Volume 26, No.2 Pages 159 - 161
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SACLA Users’ Meeting 2021
Report on SACLA Users’ Meeting 2021
1. はじめに
2021年3月9日から11日にかけて、SACLA Users' Meeting 2021が開催された。例年は100名規模の参加者で現地開催されていたが、今回はCOVID-19の影響により、「Zoom」を利用したオンラインでの開催となった。日本時間に合わせた開催ではあったが、オンライン開催で参加が容易になったためか、海外からの事前登録者数は前回までを大幅に上回り、最終的には100名近くにも及んだ。当日は、最新のSACLAの性能に関する情報共有や、XFEL利用研究のあり方について、施設とユーザーコミュニティおよびユーザー同士で議論が行われた。
2. 会議の内容
第1日目の午前中には「放射光ユーザーのためのSACLA利活用に関するワークショップ」と題するサテライトミーティングが日本語で開催された。本サテライトミーティングは、XFEL利用の拡大を目的として、主に放射光ユーザーを対象として行われた。SACLAの基本的な性能やビームライン・実験装置の技術情報について施設側より発表があった後、放射光とXFELの相補的な利用研究事例について、実際にSACLAとSPring-8の両施設を利用しているユーザーの講演が行われた。講演者と講演タイトルは下記のとおりである。
・物質科学におけるXFELと放射光の相補的利用の可能性(西堀英治教授、筑波大学)
・構造生物学におけるXFELと放射光の相補的利用(當舎武彦博士、理化学研究所)
・XFELと放射光の産業利用(米村光治博士、日本製鉄株式会社)
いずれもSPring-8およびSACLAの両施設を利用しているユーザーならではの講演であり、続く質疑応答でも活発な議論が行われた。
午後からはSACLA Users' Meetingのオープニングセッションとして、米田仁紀SACLAユーザー協同体会長(電気通信大学教授)、石川哲也理化学研究所放射光科学研究センター長より開会の挨拶が行われた。その後、全体セッションとして、施設の現状報告(4件)が行われた。今回の施設報告では、加速器・ビームラインの整備・高度化に関する報告だけでなく、COVID-19の影響により進められているリモート実験対応や、実験データの取り扱いに関する発表が行われた。
第2日目はブレイクアウトセッションが行われ、午前中はA1:フェムト秒同期レーザー、A2:ハイパワーレーザー、A3:検出器の3つのセッション、午後はB1:硬X線ビームライン、B2:軟X線ビームライン、B3:利用支援と情報共有のあり方についての3つのセッションが開催された。それぞれのテーマに基づいて利用研究の今後の方向性や、施設の共用実験装置・実験環境などの運用や開発に関する要望などについて議論が行われた。以下に、各セッションの内容を簡潔にまとめる。
A1:フェムト秒同期レーザー
本セッションでは、ポンプ・プローブ実験用にEH2、EH4c、EH4aで提供されているフェムト秒同期レーザーの現状に関する情報共有と高度化に向けた要望が議論された。これまでに高精度の同期システムを導入するなど、施設側による高度化がかなり進んだこともあり、THz光源や超短パルス光源の開発を除いては、新規の研究開発よりは実験のサポートや安定した運用に関する議論が行われた。
A2:ハイパワーレーザー
本セッションではEH5、EH6で提供されているナノ秒・フェムト秒の大出力レーザー用の実験基盤開発について議論された。今後の基盤開発の重要項目や方向性などについて、既存のユーザーだけでなく、将来の利用を検討している参加者からも意見が出された。最後には、SACLAの装置を見学するためのバーチャルツアーが開催された。
A3:検出器
本セッションでは、まずSACLAで利用可能な検出器の現状と、開発中のCITIUS検出器についての報告が施設側より行われた。続いて、各研究分野を代表するユーザーより、実験における検出器の利用法や新しい検出器への要望などに関する発表が行われた。本ブレイクアウトセッションで行われた議論も踏まえて、2022年以降にSACLAへの配備が予定されているCITIUS検出器の整備計画などが検討されることとなった。
B1:硬X線ビームライン
SALCAの運転パラメータの現状報告と高度化計画案について施設側より発表があった後、各研究を代表するユーザーから、短期的および中長期的なSACLA高度化に関する要望が発表され、それらに関する議論が行われた。
B2:軟X線ビームライン
施設の現状やSACLA基盤開発プログラムで進められている共用実験装置に関する議論のほか、高調波の利用など施設の高度化に関する議論も行われた。また、利用可能な光子エネルギー領域が似ているUVSORとのコラボレーションや、FLASH(ドイツ)やFERMI(イタリア)とSACLA BL1の相違・差別化も話題となった。
B3:利用支援と情報共有のあり方
本セッションでは、SACLAで高度な研究成果を創出するための、情報提供や実験サポートなどの利用支援の向上をテーマとした。趣旨説明のあと、各研究分野における意見・要望をユーザーが発表し、その後、施設からの回答と議論を行った。寄せられた意見・要望は、「すぐに着手できるもの」「リソース(人・予算)があれば着手できるもの」「その研究分野のコミュニティの協力が必要なもの」「分野横断的なコミュニティの協力が必要なもの」「制度・仕組み等の変更が必要なもの」の5つのカテゴリに分類され、議論が行われた。
第2日目の最後にはバーチャル会議ツール「Remo」を利用した「Meet the Beamline Scientists」と題するセッションが行われた。今回はオンラインでの開催となったため、これまで休憩時間などに個々に行われていたフリーディスカッションのための場として、本セッションは設けられた。複数のテーブルが用意されたバーチャル会場が設けられ、それぞれのテーブルにはSACLAのビームライン担当者が待機している、という形式であった。いくつかのテーブルでは、個別の議論が行われていたが、残念ながら全体を通して盛況とは言い難い状態であった。次回以降もオンラインでの開催となる場合には、改善が必要と思われた。
第3日目には、2020年度のSACLA基盤開発プログラムの報告が行われた。SACLA基盤開発プログラムとは、SACLAのユニークな研究成果の創出のため、実験基盤開発テーマを募集し、施設と共同で開発を進めるプログラムである。今回は9件の課題の研究代表者から進捗が報告された。またScientific Talksとして、4件の講演が行われた。講演者と発表タイトルは下記のとおりである。
・Beyond the Molecular Movies(岩田想教授、京都大学)
・X-ray Diffraction in High Magnetic Fields -Applications to Magnetic Field Induced Phase Transitions-(野尻浩之教授、東北大学)
・Molecular Structural Dynamics Probed by Femtosecond X-ray Liquidography(Prof. Hyotcherl Ihee, KAIST)
・Astrophysics in the Laboratory: Death and Birth of Stars(Prof. Michel Koenig, LULI-CNRS)
その後、それぞれのブレイクアウトセッションを総括するサマリーセッションが開催され、全参加者で情報を共有するとともに、分野横断的な議論が活発に交わされた。最後に米田仁紀会長の挨拶をもって、本会議は閉会となった。
3. まとめ
SACLA Users' Meetingは、一般的な学術発表のための会議ではなく、ユーザーと施設およびユーザー間の情報共有と意見交換を主な目的として開催されている。今回は初のオンラインでの開催となったが、各セッションにおける議論などを通じて、その目的は果たせたように思える。今後も、ユーザーからの要望に対する施設側の対応や、施設側からの情報を活かした利用研究の展開などに注目していただきたい。2021年度以降も、SACLA Users' Meetingは開催される予定となっている。次回については詳細が決まり次第、SACLAのホームページなどで情報が公開される予定である。
通算6回目、そして初のオンライン開催となるSACLA Users' Meetingを盛況のうちに終えることができたのも、国内外の多くのユーザーの方々に参加いただき、活発に議論していただいたことに尽きると思われる。本ミーティングに関わった皆様に厚く御礼を申し上げ、SACLA Users' Meeting 2021の報告とさせていただく。
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