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Volume 26, No.2 Pages 152 -158

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPRUC第3回BLsアップグレード検討ワークショップ報告
Brief Report of SPRUC 3rd Workshop on BLs Upgrade

西堀 英治 NISHIBORI Eiji

SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba

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SPring-8 SACLA

 

1. 概要
 SPRUC第3回BLsアップグレード検討ワークショップが、2021年3月5–6日の日程で、SPring-8放射光普及棟大講堂での講演とWebex Eventsによるオンライン配信によりハイブリッド開催されました。本ワークショップ(WS)の目的は、第1、2回WSやSPring-8シンポジウム2019、2020での議論を踏まえ、それ以降の技術開発動向やビームライン(BL)アップグレードの具体的なプラン、更には、検討事項を共有するとともに、今後の継続的なBLアップグレードに向けた議論を行うことです。318名の参加者(施設関係113名、SPRUC会員他205名)の参加登録があり、260名以上が参加しました。新型コロナウイルス感染症の状況からほとんどのユーザーがオンライン参加となりました。人数的には、昨年、一昨年を上回る人数の参加者が集まり、活発な議論が行われました。以下、プログラムに沿って本WSの様子を報告します。

 

 

2. 開会式と概要セッション
 3月5日は最初に、SPRUC 木村昭夫会長(写真1)より挨拶が行われました。BL再編アップグレード計画が施設から提案され、ユーザーとの対話により成果の最大化を目指すというWSの目的が示されました。また、プログラムの内容について2日間のプログラムの概要と、参加登録者数が現時点で300名を超えていることが紹介されました。SPring-8は産業界にとっても重要なツールであり、研究会だけでなく産業界からも要望があること、このWSは施設とユーザーとの対話の機会であり、発案や気づきの機会になれば良いとの希望が述べられました。

 

写真1 SPRUC 木村昭夫会長

 

 

 続いて、雨宮高輝度光科学研究センター(JASRI)理事長より挨拶が行われました。議論はSPring-8シンポジウム2017から始まっていること、議論は持続的・継続的に詰める必要があること、施設側の動向をにらんだ要望とユーザーの要望のすり合わせが必要なこと、走りながら考えるプロセスが重要との話がありました。放射光分野は学際的で、いろいろな分野があり、多様性があること、それに追従しながら高度化する必要があること、施設全体(global)と個々のBL(local)の最適化があること、時間軸で見てもshort term、medium term、long termの検討事項があることとの話がありました。最後に、本当は対面でofficialにpersonalに話したいが、コロナ禍でそれができない。しかし、ぜひ活発な議論をして欲しいとのWSへの要望が述べられました。
 次に、石川理化学研究所(理研)放射光科学研究センター長よりSPring-8のアップグレードに向けて検討中であるが、BLのアップグレードは蓄積リングのアップグレードと同時ではなく、その前後に少しずつやっていく考えであるとのアップグレードの基本的な考え方が示されました。新しい光がどのようなものになるか定かでない中、アップグレードを行わなければならない。コヒーレント、小さいビーム、高エネルギーを念頭に置き、今できるアップグレードを考えれば良いとの話がありました。また、海外と比べると、SPring-8がカバーできていないことがあるが、それをカバーするのが良いか、すべてのカバーが必要かどうかも議論の必要があるとの指摘がありました。加えて、日本の特性をどのように出していくかも考える必要があるとのことでした。最後に、以上のようなことを頭において、個々の計画を作って欲しいとの希望を述べられました。
 概要の最初の講演として理研/JASRI 矢橋牧名グループディレクター(写真2)より、近況サマリーの報告がありました。コロナ禍でもコンスタントに成果は出ていること、SPring-8は、かつては放射光の専門家がユーザーだったが、非専門家にとって複数の解析手法のうちの一つになってきているとの施設側の認識を示しました。その中で、高品質なデータに加え、簡便、迅速、計画性が求められるが、システムが対応できていないとのことでした。
 BL再編・高度化、加速器更新に先行してBLのアップグレードを実施し、利用者ニーズを取りいれたいとの話がありました。BLを自動化により幅広い成果が期待されるプロダクションBLと特化型、戦略的な活用および新技術開発を目的としたスペシフィックBLに分類して装置、機能の集約とサポート体制の強化を行っていくとのことでした。
 DX化の推進状況についても説明があり、自動化、リモート化はビームに触るところは進んでいるが、実験ハッチ以外の例えば試料調整などでは遅れているとのことでした。その他、次世代検出器CITIUSの紹介、SACLA/SPring-8基盤開発プログラムの紹介、今後の利用の概略など、このWSで紹介される項目の詳細が示されました。
 SPring-8-IIにつながっていく話題として、SACLA入射の現状と、SPring-8-IIのラティスに関する話があり、ESRFのアップグレードを凌ぐ90 pm・radを目指すとのことでした。まとめとして、ロールモデルがないため、利用者と施設の対話、議論が必須であり、ユーザーの活発な議論、ユーザーからのインプットを期待したいとのことでした。

 

写真2 理研/JASRI 矢橋牧名グループディレクター

 

 

 次に、BL再編についてJASRI 坂田修身副センター長(写真3)より講演がありました。BL再編、改修についてSPring-8シンポジウムおよびWSでこれまで議論され、施設で進められてきたことが報告されました。共用ID BLの有効活用として、HAXPESをBL09XUに集約、核共鳴散乱をBL09XUからBL35XUへの移動など現在進行中の状況について説明がありました。
 続けて、2022年度からの再編に向けて、他の分野でも、ビームラインの整理、装置の集約、自動化とリモート化をポイントとして考えているとの報告がありました。このことについては、施設内のワーキンググループで2020年度に活発議論が行われたとのことでした。具体的な内容として、一部の共用回折・散乱BLの再編および装置の再編・導入案の概要を3月6日の本WSで紹介するとの報告がありました。分光のBLについてもBLポートフォリオを意識して再編計画を議論しており、現状の紹介があるとのことでした。
 今回のWSで施設から報告のない小角散乱について、共用ID-SAXSへの要望があることを施設側が認識していること、高エネルギーUSAXSやXPCSに対応する必要性を感じているとの報告がありました。最後に、SPRUCから再編に向けて要望を挙げてほしいこと、連休前には研究会からのフィードバックをお願いしたい旨を述べて発表を終えられました。

 

写真3 JASRI 坂田修身副センター長

 

 

 次に利用制度について、JASRI 後藤俊治部門長(写真4)より報告がありました。理研とJASRIで利用制度改正検討部会を立ち上げ議論を開始しているとのことでした。2019年2月の中間評価では、入口課金を含む利用制度の改正を検討し、利用者がわかりやすいように再整理、利用形態に合わせた利用制度が求められたとの報告がありました。共用BLから議論を開始し、課金ルールの変更は行わず、成果公開、成果公開優先利用、成果専有、成果専有時期指定の区分は変更せずに現行の共用BLの利用課題の整理を進めているとのことでした。
 新制度では、年単位・複数BL利用制度を成果専有や成果公開優先利用にて導入すること、SACLA基盤開発プログラムをSPring-8利用に拡張すること、年6回程度の課題募集を学術分野にも拡張すること、学術分野の成果専有利用でのテストユースの導入、大学院生支援プログラムの拡張を計画しているとのことでした。これらの新しい制度は、できるものから2022年度から始めていきたいとのことでした。
 この報告については、産業界から産業では4~7月に試作して8月頃使いたいという要望がある。検討されているか?との質問がありました。夏の点検、保守、改修があるので調整が必要とのことでした。

 

写真4 JASRI 後藤俊治部門長

 

 

3. BL再編とアップグレードの進捗状況
 次のセッションでは、現在進められているBL再編とアップグレードの進捗状況について施設側からの報告と、ユーザーからの講演がありました。最初に、“HAXPESの進捗と今後”と題してJASRI 保井晃氏(写真5)より講演がありました。発表内容はBL09XU高度化計画現状報告とBL46XU高度化計画案から構成されていました。BL09XUについて、現BL09XU、現BL47XUの装置をタンデムに配置して常設化することで性能の安定化と簡便な調整を実現し、実質的なビームタイムが増加するとの報告がありました。統合BLのスペックと現BL09XUおよび現BL47XUとの比較が述べられ、統合BLのターゲットとして強相関系物質だけでなく鉄鋼材料や触媒開発などの研究に発展させたいとのことでした。高度化されたBLは2021Bから共用利用開始とのことです。BL46XUの高度化については、新BL09XUでできないことをやるため、光学ハッチ設計中とのことでした。最後に「改造は順調に進んでいます」と講演をまとめられました。

 

写真5 JASRI 保井晃氏

 

 

 次に、“NRS/IXSの進捗”と題してJASRI 依田芳卓氏(写真6)より講演がありました。最初に、BL35XUにおける核共鳴散乱(NRS)/非弾性散乱(IXS)の進捗状況と立ち上げ計画の内容が示されました。IXSに大きな変化はないため、NRSについて報告するとの話があり、核共鳴散乱には様々な手法があり、線幅が短いのが特徴で多くの分野をカバーしていることについて説明がありました。ビームタイムは1課題に5~6日の日数になっており、光が強すぎることはないとのことでした。最後に、これまでの経緯と予定について非常にスピーディーにアップグレードできている。2020年4月にコロナ禍、緊急事態宣言でどうなるかと思ったが、今は、改造の真っ最中であるとまとめられました。

 

写真6 JASRI 依田芳卓氏

 

 

 次に、“High-energy test bench(05XU)の進捗”と題して理研 林雄二郎チームリーダー(写真7)より講演がありました。最初に、SPring-8-IIの目玉の一つである高エネルギーにおける国際競争力の強化のため行われている試みであるとの説明がありました。
 BL05XUのこれまでの利用について簡単なレビューが行われたのちに最近の進捗の紹介がありました。ハッチ1では、多層膜分光器など新たなX線光学系試験開発が行われ、ハッチ2では大強度セクションテストとベンチがおかれているとの説明がありました。光源性能は、多層膜分光器で100 keVの場合、フラックス1.3 × 1013 photon/sが得られており、スペクトルは理論計算とほとんど一致しているとのことでした。テストユースとして学術、産業からいくつかの事例が紹介されました。まとめとして、明るい100 keVを実現し、テストユース実験を開始したとのことでした。なぜ100 keVか?という質問があり、高エネルギーであるほど産業利用にとってよい。わかりやすく100 keVとしているとのことでした。

 

写真7 理研 林雄二郎チームリーダー

 

 

 次のセッションでは、施設の再編中BLとかかわるSPRUC研究会からのコメントがありました。HAXPESの進捗に関するコメントが大阪大学 関山明教授より述べられました。最初に統合後のHAXPESステーションの概要を述べられたのち、装置は、固体分光、機能磁性材料分光、光・磁性新素材産学連携研究会から、2019年10月31日に提出した要望内容とコンシステントであるとの報告がありました。
 今後検討を深めていただきたいこととして、液体Heの再利用回収などを通じた安定的な供給のための設備整備、Momentum Microscopeなど先端的装置の導入に向けてR&Dのプログラムを考えてほしいとのことでした。最後に、リモートやDXへの対応と大学院生教育について私見を述べられました。
 NRS/IXSの進捗に関する核共鳴散乱研究会の検討状況のコメントが兵庫県立大学 小林寿夫教授より報告されました。研究会から見た、これまでの経緯について説明があり、SPRUCを通して研究会として要望書を提出したことが報告されました。次に2020年8月の研究会で話し合われた事項として、課題選定に関する議論が多いことが説明されました。最後に、2021A期のコミッショニングに研究会もできる限り協力する所存であること、また、核共鳴と非弾性X線散乱は相補性があるので、再編を契機に互いの手法を相補的に用いることでコミュニティ間の関係性を深めるなどして、ぜひ良い方向に研究を推進してほしいとまとめられました。
 初日の最後にサマリーが木村昭夫SPRUC会長により行われました。HAXPES、NRS、IXSのアップグレードは作業が開始したからと言って終わりではないと始められ、初日の個別の講演を要約されました。最後に、もう一度、BL再編、アップグレードは、作業が始まったから終わりではなく、ここまで要望を出して進めていたHAXPESなどが例となるとまとめられました。

 

 

4. 散乱・回折を中心としたBL再編とアップグレードについて
 3月6日は、表題のように散乱・回折を中心としたBL再編とアップグレードに関する議論が行われました。最初に坂田副センター長より“BL再編で目指すもの”と題して講演が行われました。一部の共用回折・散乱BLの2022年度からのBL再編について説明がありました。既存かつ潜在的なユーザーの要望、社会要望を強く意識しつつSPring-8内で議論を進め、BLや装置にブレイクダウンする段階とのことでした。キーワードの一つは“オペランド構造解析”であり、リモート化・自動化とともに拡充していくとのことでした。新規装置導入について、発展的構築というキーワードから新BL13XUにプロセス観察オペランド、高分解能X線粉末構造解析装置、in-situ多軸回折計、マイクロX線回折装置などを設置することを計画しているとの話がありました。最終的にアクティビティの継続については十分に考慮した提案であるとの話があり、完璧な提案をしたつもりではなく、不十分な点もあると思うので、疑問や不安がある方は、BL計画メンバーに入っていただき、より良い案にしたいとの要望が述べられました。2022年度からのBL再編に向けてぜひ要望を出していただきたい。関連研究会の代表者に、連休前には研究会からのフィードバックを出すよう要望がありました。
 次に、“BL再編の技術的な点について”と題してJASRI 杉本邦久氏(写真8)より講演がありました。最初に、その場の構造評価だけでなく、素材、合成、材料、生産プロセスにも貢献するという再編のコンセプトの説明がありました。現在、学術と産業の両方で別のBLがサポートする粉末結晶構造解析分野を、分けずに相互連携協力により成果の最大化を目指すとのことでした。新設装置計画として高分解能粉末PDF構造解析装置が紹介されました。2次元CdTe多連装検出器を備えた70 KeVまでの高エネルギーに対応する装置であるとのことでした。この新装置の設置に伴い、BL02B2は自動in-situ粉末結晶構造解析、BL19B2は全自動粉末回折装置、BL04B2は自動PDF解析装置へと高性能化されるとのことでした。次に、多軸回折計の集約・再編についての報告がありました。
 BL02B1、BL13XU、BL19B2、BL46XUに設置されている多軸回折計の幾つかを集約してin-situ+プロセス観察、オペランド回折計(ヘキサポッドとロボットアーム)に変更し、利用の効率化を図るとのことでした。自動単結晶構造解析装置については、最初にBL02B1とBL40XUの単結晶回折測定の特徴が示され、自動単結晶構造解析装置の構成が示されました。水平ゴニオを使用し、偏芯のμオーダー以下の実現を目指すこと、検出器として、EIGER、PILATUS、将来的にはCITIUSを想定しているとのことでした。同様にμオーダーの結晶の単結晶を進めているタンパク質BLの担当者からの質問や、CdTe検出器への意見など複数の質問があり、活発な議論が交わされました。

 

写真8 JASRI 杉本邦久氏

 

 

 施設からの2件の講演を受けて、SPRUCからと題して、2件の講演がありました。最初に、研究会での検討状況1として構造物性研究会代表の東京工業大学 東正樹教授より講演がありました。研究会のアクティビティとして、ご自身の研究である負熱膨張材料の研究、メンバーの研究として水分解触媒のXANESと粉末回折の融合研究、単結晶X線回折による価電子の可視化の研究の報告がありました。最後に、新しく設置される高分解能粉末PDF構造解析装置についてQmax 40 Å-1が達成されるので楽しみにしている、とのコメントが述べられました。
 研究会での検討状況2として(株)コベルコ科研 北原周氏より講演がありました。コベルコ科研の紹介の後、実験室と放射光で進められている計測研究についての報告がありました。サンビームBL16を使用しており、そこでは主に神戸製鋼の材料開発支援、他のSPring-8ビームラインでは、受託分析サービス(多くは測定代行)を行っているとの報告がありました。放射光利用の課題と要望として、課題申請時期は年6回を希望していること。1シフト(8時間)は必要ない場合もあることなどが述べられました。また、同じような設備が複数あるため、どこで実験すればよいかをユーザーに適切に示してほしいとの要望がありました。最後に、当社の放射光利用の方針としては、将来のため先端分析を長期的視野で習得、活用したいと講演をまとめられました。
 次に“分光を中心としたBL再編とアップグレードについて”として“BL再編で目指すもの”と題してJASRI 為則雄祐室長(写真9)より講演がありました。BLごとの逐次開発整備から脱却し、BLポートフォリオに基づいて全体を俯瞰したBL運営をしていくとのことでした。分光分野をイメージング、分光イメージング、HAXPES、XAFSの4つのグループに分類し、個々のBLではなく、BL間の重なる部分を重視して、最適な装置を最適なBLに配置していくとのことでした。
 HAXPESとXAFSについては、ハイプロダクティブ装置と先端装置への再編を計画しているとのことでした。再編後は学術と産業の区分けをしないとのことでした。2019年度の採択数を調査し、先端計測と汎用計測を両立して、ハイスループットと自動計測により多くの課題を実施し成果創出につなげたいと報告がありました。主にHAXPESとXAFSについて個別BL再編計画の詳細が述べられ、HAXPESビームラインとしてBL46XUの応用HAXPESを検討中であること、XAFSビームラインでは時分割を強化していきたいとまとめられました。

 

写真9 JASRI 為則雄祐室長

 

 

5. 総合討論
 昼食休憩をはさみ、午後からSPRUC 木村昭夫会長をモデレータとして、総合討論が行われました。最初に、SPRUC 田中義人利用委員長(写真10)より情報提供がありました。回折・散乱・小角散乱BLの再編について、研究会がどのくらい関心があるか、反応はどのような感じか事前に調査した結果が示されました。関連ユーザーは会員の1/3に及ぶため12研究会に意見を求めたところ6研究会9件(コヒーレント構造科学、固液界面、不規則系機能性材料、結晶化学、X線トポグラフィ、構造物性)の回答があったとのことでした。5つの研究会でIDが必須、有効であり高精度データや精密構造情報などを期待しているとのことでした。

 

写真10 SPRUC 田中義人利用委員長

 

 

 続いて、BL再編とアップグレードに関連の深い研究者の方々からの発言がありました。京都大学 小野寺陽平助教よりPDF分野での再編後のBLへの期待についてのコメントがありました。非晶質分野でのID BLへの期待として、X線異常散乱を利用した特定元素周辺の構造の選択的測定があるとのことでした。
 次に住友電気工業(株)の徳田一弥氏(写真11)から、産業側での期待について報告がありました。会社の概要やSAGA-LSに専用BLを有していること、SPring-8のサンビームIDを利用していることなどが紹介されました。共用BLに期待することとして、その場測定の装置の持込は難しいため、加熱などシンプルなものは施設で整備して欲しいこと、その場ステージを共通化して相互利用できるようにしてほしいことなどが示されました。また、夏期の極端に長い停止期間は空白となるので、再検討に期待しているとの要望を述べられました。この要望については、施設側の後藤部門長より、保守点検などを行わなければならないので、8~9月すべてを運転することはできない。その中でどの程度なら妥協できるかを議論して可能性を検討したい。また、今年度からSACLAより入射している。SACLAのスケジュールとも連動を考慮する必要があるとのコメントがありました。

 

写真11 住友電気工業 徳田一弥氏

 

 

 次に、その場観察研究の現状とアップグレードへの要望について、筆者(写真12)がコメントを述べました。超臨界ナノ材料合成とボールミル粉砕のその場観察実験の筆者のグループにおける現状を示し、アップグレードへ若手研究者が参加できる機会を増やしてほしいとの要望を述べました。

 

写真12 筑波大学 西堀英治

 

 

 東京理科大学 北村尚斗講師よりエネルギー・環境デバイス、蓄電池などを対象とし、産学連携している立場からのコメントがありました。産学連携では企業と大学の間の方針にギャップがあること、企業は、製品開発(プロセス開発)につながらなければならないことなどが紹介されました。再編後の同時測定による効率化、合成プロセスと作動時の測定ができるようになることに期待するとのことでした。新BL13XUでのPDF測定への期待として、微小領域の測定があるとのことでした。
 京都大学 竹中幹人教授より小角散乱およびフロンティアソフトマター開発専用ビームライン(FSBL)を通した産学連携の観点からのコメントがありました。FSBLの紹介があったのち、企業間がライバル関係の場合もあり、共通基盤を作るのが難しいことが紹介されました。これまでの産学連携における課題として、他社と差別化された研究開発体制ができていないこと、学術側で量子ビームを使う研究が継続できていないことなどが示されました。また、分野としては、すぐに結果を見たいので、年6回課題申請は良いとのことでした。
 最後に薄膜ナノ構造研究会を代表して産業技術総合研究所の白澤徹郎氏よりコメントがありました。BL再編には慎重な意見が多く、大型真空装置がなくなることを心配する声も聞かれたが、改廃自体には研究会全体としてポジティブであるとのことでした。再編案では真空装置を置くことができ、研究会の要望に対応いただいたと理解しているとのことでした。SPring-8にはユーザーが自由に装置を持ち込めるハッチがほとんどないが、今後フリーポートも用意されるようであるため今後に期待しているとのことでした。最後に、研究会として、新しいサイエンスに向けて装置開発には協力できるとコメントされました。
 木村会長より今回の再編に入っていない高圧分野からのコメントの提案があり、愛媛大学の河野義生准教授より、高圧物質科学と地球惑星科学研究会を代表してコメントがありました。今回はIDの話であるが、実はIDでもフラックスが足りないことがあるとの紹介がありました。数十keVの中エネルギー領域のピンクビームに期待しているとのコメントがありました。
 最後に討論のまとめとして、SPRUC 木村昭夫会長より、今回の提案は施設側が、ユーザーの考えを想定して練られたものであり、今後、検討していくうちに出てくるアイデア、提案があると予想されるとの意見が述べられ、2022年度再編に向けて各研究会において十分検討して、フィードバックをかけるようお願いしたいとの依頼が出されWSが終了しました。
 ユーザー全体の1/3が関連する回折・散乱に関するBL再編がテーマだったため、学術・産業両者の幅広い分野からの意見が装置・手法から利用制度に至るまで交わされる有意義なWSでした。今回のWSでの情報をもとに研究会から5月までに多くの意見・要望が挙がってくることが期待されます。

 

 

SPRUC第3回BLsアップグレード検討ワークショップ報告 プログラム

3月5日(金)
13:00-13:15 開会式(主催者等挨拶)
13:15-13:20 会長からのメッセージ(SPRUC会長 木村昭夫)
<概要>(座長 SPRUC利用委員長 田中義人)
13:20-14:30 近況サマリー(理研/JASRI 矢橋牧名)
BL再編について(JASRI 坂田修身)
利用制度について(JASRI 後藤俊治)
14:30-14:50 休憩
<BL再編とアップグレードの進捗状況>(座長 SPRUC幹事 松村大樹)
14:50-16:05 HAXPESの進捗と今後(09XU/46XU)(JASRI 保井晃)
NRS/IXSの進捗(JASRI 依田芳卓)
High-energy test bench(05XU)の進捗(理研 林雄二郎)
16:05-16:20 休憩
<SPRUCから>(座長 SPRUC幹事 松村大樹)
16:20-16:50 HAXPESの進捗に関するコメント(大阪大学 関山明)
NRS/IXSの進捗に関するコメント(兵庫県立大学 小林寿夫)
16:50-17:00 初日のサマリー(SPRUC会長 木村昭夫)

 

3月6日(土)
<散乱・回折を中心としたBL再編とアップグレードについて>(座長 SPRUC幹事 大和田謙二)
10:00-11:25 BL再編で目指すもの(JASRI 坂田修身)
BL再編の技術的な点について(JASRI 杉本邦久)
<SPRUCから>
研究会での検討状況1(東京工業大学 東正樹)
研究会での検討状況2((株)コベルコ科研 北原周)
<分光を中心としたBL再編とアップグレードについて>(座長 SPRUC幹事 藤原秀紀)
11:25-12:00 BL再編で目指すもの(JASRI 為則雄祐)
12:00-13:00 昼食休憩
13:00-14:30 総合討論(司会 SPRUC会長 木村昭夫)
14:30-14:40 まとめと研究会への依頼(SPRUC会長 木村昭夫)
14:40-14:50 休憩
14:50-15:50 SPRUC特別総会

 

 

 

西堀 英治 NISHIBORI Eiji
筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター
〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL : 029-853-6118
e-mail : nishibori.eiji.ga@u.tsukuba.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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