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Volume 27, No.4 Page 293

理事長室から 心理的安全性-安全・安心なJASRIを目指して-
Message from President Psychological Safety – Aim for safe and secure JASRI –

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 我が国で安全・安心な社会を目指す取組みが始まってから久しいですが、安全と安心の違いについて、私は、安全=客観的安全性=物理的安全性、安心=主観的安全性=心理的安全性、という関係式で理解してきました。物理的安全性は定量的に評価できるのに対して、心理的安全性は定量的には評価できず漠然としていると思っていましたが、必ずしもそうではなく、「心理的安全性(Psychological Safety)」という用語は、多くの学術記事で取り扱われていて、定義もしっかりしていることを最近知りました。心理的安全性に関して共鳴することが多々あり、JASRIにおける研究成果創出に資すると感じたので、以下に皆さんからのfeedbackを期待し、「心理的安全性」に関して紹介します。
 心理的安全性を初めて提唱したのは、組織行動学の研究に取り組むハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授1)です。彼女は心理的安全性を「このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の思い」と定義しました。分かり易く言えば、メンバー同士の会話でどのような発言をしたとしても、メンバーから嫌われたり、関係が崩れたりすることがなく、安心して自分の意見や考えを言える状態のことを言います。病院において投薬量のミスに気がつきながら黙認する、企業買収に疑問をもちながらも指摘せず失敗におわるなど、様々な事例で心理的安全性の重要性を提唱しました。心理的安全性が低い環境では、無知だと思われる不安、無能だと思われる不安、邪魔をしていると思われる不安、ネガティブだと思われる不安が大きいと言われています。私は、特に研究を行う職場が、このような心理的安全性が低い状態では、価値ある研究成果を創出することや、研究を楽しむことはできないと思います。
 では、心理的安全性を高めるにはどうすれば良いのか?「心理的安全性のつくりかた」2)では、1. 何を言っても大丈夫だという「話しやすさ」、2. 困ったときはお互い様という「助け合い」、3. とりあえずやってみようという「チャレンジ精神」、4. 複眼的な視点を尊重する「新奇歓迎」、だと提案しています。私は大学時代の恩師である高良先生から、研究におけるBrain Storming(ブレスト)の大切さを教えられましたが、今から思い返すと上記の項目を満たす心理的安全性が高い環境の中で育てられたと感じます。
 心理的安全性のメリットは、責任感や関心が芽生えやすい、パフォーマンスの向上が期待できる、スムーズな情報交換ができるようになる、イノベーションが生まれやすくなる、と言われています。ただし、心理的安全性向上を目指す上で注意すべき事は、何を言っても許される、失敗しても大丈夫といった過度な振る舞いや、馴れ合いに陥らないようにするリーダーシップが求められています。心理的安全性の前提には、相互信頼、相互尊重という各自の心の姿勢が必須だと思います。
 心理的安全性を高めるにはどうすれば良いのか?という問いには正解はないと思いますが、是非、皆さんからのご意見・ご提案をお聞きしたいと思っています。


1)https://en.wikipedia.org/wiki/Amy_Edmondson
2)石井遼介著(2020)、日本能率協会マネジメントセンター

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794