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Volume 23, No.4 Pages 347 - 349

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

International Conference on X-Ray Microscopy(XRM2018)会議報告
Report on the International Conference on X-ray Microscopy (XRM2018)

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 今回で14回目の開催となるX線顕微鏡国際会議 International Conference on X-Ray Microscopy(XRM2018)が、カナダ・サスカトゥーン市で開催された。XRMは1983年にドイツ・ゲッチンゲンで最初に開催された。以降1987年から2008年までは3年ごとに、それ以降は2年ごとの開催となっている。会議場はTCU placeという街中にある会議場で、コンパクトながら設備は整っていた(図1、2)。

 

図1 TCU place外観。サスカトゥーンの繁華街に近い場所にある。

 

図2 会場内。パーティー会場かと思わせるような椅子とテーブルであった。

 

 

 会議は8月19日~24日の開催であった。日本では酷暑の期間であるが、現地のこの時期の平均気温はおよそ20°Cと極めて快適な気温である。参加者数はおよそ300名程度で、口頭発表は80件ほど、ポスター発表は200件ほどであった。これにプラスして、若手のポスター発表者には発表内容の紹介をするためのFlash talkの時間が設けられた。また、発表内訳はおおよそであるが、次のようであった(Prof. Chris Jacobsen調べ)。

 

New Instruments and techniques: 32%
Coherent Imaging: 20%
Biology: 12%
Spectro-microscopy: 10%
Source, optics, and detectors: 9%
In-situ, operand and time-resolved: 8%
Materials science: 5%
Environmental and earth science: 4%

 

 新規開発に関する発表が30%程度あるのは従来どおりであるが、Coherent Imagingが全体の1/5となったことは特筆すべきであろう。
 会期の最終日(24日)午後にはCanadian Light Source(CLS)の見学があった。10名ほどのグループに分かれて、ビームラインを3本程度見学した。1本あたりの見学時間はおよそ10分程度に区切られ、子細に話を聞きたい人には物足りなかったであろう。ちなみにCLSは入射器の不調により、2018年12月までのマシンタイムがすべてキャンセルとなっている[1][1] http://www.lightsource.ca/operations_schedule.html
 また、今回からアブスト集を無くして、Proceedingに一本化。事前提出および審査を経て、会期直前にオープンになるというシステムになった。今回の分は、Microscopy and Microanalysis誌のVolume 24 - Supplement S2に掲載されている[2][2] Microscopy and Microanalysis, 24 (S2).

 

 

2. 会議報告
 ここでは筆者の興味を引いたいくつかの研究発表を紹介する。パラレルセッションもあったため、すべての発表を聞いてはいないことをお断りしておく。
 Benedikt Rösnerらは、軟X線領域において10 nm以下の空間分解能を達成するための、Fresnel Zone Plate(FZP)の製作方法の提案を行い、性能評価を行った。FZPの最外線幅は8.8 nmであるが、750 eVにおける7 nm線幅のパターンのvisibilityは0.31%だった。これをもって著者らは「空間分解能7 nm」と言っていたが、そもそも線幅が7 nmなのであって、本来は空間分解能は14 nmとするべきであろう。最近、意図的かどうかは分からないが、このように線幅と空間分解能が混同されているケースが目立つ。Manuel Langer(PSI, SLS)らは、軟X線領域でのptychographyの開発を行った。光学系はFZPを用いた標準的といってもいいものである。空間分解能は25 nm程度で、磁気イメージングやFe L吸収端近傍でのスペクトル測定も行っている。3D計測までは進んでいないが、2022年のSLSアップグレードの際に専用のエンドステーションを作る計画があるらしい。ここで用いられた検出器はMoenchというもので現状では1 cm × 1 cmの有効面積であるが、800 eVまでフォトンカウンティング計測が可能なようである。kHz程度のフレームレートが出るとのことである。Hanfei Yan(NSLS-II)は、NSLS-IIの硬X線ナノプローブの現状に関する講演を行った。集光素子としてはFZPとMultilayer Laue Lens(MLL)を用いており、12 keV以下はFZP、それ以上はMLLと使い分けているようである。FZPのビームサイズは50 nm程度であるのに対し、MLLの集光サイズは8 nm程度にもなっている。デモンストレーション的な計測であるが、集光ビームを使って視野1.5 µm3のCT計測を行ったデータを示していた。非常に高い空間分解能の画像ではあるが、計測時間が2日ととても長い。やはり集光ビームを用いてCT計測を行うのは不適切であると感じた。Linda Croton(Monash Univ.)は、CT画像におけるS/N向上の手法として屈折コントラスト像からの位相回復を実施するPaganin法が優れていることを示した。さらに、検出器の局所的なMTFを推定する手法を考案し、ある種のリングアーチファクトを軽減できることを示した。Christian Schroer(DESY)らは、補償光学系を導入した屈折レンズ(ベリリウム製)により、200 nm程度の集光ビームを生成した。使用エネルギーは8−10 keV程度である。焦点距離は200 mm程度と、ワークスペースが確保しやすい状況にある。ちょっと変わった内容として、Juergen Thieme(NSLS-II)らは、NASAの計画であるMARS2020のリターンサンプルの分析手順に関する講演を行った。シリンダ状の試料容器のままCT計測や回折データの取得を行い、その後開封し詳細分析を行うことを考えているようであるが、ちょっと無理があるように見受けられる。火星試料はおそらく大量に持ち帰られるので、大気非暴露に注意しつつ迅速に分類・分析を進めたほうが良いだろう。
 前述のとおり、XRMでもアプリケーションの話題が40%程度もしくはそれ以上を占める。多くの発表は、その場観察や複合計測を意識しており、実際そのような計測事例が多い。当然空間分解能としてナノオーダーはごく一般的となってきている。今後しばらくはこの傾向が続くと思われる。
 各種のX線顕微鏡システムが性能をあげ、時間・空間分解能が上がっている。必然的にデータ量は増加の一途をたどっており、これにどう対処していくのかどこの施設も頭を悩ませている。定型が決まった解析は簡単にスクリプトを組んで、どんどん流していけば済むが、解析方法が定まらない場合は、トライ&エラーを大量のデータに関して実施しなければならない。こういう場合は、何らかの指針を与えられるようなシステムの開発が望まれる。次回ではそのようなデータ解析方法に関するワークショップを開こうという意見も見られた。

 

 

3. おわりに
 今回のWerner Meyer-Ilse Memorial Awardは、Dr. Claire Donnelly(PSI, ETH)とDr. Marie-Christine Zdora(Univ. Coll. London, DLS)に決定した。それぞれの講演タイトルは、“Hard X-Ray Magnetic Tomography: A New Technique For The Visualization of Three-Dimensional Magnetic Structure”および“Advanced X-Ray Phase-Contrast and Dark-Field Imaging with The Unified Modulated Pattern Analysis(UMPA)”であった。名前からも分かるようにどちらも女性である。最近数回をみても、この会議は女性参加者が多く、非常に良い研究をしているように見受けられる。
 XRMとは話がずれるが、CLS見学の際に気づいたのが3Dプリンタの利用がずいぶん進んでいる事である。CLSでは試料ホルダーや検出器用のちょっとした治具などを3Dプリンタで製作している。これらの部品は小さな変更が頻繁に行われるが、それほど大量生産するわけでもない。3Dプリンタで気軽に製作し、更新していくことが有効な種類のものである。ナノオーダーの安定性や非常に高い耐放射線性を要求するような箇所でなければ、ABS樹脂のパーツでも十分機能すると考えられる。これはSPring-8においても今後進めるべきことの一つのように思われた。
 次回のXRMは2020年に台湾で開催される。実施時期は未定のようである。また、会期中の投票の結果2022年の開催はSwedenのLundと決定した。
 XRM2018が始まる直前の8月14日にProf. Günter Schmahlが亡くなった。X線顕微鏡における偉大な先人であり、XRMを始めた人でもある。もう少しこの業界の発展を見守って頂きたかったが、大変残念である。

 

図3 会場内。ポスター会場の様子。企業展示ブースもすぐ近くに配置されている。

 

 

参考文献
[1] http://www.lightsource.ca/operations_schedule.html
[2] Microscopy and Microanalysis, 24 (S2).

 

 

 

上杉 健太朗 UESUGI Kentaro
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : ueken@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794