ページトップへ戻る

Volume 23, No.4 Pages 396 - 397

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2016A期 採択長期利用課題の事後評価について – 2 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2016A -2-

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

Download PDF (272.99 KB)
SPring-8

 

 2016A期に採択された長期利用課題について、2017B期に2年間の実施期間が終了したことを受け、SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会による事後評価が行われました。
 事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめますが、同一研究テーマの課題が2018A期からの長期利用課題として新たに申請されたため、その面接審査と同時に最終期(2017B期)終了前に当該課題のヒアリングを第62回長期利用分科会(2017年12月12日および15日開催)において行いました。その後、当該課題の最終期(2017B期)が終了し、実験責任者より改めて提出された、全期間の研究成果をまとめた最終版の「長期利用課題終了報告書」およびヒアリングの結果を踏まえ、長期利用分科会による最終的な評価結果がとりまとめられました。
 以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
 なお、2016A期に採択された長期利用課題4課題のうち2課題の評価結果は、「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.23 No.3(2018年8月号)に掲載済です。また残り1課題の評価結果については次号以降に掲載する予定です。

 

課題名 P型ATPaseの結晶構造解析
実験責任者(所属) 豊島 近(東京大学)
採択時課題番号 2016A0133
ビームライン BL41XU
利用期間/配分総シフト 2016A~2017B/75シフト

 

[評価結果]
 本課題では、イオンを細胞内外の濃度勾配に逆らって輸送するイオンポンプ膜タンパク質について、その作動機構を複数の反応中間体の結晶構造から明らかにすることを目的として実施された。対象とするタンパク質分子はP型ATPaseとして、Ca2+-ATPaseおよびNa+, K+-ATPaseであり、いずれも回折能が低い結晶であることから、SPring-8の高輝度光が必須である。また、ポンプ作動における膜脂質の働きを解明するために、その可視化に関する技術開発を行った。
 Ca2+-ATPaseでは、最も解析が進んでいる骨格筋型(SERCA1a)について試料調製法を見直し、高純度精製標品を大量に調製することに成功した。それを活用して、新たに4種類の中間体構造を解析し、Caイオン結合とATP結合の順序の異なる二経路での構造変化も解明された。その結果、段階的なCa結合の直接的な証明となるデータが得られている。さらに、心筋型(SERCA2a)および普遍型(SERCA2b)についても予備的な構造を得ることに成功した。医学的にも重要な心筋型については調節タンパク質であるPhospholambanとの複合体の解析にも成功した。
 Na+, K+-ATPaseは、心不全薬ジギタリスの標的分子である医学的にも重要な蛋白質であり、より毒性の少ない治療に適した薬剤開発のためにも分子機構の解明が待たれている。Naイオンの結合型構造は本課題で新たに解析された。また、強心ステロイド剤7種類との複合体解析を行い、創薬のための基本情報が得られている。さらに、ポンプをチャネル化してしまう毒物との複合体解析も途上ながら進んでいる。
 結晶中の脂質二重膜の可視化は、界面活性剤ではなく脂質に埋まったタンパク質を結晶中で実現している独自な結晶化法に基づく技術開発である。申請段階でも初期的な成果が得られていたが、本課題により明瞭に膜タンパク質の動きに伴う細胞膜の動態が観測され、今年度に論文発表された。また、ビームラインスタッフと連携して、低角反射の測定を実現し、ビームラインの高性能化にも貢献した。
 以上のように、申請段階で計画されていた課題について、期間内で取り組む重点をシフトさせつつ、最終的には十分な成果を挙げた。一方、これから論文化される成果も多く、さらなる情報発信をお願いしたい。

 

[成果リスト]
(査読付き論文)

[1] SPring-8 publication ID = 34851
Y. Norimatsu et al.: "Protein-Phospholipid Interplay Revealed with Crystals of a Calcium Pump" Nature 545 (2017) 193-198.

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794