Volume 27, No.4 Page 389
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2019A期 採択長期利用課題の事後評価について – 3 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2019A -3-
2019A期に採択された長期利用課題について、2021A期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第72回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2022年6月29日開催)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2019A期に採択された長期利用課題3課題のうち2課題の評価結果は2022春号および夏号に掲載済みです。
課題名 | テンダーX線タイコグラフィの基盤技術開発とその応用展開 |
実験責任者(所属) | 高橋 幸生(東北大学) |
採択時課題番号 | 2019A0164 |
ビームライン | BL27SU |
利用期間/配分総シフト | 2019A~2021A/66シフト |
[評価結果]
本長期利用課題は、テンダーX線を用いたX線タイコグラフィ計測技術を開発し、軽元素ナノイメージングに関する応用研究を行うための基盤を構築することを目標として実施された。画質低下の原因として想定される複数の要因に対する解決策として、(1)計測装置全体の恒温化、(2)入射X線切り出しに用いる円形ピンホールの精密加工、(3)ミラー由来のインコヒーレント成分低減のための水平集光ミラーの取り外しと垂直集光ミラーのベンド解除、(4)イオン注入層を持たない光子計数型二次元検出器の開発・導入、(5)フレネルゾーンプレートとオーダーソーティングアパーチャの導入を着実に実施することにより、課題期間中に分解能50 nmを達成したことは高く評価できる。応用研究としては、当初計画していたタイヤゴムにおける硫黄架橋の観測はフラックス不足で成功には至らなかったが、リチウム硫黄電池正極活物質材料として開発された硫黄変性ポリブチルメタクリレート粒子について粒子内の硫黄化学状態を非破壊で可視化することに成功した。テンダーX線領域におけるX線タイコグラフィ技術開発が世界初であることに加え、観測できる元素種の応用上の重要性もあり、新しい研究領域の開拓にも繋がると期待されるなど、科学技術的波及効果も大きい。情報発信については、装置開発の公表論文が1報、応用研究の論文1報が査読中である。技術開発に多くの時間を費やしていることを考えると妥当であると判断される。
上記の通り、テンダー領域のスペクトロタイコグラフィという世界でも初めての手法を開発し、それを用いた応用研究も進めており、長期利用課題として高く評価できる。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 42298
M. Abe et al.: "Development and Application of a Tender X-ray Ptychographic Coherent Diffraction Imaging System on BL27SU at SPring-8" Journal of Synchrotron Radiation 28 (2021) 1610-1615.
[2] SPring-8 publication ID = 44008
M. Abe et al.: "Visualization of Sulfur Chemical State of Cathode Active Materials for Lithium–Sulfur Batteries by Tender X-ray Spectroscopic Ptychography" The Journal of Physical Chemistry C 126 (2022) 14047-14057.