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Volume 26, No.2 Pages 199 - 201

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SACLA利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the PRC (Proposal Review Committee) of SACLA

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi

SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University

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SACLA

 

1. はじめに
 2017年4月からの第4期2年間に引き続き、2019年4月~2021年3月の2年間、第5期SACLA利用研究課題審査委員会(2019B期~2021A期の審査委員会)の委員長を務めさせていただきました。2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で、世の中が大きく変わりましたが、SACLA利用研究に関しては、理化学研究所とJASRIの方々のご尽力により、実験面での影響が最小限に押さえられました。課題審査関連もJASRI利用推進部の方々のご尽力で様々な運用を柔軟に対応していただいたおかげで、スムーズに研究課題が実施されたと思います。関係者の皆様にはこの場をお借りして深くお礼申し上げます。
 以下に、この2年間の審査を振り返っての簡単な感想を述べさせていただきたいと思います。

 

 

2. 新型コロナウイルス感染拡大への対応
 この2年間の審査期間の後半に入る直前の、2020年初頭にCOVID-19の感染拡大という未曾有のパンデミックが起こりました。2020年4月7日に兵庫県を含む7都府県に緊急事態宣言が発令されたことに伴って、SACLAも同日よりユーザー利用が停止となりました。そのため、4月17日に2020B期の課題募集を行うべく事務局を中心に準備が進められていましたが、募集は急遽延期となりました(その後募集中止を決定)。その一方で、このような緊急事態下において、COVID-19関連研究にSACLAが担う責務を果たすために、新たに「緊急課題」が設置されることになりました。この緊急課題は、随時申請可能で、SACLA-PRCにおいて通常の審査内容に加えて、緊急性、重要性が審査され、審査から3週間程度での利用が可能な制度となっています。なお、緊急課題は2020A期より開始されましたが、今後も常設の利用研究課題として続けられることになっています。
 約2ヵ月間のSACLAのユーザー利用停止措置およびその前後の所属機関の出張制限などにより実施ができなかった課題については、10月以降の期間に行うこととなり、当初2020年7月までの予定であった2020A期は2021年3月まで延長となりました。そのため、2020B期の課題募集は中止となりましたが、若干のビームタイムの余裕ができたため、追加募集が行われました。
 COVID-19の感染拡大により、国内外の移動が大幅に制限され、特に海外からの来所実験はほとんど不可能となりましたが、施設側の迅速かつ柔軟な対応により、オンラインミーティングなどを活用しながら、施設の方や最小限の来所者による現場での実験と外部ユーザーのリモート参加により、多くの課題が実施されたとお聞きしています。しかし、ビームタイム直前の状況次第でどうしても実施できないと判断せざるを得ない課題も出てくることが見込まれたので、来所不可などによる課題キャンセルが発生した場合にもビームタイムが無駄にならない、2021A期より適用予定であった「補欠課題」を前倒しで設定することを、SACLA選定委員会で認めていただきました。
 後でも延べますように、本委員会での審査は委員による合議制で行われるため、通常であれば対面での議論が重要なのですが、COVID-19感染拡大の状況下では、課題審査に関しては、オンライン会議に切り替えて行われました。オンライン会議は、対面での会議に比べて議論が若干やりにくい時がありますが、本会議では特に不自由は感じず、従来通りの活発な議論が行われ、課題審査が行われたと考えています。

 

 

3. 本委員会での審査に関して
3.1 審査方法について
 2019年5月に発行されたSPring-8/SACLA利用者情報(Vol.24 No.2)に、SACLAの共用開始から5年以上が経過し、安定利用のフェーズに移行し、最先端のX線光源から最大限のアウトプットを引き出して、新しいサイエンスを開拓することが求められてきたと書かせていただきました。今期もこのような考えに基づいて課題審査が行われました。
 審査方法の骨子を以下にまとめます。

1. 使用できるビームラインが3本(BL1、BL2、BL3)であること、応募課題総数は100程度であることから、分科会に分けるより審査委員会で総合的に議論する方が効率的であると考え、SPring-8で行っているレフェリー・分科会・審査委員会の3段階の審査と異なり、SACLAでは分科会に分けず、レフェリー・審査委員会の2段階で行う。

2. 原則として、本委員会委員が全ての応募課題の審査を行い、本委員会で調整の上、選定案を決定する。

3. 年間ビームタイム設定は、SPring-8と同様、24時間連続運転、および、同時期を想定する。ただし、1シフトは12時間とする。

 

3.2 レフェリーについて
 本委員会の施設外委員は、レフェリーとして、応募課題の、1)科学技術的妥当性(絶対評価)、2)SACLAの必要性(絶対評価)、3)総合評価(相対評価)に関する審査を1課題あたり4名程度で事前に行い、施設側委員は、4)実施可能性評価(絶対評価)、5)奨励シフト数評価、6)安全評価(絶対評価)の審査を事前に行い、本委員会に臨みました。

 

3.3 本委員会での審査方法
 本委員会では、上記のレフェリーによる審査の結果を踏まえて、総合的に課題の採否に関して議論を行いました。特に、供給できるビームタイムの制約との関係で、レフェリー審査結果が採否のボーダーラインの近傍にある課題に関して詳細に議論を行いました。その際、以下の点に留意しました。

①委員(=レフェリー)間の評価結果のバラツキの程度:採否ボーダーライン前後の課題について、個別に各委員間の評価のバラツキを吟味。

②科学技術的意義およびSACLAの必要性(いずれも絶対評価)と総合評価の相関:上記ボーダーライン前後の課題について、科学技術的意義およびSACLAの必要性と、総合相対評価との相関を吟味。

③利用機会:申請者の多様性(申請者の重複、所属機関、国内外、産学など)を確保するための配慮。

④これまでに本申請に関連したSACLA実施課題がある申請者は、課題申請時に進捗報告書を記入し、当該申請課題は、審査時の参考資料とする。

 これまで、本委員会での議論の結果、不採択となった課題の申請者に伝える情報の中に、不採択課題の中での評価結果が上位、中位、下位のどの位置にあったかの情報を盛り込むとともに個別事前審査において各課題に付された審査コメントをとりまとめ、課題申請者にフィードバックすることとしていましたが、2019B期からは、採択課題についても、申請者の施設利用の際に有益になると考えられる場合には、フィードバックコメントを付与することとしています。

 

3.4 緊急課題の審査方法
 緊急課題は迅速な課題審査が求められることから、申請があった場合の課題選定の方法については、次のような審査方法をとっています。
1)施設側委員による技術審査
2)申請内容の関連分野のPRC委員3~4名を選任
3)選任された委員により採択の妥当性について審査
4)PRC委員長承認
5)ビームタイム配分(PRCで配分したビームタイムとは別に(追加で)配分)
6)次回の選定委員会で報告(時期指定課題と同様)《2020A期以降の新規事項》

 

3.5 補欠課題について
 2020年9月に開かれた第22回SACLA選定委員会において2021A期の補欠課題が認められました。
 補欠課題は、各ビームラインにおいて、採択ボーダーライン直下にある不採択課題のうち一定数を選定しておき、キャンセルが出た場合に繰り上げ採択し、ビームタイムを配分するものです。この制度の採用により、COVID-19の感染拡大状況などによって、当初計画していた実験ができない場合にビームタイムの無駄が出ないようになりました。

 

 

4. 審査結果の概要
 2019B期(BL1:54シフト、BL2:81.5シフト、BL3:140シフト、計275.5シフト)では、応募81課題に対して57課題を採択しました(採択率=70%)。採択された57課題におけるシフト配分率(=配分シフト数/要求シフト数)は56%でした。
 2020A期(通常募集)(BL1:38シフト、BL2:89シフト、BL3:135シフト、延べ262シフト)では、応募65課題に対して50課題を採択しました(採択率=77%)。採択された55課題におけるシフト配分率は62%でした。さらに、2020年7~8月にかけて行われた2020A期の追加募集(BL1:32シフト、BL2:20シフト、BL3:15シフト、計67シフト)には36の研究課題の応募があり、14課題が採択されました(採択率=39%、シフト配分率=29%)。その結果、通常募集と追加募集を合せて2020A期は101課題の応募に対して64課題が採択されたことになります(採択率=63%)。これらに加えて、補欠繰り上げ1課題が実施されています。
 2021A期(BL1:64シフト、BL2:72シフト、BL3:112シフト、計248シフト)では、応募63課題に対して44課題を採択しました(採択率=70%)。採択された44課題におけるシフト配分率は64%でした。

 

 

5. まとめと今後の課題
 世界最高性能のX線光源であるSACLAですが、諸外国にも様々なスペックのX線自由電子レーザー施設が次々と設置され、施設間での競争も厳しくなってきています。従来からのパワーユーザーに加えて、より幅広い分野・領域の研究者に対して、SACLAの優位性を理解してもらうことを目的として、2021A期より、「SACLA試験利用制度」が始まることになりました。これは、BL2、BL3のビームタイムの5%を上限として、特定の研究課題(まずは、施設側指定の装置、条件によるシリアルフェムト秒結晶構造解析(SFX)、ハイパワーナノ秒レーザー実験)について、試料のスクリーニング、測定条件・フィージビリティの検討を行うために、1課題につき0.5シフト(最大1シフト)を配分する制度です。
 また、ポストコロナ・ウィズコロナ時代に対応する必要性からリモート測定や自動測定など、来所を必要としない実験方法への対応も急速に進んでいます。このような新しい実験形態や、「SACLA試験利用制度」や「緊急課題制度」など新しく導入された制度も活用し、安定利用のフェーズに入ったSACLAの性能を最大限に活用して、新しいサイエンスを開拓し、社会に貢献していくことがさらに強く求められてきており、本審査委員会では「より良い」課題を選んでいくことが益々重要になってきていると考えています。
 最後になりましたが、より良い課題を選定するという熱い思いで多くの申請書を細部にわたって熟読し、さらに長時間にわたって活発なご議論をいただきました本委員会の委員の皆様と、委員会を支えていただきましたJASRIスタッフの皆様の御尽力に敬意を表し、心より感謝申し上げます。

 

 

 

中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi
大阪大学 蛋白質研究所
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-2
TEL : 06-6879-4313
e-mail : atsushi@protein.osaka-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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