Volume 26, No.2 Pages 148 - 151
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
「マルチスケール3D画像取得解析セミナー」報告
Report of Web Seminar on Multiscale 3D Image Analysis
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
1. はじめに
「マルチスケール3D画像取得解析セミナー、Multi Scale Imaging Technology Web Seminar(MSITWS)」は、2020年10月22日にオンライン形式で実施された。主催は、Thermo Fisher Scientific 日本エフイー・アイ(株)、(株)島津テクノリサーチ、公益財団法人高輝度光科学研究センターの3者である(以降それぞれ、日本FEI、島津テクノ、JASRIとする)。本稿ではこの件に関する経緯および講演概要を報告する。
2020年は新型コロナウイルス感染症に振り回された年であった。感染拡大を防ぐため、マスクの着用や手指の消毒が常態化された。人同士の接触機会を減らすために、不要不急の外出を控えることが求められた。SPring-8では、2020年4月中旬から約2ヵ月にわたり一般ユーザーの利用が制限された。同様に学会・展示会・セミナーが相次いで中止されるに至り、極端に情報交換の場が狭まった。このような中で目覚ましい発展を遂げたのは、オンライン技術である。会議・操作・データ交換がネットワーク上で十分な性能を持って機能するようなソフトやハードウェアの進化が起こった。私たち使用者側も次第にその使用に慣れ、その活用の仕方を日々学んでいる。
本稿で報告するセミナーはそのような状況において、オンラインミーティングシステムを利用すれば、人数にしても、参加者の任地にしても、これまでのリアルな対面式では実現できないような規模でのセミナー開催が可能であるとの気付きがもたらしたものである(気付いたのは日本FEIの馬場氏)。それはさらに主催者側にも当てはまる。対面式という物理的な枠が取り払われ、ネットワーク上で完結できるとなると、より自由度の高いアプローチの実践が可能となる。具体的には、対面式では場所の確保・運営人員の確保が必要となり、それは開催規模に応じて膨張していく。一方でオンライン方式では、オンライン特有の使用方法の伝達は必要となるものの、分かりやすい情報展開・マニュアルの整備・参加登録と案内方法の自動化などができていれば、プレゼンテーションを含めた事前準備は、どんな開催規模でも似たようなものとなり得る。ここで十分なコストダウンが図れれば参加費不要となり、より広い層へのアプローチも可能となる。
以上のことを念頭にセミナーの内容検討を行った。その結果、3者とも物質の3次元画像を取得するという共通点があり、それぞれが得意とする空間スケールがnmからcmまで広く分布していること、日本FEIにおいては世界的に普及している画像解析ソフトを開発していること、が訴求ポイントとなると考えた。その結果、タイトルは「マルチスケール3D画像取得解析セミナー」となった。具体的には3者が取り扱っている装置および事例を紹介する。また、最近利用されることの多い、機械学習を用いた画像解析事例も含めることとした。計測・解析事例においては、共通の試料を測定した方がマルチスケール計測における具体性が良くなると思われたため、島津テクノより、GFRP試料が提供された。図1に本セミナーのコンセプト概略を示す。
図1 今回のセミナーのテーマである「マルチスケール」の基本コンセプトを表した図。1 nmから100 mmまで8桁にわたるスケールでの連携を提案している。
今回の開催までの流れを少し説明しておく。プラットフォームは日本FEIにてすでに導入済みであったWebexを使用し、他2者がそこに参加する形となった。告知は3者がそれぞれの利用者に対して行う事とした。合計では1500名以上の方に案内がされたはずである。参加資格は参加希望者からのメールに開催部屋へのアドレスを添付し返信することとした。撮影環境などは、ウェブ会議用の設備等を流用することで構築された。このように開催規模の割にほぼコストがかかっていないといってよい。
2. 講演概要
図2に講演プログラムを示す。本セミナーは、実験を計画し、結果を得るまでの流れに沿うように内容が工夫されており、基礎から応用、また実際の実験や解析までカバーするように設定されている。
図2 当日のプログラム。各主催者から、装置説明(ライブデモ)・事例説明などが行われた。
(http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2020/201022/から)。
前半はイメージング技術に関わる基礎的情報をまとめて取り扱っており、まず最初に島津テクノの中山氏によるX線CTの撮影原理や像質の解説、また実際の装置紹介が行われた。次は著者らの発表であり、SPring-8など放射光施設でのCT装置の解説、また一般的なX線源を用いたCT装置との違いなどを紹介した。日本FEI伊藤氏からは画像処理の基礎的な取り扱いについて解説があった。
中盤からは、応用事例や実際のイメージングの様子に関わる発表が連なる。中盤では一度昼食休憩をはさんだ。休憩時間についてはのちにまとめて詳細を記すこととする。まず、日本FEI村田氏からは、プラズマFIB/SEM装置、フェムト秒レーザー/SEM装置などを用いた大容量高速加工装置などを、デモ分析を交えて紹介していただいた。島津テクノ中山氏からは、島津テクノでの分析サービスや実験設備などの紹介があり、変形試験機などと組み合わせた応用事例の紹介があった。著者らは、時間軸を絡めた実験や位相情報を用いた撮影など、放射光施設ならではの応用事例を紹介した。
続いて著者らによりライブ配信が行われ、BL47XUにて近年開発されたマルチスケールX線イメージング装置の構成を紹介し、実際の試料の配置やパソコンによる画像取得の様子および得られた3次元像をリアルタイムで紹介した。我々の配信は、放射光施設になじみのない方には新鮮なものであったのではないかと考えている。
後半の発表からは取得データの解析方法、解析事例に関する発表が連なる。まず、日本FEI馬場氏によるAvizoソフトウェアの紹介、具体的な解析事例の発表があり、次に、島津テクノ中山氏からその場変形実験CT撮影の解析事例を紹介いただいた。最後に、日本FEI伊藤氏によるデータ処理におけるDeep Learningの応用と実例についての発表があった。
ここで、今回のセミナーの休憩時間と質疑応答の様式について紹介したい。今回のセミナーでは、各発表の後に質疑応答の時間は設けられていない。質問は常にチャットスペースにて投稿され、休憩時間を質疑の時間として併用するスタイルとなっている。これにはオンライン開催ならではのメリットがあると感じた。例えば、通常の現地開催での学会などでは、どうしても各質問者に対し一問一答ということになってしまう。一方、今回の方法では発表者はどのような疑問が多いかなど質問の傾向をあらかじめ掴むことができる。それだけでなく様々な質問に絡めて(時には他の発表に対する質疑も含め)回答することが可能である。質問者側も発表直後までに質問をまとめる制約がないため発表の後に気付いた疑問も投稿できるなどメリットがある。求めている回答も得やすいのではないかと感じた。今回、質疑応答の時間は3度のみであったが総じて質の高い時間であったのではないかと思う。
本セミナーは、大きなトラブルも起きず、ほぼタイムスケジュール通りに進み18時頃に日本FEI馬場氏により閉会の挨拶があり、その後最後の質疑応答ののち閉会となった。
ここで本題から少し脱線するが著者らのライブ配信の様子を紹介したい。配信は撮影も含め著者ら2名で行った。図3に簡単に撮影の様子を紹介する。用いた機材はすべてJASRIの所有する市販物品であり、特殊なものは使用していない。著者は全く撮影の経験などなかったが、近年の市販撮影機器の性能向上もあり、意外なほどに簡便な配信環境整備で、十分なクオリティの撮影ができたと考えている。
図3 実験ホールBL47XUからのライブ配信の様子。
また、各者オンライン発表に創意工夫がみられた。著者が特に印象に残ったのは、島津テクノ中山氏の発表であった。その発表ではテレビでの天気予報などでよく用いられるクロマキー合成(緑のスクリーンをバックに撮影を行う手法)が巧みに取り入れられており、さながら黒板の前に立ち講義を行っているかのような発表であった。通常のオンライン発表では、スライドのみが表示され強調はデジタルポインタなどに限られる。一方、この手法では人によるモーションでの強調も可能でありオンライン発表に大きな工夫の余地があることを感じた。
3. おわりに
朝9時から午後6時半までという長丁場ではあったが、内容としては充実していたように感じられた。参加申し込み件数は延べ約520件であった。最大同時参加者数はおよそ380名であった。これは筆者らが行ったことのある発表のうちでは、最大人数であろう。
セミナー後に取得したアンケートでは、今回の企画自体は概ね好評だったようである。特に企業の方からは、自席を離れずに複数名で聴講できるメリットが強調されていた。また、マルチスケールで試料を観察することの利点も伝わったようである。一方、プレゼンテーションの手技に関しては、声がこもっていた・動画がうまく配信されていなかった、など技術的な指摘が多かった印象である。配信側でも気を配る必要はあるが、聴取側のネットワーク環境の問題もあり得るので改善させるのは少し難しいと思われる。
本稿執筆時点(2021年3月)でこのセミナーの続編企画も進行中である。今後もマルチスケール3D観察技術が広く利用されていくことを期待する。
最後に、本セミナーを実施する上で多大な協力をいただいた、日本FEIの馬場亨氏および島津テクノの中山貴司氏に感謝の意を表したい。
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : m.yasutake@spring8.or.jp
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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