Volume 28, No.2 Pages 144 - 145
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SACLA Users’ Meeting 2023
Report on SACLA Users’ Meeting 2023
1. はじめに
2023年3月2日、3日の2日間にわたり、SACLA Users' Meeting 2023が開催された。今年度も「Zoom」を利用したオンラインのみでの開催ではあったが、最新のSACLAの性能に関する情報共有や、XFEL利用研究の将来のあり方について、施設と利用者および利用者同士での活発な議論が行われた。
2. 会議の内容
まず、米田仁紀教授(電気通信大学、SPRUC XFEL利用研究会代表)および石川哲也RSCセンター長による開会挨拶をもって、本年のミーティングがスタートした。まず初めに行われた“Facility Session”では、SPring-8/SACLAを取り巻く国内外の情勢、そしてSACLAの利用研究や施設高度化の現状について、概要が報告された。“Technical Updates”セッションでは、硬X線FELビームライン(BL2・BL3)、軟X線FELビームライン(BL1)、光学レーザー、ハイパワー光学レーザーそしてX線検出器のアップグレードに関する詳細な報告が行われた。BL3におけるセルフシードなどの高度なFEL運転モードや、新型インラインスペクトロメーターなど最新のビームライン機器、実験プラットフォーム等について、それぞれの施設担当者より紹介が行われた。前回および前々回のユーザーズミーティングでは、詳細な施設全般の報告はオンラインでのポスターセッションのみであり、担当者からの口頭発表による施設報告は実に3年ぶりとなり、近年のビームライン高度化を総括する意味でも利用者の関心も高かったように思う。
続いて2022年度のSACLA/SPring-8基盤開発プログラムに関するセッションがあり、2022年度に採択された課題のうち、SACLAに関連する7件について、それぞれの開発状況の進捗報告が行われた。軟X線FELに関する採択課題からは3件の報告があり、江川悟博士(理化学研究所)からは、KBミラーと回転体ミラーを組み合わせた軟X線サブマイクロメートル集光装置開発と、それを用いた軟X線顕微鏡の開発に関する報告があった。また、岩山洋士博士(分子科学研究所)による講演では、BL1におけるFEL高次光を利用した分光実験や、液体セル・超薄膜フラットジェットを用いた試料導入装置の開発など、軟X線分光計測環境の構築に関する報告が行われた。宮脇淳博士(量子科学技術研究開発機構)からは、広ダイナミックレンジ・高速読出し軟X線用CMOS検出器の開発状況について報告がなされた。続いて、硬X線FELに関する開発4件の報告が行われ、岩田想教授(京都大学)からは構造生物学実験プラットフォーム開発状況の報告がなされた。また、山田純平助教(大阪大学)からは、シングルグレーチング干渉計を用いたナノ集光自動調整システムおよび、sub-10 nm集光XFELビーム評価法の開発についての講演が行われた。また、池田暁彦助教(電気通信大学)からは、XFEL施設としては世界最高レベルとなる77テスラに達する超強磁場発生装置PINKの開発状況が報告され、続くAlbertazzi Bruno博士(LULI/CNRS/Ecole Polytechnique)の講演では、凝縮系物質などにおける磁化過程の観測に向けた、ハイパワーレーザーと高強度磁場発生装置を組み合わせた実験プラットフォームについての報告があった。いずれの採択課題においても、他のXFEL施設では類を見ないSACLA独自の実験基盤装置の開発が進められており、今後の共用化によってユニークな研究成果の創出につながることが期待される。本プログラムは毎年度12月から1月ごろに募集が行われているので、興味を持たれた読者は応募を検討していただけると幸いである。
第1日目午後と第2日目午前にわたって行われた“Scientific Talk”セッションでは、SACLAの主要な利用研究分野を代表して、別所義隆博士(東京大学)、中堤基彰博士(European XFEL)、山本航平博士(分子科学研究所)、Uwe Bergmann博士(Wisconsin-Madison大学)の4名の研究者による招待講演が行われ、SACLAの独自性を生かした最新の利用研究成果に関する講演と議論が行われた。
第2日目午前にはブレイクアウトセッションとして、EH2、EH3、EH4c、EH4aで利用可能な光学レーザーに関するセッションA “Experimental Capabilities with Synchronized Laser System”とEH5で利用可能なハイパワーレーザーに関するセッションB “Experimental Capabilities with High-power Nanosecond Laser System”が同時に開催された。セッションAでは、SACLAおよびLCLSのビームライン担当者からそれぞれの施設で利用可能なレーザー光源に関する紹介があったのち、原子・分子・光科学、構造生物学、物質科学の3分野を代表する利用者から最新の研究成果と施設への要望に関する講演が行われた。利用者からの要望は、新規のレーザー光源利用や、安定した実験が可能となる実験基盤開発に関するものが中心であった。特に、XFEL施設でも近年利用が盛んになりつつある、高強度テラヘルツや近赤外数サイクルパルスといった光源について、利用者からの関心が高かったように思われた。セッションBでは、ハイパワーレーザー利用者による新しい実験の試みと、ハイパワーナノ秒レーザーの安定化および計測系の拡張について報告と議論が行われた。
第2日目午後は、「SDGsへのSACLAの貢献」と題する特別セッションが開催された。本セッションは、今日、科学技術分野においても極めて重要なテーマとなっているSDGsの達成のためにSACLAやSPring-8が果たす役割に関して、将来を見据えた議論をSACLAの利用者コミュニティ全体で進めるために開催された。主に産業利用の観点から、これまでのSDGsに関連する取り組みと将来の構想などを、企業および大学に所属している3名の講演者から紹介いただいた後、SDGsの実現に向けた道筋に関して活発な議論が行われた。最後の“Summary and Closing”セッションでは、全参加者で本会議にて議論された情報を共有し、米田仁紀代表の挨拶をもって本会議は閉会となった。
3. まとめ
SACLA Users' Meetingは、一般的な学術発表のための会議ではなく、利用者と施設および利用者間の情報共有と意見交換を主な目的として開催され、今回で通算8回目の開催となる。前回に続き対面での開催はかなわずオンラインのみとなったが、各セッションにおける議論などを通じて、その目的は果たせたように思える。本ミーティングでの利用者からの要望に対する施設側の対応や、施設側からの情報を活かしたSACLA利用研究の展開などの情報は、ホームページなどで随時公開される予定である。また、本ミーティングで施設担当者より報告のあったビームライン高度化に関する講演資料は、下記ホームページで公開されている。
http://xfel.riken.jp/usersmeeting2023/program.html
2023年度以降も、SACLA Users' Meetingは開催される予定となっている。次回については詳細が決まり次第、SACLAのホームページ(http://xfel.riken.jp)などで情報が公開される予定である。
今回のSACLA Users' Meetingも盛況のうちに終えることができたのも、国内外の多くの利用者の方々の参加と活発な議論をしていただいたことに尽きると思われる。ここにSACLA Users' Meeting 2023に関わった皆様に厚く御礼を申し上げる。
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室
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