時に測定条件などの付加情報(メタ情報)の収集が使える、など様々な特徴が挙げられる。これらの機能のため、実験セットアップ時の装置の組み替えにも柔軟に対応でき、既存のspec[4][4] spec (https://certif.com/spec.html)やLabVIEW[5,6][5] LabVIEW (http://www.ni.com//labview)
[6] 松下 智裕、他:SPring-8/SACLA利用者情報 20 (2015) 116-119.
、Visual BASICなどを用いた制御系に容易に組み込むことが可能となる。
 DARUMAは、BL向けに整備されたフレームワークの提供のみならず、開発のための様々な支援ツールやプログラムも提供している。表1にあるような、実際にBLで使われている多くの汎用機器の制御プログラムの提供を行っており、さらには、これらと連携するビューアなどの汎用的なインタフェース、様々な画像処理機能を持ったプログラム群なども提供している。たとえば、画像のヘッダ処理などの二次元画像に関する各種ツール群や、円環積分や指数演算(HKL-map)などの計算など様々なソフトウエアコンポーネントを持つことも、DARUMAの特徴の一つである。様々な解析処理と汎用的な画像処理を組み合わせた制御が可能であり、計測システムの高度化と容易に関連付けることが出来る。
 これらのシステムは、常設でないものを含めればBL01B1、BL02B1、BL03XU、BL04B2、BL08W、BL10XU、BL13XU、BL14B2、BL19B2、BL35XU、BL36XU、BL37XU、BL40B2、BL46XUにおいて実験計測に活用されている。
 現在、理化学研究所(理研)を中心に利用実験に関する新しい基盤技術(BL-774)の開発が進められており、DARUMAの開発で培った技術・ソフトウェア資産をサポート機器の拡充の面で統合する方向で検討を始めている。

 

表1 DARUMAの主な対応機器
種別 装置
二次元検出器 PILATUS, PerkinElmer XRD, Andor Zyla, Andor iKonL, 浜松ホトニクスHiPic, Rigaku HyPix , Quantum-Merlin, Quantum- Hexite, X-Spectrum-Lambda
光電子分光 Scienta SES
ADC NI-4492, NI-6000, NI-6003, NI-6210, NI-6341, NI-6602, NI-6612
Motor tsuji-PM16C-04XDL, PM16C-16, tsuji-PM16C-02, tsuji-PM2C-01, SIGMA TECH FC-111/511/911, IMS MDRIVE Motor
Counter tsuji-NCT08-01B, tsuji-CT08-01B/01E/CT08-ER2/CT16-01F, MITUTOYO KA12, 200
DMM Keithley 2701, ADC7352A
ピコアンプ Keithley 6485
カレントアンプ Keithley 428
温調 SIMADEN-FP23, Cryo-con Model 24C, チノーKP1000C
FPGA NI-9269, NI-9239, NI-9403, NI-9260
ラマン分光 LightField
イオンチャンバーガス混合器 アイデンM37-4209-01
多素子SSD用DSP テクノエーピーAPN504
カメラシステム キーエンスCV5500
四重極型質量分析計 PFEIFFER GSD301
モノクロエンコーダーボード Heidenhain IK220

 

 

4. 所外実験データ転送
 情報処理推進室では、SPring-8で計測した実験データを所外からアクセスするためのシステムとして、実験データ配送サービス[7][7] https://filetransfer.spring8.or.jp/、および実験データ転送システムBENTEN[8,9][8] https://benten.spring8.or.jp/
[9] 松本 崇博、他:SPring-8/SACLA利用者情報 24 (2019) 388-393.
の開発・運用を行っている。
 これらは、UIサイト(URL https://user.spring8.or.jp)にユーザー登録している人であれば、UIサイトと同じアカウント(ユーザーカード番号)を用いて認証手続きを行うことで利用可能である。セキュリティ強化のためEメールを利用した二要素認証を導入している。
 実験データ配送サービスでは、図4に示すようにWebブラウザ上でデータファイルをアップロードする。その後、一定期間有効なデータダウンロード用のURL、およびパスワードが表示される。この情報を相手と共有することで、所外からデータをダウンロードできる。本サービスは、測定代行での実験データや、ドキュメントなどを所外ユーザーと共有する際に活用されている。

 

図4 実験データ配送サービスWebポータルにおけるデータファイルのアップロード例

 

 

 実験データ転送システムBENTENは、実験データを一般に公開する機能(オープンデータ)、及び実験課題の共同メンバーのみにデータ共有を行うアクセス制限機能を実装している。BENTENはデータ登録やデータ検索、ダウンロードの機能がPythonのコマンド経由で簡易に実装できるように設計されており、実験計測系に容易に組み込んで利用できる。2019年3月より運用を開始しており、SPring-8の共用BLで利用できる。現在、産業利用・産学連携推進室と連携を進めてきており、BL14B2におけるユーザー実験データの限定共有、および、BL14B2 XAFS標準試料やBL46XU HAXPES標準試料のオープンデータで利用されている。
 実験データを一般公開し、データ利活用を進めるためには実験データの試料や測定条件などについて詳細なメタデータを付与することが極めて重要となる。このため、BENTENでは、放射光実験計測での多様なメタデータを柔軟に定義し、データベースで管理できるように設計した。メタデータは試料に関しては手動入力の項目もあるが、できる限り自動抽出し、簡易に生成できるよう工夫している。
 図5にBENTENに登録されたBL14B2 XAFS標準試料データアクセス例を示す。Webブラウザより、データ全文検索、データ閲覧およびダウンロードができる。2021年3月10日現在、34元素、667試料、1757スペクトルのXAFSスペクトルデータが収録されており、XAFS計測でのデータ解析時に活用されている。
 SPring-8サイト全体として、理研では大量データの保存、解析、転送ニーズに対応するためのデータセンター設置を準備しており、本稿で紹介したサービスの統合も検討されていくだろう。

 

図5 BENTEN WebポータルにおけるXAFS標準試料のデータアクセス例

 

 

5. まとめ
 情報処理推進室・情報処理推進グループは、利用実験申請、実験データ取得から大学・企業などへの所外配送までのデータの流れをシステム化し、放射光を利用した成果創出に貢献することをミッションとしている。本稿では情報処理推進室における活動の中から、主に利用者の皆様に関連するシステムについて現状を報告した。現在、BL再編に伴い、利用実験に関する制御システム基盤や情報システム基盤の開発・整備が進められている。今回紹介したシステムについても理研とJASRIの協力関係のもと、利用者の利便性向上にむけて検討を進めていく。

 

 

 

参考文献
[1] SPring-8/SACLA利用者情報 25 (2020) 352-354.
[2] 中田 謙吾、他:SPring-8/SACLA利用者情報 24 (2019) 269.
[3] T. Matsumoto et al.: Proc. ICALEPCS 2013, Proc. ICALEPCS 2015, Proc. ICALEPCS 2017.
[4] spec (https://certif.com/spec.html)
[5] LabVIEW (http://www.ni.com//labview)
[6] 松下 智裕、他:SPring-8/SACLA利用者情報 20 (2015) 116-119.
[7] https://filetransfer.spring8.or.jp/
[8] https://benten.spring8.or.jp/
[9] 松本 崇博、他:SPring-8/SACLA利用者情報 24 (2019) 388-393.

 

 

 

佐治 超爾 SAJI Choji
(公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0990
e-mail : saji@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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