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Volume 26, No.2 Pages 175 - 176

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告5 −産業利用分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Industrial Application –

渡辺 義夫 WATANABE Yoshio

SPring-8利用研究課題審査委員会 産業利用分科会主査/(公財)科学技術交流財団 あいちシンクロトロン光センター Aichi Synchrotron Radiation Center, Aichi Science and Technology Foundation

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SPring-8

 

 SPring-8利用研究課題審査委員会産業利用分科会は、2019A第2期から2021A第1期までの2年間、主査:渡辺義夫、委員:木村正雄、妹尾与志木、宮﨑司、佐藤眞直の5名により産業利用分野の研究課題審査を行いました。以下に、当分科会の活動経過とその活動の中で気付いた点を中心に報告します。
 当分科会では、成果非専有を前提とする産業利用分野の「一般課題」、「大学院生提案型課題」、さらに領域指定型の重点研究課題の審査を行いました。このうち、重点研究課題では、「放射光施設横断産業利用課題」の募集は2019B期で終了となりました。2018A期から始まった産業利用に特化した3本のビームラインBL14B2、BL19B2及びBL46XUに於ける年6回の課題募集では、分科会審査が頻繁になり結構大変ではありましたが、募集回数が増えたことから申請課題数が分散したため、分科会審査に十分な時間を掛けることが出来たという利点があったように思います。
 この期間中の最大の出来事として、明記しておかなければならないことは、新型コロナウイルス感染症の影響でしょう。4月1日に2020A期のユーザー利用が開始されましたが、その翌週4月7日に政府の緊急事態宣言によって、4月11日以降のユーザー利用が停止となりました。全都道府県の緊急事態宣言は5月25日で終了となり、ユーザー利用は6月16日に再開されました。それに伴って、2020A期のユーザー利用の取扱を再構築する必要が出たことから、施設スタッフの皆様方は大変ご苦労されたことと容易に想像されます。当分科会に於いても、2020A第2期の課題募集の審査を4月10日に予定していたことから、急遽分科会の開催をリモートに切り替えて実施しました。その頃は未だリモート会議が不慣れなこともありましたが、リモートで意見集約をして採否を決定する難しさをはじめて体験しました。いずれにしても、2020年度は2020B期の募集は行われずに、2020A期に採択された課題を実施する等、これまでにない状況であることから、2020年度のユーザー利用を含めて、今後に向けての動向を言うことは出来ません。これまでの産業利用分科会の審査から見えてくる点を述べたいと思います。
 まず、はじめに機会ある毎にお話をしていることですが、産業利用に特化した3本のビームラインの課題申請書の実験責任者の内訳を調べると、民間企業に所属する実験責任者の割合が少ないということです。放射光利用の有用性が民間企業に幅広く認知されて、有料利用である測定代行をはじめとした成果専有課題が主流になっていることが主要因だとは思います。しかしながら、その一方で、民間企業が参画しているいくつかの専用ビームラインでは、成果専有利用がそれ程多くを占めている訳ではないように思われます。産業利用の3本のビームラインは、まだまだ潜在的な性能を引き出すことが出来る余地は十分あると思っています。まずは、ユーザーに一番近い施設スタッフが産業界の研究者とのコミュニケーションをさらに活発にすることで、企業ユーザーの利用動向を把握するとともに、この3本のビームラインの今後の方向性をコーディネーターと議論していただければと思います。また、上記のことにも関連しますが、3本のビームラインでは、それぞれの手法で自動化が進んでいることから、民間企業ユーザーは測定代行等の成果専有利用、一方、大学等の実験責任者による課題は分科会審査による一般課題という流れにあるように思われます。この見方が間違っていなければ、現在、議論が進められているビームラインの再編と利用制度の見直しにマッチして、よりユーザーフレンドリーな共用ビームラインと利用制度に向かっていくものと期待したいと思います。
 最後に、2つお願いを述べたいと思います。産業利用分科会に於いては、産業分野が幅広いことから、4人のレフェリー評点が真っ二つに割れることがしばしば見受けられます。分科会委員では、カバーしきれない分野については、英語申請の場合と同様、専門家によるゲスト・レフェリーの絶対評価とコメントがあると参考になると思われます。是非、このような仕組みを早急に実現してもらえるようお願いします。もう一つは、私を含めた分科会委員の感覚的な印象ですが、A期、B期それぞれ3回の募集になってから、次第に申請課題の質の低下を感じています。施設スタッフやコーディネーター等に事前相談が寄せられた際には、是非丁寧にご指導をお願いしたいと思います。
 この2年間、課題審査にご尽力いただきました審査委員並びにご支援をいただきました産業利用推進室及び利用推進部のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。

 

 

 

渡辺 義夫 WATANABE Yoshio
(公財)科学技術交流財団 あいちシンクロトロン光センター
〒489-0965 愛知県瀬戸市南山口町250-3
TEL : 0561-76-8344
e-mail : yoshio.watanabe@aichisr.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794