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Volume 28, No.2 Pages 156 - 167

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chairs

竹中 幹人 TAKENAKA Mikihito[1]、守友 浩 MORITOMO Yutaka[2]、植草 秀裕 UEKUSA Hidehiro[3]、中村 将志 NAKAMURA Masashi[4]、上床 美也 UWATOKO Yoshiya[5]、近藤 寛 KONDOH Hiroshi[6]、雨澤 浩史 AMEZAWA Koji[7]、齋藤 智彦 SAITOH Tomohiko[8]、佐々木 孝彦 SASAKI Takahiko[9]、中村 孝 NAKAMURA Takashi[10]、壬生 攻 MIBU Ko[11]、山下 敦子 YAMASHITA Atsuko[12]、妹尾 与志木 SENO Yoshiki[13]、谷一 尚 TANIICHI Takashi[14]、有馬 孝尚 ARIMA Taka-hisa[15]

[1]SPring-8利用研究課題審査委員会 小角・広角散乱分科会主査/京都大学 化学研究所 Institute for Chemical Research, Kyoto University、[2]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(単結晶)分科会主査/筑波大学 数理物質系 Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba、[3]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(粉末)分科会主査/東京工業大学 理学院 School of Science, Tokyo Institute of Technology、[4]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(汎用・構造評価)分科会主査/千葉大学 大学院工学研究院 Graduate School of Engineering, Chiba University、[5]SPring-8利用研究課題審査委員会 X線回折(高圧)分科会主査/東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo、[6]SPring-8利用研究課題審査委員会 汎用XAFS・汎用MCD分科会主査/慶應義塾大学 理工学部 Faculty of Science and Technology, Keio University、[7]SPring-8利用研究課題審査委員会 先端X線分光分科会主査/東北大学 多元物質科学研究所 Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University、[8]SPring-8利用研究課題審査委員会 光電子分光分科会主査/東京理科大学 先進工学部 Faculty of Advanced Engineering, Tokyo University of Science、[9]SPring-8利用研究課題審査委員会 赤外分光分科会主査/東北大学 金属材料研究所 Institute for Materials Research, Tohoku University、[10]SPring-8利用研究課題審査委員会 イメージング分科会主査/北海道大学 大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門 Division of Mechanical and Aerospace Engineering, Graduate School of Engineering, Hokkaido University、[11]SPring-8利用研究課題審査委員会 非弾性散乱分科会主査/名古屋工業大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology、[12]SPring-8利用研究課題審査委員会 構造生物学分科会主査/岡山大学 学術研究院医歯薬学域 Faculty of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama University、[13]SPring-8利用研究課題審査委員会 産業利用分科会主査/(公財)佐賀県産業振興機構 九州シンクロトロン光研究センター SAGA Light Source, Saga Industrial Promotion Organization、[14]SPring-8利用研究課題審査委員会 人文・社会科学分科会主査/山陽学園大学/林原美術館 Sanyo Gakuen University / Hayashibara Museum of Art、[15]SPring-8利用研究課題審査委員会 長期利用分科会主査/東京大学 大学院新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo

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SPring-8

 

1. 小角・広角散乱分科会
 小角・広角散乱分科会では、高分子系、生物系、液晶、ミセル、金属、液体・ガラスなどの小角散乱測定の課題が、大部分を占めているが、SDGsの潮流に伴い、木材、セルロース関連の課題が増えてきている。さらに、今までにない分野から(歯科材料や植物細胞など)の応募も多く見られ、分野の多様性が顕著になってきている。この傾向のため、いままで小角散乱を使ってこなかった研究者からの応募が増加している傾向が見られてきている。これらの傾向はこの小角散乱の分野の広がりを示すものであると思われる。また、申請数も増加傾向であり、BL40XUでは採択率が大きく低下した。BL40XUではイメージング分野の実験も行われてきており、イメージングにおける1課題あたりのビームタイムが比較的多いことを考えると、今後、お互いのビームタイムを圧迫することが十分に考えられる。現在の小角散乱分野の申請数の増加を考慮すると、小角散乱ビームラインの再編においてIDの小角散乱装置の拡充が必要であると思われる。審査において、いくつかの申請書で問題点が散見された。特定の実験条件を満たすためにどのような手段を講じるのかなどの実験の詳細についての記述が不正確であるために、実験の実現性に乏しいとされて落とされているものがあった。この実験記述の不備については、申請者が施設担当者にコンタクトせずに提出をしていることも一因であるかと思われる。申請前に施設担当者へのコンタクトを行い、実験の実施について議論することを、申請者に奨励する必要があると思われる。また、実験の目的自体が、明確に示されていないものもいくつか見られた。最近の申請書では目的等などを明確に記述できるように工夫がなされているのにも関わらず、うまく記述されていないこともあり、その点についても、できるだけ施設担当者にコンタクトをとってもらい、その際に、色々とアドバイスできるようにするのも、一つの方法かと考えられる。

(小角・広角散乱分科会主査 竹中 幹人)

 

 

2. X線回折(単結晶)分科会
2-1. 分科会再編
 各ビームラインにおける高度化や測定手法の多様化に対応して、また、10年以上にわたり分科会の編成が変更されていないことから、2022Aより分科会が再編されました。再編のポイントは、1)分科会とビームラインとの一致を可能な限り実現、2)分科会とJASRIの組織との一致を考慮、3)原則、測定手法をベースとした編成、4)分科会選択のためのサイエンス・キーワードを設定、です。利用課題申請書の審査分野区分(結晶回折、分光・分光イメージング、イメージング、非弾性散乱、構造生物学、産業利用、人文・社会科学、その他)に沿った形で、分科会の再編がなされました。

2-2. DS2分科会
 DS2分科会は審査分野―X線回折(単結晶)―に該当します。主なビームラインはBL02B1およびBL40XUです。また、サイエンス・キーワードは、有機系結晶、無機系結晶、金属錯体、MOF等です。実際、審査課題の9割以上がBL02B1への申請課題でした。BL02B1への申請課題では、MOFや超分子を測定対象とする課題の件数が大部分を占めていました。これは、放射光X線構造解析が、複雑な構造をもつ物質開発における必須のツールであること、を反映しています。

2-3. BL02B1の年6回募集
 2022B期から、BL02B1ビームラインは年6回募集対象ビームラインになりました。募集回数の増加は、ユーザーがSPring-8の利用機会を増やすだけでなく、試料合成→構造決定→成果報告のサイクルの加速につながります。年6回募集が始まってあまり時間が経っていませんが、①申請数が減少(BL02B1では、課題の採択率が高くなっている)、②第2希望ビームラインの選択の不可、③レフェリーの負担増大、といった影響が見受けられました。分科会では、こうした影響を注視しつつ、課題審査を進めることになります。

2-4. 大学院生提案型課題
 DS2分科会では、大学院生提案型課題も審査しました。大学院生提案型課題の申請書の中には、SPring-8への課題申請書として適切に記載されていないものが少なからずありました。そういった課題申請書は、レフェリーの評価も低く、結果、不採択になったものが少なくありません。分科会では、放射光分野の若手研究者育成の観点からも、レフェリーの評価コメントの開示は有効であろう、という意見が出されています。

(X線回折(単結晶)分科会主査 守友 浩)

 

 

3. X線回折(粉末)分科会
3-1. はじめに
 2022A期から分科会が再編され、散乱回折分科会は、単結晶、粉末、汎用・構造評価と3つに分かれることとなった。X線回折(粉末)分科会はBL02B2、BL19B2、BL13XUを担当し、粉末結晶によるX線回折強度測定を行う研究提案に対して課題選定とビームタイム配分を行っている。

3-2. 分科会の特徴
 担当するBL02B2は伝統ある粉末構造解析ビームラインで、一次元半導体検出器の多連装型回折計を利用した迅速測定が特徴となっている。BL19B2でも同様の測定が可能であり、2022B期からは当分科会が担当に加わった。BL13XUは挿入光源による特に高輝度な放射光を利用でき、第3ハッチの高分解能多連装型粉末回折装置による、微量試料からのミリ秒単位の時間分解測定が特徴である。
 研究提案は、ビームラインの特徴を生かした先端的なものが多い。特に試料環境変化を行うことで、物質が反応する過程をその場観察する研究はSPring-8からの成果発信が期待される。例えば、多孔性材料であるMOF、PCPの粉末結晶試料をキャピラリーに封入し、ガスを導入した状態で測定できる環境が整備されており、高い時分割回折強度測定・解析により、ガス吸着過程を粉末構造解析する研究がある。

3-3. 審査について
 多様な研究を多数採択し幅広い研究に寄与することを目指したが評点やビームタイムの都合で審査はいつも難しい。BL13XUの短い時分割能などの特徴を生かした高度な測定を希望する提案が非常に多く、採択数が限られている。このような挿入光源を使った最新の粉末回折装置を増やすことが急務である。また研究によっては短時間の測定で十分な成果が得られる場合もあるので、例えば1-2時間のビームタイム配分を行い、採択数を増やすことで、成果発信増加につながるだろう。
 2022B期より年6回募集が開始された。一般に試料準備後はできるだけ早期に放射光測定を行い構造解析することが望ましい。年6回募集では約2ヶ月ごとに募集が行われ、この期待に応えられる利点がある。一方、短期間で応募を繰り返し、通期利用するグループがないか、第I期の解析が終わらないうちに第II期に応募するケースがないかなどの不安はあったが、現時点では問題なくポジティブな結果と言える。

(X線回折(粉末)分科会主査 植草 秀裕)

 

 

4. X線回折(汎用・構造評価)分科会
 分科会が再編された2022A期より2023A第I期までX線回折(汎用・構造評価)分科会(DS4分科会)の主査を拝命しました。主なビームラインとしてはBL04B2およびBL13XUですが、同等のエネルギーをカバーしており、同種の回折計や検出器が設置されているBL08WやBL19B2の申請課題も審査しました。BL04B2およびBL08Wは主に高エネルギーX線を用いた全散乱測定の申請が多くを占めていました。アモルファスなどの非周期系や結晶PDF解析は、新規に応募される申請者も多く、物質科学において重要性が増していると感じました。また、BL13XUは界面や薄膜構造、引張応力やナノビームを用いたX線回折測定に関する課題が中心であり、電池材料やトライポロジーに関する申請も増えています。高輝度なID光源を駆使した申請が多い印象です。
 回折ビームラインの再編によりBL13XUにはDS3分科会が担当する粉末X線回折の申請が半数を占めることとなり、DS4の採択課題数が大きく減少しました。とくに2022B期以降は、配分可能なビームタイムも限られており、できるだけ多くの方に使っていただきたく分科会委員も非常に頭を悩ませる会議が続きました。また、BL13XUは年6回の課題募集となりましたが、いずれの課題募集においても採択率は低く、不採択が続いた申請者へのフィードバックが必要であると感じています。ビームライン再編後の過渡期でありますが、PRC委員長にも現状を憂慮していることを伝え、施設側も問題点を理解されています。今後、適切な対応をされていくと思いますが、分野やビームラインによる偏りが少ない課題審査システムになることを切に希望いたします。最後に、申請課題審査において丁寧なコメントをいただいたレフェリーの皆様、円滑な分科会進行にご協力いただいた脇原委員および小金澤委員に感謝申し上げます。

(X線回折(汎用・構造評価)分科会主査 中村 将志)

 

 

5. X線回折(高圧)分科会
5-1. はじめに
 2021年4月~2023年3月の2年間、SPring-8利用研究課題審査委員会のX線回折(高圧)(DS5)分科会主査として、2021B期~2023A期の課題審査を担当いたしました。コロナ禍および分科会の再編が行われた2年間の審査を振り返り、状況と感想を簡単に記載します。

5-2. 課題審査
 分科の改変が2022年度に行われ、担当がD2(散乱・回折分科の高圧物性、地球科学小分科)からDS5へと改革されました。最初の課題審査は2021B期でD2としての課題審査でした。コロナ禍ということもあり、申請件数が減るのでは?との懸念もありましたが、懸念されたほどの影響はなく多くの申請があり、やむを得ず不採択となる課題も多く、SPring-8の重要性と皆さんの期待が伺えました。D2分科では申請内容がD2担当装置と合致していない申請が数多く見られ、複数レフェリーでの評価点数の開きが大きく採択に苦慮する申請が複数ありました。分科会の再編は、この様な事態の回避も目的の1つとして行われたと思います。2022年A期からは分科会改変後のDS5分科での課題審査を行いました。DS5担当装置に不適当と思われる課題や、レフェリー評価点数が極端に開く申請も少なくなり、分科会再編が上手く機能している事が伺われました。申請件数は、コロナ禍の影響が僅かに残りコロナ禍前と同様とは言えませんが、95%程度回復しています。今後は通常に戻っていくと期待しています。採択基準としては、実績もさることながら、新しい科学が生まれる申請をできるだけ拾う様に心がけたつもりですが、私の能力の限界もあり希望に添えなかった申請者には申し訳ありませんでした。申請課題の中には目的を理解するのに苦しむ場合もあり、研究内容(文章)を読みやすく書く事も採択に繋がるコツかもしれません。また課題審査での不採択にせざる得ない理由として、施設担当者(コーディネーター)との連絡不足があります。課題研究の成果を最大限引き出すためにも利用相談することをおすすめします。利用相談により研究内容のさらなる発展も期待できるのではないでしょうか?

5-3. おわりに
 SPring-8利用研究課題審査を行い、最先端の研究課題を審査する重要な仕事である事を痛感しました。審査は、毎回、丸一日がかりの大変な仕事でしたが、比較的スムーズに審査が行えたとも思います。ひとえに、大石さん、肥後さんをはじめとしたビームライン担当者および分科会委員の見識の高さと献身的なサポートの結果であり、ここに深く感謝いたします。また、DS5(D2)分科からの要望の多くが採用され、審査が問題なく行える様に常に気を配って頂いた事務局スタッフの皆様に心より感謝いたします。

(X線回折(高圧)分科会主査 上床 美也)

 

 

6. 汎用XAFS・汎用MCD分科会
 汎用XAFS・汎用MCD分科会の主査を仰せつかりまして、鈴木基寛先生(関西学院大学)と加藤和男氏(JASRI)とご一緒に2022Aから2023Aの利用研究課題審査に携わらせていただきました。この期間には分科の再編と担当分科の年6回募集への変更があり、審査にも大小さまざまな変化がありましたが、ご一緒したお二人の委員の真摯なご協力のお蔭によりまして、滞りなく審査を行うことができましたことをまずは感謝申し上げたいと思います。
 当分科会はBL01B1およびBL14B2を始め、XAFSおよびXMCDが関わる8本のビームラインの課題審査を担当しています。XAFS分野では、In situ/operando計測の申請が増える一方、複数の試料に対して標準的なXAFS解析を行って比較する課題は相対的に減る傾向がみられました。磁性分野ではMCD関連の申請が硬X線を中心に減る傾向がある一方で、ナノビームを利用する顕微関連の課題は着実に増えています。SPring-8のように最先端の研究課題が集まる施設への申請は、その時代の研究の流れを敏感に反映することが感じられました。
 課題審査は、基本的にレフェリー評点に基づき、評点が僅差の課題はレフェリーコメントを参考にして慎重に進めました。不採択が続く課題に対して、審査委員会から特別に何か支援することはできないのですが、熱意をもってやりたいと思う研究課題が採択に向けて後押しされるような効果的な制度が設けられたらよいなと思いました。
 2022BからBL01B1は年2回募集から年6回募集に変わりました。そのため申請件数が一旦大きく増加しましたが、回を追うごとに減少して、2023Aでは元の水準に落ち着いたように見えます。申請の機会が増えることはユーザーにとって大きなメリットがあると思います。それがメリットになるためには、信頼できる審査制度が土台として必要です。これまで、審査に関わられてこられた多くの皆様の多大なるご尽力でそのような信頼関係が築かれていると思います。そのような活動に加わらせていただいたことを感謝すると共に、今後も、審査を含め増々魅力的な先端放射光施設として発展し続けることを心よりお祈りしております。

(汎用XAFS・汎用MCD分科会主査 近藤 寛)

 

 

7. 先端X線分光分科会
 令和3年~令和4年度(2021B~2023A期)の先端X線分光分科会の主査を仰せつかり、微力ながら、水口 将輝先生(名古屋大学)、河村 直己先生(JASRI)と共に、その重責を務めさせて頂きました。今期間から分科会が再編成され、本分科会では、XAFSやXRFに代表されるX線分光を用いた先端計測を扱うことになり、採択課題、ビームラインおよびシフト配分の決定、評価点および申請者への審査コメントの作成を行いました。
 近年では、X線分光は、材料科学、化学、エネルギー、エレクトロニクス、医学、地質・地学など多く研究分野において、なくてはならないツールの一つとなりつつあります。またその対象も、金属、セラミックス、半導体、高分子、生体試料など、非常に多岐に渡るようになっています。特にこの分科会で審査された課題には、特殊環境やデバイス動作下でのオペランド計測、複数手法の複合計測、顕微分光計測、イメージング分光計測など、正に「先端X線分光」を名乗るに相応しいものが多く見られました。そのため、レフェリーの評点も概して高く、拮抗する傾向があり、採択課題の選定が難航することもありました。そのような際には、レフェリーからの詳細な評価コメントが大変参考になりました。採択課題としては、触媒や蓄電池、燃料電池、地学・地質関連の課題が多く、基本的にはこれまでと同様の傾向が続いている印象でした。ただそのような中でも、多次元分光、高分解能計測、テンダーX線利用など、新しい挑戦的研究の潮流も見られ、X線先端分光の今後のさらなる発展・展開が感じられました。一方で、コロナ禍の影響を考えると致し方ないところはあったと思いますが、海外研究者による申請が少ない傾向であったのは、施設の国際化を考えると残念でした。
 今年の後半からは、いよいよNanoTerasuも稼働が始まります。SPring-8がこれからも世界最先端の放射光施設であり続けることに変わりはないと思いますが、今後は、国内の各放射光施設が、それぞれの得手不得手を踏まえ、役割分担していくことがより一層求められるようになるでしょう。課題募集や選定においても、そのような配慮がなされることを期待します。

(先端X線分光分科会主査 雨澤 浩史)

 

 

8. 光電子分光分科会
 私は2021および2022年度(2021B-2023A期課題審査)のSPring-8利用研究課題審査委員会(PRC)におきまして、分光分科S1小分科会、続いて光電子分光(SP3)分科会の主査を務めさせて頂きました。本稿ではその簡単な報告をさせて頂きます。
 任期中は、二つの大きな改革がありました。一つは2021B期と2022A期の間で行われた、分科再編です。元々、分光分科は、光電子分光、赤外物性、光化学をカバーするS1小分科とMCDのS3小分科から成り立っており、2021B期のS1分科会は、組頭広志先生(東北大)、佐々木孝彦先生(東北大)、松波雅治先生(豊田工業大)、池本夕佳先生(JASRI)、高木康多先生(JASRI)と私の6名、S3分科会は水口将輝先生(主査:名古屋大)、鈴木基寛先生(関西学院大)、河村直己先生(JASRI)の3名で構成されており、この9名でS1S3合同審査会を開きました。当然、分野も広範で課題数も多く、様々な研究を知る良い機会になった一方で、審査会はかなりの時間がかかりました。しかしこの再編により、2022A期からS1分科は光電子分光分科(SP3)と赤外分光分科(SP4)に分かれ、SP3は組頭先生、高木先生、私の3名構成となりました。その結果、審査課題数も減って、より綿密な審査が行えるようになったと感じています。
 もう一つは、2022B期から始まったBL09XUの年6回募集制です。これにより、硬X線光電子分光ビームラインは、既に年6回制だった産業利用のBL46XUと併せて、完全な年6回制となりました。利用者への効果は今後を注視する必要がありますが、BL09XUは大学ユーザーがメインなので、少なくとも短期的には、大学が忙しいA-I期(4月から5月中旬頃)では競争率が下がる可能性があります。一方、分科会としては、会議数は増えましたが、1回当たりの申請数は(特に、BL17SU、25SUの申請のないII期III期は)さらに減ったので、全体の負担はそれほど増していないと感じています。またコロナ禍以降、オンライン会議が一般的になったこともあり、以前よりも審査会委員の負担は減っているのではないかと思います。
 以上のような大きな改革以外にも、PRCは細かな事柄も含めて、常に改善・改良を行ってきており、いわば改善委員会でもあります。審査委員・主査の仕事は、その不断の努力を体感することができ、さらには施設・審査側の立場をより深く知ることで、施設利用の全体像を理解する貴重な機会となるものであった、と今感じる次第です。今後の委員となる皆様にも、きっとそのような「成果」があるものと思います。どうぞご尽力いただければと思います。
 最後に、分科会を運営して下さった利用推進部スタッフの皆様、そしてご多忙の中課題を審査して下さったレフェリーの先生方に深く感謝申し上げます。

(光電子分光分科会主査 齋藤 智彦)

 

 

9. 赤外分光分科会
 2021-2022年度のSPring-8利用研究課題審査委員会(PRC)の赤外分光分科会(SP4)主査を務め、赤外物性ビームライン(BL43IR)利用研究の申請課題審査に携わらせていただきました。SP4分科会の委員は、私のほかに松波雅治先生(豊田工業大学)と池本夕佳氏(JASRI)に担当いただきました。
 2021B期までの1年間は、分光分科S1小分科(固体光電子分光物性、赤外物性、光化学)内に赤外分光が含まれており合同で審査が行われていました。2022A期課題審査より分科の再編が行われ赤外分光に関しては、独立のSP4赤外分光分科会となりました。このため課題審査に関連するビームラインは、BL43IRのみとなりました。あわせてレフェリーが審査する個々の申請課題もほぼBL43IRを利用する申請のみとなりました。これにより、レフェリーが申請課題を評価して相対的評点をつける際に、分科再編以前は研究内容や研究方法が相当異なる課題間での相対評価を行わないといけなかったケースが多々あり、評点付与の判断に困難さが伴っていたのですが、これがかなり緩和されたと思います。レフェリーによる相対評価の精度向上は、分科会での審査においても公平で効率的な審査につながっていると感じました。これは、各課題に対するレフェリーによる評価のばらつきが再編以前に比べて少なくなっていることに現れています。特にビームタイム配分の制約による採択のボーダーライン前後での採否に対してより適切な判断が行えたと感じています。
 BL43IR利用に対して申請、実施された課題では、長期利用課題や重点課題等の優先的なシフト配分を必要とする課題はありませんでしたので、ほぼすべてをレフェリーによる評価点とコメントによる一般課題シフト枠での採択とビームタイム配分を行いました。原則的には各課題の採否はレフェリーによる相対評価点数が高い順に順位をつけた資料をもとに審査が進められました。またビームライン担当者による安全審査と技術審査が行われ、装置の状況に合わせて各課題の実験が確実かつ安全に実施できるかも検討しました。BL43IRの利用申請においては、ビームライン担当者の努力によりほぼすべての課題申請に対して事前打合せや予備的実験が行われていたので、安全審査、技術審査が採否の判断において問題になることはありませんでした。申請課題によってはレフェリーの評点が分かれていることもありましたが、分科再編により各課題に対してのレフェリーコメントがより適切になったことで、委員間での議論や判断に大変役立つものになったと思います。一方で、研究目的や研究内容的には優れていると考えられる申請に対しても、シフト数が限られていたことから残念ながら採択に至らない課題や要望通りのビームタイムを配分することができなかった申請が少数ながらありました。BL43IRの利用申請における採択率は他のビームラインと比較して高いため、不採択となる申請はあまり多くありませんが、不採択課題に対しては申請書における問題点などをビームライン担当者と共有し、課題申請者と次期申請での検討をしていただけるようなフィードバックを分科会としてお願いしています。
 このたび、SPring-8の課題審査という重要な役目を担わせていただきました。コロナ禍において利用実験の実施やスケジュール調整などの実際のビームライン運用ではビームライン担当者のご苦労は多大なものがあったかと思います。担当者と併走して課題審査を無事終えることができたのは、ご協力をいただいた分科会委員、丁寧に査読をしていただいたレフェリー、そして献身的にご尽力いただいたJASRIビームライン担当者をはじめとする関係職員の皆さんのおかげです。この場をお借りして厚く感謝申し上げます。本報告を執筆している2023年3月中旬時点で、コロナ禍による各種制限の緩和が徐々に進んでいます。2023A期からより正常化が進み活発な利用研究が進むことを期待しています。

(赤外分光分科会主査 佐々木 孝彦)

 

 

10. イメージング分科会
 2021年度~2022年度の2年間、イメージングに関わる分科会の主査を務めさせていただいた。2021年度までは散乱・回折分科におけるD3分科会(材料イメージング)に、また分科会再編が行われた2022年度はイメージング分科会に所属した。この間、同分科会委員である小林正和先生(豊橋技術科学大学)、世良俊博先生(九州大学)、上杉健太朗氏(JASRI)とともに申請課題の審査に携わった。
 初年度は自身の研究分野が構造材料に関わることもあり、比較的専門に近い審査課題に触れることが多かったように思う。しかし、分科会再編後は、イメージングという範疇で材料を問わず様々な課題を扱うことになり、審査に戸惑う場面にもしばしば遭遇した。そのような場合、レフェリーコメントが極めて参考になった。レフェリー各位のご尽力により、ここ数年の短い期間でも審査コメントがより詳しく充実してきたと感じているが、時には意見が大きく割れることもある。そのような場合、委員の間で喧々諤々の議論が始まり、申請書をさらに詳しく読み込んで評点を決定することになる。正当に評価したつもりではあるが、競争率の高いビームラインでは止む無く不採択とした課題も多い。このような課題に対して適切なフィードバックを行う試みは順調に進展していると思われるが、分科会の仕事はつくづく心臓に悪いものだと感じた2年間であった。
 申請者の立場から審査を統括する立場に変わり、SPring-8における研究開発の仕組みが関係者のご尽力により支えられていることを知ることとなった。特に分科会委員の皆様をはじめ、レフェリーの皆様、JASRI職員の皆様には多大なるご協力をいただいた。この場を借りて御礼を申し上げる。今後もSPring-8の研究開発体制や申請者への支援体制が益々充実し、優れた成果が次々に産み出されていくことを願っている。

(イメージング分科会主査 中村 孝)

 

 

11. 非弾性散乱分科会
 2022A期の分科再編を挟んで、2021B期D4分科、2022A~2023A期IXS分科の主査を務めさせていただきました。当分科が担当する申請課題は、コンプトン散乱関連課題(@BL08W)、X線非弾性散乱関連課題(@BL35XU、BL43LXU)、核共鳴散乱関連課題(@BL35XU、BL19LXU)で、私自身は核共鳴散乱関連のビームラインユーザーであります。主たるビームラインはBL08WとBL35XUで、これらのビームラインへの他分科経由の申請との調整も入ります。分科会委員の経験もない中、いきなり主査の大役を拝命しましたが、分科会では、現場のビームライン事情に精通したA. Q. R. Baron委員、審査結果集計システムへの入力を担当いただいた石井賢司委員、コンプトン散乱関連課題に詳しい小林義彦委員のサポートを受け、2年間の任期を無事務め上げることができました。
 2021B期には、BL09XUから移行された核共鳴散乱実験がBL35XUで本格運用開始されたことに伴い、X線非弾性散乱関連と核共鳴散乱関連の採択課題数のバランスが懸念されましたが、分科会開催に先立ち、雨宮慶幸理事長、木下豊彦利用推進部長(当時)より、両関連課題のバランスをとりつつ、あくまでも科学技術的評価に基づいて審査を進めるよう、要請を受けました。蓋を開けてみると、メリハリをつけた採点分布が求められるレフェリー審査システムと、レフェリーの適切な割当方法のお陰で、両関連課題にバランスがとれたレフェリー審査結果となり、2023A期に至るまでバランスの取れた採択を継続することができました。一方、2022A期の分科再編の影響はほとんど受けず、他分科との調整についても大きな問題は起こりませんでした。
 X線非弾性散乱関連課題に関しては、2021B期より、BL35XUへの申請が自動的に理研ビームラインBL43LXUに併願申請されるようにシステム設計されており、ビームライン担当者がBL43LXUでの実施がより適切と判断した若干の課題をBL43LXUで採択しました。核共鳴散乱関連課題に関しても、施設側の協力を得て、2022A期よりBL35XUへの申請が自動的に理研ビームラインBL19LXUに併願申請されるシステムを導入し、BL19LXUで実施可能な若干の課題をBL19LXUで採択しました。これにより、BL35XUとBL19LXUのボーダーライン格差が解消されました。今後もこれらの併願システムの継続的な運用が望ましいと思われます。
 コンプトン散乱関連、X線非弾性散乱関連、核共鳴散乱関連の申請課題件数は、それぞれ15→13→11→13課題、12→14→17→17課題、15→14→9→15課題と推移しました。2022B期には一時的に海外からの核共鳴散乱関連課題申請がゼロになりましたが、2023A期には復活し、ここ2年の申請件数はほぼ横ばい傾向となっています。
 1課題あたりのビームタイムが比較的長いこともあり、採択圏内に常連の申請者が目立つ結果となっていますが、このことがこの分科のさらなる発展に対する課題であると思います。

(非弾性散乱分科会主査 壬生 攻)

 

 

12. 構造生物学分科会
 2021年4月から2023年3月まで、構造生物学分科会の主査を担当いたしました。2021年度までは、生命科学分科会という名称のもと、L1:蛋白質結晶構造解析、L2:生物試料小角散乱(非結晶)、L3:バイオメディカルイメージング・医学研究一般の3つの小分科に分かれ審査が行われてきましたが、2021年度よりL2小分科で取り扱われてきたBL38B1を利用するbioSAXSがL1小分科に加わるとともに、SPring-8サイトにおいてクライオ電子顕微鏡(CryoTEM)の共用も開始され、CryoTEM利用課題もL1小分科の担当となりました。さらに、2022年度からの分科会再編に伴い、従来のL1小分科は構造生物学(SB)分科会と名称を変え、蛋白質結晶構造解析、溶液散乱解析から、クライオ電子顕微鏡単粒子解析までを網羅する、「相関構造解析」という多様な手法で生命現象の理解を目指す構造生物学の潮流にのっとった分野構成となりました。
 分科会の応募状況そのものについては、以前と大きな変化はなく、採択率も高い水準での維持となりました。蛋白質結晶構造解析課題については、測定の迅速化と自動化により、短時間の利用が増え、特に自動測定への高い希望が見られました。また、CryoTEMについては、本施設の特性上、CryoTEM利用のみの課題申請を認めず、放射光X線を併用する実施内容を求めましたが、現在の構造生物学におけるCryoTEMの重要性を反映するように、会を重ねるごとに希望課題数および希望マシンタイム数の増加が見られ、マシンタイムが逼迫しかねない状況も見られるようになってきました。このような状況については、施設の方々のご尽力により、効率的なビームタイム・マシンタイム配分が工夫され、なるべく多くのユーザーにタイムリーな実験環境が提供できるような運営をいただきました。
 一方、課題審査においては、特に放射光・CryoTEM併用課題において、両者の準備状況の違いからレフェリー間で評価が割れるケースや、放射光利用において短時間利用が増えたこととも関連し、相互に科学的関連性の薄い内容をまとめて申請する包括的な申請課題が見られ、やはりレフェリーの評価が下がるケースなどがありました。これらも含め、申請書の記載内容が不十分な課題については、低い評価となるケースが多く見られました。課題申請においては、実験内容について丁寧な記載をいただけると、よりユーザーの実験を適切に評価できることを、主査になり改めて実感しました。
 最後に、ユーザーの方々の研究のご発展をお祈りするとともに、分科会委員の先生方、レフェリーの先生方、JASRIの関係者の方々に、この場を借りて心より御礼申し上げます。

(構造生物学分科会主査 山下 敦子)

 

 

13. 産業利用分科会
13-1. 分科会の概要
 本記事の対象となる分科会の概要は以下の通りです。
期間:2021A第II期より2023A第I期までの2年間
主査:妹尾与志木、委員:木村正雄、宮﨑司、岡島敏浩、堂前和彦の5名が担当
募集:全期間を通じ年6回募集

13-2. ビームライン再編と利用制度変更
 ビームラインの再編と利用制度の変更が以前より議論されていましたが、2022B第I期より以下のように変更が実施されました。

○当分科の利用に特化していた3ビームライン(BL14B2、BL19B2およびBL46XU)の利用可能分科が拡大され、それぞれ2~4分科で利用可能とされた

○当分科のみの制度であった年6回募集が当分科を含む7つの分科に拡大された

 

13-3. 今期間の分科会の特徴
 当分科では、産業を直接担う企業が自らの手で企画・実施する課題を推奨しており、提案者の中に最低1名の民間企業所属のメンバーを入れることが提案の条件になっています。当分科に特化していた3ビームラインにはスループットの能力にも配慮があり、企業利用を意識したものになっています。申請される課題は、電子材料、電池、食品など非常に多岐の産業分野にわたるのが当分科の特徴で、その点は過去から変わっていません。一方で、民間企業所属の方が課題責任者を務めておられる提案が少ない、企業からの提案者が1名のみの課題が多い等の問題も抱えていました。当分科の前主査が「申請課題の質の低下を感じています」と記されていますが、提案内容に十分な記述が無いと感じられるものもあり、良くない意味での「慣れ」も出てきているように思われます。
 今期間には以下のような採択基準を考えました。試料の記述は結果を論文に掲載することを想定し、それに足るだけの情報量が記されていること、参加企業についてはその業務内容と提案の内容に大きな乖離が無いこと等です。2項に記した制度変更に伴い、さらに企業と学術機関が共同提案する場合、各機関間の役割分担を明らかにすることの条件も付加しました。2022B第I期からの制度変更の結果、申請課題に以下のような大きな変化がありました。
○希望ビームラインの種類が大きく広がった
○申請課題数が減った
当分科へ特化したビームラインの設定は、産業利用への利便性を考慮したものだったと考えますが、時間経過とともに逆に足かせになっていく部分もあったのかもしれません。従来3ビームラインの利用や年6回募集への応募を目的として当分科に応募していた課題が、制度変更により他の適切な分科に分散した要素もあるでしょう。もっとも注目すべき変化点は、
○民間企業所属の課題責任者の比率が増加した
ことでした。最後の2023A第I期に顕著でした。

13-4. 今後に向けて
 企業の成果専有利用が増えたことは近年の大きな特徴ですが、SPring-8を利用する企業の裾野をさらに拡げる余地はまだまだあるように感じています。すでにSPring-8では、講習会などを通じて新しい利用者開拓に積極的に取り組まれていますが、ビームラインのスタッフと利用者の方が十分な交流を持つ機会として、さらに利用相談などを積極的に利用していただきたいと考えます。その結果として自らの手でSPring-8を利用する実験を企画・実施する力を持つ企業も増えてくると思います。スタッフの皆様の今後のご努力に期待いたします。

(産業利用分科会主査 妹尾 与志木)

 

 

14. 人文・社会科学分科会
14-1. 申請課題数と申請動向
・2021B期募集 2件
・2022A期募集 1件
・2022B期募集 1件
・2023A期募集 4件
 論文登録も成果発表延期手続きもなく、課題が出せなくなっている研究者は8人で、課題ごとに数えると17課題にのぼる。全体での成果発表率は60%程度で、他の分野と比べ特段に低いわけではない。公開延期中の研究者は論文化を目指していると思われるが、成果発表が重荷になっている可能性もある。コロナ禍ではあるが、オンライン成果発表会などを積極的に実施し、利用成果集への投稿を奨励するなど、とりあえずの成果発表と見なされる要件を拡充し、これを積極的に促す必要性を痛感する。
 大学院生提案型課題が2021B期に1件提案されたが、これをもっと奨励すべきと考える。有効期間を1年から3年に延長する長期型の制度、SPring-8への国内旅費の支給(国内の大学に所属する方のみ)などの特典の周知を目指す必要性あり。
 コロナ禍もあり、2022A期、2022B期はともに申請課題数が1件のみであったが、2023A期は4課題の申請(提出数4、採択数4)と多少の進展があった。新しいタイプの課題も提案されているので、うまく成果につなげ、今後も継続して取り組んでほしい。担当者のサポートも重要な要素である。
 XRFやイメージング技術を使用する課題が主だが、これらについて、試料の前処理からデータ処理まで公開していただきたい。それにより、他のユーザーの参入が容易になると考えられる。日本刀の分析に関しては、放射光X線CT測定により着実に成果が現れているので、このまま継続していただきたいと考えるが、こういった刀剣ばかりでなく、仏像など木製品における樹種の識別、漆器などで使用された漆の分析、ガラス製品の分析などは、多くの研究者が取り組んでおり、これらの計測技術であるイメージング・蛍光X線分析の拡充が期待される。

14-2. 分野、測定手法、ビームライン
 歴史的人工物としての文化財は、日本刀、三彩陶器、三彩瓦、曜変天目碗、和紙上の墨、考古遺物ではイラン初期農耕遺跡出土の幼児頭蓋骨と歯。
 希望測定手法は、X線CT、蛍光X線、顕微XAFSイメージング。
 希望ビームラインは、BL20B2、BL20XU、BL28B2、BL37XU。

14-3. 審査の問題点
 申請課題数が少ない傾向が続いており、効果的な宣伝活動を行うべきと考える。例えば、国内の文化財の分析を広く取り扱っている奈良文化財研究所や、遺跡の宝庫である奈良県の文化財の分析を扱っている奈良県立橿原考古学研究所などとの共同研究のような形を取れないか、SPRUC研究会との連携、日本文化財科学会での活動継続といったことなども検討課題としたい。分析技術に明るくない利用希望者のためのアドバイザー人員配置なども検討すべきであろう。

14-4. コメント
 文化財や考古遺物の長期間に亘る系統的で組織的な測定は不可欠であり、貴重な文化遺産を引き継ぎ、研究を深め、次世代に継承するために、SPring-8の役割は極めて大きいと考えられる。その意味でも、本分科会における研究活動の更なる充実、活性化を期待するところ大である。

(人文・社会科学分科会主査 谷一 尚)

 

 

15. 長期利用分科会
 2021、2022年度の2年間にわたり、長期利用分科会の主査を担当しました。本分科会の主な役割は、課題選定の審査、実施中課題のビームタイム配分、実施課題の事後評価となります。今期の分科会は、施設外委員6名、施設内委員6名の計12名の委員から構成されており、主にオンラインでの審議を行いました。
 長期利用課題は、2年間有効の課題であることから、課題の選定においては、一般課題における審査の基準に加えて、「長期の研究目標及び研究計画が明確に定められていること」と「SPring-8を長期的かつ計画的に利用する必要があること」の2点が考慮されます。2021B期から開始される長期利用課題については、7件の申請がありました。これらについて、慎重に検討を行った結果、下記の2件の課題を採択しました。研究内容等についてはSPring-8/SACLA利用者情報Vol.26 No.4をご覧ください。

 

[2021B期採択課題]
- 採択課題1 -
課題名 超高圧下における鉄合金の特性とコアの軽元素組成の制約
実験責任者名(所属) 廣瀬 敬(東京大学)
ビームライン BL10XU
- 採択課題2 -
課題名 はやぶさ2リターンサンプルのX線CTを用いた初期分析と詳細分析
実験責任者名(所属) 松本 恵(東北大学)
ビームライン BL20XU、BL47XU(併用)

 

 2020年より始まったCOVID-19パンデミックによって、長期利用課題についても主に実施が遅れるなどの大きな影響を受けました。その結果、2018A期、2019A期、2020A期から開始された実施済み課題に関する評価をこの2年間で行いました。全体として、COVID-19パンデミックの影響を受けて当初計画の変更を余儀なくされた課題が多かったにもかかわらず、長期利用課題ならではといえるインパクトの高い成果が得られていました。個々の課題の成果については、SPring-8/SACLA利用者情報をご覧ください。
 さて、SPring-8の利用制度は、利用者層の拡大がもたらした多様なニーズを踏まえる形で拡充されてきました。この点に関して、2018年度に行われた国の中間評価において提言が出されたことから、理研とJASRIのメンバーで構成する「利用制度改正作業部会」が設置され、現行の利用制度の分析と利用制度の改正に関する検討が進められてきました。長期間有効な利用課題の制度に関しては、2021年6月に開催されたパートナーユーザー審査委員会において、意見交換が行われました。なお、パートナーユーザー審査委員会は長期利用分科会とは異なる会議体ですが、今期のパートナーユーザー審査委員会の外部委員は、長期利用分科会の施設外委員と全く同じ構成になっています。これらの意見交換を踏まえて、長期利用課題、パートナーユーザー課題、及び新分野開拓利用課題に関しては発展的に解消する方向性が打ち出されました。2022B期より、大学院生提案型課題(長期型)が設定されたほか、2023A期からは、成果公開優先利用課題において有効期間を1年とする1年課題の制度も開始されます。この利用制度の改正に伴い、長期利用課題については2021B期の募集が最後となり、2022Bの募集はいたしませんでした。
 最後になりましたが、11名の委員の皆様には、今期の2年間、提案課題に関する慎重な採択審査はもちろんのこと、従前と比べて多くの実施課題の事後評価を行っていただき、さらには、利用制度改正に関してSPring-8のこれからの発展につながるものとなるように活発にご議論いただきました。心より感謝申し上げます。また、委員会の議事が円滑に進むように万全の事前準備をしていただいた事務局に感謝いたします。

(長期利用分科会主査 有馬 孝尚)

 

 

 

竹中 幹人 TAKENAKA Mikihito
京都大学 化学研究所
〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄
TEL : 0774-38-3140
e-mail : takenaka@scl.kyoto-u.ac.jp

 

守友 浩 MORITOMO Yutaka
筑波大学 数理物質系
〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL : 029-853-4337
e-mail : moritomo.yutaka.gf@u.tsukuba.ac.jp

 

植草 秀裕 UEKUSA Hidehiro
東京工業大学 理学院
〒152-8551 東京都目黒区大岡山2-12-1
TEL : 03-5734-3529
e-mail : uekusa@chem.titech.ac.jp

 

中村 将志 NAKAMURA Masashi
千葉大学 大学院工学研究院
〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33
TEL : 043-290-3382
e-mail : mnakamura@faculty.chiba-u.jp

 

上床 美也 UWATOKO Yoshiya
東京大学 物性研究所
〒277-8581 千葉県柏市柏の葉5−1−5
TEL : 04-7136-3330
e-mail : uwatoko@issp.u-tokyo.ac.jp

 

近藤 寛 KONDOH Hiroshi
慶應義塾大学 理工学部
〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3-14-1
TEL : 045-566-1701
e-mail : kondoh@chem.keio.ac.jp

 

雨澤 浩史 AMEZAWA Koji
東北大学 多元物質科学研究所
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
TEL : 022-217-5340
e-mail : koji.amezawa.b3@tohoku.ac.jp

 

齋藤 智彦 SAITOH Tomohiko
東京理科大学 先進工学部
〒125-8585 東京都葛飾区新宿6-3-1
TEL : 03-5876-1717 ex 1760
e-mail : t-saitoh@rs.tus.ac.jp

 

佐々木 孝彦 SASAKI Takahiko
東北大学 金属材料研究所
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
TEL : 022-215-2025
e-mail : takahiko.sasaki.d3@tohoku.ac.jp

 

中村 孝 NAKAMURA Takashi
北海道大学 大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門
〒060-8628 北海道札幌市北区北13条西8丁目
TEL : 011-706-6419
e-mail : nakamut@eng.hokudai.ac.jp

 

壬生 攻 MIBU Ko
名古屋工業大学 大学院工学研究科
〒466-8555 愛知県名古屋市昭和区御器所町
TEL : 052-735-7904
e-mail : k_mibu@nitech.ac.jp

 

山下 敦子 YAMASHITA Atsuko
岡山大学 学術研究院医歯薬学域
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1
TEL : 086-251-7974
e-mail : a_yama@okayama-u.ac.jp

 

妹尾 与志木 SENO Yoshiki
公益財団法人佐賀県産業振興機構
九州シンクロトロン光研究センター
〒841-0005 佐賀県鳥栖市弥生が丘8-7
TEL : 0942-83-5017
e-mail : seno@saga-ls.jp

 

谷一 尚 TANIICHI Takashi
山陽学園大学 副学長・教授
〒703-8501 岡山県岡山市中区平井1-14-1
TEL : 086-272-6254
e-mail : takashi_taniichi@sguc.ac.jp
林原美術館 館長
〒700-0823 岡山県岡山市北区丸の内2-7-15
TEL : 086-223-1733
e-mail : taniichi@hayashibara-museumofart.jp

 

有馬 孝尚 ARIMA Taka-hisa
東京大学 大学院新領域創成科学研究科
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉5-1-5
TEL : 04-7136-3805
e-mail : arima@k.u-tokyo.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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