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Volume 26, No.2 Pages 165 - 166

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the PRC (Proposal Review Committee) of SPring-8

藤原 明比古 FUJIWARA Akihiko

SPring-8利用研究課題審査委員会 委員長/関西学院大学 工学部 School of Engineering, Kwansei Gakuin University

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SPring-8

 

1. はじめに
 平成31年(2019年)4月~令和3年(2021年)3月の2年間、SPring-8利用研究課題審査委員会の委員長を務め、2019B期~2021A期の課題審査を担当させていただきました。以下に、この2年間の審査を振り返り、概要と感想を簡単に述べます。

 

 

2. 本委員会での審査に関して
2-1. 本委員会の役割
 本委員会は、SPring-8選定委員会のもとに設置された4つの委員会(専用施設審査委員会、パートナーユーザー審査委員会、本委員会、新分野開拓利用審査委員会)の1つで、一般利用研究課題および重点研究課題の課題審査を担っております[1,2][1] SPring-8選定委員会について:https://user.spring8.or.jp/?p=16542
[2] 放射光共用施設の利用研究課題選定に関する基本的考え方:https://user.spring8.or.jp/?p=26047
。近年では、800以上の応募課題を審査し、600程度の選定課題候補を決定してきております。応募課題数が多いことに加え、非常に多岐にわたるため、学識者によるレフェリー審査の結果が分科会で議論され、本委員会で選定課題候補が決定されるという3段階で審査が行われます。このような審査過程を経て決定された課題選定案をSPring-8選定委員会に上程するのが本委員会の役割です。

 

2-2. 本委員会での課題審査
 本委員会での審査過程は以下の通りです。申請課題は、主に科学技術的価値や成果への期待度の視点で、1課題あたり原則4名のレフェリーによって審査されます。分科会は、生命科学分科会、散乱・回折分科会、XAFS・蛍光分析分科会、分光分科会、産業利用分科会、人文・社会科学分科会、長期利用分科会から構成されており、重点研究課題が募集されている場合には重点研究課題ごとの分科会もあわせて、レフェリー審査の結果をふまえ、それぞれの専門分野で総合的な審査を行います。本委員会は各分科会の主査および施設側委員から構成されており、各分科会で議論された内容に関する情報を共有するとともに、ビームタイム配分案を決定します。

 

2-3. 本委員会での課題審査
 本委員会では、当該期間のビームタイム配分案を決定するのが最も重要な任務ですが、その課題審査を通して、より良い課題を選定するために、研究動向や審査システムの課題についても議論します。
 今期2年間の委員会では、申請課題内容の多様化と前期2年間の委員会からの提言を受け、以下の2点について特に議論を深めました。
 1点目は分科会の在り方と分科会間の連携についてです。各分科会では様々なビームラインに申請された課題を審査します。別の見方をすれば、1つのビームラインの申請課題は様々な分科会で審査されます。このため、異なる分科会で審査された課題が、採否ライン上で審査されることも起こり得ます。この場合、複数の分科会にわたって審査を行う必要も出てくるため、審査過程がより複雑になる問題が顕在化してきました。これに関しては、分科会の在り方の見直しが始まり、今後、そのような問題が改善される方向に進んでいく予定です。
 2点目はレフェリー審査と分科会審査の間でのより緊密な情報伝達の工夫についてです。基礎研究と応用開発、堅実な内容とハイリスク・ハイリターンな内容、前述のように、採否ライン上にある異なる分野の課題など、1軸上で比較できない課題も審査しなければなりません。その際、レフェリーの評価点はもちろんですが、その評価基準、根拠がわかるレフェリーからのコメントは非常に重要です。今期、レフェリーの皆様にコメントの充実をお願いしたところ、ほぼ全ての課題で、分科会での審査に有用な情報が得られるようになりました。
 この様な議論をもとに、より良い申請が採択されるための施設整備(ハードウェア)と申請者へのサポート(ソフトウェア)についても議論が行われ、選定委員会に報告しました。今後のSPring-8利用研究課題審査委員会においても継続的に議論が行われ、より良い施設からより良い成果が創出されることに貢献することを期待します。

 

 

3. おわりに
 SPring-8利用研究課題審査委員会は、透明性と公平性を担保し、SPring-8からの研究成果を最大化するための成熟したシステムが構築されていると感じます。数多くの課題を審査することは非常に大変な作業でしたが、このような基盤があることで、ビームタイム配分案を作成するにとどまらず、より良い課題を選定するためには何が必要かを議論することができることを、委員長を務めさせていただいた2年間で実感しました。
 今期も分科会から様々な分析結果や提案が出され、改善可能なものは次の委員会で直ぐにフィードバックされ進化してきました。また、より大きなシステム改編が今後予定されています。成熟した基盤が、そこで硬直化することなく進化していくことが大切です。SPring-8では、ビームラインや利用制度の見直しが行われており、それに合わせた柔軟かつ迅速な委員会の対応への期待はより一層増していくものと考えられます。
 最後に、レフェリー、分科会および本委員会の委員の皆様、JASRIスタッフの皆様のご尽力に敬意を表すとともに、心より感謝を申し上げます。

 

 

[1] SPring-8選定委員会について:https://user.spring8.or.jp/?p=16542
[2] 放射光共用施設の利用研究課題選定に関する基本的考え方:https://user.spring8.or.jp/?p=26047

 

 

 

藤原 明比古 FUJIWARA Akihiko
関西学院大学 工学部
〒669-1337 兵庫県三田市学園2丁目1番地
TEL : 079-565-9752
e-mail : akihiko.fujiwara@kwansei.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794