Volume 28, No.2 Pages 183 - 184
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SACLA利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the Proposal Review Committee (PRC) of SACLA
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/電気通信大学 レーザー新世代研究センター Institute for Laser Science, The University of Electro-Communications
1. はじめに
X線自由電子レーザー施設SACLAは、SPring-8などの多数の実験ハッチを同時に運用できる放射光とは異なり、基本的に1ビーム・1ユーザーグループとなる。もちろん実験課題としては、マテリアルサイエンス(MAT)、バイオサイエンス(BIO)、高エネルギー密度科学(HEDS)、手法・装置開発分野(MI)、化学(CHM)、原子分子物理学(AMO)、X線光学(XOP)、産業利用分野(IND)など様々な研究が行われる(図1)。これを利用研究課題審査委員会(PRC)はその提案から選考までを行う必要があり、自ずと選考委員には幅広い視野が必要になる。また、すでにX線自由電子レーザーは、SACLAが誕生した時の世界で2か所しかない状況から、5か所で運用が始まり、今後さらに増えていく。その中でSACLAで行われている研究が独創性を持ち、他ではできない科学も行われているようにしなければならず、委員は自分の分野だけでなく、世界のXFELの現状も知らなければならない。これが、SACLA-PRCの特徴であり、面白いことでもある。また、選考には海外研究者の意見も重要になる。海外レフェリーの中には、他施設での選考に関わる人がいるし、それら施設の状況もよく知っている場合が多い。それだけでなく、PRCで委員の評価・意見を聞いていると、場合によって国内・国外で意見が分かれる時が少なくない。それらを理解し、SACLAでの科学を選考できる喜びが、この委員会にはある。
図1 SACLAの応募された研究分野分布
2. 特徴的な審査体制
2-1. 本審査委員会での議論
PRC委員はあらかじめ担当する20~30の課題について評点付け、審査コメントを記入してもらう。それを点数でソートし並べ、上から採択を決めていけば本審査委員会は何もすることがなく機械的に決まるはずである。しかし、このPRCではそうはならない。一つは評点が1~4の範囲で均等につけることを要求されるために、自分が担当している課題にいい課題が多いと、いい提案だと思っていても点数を低くしなければならない。もう一つの議論要因は、点数のばらつきである。委員会では、特にボーダー近傍の提案に対して、その評点理由を述べてもらい、それを基に評価を上げるか下げるかも議論する。海外レフェリーは、本審査委員会には出席しないので、その部分は審査コメントを委員が読み、なぜ評点がこうなったかを議論する。このあたり、単純な議論にはならない。例えば、興味深い研究課題であるが、先にLCLSなど他のXFEL施設で実験が行われている場合、追加実験がSACLAを使って大きく発展できると判断できれば高い側に、単なる追従に近いと低い側に移る。これらに加え、最近では、採否履歴も委員会資料に明示するようにし、ずっと惜敗している場合には、それを加味して判断をすることになる。
SACLAの実験ステーションは、いまだ手法が確立されていないものもある。また課題提案者は、SACLAにある施設のパフォーマンスを少し超えたところで実験を提案してくることもある。この場合、施設側の技術を理解している人と科学的な内容を理解できているPRC委員が議論をする必要が出てくる。例えば、ポンプレーザーの特性が少し足らなかったら、この実験は成立するのか?現在の分解能を少しだけ向上できたとして、この実験は意味あるレベルまで上がれるか?などの議論をする必要がある。これを全体のPRCで行うと、サブの部屋をいくつも作ってそこで議論する必要があるが、このPRCでは、事前にその討論会を行い、関係者に集まってもらってそこでの結論を出していただいている。
2-2. コメントフィードバック
提案者にとって、審査員のコメントは例え採択されたとしても重要なsuggestionになる。ましてや不採択となった場合には、何が不足し、何を改善すれば採択に至ることができるのかがわからないと、毎回不採択となり、そのうちSACLAへの興味も薄れてしまうかもしれない。そのために、審査コメントのフィードバックもPRCの重要な仕事となっている。課題により担当している委員が、他の審査員のコメントを含めてまとめ、フィードバックコメントを作成、それを委員長がチェックする。なるべく生の声を伝えるように努力をしている点でもある。
2-3. 海外レフェリーへの報告
数年前から海外の方も審査に携わっていただくことにしている。ただ、SACLAのPRCでは、時間の制約もあって、海外レフェリーには出席を求めていない。このような状況でいいレフェリーをどうやって維持していくかは、PRCとしては重要な課題であった。単に評点を付けて何もないのでは、いずれこの海外レフェリーも離れて行ってしまう。そこで、本PRCでは、自分が審査した課題がどの位置に来たのか、またどのようなフィードバックコメントをPRCが出しているのかを伝えるようにしている。
3. まとめとして
以上は、実はPRCでこれまで議論して変えてきている一部分である。このPRCも発展している途上であり、多くの意見を考えながら進めてきているところである。現在は、不採択になる方の数も少なからずいるが、その人たちへもSACLAへ課題提案をしてためになったと思われるようにしないと、あっという間に固定客の研究課題だらけになってしまう。新しいサイエンスを生み出すには、このようなPRCの役割も大きいのは当然で、委員の方々には難しい議論や全く異分野の議論もきちんと聞いていただき、その分野の研究トレンドも理解していただけるように心がけている。引き続き、SACLAの支援をお願いしたいと思っています。
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