ページトップへ戻る

Volume 26, No.2 Pages 138 - 141

2. ビームライン/BEAMLINES

XAFS標準試料データベース
XAFS Standard Sample Database

大渕 博宣 OFUCHI Hironori[1]、松本 崇博 MATSUMOTO Takahiro[2]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室 Information-technology Promotion Division, JASRI

Abstract
 XAFS標準試料データベースは、SPring-8 BL14B2にて測定した標準試料のXAFSスペクトルデータを測定条件、試料情報と共に系統的に整理して提供するデータベースである。XAFS標準試料データベース上のデータは一般公開されており、SPring-8所内外のパソコンのブラウザからダウンロードできる。データベースに登録されたXAFSスペクトルを活用することでXAFS測定やデータ解析の効率化が期待できる。現在までにXAFS標準試料データベースには、34元素、667試料のXAFSスペクトルデータを収録している(2021年3月26日現在)。XAFS標準試料データベースは、様々な実験データを実験条件などのメタデータを含めて管理蓄積できるSPring-8実験データ転送システムBENTENを利用している。
pdfDownload PDF (1 MB)
SPring-8

 

1. はじめに
 JASRIユーザー支援活動の一環として、SPring-8 BL14B2にて測定した標準試料のXAFSスペクトルデータを収集し、系統的に整理して提供するXAFS標準試料データベースを構築した。結晶構造が既知である標準試料のXAFSスペクトルを比較・参照することで、構造が未知である試料のXAFSスペクトルを解析することがよく行われている。しかしながら、BL14B2を利用する全てのユーザーが適切な標準試料を準備できるとは限らない。また、準備できたとしても試料の調製、測定に時間を要するため限られたビームタイム内での手間となることが多い。このため、数多くの標準試料のXAFSスペクトルデータを登録したデータベースを構築することで、BL14B2にてXAFS測定を行うユーザーがビームタイム毎に複数の標準試料を準備・測定する必要がなくなり、測定時間の短縮化に繋げることが期待できる。また、未知試料のXAFSスペクトルデータを測定して直ぐに指紋的に評価することができ、データの迅速な分析に有効である。
 本データベースには、BL14B2で測定した様々な標準試料のXAFSスペクトルデータ、測定条件、試料情報を収録している。本データベース上のデータは、SPring-8所内外のパソコンのブラウザから閲覧及びダウンロードが可能である。これまでに本データベースには、34元素、667試料、1488スペクトルのXAFSスペクトルデータが収録されている(図1、2021年3月26日現在)。本データベースは、情報処理推進室により開発された実験データ転送システムBENTEN[1][1] T. Matsumoto, K. Nakata, T. Matsushita, S. Yokota, Y. Furukawa, A. Yamashita and M. Kodera: AIP Conf. Proc. 2054 (2019) 060076.を用い、2019年3月から一般公開を開始した。本データベースは、SPring-8 User Information Webサイト[2][2] https://user.spring8.or.jp/にユーザー登録している人であれば、User Informationと同じアカウント(ユーザーカード番号)を用いて誰でも利用可能である。

 

図1 データベースに登録されている元素(2021年3月26日現在)

 

 

2. 試料準備及び測定条件
 本データベースに登録した標準試料はいずれも市販で純度や組成などの情報が分かる試薬を用いた。粉末、塊状の標準試料はXAFS測定に適した吸収係数となる分量を秤量した後、窒化ホウ素とよく粉砕・混合してペレット化したものを用いた。試料の粉砕・混合は最低で20分、粒径の大きい試料や金属試料のように不均一になりやすいものについては1~2時間程度行った。箔状の試料については適切な吸収係数となる厚さのものを測定に使用した。潮解性や吸湿性など、大気雰囲気で不安定な試料はグローブボックス内(酸素濃度及び水分値:1 ppm以下)で試料を調製し、ガスバリア袋またはアルミラミネート袋で封入した上で測定を行った。XAFS測定は全てBL14B2において、quick scanでの透過法にて行った。XAFS測定の対象とした測定吸収端はBL14B2にて測定可能なエネルギー範囲(Si(111):4.0~34.0 keV、Si(311):7.3~70.0 keV)にあるものとした。
 測定により得られたXAFSスペクトルは他の試料や過去の文献報告と比較し、スペクトル形状に問題があるものについてはデータベースへの登録は行わず、試料の再調整及び再測定を行った。一例として、CuCl2及びCuCl2・2H2OのXANESスペクトルを図2に示す。CuCl2及びCuCl2・2H2Oはいずれもメーカーから購入時はArガス封入されていたためグローブボックス内で試料調整を行った。しかしながら、図2(a)のように両者のXANESスペクトルにほとんど違いが見られず、CuCl2・2H2Oスペクトルは過去に報告されたものと異なるものであった[3][3] R. A. Bair and W. A. Goddard III: Phys. Rev. B 22 (1980) 2767.。CuCl2・2H2Oは乾いた空気中で風解する性質があるため[4][4] https://www.kojundo.co.jp/dcms_media/other/CUH13XAG.pdf、グローブボックス内での試料調整中に風解してCuCl2に変化したものと考えられる。このため、CuCl2・2H2Oはグローブボックス内で秤量した後、大気中にて粉砕・攪拌してペレット化したものに対しXAFS測定を行ったところ、図2(b)に示すようにCuCl2とは異なるXANESスペクトルが得られた。このXANESスペクトルは過去の文献報告とスペクトル形状が一致したため、このスペクトルデータをCuCl2・2H2Oのものと判断しデータベースに登録した。

 

図2 CuCl2及びClCl2・2H2OのXANESスペクトル。(a) いずれもグローブボックス内で調整、(b) CuCl2はグローブボックス内、ClCl2・2H2Oは大気中で調整。

 

 

3. XAFS標準試料データベース
 SPring-8産業利用・産学連携推進室ホームページ内のBL14B2 XAFS標準試料データベース(BENTEN版)のWebサイト[5][5] http://support.spring8.or.jp/xafs/standardDB_02/standardDB.htmlから接続することができる(図3)。本サイトにはXAFS標準試料データベースの利用方法、登録試料、注意事項などの情報が記載されている。本サイト左上のログイン情報をクリックするとBENTENトップページ(図4)が表示される。User Informationのアカウント(ユーザーカート番号)及びパスワードを入力することでログインすることができる。正常にログインが行われると、メールアドレス認証(二要素認証)に関する画面(図5)が表示されるので、「次へ進む(メール送信)/Send Email」ボタンを押すとUser Informationサイトに登録されたメールアドレスにBENTEN認証に関するメールが送信される(図6)。メールに記載されたリンクをクリックし、BENTEN利用の承認手続きを進めるとXAFS標準試料データベース内の閲覧画面が表示される(図7)。閲覧画面は画面左部の「ツリー表示」、右上側の「該当データ表示」、右下側の「該当データサムネイル画像/メタデータ表示」により構成される。ツリー表示は吸収元素、吸収端、結晶面、標準試料名の順でフォルダが階層化されており、該当データ欄にツリー表示で選択された一段下のフォルダに関する情報が表示される。データベースには3種類の実験データ(拡張子:dat、ex3、txt)、及び実験データの詳細に関するメタデータ情報(図8)が登録されている。実験データのファイル形式は、拡張子datが9809フォーマット、ex3がXAFS解析ソフトREX2000[6][6] T. Taguchi, T. Ozawa and H. Yashiro: Physica Scripta 2005 (2005) 205.で読み込み可能、txtがXAFS解析ソフトAthena[7][7] B. Ravel and M. Newville: J. Sync. Rad. 12 (2005) 537.で読み込み可能なものに対応する。実験データ及びメタデータ情報はzip形式で圧縮された状態でブラウザからダウンロードすることができる。

 

図3 BL14B2 XAFS標準試料データベースWebサイト

 

図4 BENTENトップページ画面

 

図5 メールアドレス認証(二要素認証)に関する画面

 

図6 BENTEN認証に関するメール

 

図7 XAFS標準試料データベース閲覧画面

 

図8 実験データの詳細情報(Cu-foil、Visual studio Codeにて表示)

 

 

謝辞
 XAFS標準試料データベースの開発にあたり、産業利用・産学連携推進室の本間徹生氏、佐藤眞直氏、廣沢一郎氏(現 九州シンクロトロン光研究センター)、情報処理推進室の平岡裕二氏、横田滋氏(現 放射光利用研究基盤センター)、松下智裕氏、中田健吾氏には多大なるご支援・ご助力を頂いた。個々に感謝の意を表す。XAFS標準試料データベースに登録されたXAFSスペクトルデータの測定はインハウス課題2018B2054、2019A2053、2019B2088、2020A2042、2020A2150に基づいて行った。

 

 

 

参考文献
[1] T. Matsumoto, K. Nakata, T. Matsushita, S. Yokota, Y. Furukawa, A. Yamashita and M. Kodera: AIP Conf. Proc. 2054 (2019) 060076.
[2] https://user.spring8.or.jp/
[3] R. A. Bair and W. A. Goddard III: Phys. Rev. B 22 (1980) 2767.
[4] https://www.kojundo.co.jp/dcms_media/other/CUH13XAG.pdf
[5] http://support.spring8.or.jp/xafs/standardDB_02/standardDB.html
[6] T. Taguchi, T. Ozawa and H. Yashiro: Physica Scripta 2005 (2005) 205.
[7] B. Ravel and M. Newville: J. Sync. Rad. 12 (2005) 537.

 

 

 

大渕 博宣 OFUCHI Hironori
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0924
e-mail : ofuchi@spring8.or.jp

 

松本 崇博 MATSUMOTO Takahiro
(公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0980 ext 3270
e-mail : matumot@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794