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Volume 28, No.2 Pages 154 -155

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the Proposal Review Committee (PRC) of SPring-8

藤原 明比古 FUJIWARA Akihiko

SPring-8利用研究課題審査委員会 委員長/関西学院大学 工学部 School of Engineering, Kwansei Gakuin University

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SPring-8

 

1. はじめに
 令和3年(2021年)4月~令和5年(2023年)3月の2年間、SPring-8利用研究課題審査委員会(Proposal Review Committee、通称PRC)の委員長を務め、2021B期~2023A期の課題審査を担当させていただきました。以下に、この2年間の審査を振り返り、概要と感想を簡単に述べます。

 

 

2. PRCでの審査に関して
2-1. PRCの役割
 PRCは、SPring-8選定委員会のもとに設置された4つの委員会(専用施設審査委員会、PRC、大学院生利用審査委員会、SPring-8/SACLA成果審査委員会)の一つで、一般利用研究課題の課題審査を担っております[1, 2][1] https://user.spring8.or.jp/?p=16542
[2] https://user.spring8.or.jp/?p=26047
。近年では、1期あたり800以上の応募課題を審査し、600程度の選定課題候補を決定してきております。応募課題数が多いことに加え、応募内容の研究分野、対象、手法が非常に多岐にわたるため、初めに学識者によるレフェリー審査が行われ、その結果を踏まえて分科会ごとのビームタイム配分素案が作成され、PRCで全体のビームタイム配分案が決定されるという3段階で審査が行われます。このような審査過程を経て決定された課題選定案をSPring-8選定委員会に上程するのがPRCの役割です。

 

2-2. PRCでの課題審査
 PRCでの審査過程は以下の通りです。申請課題は、主に科学技術的価値や成果創出への期待度の視点で、1課題あたり原則4名のレフェリーによって審査されます。分科会は今期2年の期間中に再編されました。2021B期までは生命科学分科会、散乱・回折分科会、XAFS・蛍光分析分科会、分光分科会、人文・社会科学分科会、産業利用分科会、長期利用分科会で構成されておりました。2022A期以降は、近年の申請状況に合わせ、審査分野(散乱回折、分光・分光イメージング、イメージング、非弾性散乱、構造生物学、産業利用、人文・社会科学、その他)に基づく分科会の構成になりました[3][3] SPring-8/SACLA利用者情報 26 (2021) 274.。分科会ではレフェリー審査の結果をふまえ、各専門分野で総合的な審査を行います。PRCは各分科会の主査および施設側委員から構成されており、各分科会で議論された内容に関する情報を共有すると共に、ビームタイム配分案を決定します。
 PRCでは、当該期間のビームタイム配分案を決定するのが最も重要な任務ですが、その課題審査を通して、より良い課題を選定するために、研究動向や審査システムのあるべき姿についても議論します。以下、今期2年間で取り組んだ主な点について触れます。

 

2-3. 様々な改編の下での審査
 今期2年の期間中、利用制度の変更がありました。大きな変更の一つは、上記の通り分科の再編でした。さらに、2022B期からは年6回募集のビームライン(BL)が3本から9本へと増加しました[4][4] https://user.spring8.or.jp/?p=34896。これら利用制度の大きな変更に加え、SPring-8の施設自体(ハードウェア)の変更、すなわち、装置群の再編・集約や新規装置の導入もありました。短期間でのハードウェアとソフトウェアの大きな変更は、課題審査に大きな影響を与えうるものでした。
 実際、おおよそ想定されたものから想定外のものまで、これまでの「定常運転」とは異なる案件が顕在化しました。しかしながら、これまで継続的に行われてきた研究動向や審査システムについての議論の蓄積とそれに伴って養われた対応力が、これらの影響を最小限に抑え、課題審査が実施されたと理解しております。
 このように、今期2年間は、様々な環境変化の下で、対処すべき案件の整理とフィードバックを繰り返しながら、あるべき透明性と公平性を担保した課題審査を目指してきました。その中で、改めて、採択率や採否のボーダーラインとなる評価値が分科やBLによらない環境整備の重要性を確認しました。

 

2-4. より良い申請のためのフィードバック
 不採択課題へのフィードバックをどのようにするかは長い間議論となっています。現在、審査結果については分科会からコメントを付記されますが、全ての申請に対して採否理由の詳細まで触れているわけではありません。不採択理由の詳細を伝えることは、次の申請の改善に非常に有用であり、ひいては、申請課題全体の質の向上を通して、SPring-8の成果最大化へとつながるものだと信じています。現在、具体的なフィードバック方法について、技術的な点まで踏み込んだ議論も進んでおります。近い将来、次回申請に有用な情報となるフィードバックができることを期待しています。

 

2-5. 補欠課題
 2020年以降世界中で猛威を振るい、国内の産官学の研究開発にも大きな影響を与えた新型コロナウイルス感染症によって、ユーザー利用期間中に多くの実験のキャンセルがありました。このような状況を受け、キャンセルされたビームタイムを補欠課題で実施するなどの新しい取り組みも行われました。また、この補欠課題システムは、電気料金高騰など様々な理由によって変動するビームタイムを吸収する機能としても威力を発揮しています。今後のビームタイムの有効活用の一つの機能として継続されることを期待します。

 

 

3. おわりに
 SPring-8利用研究課題審査委員会は、透明性と公平性を担保し、SPring-8からの研究成果を最大化するための成熟したシステムが構築されていると感じます。数多くの課題を審査することや今期のような変革の中で審査することは非常に大変な作業ですが、このような基盤があることで、ビームタイム配分案を作成するにとどまらず、より良い課題を選定するためには何が必要かを議論することができることを実感しました。
 紙面の都合上、分科会およびPRCでの議論の一部のみを紹介しましたが、より良い課題審査のために様々な議論が行われています。一方で、分科会やPRCの独立性と統一性・継続性のバランスについても検証し続けることも重要で、成熟した基盤の中で守るべきことは継続しながら硬直化することなく進化していくことが大切です。今後、一層飛躍が求められるSPring-8において、委員会の柔軟かつ迅速な対応への期待は一層増していくものと考えられます。
 最後に、レフェリー、分科会およびPRCの委員の皆様、JASRIスタッフの皆様のご尽力に敬意を表すとともに、心より感謝を申し上げます。

 

 

 

参考文献
[1] https://user.spring8.or.jp/?p=16542
[2] https://user.spring8.or.jp/?p=26047
[3] SPring-8/SACLA利用者情報 26 (2021) 274.
[4] https://user.spring8.or.jp/?p=34896

 

 

 

藤原 明比古 FUJIWARA Akihiko
関西学院大学 工学部
〒669-1330 兵庫県三田市学園上ケ原1番
TEL : 079-565-9752
e-mail : akihiko.fujiwara@kwansei.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794