Volume 27, No.4 Pages 361 - 365
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第6回SPring-8秋の学校を終えて
The 6th SPring-8 Autumn School
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency
秋の学校概要
2022年度の第6回SPring-8秋の学校が、9月4日(日)~9月7日(水)の4日間の日程で開催されました。昨年度、一昨年度と、新型コロナウイルスの影響により、当初日程の9月から延期して12月に開催しておりましたが、本年度は3年ぶりに元通りの日程である9月に開催することができました。大きなトラブルがなく無事に終了したことを報告すると共に、多くの関係者のお力添えをいただきましたことに感謝申し上げます。
第6回SPring-8秋の学校は、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と高輝度光科学研究センター(JASRI)が主催し、理化学研究所放射光科学研究センター、兵庫県立大学理学部/大学院理学研究科、関西学院大学理学部/工学部/生命環境学部/大学院理工学研究科、岡山大学からの共催をいただき、関係諸機関の後援を受けて行われました。校長にはSPRUC会長の西堀英治先生(筑波大学教授)が就任し、事務局はJASRI利用推進部にご担当いただきました。共催大学においては、SPring-8秋の学校を大学/大学院の単位として認定しているところもあります。
SPring-8秋の学校が目的とするところは、幅広い観点からのSPring-8ユーザーおよび放射光科学に関わる人材の発掘であります。SPring-8では夏の学校も開かれ、毎年多くの参加者を数えております。夏の学校との最大の違いは、幅広く参加者を募るという観点から、SPring-8秋の学校では放射線業務従事者登録が必要ないことです。今回の参加者におかれましても、大学3回生の方もいれば社会人経験が豊富の方もおり、多様な方に対して放射光を学ぶ機会を提供する場となっております。
秋の学校のもう1つの特徴は、SPRUCが主催団体に入っており、SPRUCの研究会及び評議員の皆様からグループ講習のテーマ及び講師の推薦を受けていることです。今回も多くのSPRUCメンバーの方々から講師として秋の学校にご協力いただき、バリエーション豊富で魅力的なグループ講習が行われました。遠方からお出でになられた講師の方も多くおられ、講師をお引き受けくださった皆様には深く感謝申し上げます。
参加申込者は67名を数え、その後体調不良等の理由で一部キャンセルが生じたものの、最終的に23校7社から60名の参加を得ました。内訳は次の通りです。学生51名(学部3年生10名、学部4年生17名、博士課程前期(修士)1年(学部5年生含む)17名、博士課程前期(修士)2年5名、博士課程後期1年2名)、社会人9名(企業9名)。男性44名、女性16名。放射線業務従事者登録のない方は44名でした。
カリキュラムについて
カリキュラムは、1日目に3講座、2日目に4講座の基礎講義を行い、3日目と4日目の2日間で4テーマのグループ講習を行いました。グループ講習に関しては、参加者は以下の「グループ講習について」で示す18テーマから希望する4テーマを選択し、受講しました。また、2日目には、SPring-8実験ホール及びSACLA外部の見学が行われました。コロナ禍である状況を鑑み、昨年度及び一昨年度と同様に懇親会は中止としました。参加者の交流を深めるため、1日目の最後に自己紹介の時間を設けました。
第6回SPring-8秋の学校 日程表
基礎講義について
基礎講義の内容と担当者は以下の通りです。講義内容は私から見ても勉強するところが多く、参加者に取って有意義な講義であったと思われます。参加者からの講義後の質疑も活発でした。基礎講義の間にSPring-8内の見学を実施しました。
基礎講義1. 放射光発生の基礎
正木満博(高輝度光科学研究センター)
基礎講義2. ビームライン
~光源と実験ステーションを繋ぐもの~
仙波泰徳(高輝度光科学研究センター)
基礎講義3. X線検出器の基礎
上杉健太朗(高輝度光科学研究センター)
基礎講義4. X線自由電子レーザー入門
久保田雄也(理化学研究所)
基礎講義5. X線イメージング
篭島靖(兵庫県立大学)
基礎講義6. 回折・散乱の基礎と構造解析への応用
藤原明比古(関西学院大学)
基礎講義7. XAFSの基礎
田渕雅夫(名古屋大学)
図1 講義風景
図2 見学風景
グループ講習について
グループ講習のテーマと担当者は以下の通りです。多くの皆様の協力により、18テーマを準備することができました。秋の学校は放射線業務従事者登録が必要ない代わりに、放射光そのものを利用しての講習はできないのですが、実際の実験装置やデータを手にして疑似的測定や解析を進めることで、多くの参加者に取って刺激的な講習になったと思われます。
1. 単結晶構造解析
橋爪大輔(理化学研究所CEMS)
足立精宏(理化学研究所CEMS)
2. 粉末X線回折によるその場観測の実際
中平夕貴(量子科学技術研究開発機構)
漆原大典(名古屋工業大学)
3. タンパク質結晶構造解析
水島恒裕(兵庫県立大学)
河村高志(高輝度光科学研究センター)
4. 小角X線散乱
増永啓康(高輝度光科学研究センター)
関口博史(高輝度光科学研究センター)
八木直人(高輝度光科学研究センター)
5. 放射光を利用した応力・ひずみ計測
菖蒲敬久(日本原子力研究開発機構)
冨永亜希(日本原子力研究開発機構)
城鮎美(量子科学技術研究開発機構)
6. X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価
小金澤智之(高輝度光科学研究センター)
7. X線吸収分光法
大山順也(熊本大学)
山添誠司(東京都立大学)
細川三郎(京都工芸繊維大学)
片山真祥(高輝度光科学研究センター)
8. 赤外分光分析
池本夕佳(高輝度光科学研究センター)
岡村英一(徳島大学)
9. 光電子分光(HAXPES)
保井晃(高輝度光科学研究センター)
高木康多(高輝度光科学研究センター)
10. メスバウアー分光入門
藤原孝将(量子科学技術研究開発機構)
11. 結像型X線顕微鏡による顕微CT
高山裕貴(兵庫県立大学)
12. 高圧力の発生と高圧下の物質科学
太田健二(東京工業大学)
13. ドーパント原子配列解析
松下智裕(奈良先端科学技術大学院大学)
14. GeV光ビームの生成とサブアトミック科学
村松憲仁(東北大学)
15. ソフト界面の構造解析
谷田肇(日本原子力研究開発機構)
矢野陽子(近畿大学)
今井洋輔(九州大学)
16. コンプトン散乱
櫻井浩(群馬大学)
辻成希(高輝度光科学研究センター)
17. X線磁気分光と磁気イメージングによる磁性材料の解析
鈴木基寛(関西学院大学)
大河内拓雄(高輝度光科学研究センター)
18. 放射光軟X線光電子分光による表面化学反応の“その場”観察
吉越章隆(日本原子力研究開発機構)
津田泰孝(日本原子力研究開発機構)
図3 グループ講習風景
まとめ
3年ぶりに秋に開催することができたSPring-8秋の学校は、多くの参加申込をいただき、最終的に60名の参加を得て開催することができました。当日も大きなトラブルはなく、帰宅後に体調を崩された報告も受けておらず、無事に秋の学校を終えることができました。
秋の学校では必須ではないもののレポート課題を設定しておりますが、多くの参加者から返信をいただいており、参加者の意欲の高さが伺われます。講師の方は添削のご負担をおかけしますが、参加者の一層の充実のため、宜しくお願い申し上げます。
昨年度からグループ講習をそれまでの3テーマから4テーマ選択できるようにしております。これまでのアンケート結果によると参加者はグループ講習の満足度が高く、参加者により多くのグループ講習を体験できるようにしたものです。今回の参加者からのアンケート結果においても、グループ講習の満足度はとても高く、多くの参加者が有意義な時間を過ごしたものと評価しております。一方、グループ講習の講師の方の負担とはバランスを取る必要があります。先に記しました通り、グループ講習のテーマ・講師はSPRUC研究会および評議員の皆様からの推薦を受けています。参加者・講師のどちらの満足度も高くなる形を目指して、今後も最適な秋の学校の形を考えていきます。
SPRUCはSPring-8秋の学校の主催機関であります。今後秋の学校をどのように発展させていくか、会員の皆様の忌憚のないご意見を賜ることができれば幸いです。
SPring-8秋の学校を実施するにあたりまして、講師の皆様を始めとして、多くの関係者の方々に大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。より良い秋の学校にしていくことができるよう、今後とも御指導どうぞ宜しくお願い致します。
(国)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0975
e-mail : daiju@spring8.or.jp
第6回SPring-8秋の学校に参加して
小林製薬株式会社
中央研究所 製剤研究グループ
堀合 眞知
小林製薬株式会社は医薬品、芳香剤、栄養補助食品、日用雑貨品などの分野で様々な製品を提供しています。私は外用薬の処方設計を主業務としており、試作した製剤の構造を評価するために放射光設備を利用しています。恥ずかしながら“利用している”とは言うものの測定代行で取得したデータの評価しか経験がなく、基礎概論をほとんど勉強していませんでした。そこで今回、最先端の施設で最前線の研究者から直接講義を受けられる秋の学校への参加を決めました。
残暑が続き台風も心配された時期での開催ではありましたが、秋の学校という名にふさわしく朝晩は涼やかで気持ちの良い環境の中、多くの刺激を受けた4日間となりました。本報告記を読まれている方の中には「放射光は聞いたことがあるし興味もあるけど、何ができるのか分からない」という人も多いのではないでしょうか。もし、迷われているのであれば秋の学校への参加を強くお勧めします。大学院修士課程を対象とした夏の学校とは異なり、放射線業務従事者登録が不要であるため企業の方も参加しやすい募集要件となっています。内容も「放射光とは」の講義に始まり、発生した光から狙った光のみを取り出す「分光器」や「ビームライン」、「放射光を利用した研究実例」の一連の流れを座学で掴んでから施設見学やグループ講習へ進むため、理解しやすいカリキュラムとなっています。放射光の講義ということで数式が羅列されたものを想定していましたが、どの講師の方も「できるだけ直観的に、かつ正しく教える」ことを意識されており、物理学の苦手な私でも非常に理解しやすい内容となっていました。
コロナ禍直後は様々な研修や学会が中止され、学習機会が失われました。私自身入社2年目を前に予定されていた研修が次々と中止され、やるせなさや知識・経験不足による将来への不安を感じたのを今でも覚えています。現在ではオンライン開催が主流となり以前よりも学ぶ機会は遥かに多くなったように思いますが、秋の学校はリアル開催であり、会場の空気感や講師陣の熱量を肌に感じながら学び、自分の目で見て歩いた施設や機器のスケール感は確かに記憶に残るものでした。SPring-8は、一周1436mと聞いて思い浮かべたものより壮大であり、見た目は同じでもビームラインごとに部品の組み合わせが異なること、時にはユーザーに合わせて手作りすることもあるといった話は大変興味深く、また目を輝かせながら説明してくださる研究員の方々がとても印象的でした。
最後になりますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンライン開催が主流の中、例年と変わらないカリキュラムで秋の学校を開催していただき、誠にありがとうございました。講師の先生方、職員の皆様、並びに秋の学校事務局の皆様に厚くお礼申し上げます。来年以降も無事に開催され、より多くの学生、企業の皆さまが参加されることが次世代の放射光科学の進展に貢献することを願っています。
図4 集合写真(放射光普及棟前にて撮影)