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Volume 23, No.4 Pages 353 - 363

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8シンポジウム2018報告
SPring-8 Symposium 2018 Report

田中 義人 TANAKA Yoshihito[1]、木村 昭夫 KIMURA Akio[2]

[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo、[2]広島大学 大学院理学研究科 Graduate School of Sciences, Hiroshima University

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SPring-8 SACLA

 

はじめに
 去る8月25日、26日の2日間にわたり、姫路市市民会館においてSPring-8シンポジウム2018が、SPring-8ユーザー協同体(以下、SPRUC)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、理化学研究所(以下、理研)、兵庫県立大学の四者の主催により開催されました。第7回目となった本年のシンポジウムは、「動き出した「将来への取り組み」」と題し、SPring-8の現状の課題を解決して将来に向けた取り組みを加速するための具体的な動きを示していくことをテーマとして、産官学の基礎科学から産業応用までの幅広い分野の視点からの討論の場となりました。340名を超える参加者があり、メイン会場となった大ホール(写真1)では大変活発な議論が繰り広げられました。

 

写真1 メイン会場(大ホール)

 

 

セッションI オープニングセッション
 オープニングセッションでは、水木純一郎SPRUC会長(写真2)より開会の挨拶がありました。東北の3 GeV放射光計画が動き出し、SPring-8でも大きな動きが出てくるはずであり、本シンポジウムで活発な議論を期待したい旨を述べられました。

 

写真2 SPRUC 水木純一郎会長

 

 

 続いて理研の小寺秀俊理事(写真3)からは、SPring-8は昨年度に供用開始から20年となり、SACLAは6年前から供用開始し、国内外から多くのユーザーが利用している現状を踏まえ、今後も安定かつ高性能なビームを供給できるよう施設の運用に務めたいとのこと、また、施設も20年を過ぎると老朽化が顕在化してくるためその対応が重要となってくること、理研・JASRI・SPRUC三者が連携し、高度化を念頭に将来の課題解決に取り組んでいきたいとの趣旨のご挨拶をいただきました。

 

写真3 理研 小寺秀俊理事

 

 

 次に、JASRIの土肥義治理事長(写真4)より、「登録施設利用促進機関としてSPring-8ユーザーの研究成果の最大化に向けて活動している。新しい研究分野のアクティブな研究者に使ってもらうことも大切であり、成果の拡大とともに利用者の拡大も積極的に進めている。学術利用・産業利用に続く第三の柱として社会・文化の利用が広がってくることを期待している。」との趣旨のご挨拶をいただきました。

 

写真4 JASRI 土肥義治理事長

 

 

 次に挨拶に立たれた兵庫県立大学の太田勲学長(写真5)は、今回のシンポジウムはSPring-8の地元での開催であること、1984年に西播磨テクノポリス計画が国によって承認されたこと、関西6 GeV SR計画の誘致活動、1989年6月に大型SRの設置が決まったことなど、兵庫県と旧姫路工業大学の視点からSPring-8建設の歴史を俯瞰されるとともに、ニュースバルを含めた兵庫県立大学の放射光利用の取り組みを紹介されました。

 

写真5 兵庫県立大学 太田勲学長

 

 

 次に来賓としてお越しいただいた文部科学省 科学技術・学術政策局 量子研究推進室の西山崇志室長(写真6)にご挨拶をいただきました。SPring-8は供用開始以降、産学官の幅広い研究開発に必要不可欠な大型研究基盤施設として最先端の研究開発成果を創出し続け、国際的に確固たる地位を確立していること、SPring-8に対する期待に応えるために次の20年を見据えた検討を進めるべき時期に来ていることなどについて述べられました。さらに、SPRUCに期待することとして、新規利用の開拓、新たな産学連携の枠組みの検討、次世代放射光施設を含めた我が国の放射光施設全体におけるSPring-8の位置づけ・役割分担などについて具体的な議論を進めることを挙げられました。

 

写真6 文部科学省 科学技術・学術政策局 量子研究推進室 西山崇志室長

 

 

 最後に、Welcome Talkとして兵庫県立大学の山崎徹副学長(写真7)が、「兵庫県立大学の放射光利用研究の現状と将来」と題してご講演されました。兵庫県立大学がSPring-8とともに歩んできた20年のレビューと、今後の展望についてスライドを使いながらお話されました。兵庫県立大学の前身である姫路工業大学理学部が1990年に新設されたのはSPring-8の誘致に呼応したものであったこと、2004年に兵庫県立大学が開学し、2007年にはピコバイオロジー研究所が発足、SACLAが発振したころの2011年からはリーディングプログラム、2012年に多重極限物質科学研究センターなどが立ち上がるなど、放射光利用研究を推し進めてきたこと、2019年度には5年一貫大学院コースを設置し、放射光特有のコースにより大学院教育の強化を図ることなどを説明されました。

 

写真7 兵庫県立大学 山崎徹副学長

 

 

セッションII SPring-8この1年
 セッションIIでは、「SPring-8この1年」と題して、ユーザー、理研、JASRIを代表して、水木純一郎SPRUC会長、石川哲也理研放射光科学研究センター長、櫻井吉晴JASRI利用研究促進部門長による講演が行われました。
 水木会長(写真8)からは、「SPRUCがやるべきことと施設への期待」と題した講演が行われました。最初に、SPRUCに期待されることとして「SPring-8を利用して世界に誇る成果を輩出し、人類社会の発展に貢献すること」が示されたのち、SPring-8を取り巻く現状と、SPRUCがこれまでに行ってきた活動を紹介されました。さらに、これらの活動を発展させることを目指したSPRUCの活動計画が示され、合わせて、施設への期待とそれを実行するための仕組み作りが提案されました。

 

写真8 SPRUC 水木純一郎会長

 

 

 石川センター長(写真9)からは、「利用者の動向と施設の対応」と題した講演が行われました。SPring-8の予算および成果などに関する現状報告が行われた後、国内外の放射光施設の動向と、それに対応したSPring-8次期計画が紹介されました。特に、放射光の有用性はますます認識されてきており、初心者ユーザーや産業界ユーザーを始め、潜在的ユーザーは増大しており、放射光パワーユーザーとデータが欲しいだけのユーザーの二極化が進むであろう、これらに対応するためには、AIやロボティクスの導入が必須となり、また、ビームラインの再定義も含めたスクラップ・アンド・ビルドが必要であるとの認識が示されました。また、放射光関連技術の進歩に伴うビッグデータへの対応の必要性が示されました。

 

写真9 理研 石川哲也放射光科学研究センター長

 

 

 櫻井部門長(写真10)からは、「ビームラインポートフォリオと先端ビームライン提供の展望」と題した講演が行われました。海外の施設との詳細な比較を行いながら、共用BLの現状分析が示され、「汎用ビームライン」、「先端開発ビームライン」、「挑戦的ビームライン」といったビームラインの再定義が必要であるとの提案がなされました。

 

写真10 JASRI 櫻井吉晴利用研究促進部門長

 

 

 いずれの講演もSPring-8が運転開始後20年を経過し、新しいフェーズに入るためには、大きな改革が必要であることが強調され、今後もユーザー、理研、JASRIが連携をとって議論を進めていくことの重要性が改めて示されました。

 

 

セッションIII SPring-8を取り巻く環境と進むべき道
 セッションIIIでは雨宮慶幸氏(東京大学)を座長として、JASRIの矢橋牧名氏と東京大学・SPRUC利用委員長の有馬孝尚氏の口頭発表が行われました。
 矢橋氏(写真11)は、「ユニークな基幹技術による世界との差別化」という題目で講演されました。世界各国でマルチベンドアクロマット(MBA)の技術の進展によって、放射光源の高輝度化・低エミッタンス化が進行していて、ESRFでは2019年に、APSでは2023年にMBAリングへのアップグレードが、中国@北京郊外では6 GeV新光源の建設が2025年に予定されていること。FELでのmeasure-before-destructionに対して、MBA光源ではmeasure-during-changeというコンセプトで実験がデザインされていること。光学系技術に関しては、阪大で開発されたナノ集光KBミラーが、コマ収差をなくしたAdvanced KB(AKB)ミラーへと発展していること。分光器に関しては、rock stableなモノクロメータとして、二結晶分光器(DCM: double crystal monochromator)の流れに、従来のチャネルカット分光器(CCM: channel-cut monochromator)が反射面の仕上げの技術の進展でリバイバルを迎えていること。2次元X線検出器に関しては、SACLA向けMPCCDに続き、画素サイズ70 µm、17 kfpsという高速フレームレートで動作する積分型検出器CITIUSの開発が進められていることが示されました。今後、モデルとなるパイロットBLの構築を含めて、これらの技術を旨く組み合わせた、世界で最も競争力のあるBLを実現していく必要がある、と締めくくられました。

 

写真11 矢橋牧名氏(JASRI)

 

 

 有馬氏(写真12)は、SPRUC利用委員会の委員長の立場から、「新しい利活用研究を拓く研究会」という題目で講演されました。理研、JASRI、SPRUCの各組織の役割と立ち位置を踏まえた上で、SPRUCで行っている分野融合研究会の取り組みが紹介されました。また、1)Hardware、2)Big data、3)Method development、4)Human resource、5)Organization、6)Proposal selectionという視点で、bottom-upとtop-downの双方向の流れを円滑にして、成果の最大化に向けて、今後のあり方を考察して行く必要があること、また、XFEL、高輝度3 GeV放射光、他の量子ビーム施設(中性子、ミューオン)、他の装置群(電子顕微鏡、STM、AFM、NMR)などとのシナジー効果を目指すことの必要性を述べられました。

 

写真12 有馬孝尚氏(SPRUC利用委員長)

 

 

セッションIV パネルディスカッション
 パネルディスカッション(写真13、14)では、SPring-8に関わる3組織から石川哲也氏(施設・理研)、櫻井吉晴氏(登録機関・JASRI)、水木純一郎氏(ユーザー組織SPRUC・関西学院大学)をパネリストとして招き、会場の参加者とともに熱い議論を交わしました。冒頭、モデレータの藤原明比古氏(関西学院大学)が、昨年のシンポジウムでのパネルディスカッションの概要、および、近年のSPring-8およびSPRUCを取り巻く状況を整理した上で、「次期計画を見据え、連続的延長ではないSPring-8の発展のためのmustを共有し、それに向けた議論開始の意思統一を図る」を目的として明示し、議論を開始しました。論点は、「先端性維持から次期計画に繋げる高度化」から3つと、「先端研究を生み続ける組織」から2つの合計5つのトピックスとしましたが、次期計画に向けたビームライン(BL)の再定義の話題だけでも議論は尽きませんでした。BL統廃合のあり方や共用BL・理研BL・専用BLのカテゴリ分け、BLの評価などに関して、施設、運営、利用者の立場から様々な意見とともに議論が交わされました。また、軟X線向け高輝度3 GeV級放射光源計画が動き出したこともあり、SPring-8次期計画において、BLがカバーすべきスペックの議論の必要性も確認されました。熱い議論は時間内に収まらなかったため、懇親会へと議論の場を移しました。

 


写真13 左からモデレータ(藤原明比古氏(関西学院大学))と3機関のパネリスト(櫻井吉晴氏(JASRI)、石川哲也氏(理研)、水木純一郎氏(SPRUC))

 

写真14 熱い議論が交わされたパネルディスカッションの様子

 

 

懇親会
 パネルディスカッションの熱気の冷めやらぬまま、130名を超える参加者が姫路商工会議所の1階にある展示室に移動し、「懇親会」および「ポスターセッション@姫路商工会議所」が開催されました。今回は、ホテル宴会場と学会形式の融合したレイアウトが採用された会場となりました。懇親会は水木純一郎SPRUC会長の開会の辞で始まり、理研放射光科学研究センターの石川哲也センター長より挨拶がありました。その後、本シンポジウムの共同主催である兵庫県立大学の太田勲学長より乾杯の挨拶がありました。また、2日目に受賞講演を控えたSPRUC 2018 Young Scientist Award受賞者お二人からのスピーチがありました。懇親会場には、施設および共用BLに関する12枚のポスターが会場全体を取り囲むように展示されており、それらの説明およびセッションが案内されました。さらに、今回の懇親会では、「動き出した余興への取り組み」と題して、SPring-8界隈情報や、SPring-8にまつわるクイズや手品が披露されました。また、次回開催地に関する検討状況が示され、岡山大学が候補である旨発表されました。最後は、篭島靖実行委員長の閉会の辞で締めくくられました。激論が繰り広げられたメイン会場でのパネルディスカッションに引き続き、具体的な将来への取り組みについて参加者の間で熱く意見が交わされ、大いに盛り上がった懇親会となりました(写真15)。

 


写真15 懇親会の様子

 

 

セッションV SPRUC総会・YSA受賞講演、授賞式
 シンポジウム2日目の最初は、SPRUC総会が行われました。総会では、行事、予算、研究会での活動状況と評議員会での議題についての報告の後、SACLA-UCとの連携強化、規程改定に関わる審議が行われ承認されました。これにより、会長候補者が評議員である制限の撤廃、会長の諮問機関となる顧問会議の設置、SACLAをSPRUCの活動対象にすることが決まりました。続いて、SPRUC 2018 Young Scientist Award授賞式が行われました(写真16)。冒頭、雨宮慶幸選考委員長より、11名の応募があり、物質系(非生物系)6名と生物系5名からそれぞれ1名、計2名を受賞者としたこととそれぞれの受賞理由の紹介が行われました。今回も高いレベルの競争となり、多岐におよぶ研究分野に対して評価基準を何処に重きを置くかにより結果が異なる激戦となったものの、本賞の特徴である利用法や解析手法の開発、あるいはSPring-8の特徴を活用し測定対象の分野にとってどのくらい顕著な成果をもたらしたかという観点から選考した旨説明がありました。その後、水木会長より、齋藤真器名氏(京都大学)と山下恵太郎氏(東京大学)にそれぞれ賞状と楯が授与されました。授賞式の後、齋藤氏と山下氏による受賞講演が行われました。

 

写真16 SPRUC 2018 Young Scientist Award授賞式。左から雨宮委員長、齋藤氏、山下氏、水木会長。

 

 

セッションVI 分野融合研究
 このセッションではSPRUCの「分野融合型研究グループ」に関連して、進行中の研究と、今後の分野融合のヒントになりそうな研究に関して、1件ずつ講演がありました。
 まず、実用グループのプログラムオフィサーを務められる高尾正敏氏(元パナソニック/大阪大学)(写真17)により、「SPRUC分野融合研究から放射光活用科学・新分野創成へ」という題目の講演がありました。実用グループとして、固体と液体の界面の解明に、特に、鉄鋼材料や触媒材料に着目して取り組んでいることが報告されました。また、分野の融合というよりは、新しい分野を創成するという観点が重要であることや、そのためにはマネージメント上で工夫が必要となることなどのお話がありました。分野融合研究のための評価体制についても提案がありました。

 

写真17 高尾正敏氏

 

 

 次に、鷲尾隆氏(大阪大学)(写真18)による、「計測を指向する機械学習手法の開発と応用」という題目の講演がありました。SPring-8などで取得される科学計測データの解析には、現在流行している機械学習の場合とは異なる手法を用いなくてはならないことが紹介されました。現在、機械学習で広く使われているベーズ推定は、対象となるものの分布が狭いことを前提としているため、対象物が多様な科学計測ではベーズ推定が必ずしも有効でないということです。鷲尾氏は、計測システムの特性が既知でかつ揺らぎが小さい場合には、最尤推定に基づいた計算手法が適していることを述べました。また、実際に開発している手法の有効性について、においセンサーを例にとった紹介がありました。

 

写真18 鷲尾隆氏(大阪大学)

 

 

セッションVII ポスターセッション
 ポスターセッションは、2階大ホール ホワイエおよび展示室において行われました(写真19)。今年度の発表件数は、SPRUC研究会30件、共用BL12件、理研・専用BL22件、施設2件、パートナーユーザー8件、長期利用課題16件および新分野創成利用課題2件の合計92件でした。ポスター番号の偶数奇数別に1時間ずつのコアタイムが設定され、活発な議論が行われました。

 


写真19 ポスターセッションの様子

 

 

セッションVIII 時間軸でみるSPring-8/SACLAの利用研究
 このセッションは、現象の時間依存性を意識した利用研究について、SPring-8での事例にSACLAでの実験も合わせて幅広い時間分解域をカバーする利用研究を紹介するものでした。SPRUCのSACLA-UCとの連携強化のパイロット的とも言えるセッションでした。
 まず、「X線自由電子レーザーSACLAを使った超高速サイエンスの開拓」と題して、JASRIの片山哲夫氏(写真20)からSACLAの現状報告とフェムト秒ポンプ・プローブ法の紹介がありました。光学レーザーとの組み合わせでのポンプ・プローブ実験では、フェムト秒の時間分解能を得るために、そのパルス光源間のタイミングジッターの問題を克服する必要があり、透過型回折格子を用いたビームブランチング法を開発し、計測と並行してショットごとのタイミングをモニターできることが報告されました。利用研究例として、金属錯体内部での電荷移動ダイナミクス、光触媒のキャリアダイナミクス、金属錯体におけるコヒーレントな分子振動や錯体間の化学結合形成過程に関する研究が紹介されました。

 

写真20 片山哲夫氏(JASRI)

 

 

 次に、「構造生物学におけるSACLA時分割構造解析の展望と課題」と題して、兵庫県立大学の久保稔氏(写真21)が講演されました。構造生物学において時分割結晶構造解析をさらに発展させるために取り組むべき課題として、光感受性タンパク質以外の系への研究展開と、結晶場のダイナミクスへの影響評価が挙げられました。前者については、光活性のケージドリガンドの活用が進められているとのことです。後者については、顕微タイプの時分割紫外・可視・赤外吸収分光法が有用であり、SACLAで得られた時分割結晶構造データと比較・評価することにより、機能と構造の時間変化を関係づけながら実験を進めたことが成功の鍵となった研究例が示されました。

 

写真21 久保稔氏(兵庫県立大学)

 

 

 東北大学の雨澤浩史氏(写真22)より、「放射光を利用した燃料電池・蓄電池反応の時間追跡」についての講演がありました。資源問題、環境問題に対応するためには、「創エネ」および「蓄エネ」技術の確立が重要な課題となっており、この分野の放射光利用計測として、燃料電池および蓄電池内部の状態のXAFS測定が紹介されました。特に、全固体リチウムイオン電池のオペランド計測において、位置分解能と時間分解能をもたせて、2Dイメージングで時間追跡をした結果が示されました。さらに、約20分ごとではあるが3Dイメージングができることや、固体燃料電池においてQuick-XAFSや交流電圧印加による計測を適用することで時間分解能サブ秒やミリ秒でXAFS応答をとらえた結果が示されました。

 

写真22 雨澤浩史氏(東北大学)

 

 

 本セッション最後は、豊田中央研究所の林雄二郎氏(写真23)による、「金属材料のための放射光回折顕微鏡法の可能性」と題した講演でした。金属材料の老朽化による重大な事故例が示され、その耐久性の研究は重要なテーマであることが示されました。材料表面だけでなく内部を観察できる高エネルギーX線領域の放射光を用いた顕微法として、3次元X線回折顕微法が紹介され、さらに結晶粒数が多い場合にも適用できる走査型3次元X線回折顕微法の開発に成功し、実用の目途がたったことが報告されました。また、複合屈折レンズを用いた結像型の暗視野X線顕微法や、レンズを用いない回折顕微法が紹介され、ビデオレートでの金属材料内部の動的観察への展望が示されました。

 

写真23 林雄二郎氏(豊田中央研究所)

 

 

セッションIX 利用トピックス
 最後のセッションでは、磁性、材料科学、半導体、生命科学の分野から最近の利用トピックスの発表がありました。
 最初は、東京大学の櫻木俊輔氏(写真24)による、「量子とじこめ効果により発現するPd薄膜の強磁性」と題した講演でした。X線反射率測定により磁性・量子井戸状態・構造歪みが相互に関係することによりPd超薄膜の磁気状態が決まることが示されました。

 

写真24 櫻木俊輔氏(東京大学)

 

 

 2番目は、東京大学の脇原徹氏(写真25)による、「ゼオライトの精密設計を目的とした非周期系原料及び結晶ゼオライトの原子・ナノスケールPDF解析」と題した講演でした。非晶質状態のゼオライト合成材料が結晶化する過程を、高エネルギーX線全散乱測定を用いて原子・ナノスケールの構造を時分割観察した例が示されました。

 

写真25 脇原徹氏(東京大学)

 

 

 続いて、東京工業大学の筒井一生氏(写真26)が、「光電子ホログラフィーによる半導体中のドーパント局所構造解析」の題目で講演し、Si中にあるAsの局所構造解析例を示し、光電子ホログラフィーは不純物局所構造の解明に有用であることが示されました。

 

写真26 筒井一生氏(東京工業大学)

 

 

 最後の講演は、東京慈恵会医科大学の篠原玄氏(写真27)による、「位相差イメージングによる心臓刺激伝導系形態解析-さらなる知見創出と社会貢献に向けて-」の題目での講演でした。小児心臓外科医からなる研究チームで、心臓刺激伝達系を非破壊可視化する位相差X線CT計測とその解析例が示され、今後の発展性と画像処理などの課題が議論されました。

 

写真27 篠原玄氏(東京慈恵会医科大学)

 

 

 セッション全体を通して、今回の報告は確立された手法を利用する研究スタイルのものが多く、エンドユーザーが増えてきていることが感じられました。

 

 

セッションX クロージング
 クロージングセッションでは、主催機関を代表して城宜嗣兵庫県立大学大学院生命理学研究科長(写真28)より閉会の挨拶がありました。シンポジウム初日は施設運用面の話があり、熱い議論が交わされたことが大変印象的だったこと、一方、2日目はサイエンス、テクノロジー面でのトピックスが披露され、SPring-8ができて以来この20年間で当初の想像をはるかに超えた驚くべき進歩を遂げていることに感銘したと述べられました。また、全体として次期計画を意識した議論がなされており、今後、施設・管理・利用者が三位一体となって、覚悟をもって取り組んでいくことの重要性に触れられました。最後に、司会の水木会長より、最終的な参加者登録数が345名と多数であったことの報告、および参加者へのお礼の言葉がありました。

 

写真28 兵庫県立大学大学院生命理学研究科 城宜嗣研究科長

 

 

おわりに
 SPRUCが発足して7回目のシンポジウムを無事終えることができました。これも多くのユーザーの方々に参加いただき、活発な議論をいただけたことに尽きると思います。また、JASRI事務局の方々には当シンポジウム全般にわたり多大なご協力をいただきましたこと心より感謝いたします。本報告書をまとめるにあたり、篭島靖兵庫県立大学教授、中川敦史大阪大学教授、雨宮慶幸東京大学教授、藤原明比古関西学院大学教授、有馬孝尚東京大学教授、今井康彦JASRIチームリーダー、櫻井吉晴JASRI利用研究促進部門長の先生方にご協力いただきました。心より感謝申し上げます。

 

 

SPring-8シンポジウム2018プログラム
8月25日(土)
セッションI オープニング <姫路市市民会館 大ホール>

座長:篭島 靖(SPring-8シンポジウム2018実行委員長、兵庫県立大学)

13:00-13:05 開会挨拶
水木 純一郎(SPRUC会長、関西学院大学 教授)
13:05-13:25 挨拶
小寺 秀俊(理化学研究所 理事)
土肥 義治(高輝度光科学研究センター 理事長)
太田 勲(兵庫県立大学 学長)
13:25-13:30 来賓挨拶
西山 崇志(文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室 室長)
13:30-13:35 Welcome talk
兵庫県立大学の放射光利用研究の現状と将来

山崎 徹(兵庫県立大学 副学長)

 

セッションII SPring-8この1年 <同 大ホール>
座長:中川 敦史(SPRUC前会長・大阪大学)

13:40-13:55 SPRUCがやるべきことと施設への期待
水木 純一郎(SPRUC会長・関西学院大学)
13:55-14:10 利用者の動向と施設の対応
石川 哲也(理化学研究所)
14:10-14:40 ビームラインポートフォリオと先端ビームライン提供の展望
櫻井 吉晴(高輝度光科学研究センター)
14:40-15:00 休憩(コーヒーブレイク)

 

セッションIII SPring-8を取り巻く環境と進むべき道 <同 大ホール>
座長:雨宮 慶幸(SPRUC監事・東京大学)

15:00-15:30 ユニークな基幹技術による世界との差別化
矢橋 牧名(高輝度光科学研究センター)
15:30-16:00 新しい利活用研究を拓く研究会
有馬 孝尚(SPRUC利用委員長・東京大学)
16:00-16:15 休憩

 

セッションIV パネルディスカッション <同 大ホール>
司会(モデレータ):藤原 明比古(SPRUC庶務幹事、関西学院大学)

16:15-17:30 パネリスト:石川 哲也(理化学研究所)
      櫻井 吉晴(高輝度光科学研究センター)
      水木 純一郎(SPRUC会長・関西学院大学)
 
18:00-19:30 懇親会 <姫路商工会議所1階 展示室>
司会:田中 義人(SPring-8シンポジウム2018実行委員、兵庫県立大学)

 

8月26日(日)
セッションV SPRUC総会・YSA受賞講演、授賞式 <姫路市市民会館 大ホール>

司会:藤原 明比古(SPRUC庶務幹事、関西学院大学)

09:00-09:20 SPRUC活動報告、2017年度決算・2018年度予算報告等
09:20-09:30 SPRUC 2018 Young Scientist Award授賞式
09:30-09:45 SPRUC 2018 Young Scientist Award受賞講演1
放射光により生成されたガンマ線による原子・分子のダイナミクス測定法の開発とその多様な応用研究

齋藤 真器名(京都大学)
09:45-10:00 SPRUC 2018 Young Scientist Award受賞講演2
微小結晶タンパク質X線結晶構造解析を加速する自動データ処理システムの開発

山下 恵太郎(東京大学)

 

セッションVI 分野融合研究 <同 大ホール>
座長:有馬 孝尚(SPRUC利用委員長・東京大学)

10:00-10:20 「SPRUC分野融合研究」から「放射光活用科学・新分野創成」へ
高尾 正敏(元パナソニック/大阪大学)
10:20-10:50 計測を指向する機械学習手法の開発と応用
鷲尾 隆(大阪大学)

 

セッションVII ポスターセッション <同2階 展示室、大ホール ホワイエ>

11:00-13:00
SPRUC研究会 30件
共用BL 12件
理研・専用BL 22件
施設 2件
パートナーユーザー 8件
長期利用課題 16件
新分野創成利用 2件
合計 92件

(コアタイム奇数11:00-12:00、偶数12:00-13:00)

 

セッションVIII 時間軸でみるSPring-8/SACLAの利用研究 <同 大ホール>
座長:田中 義人(SPring-8シンポジウム2018実行委員、兵庫県立大学)

13:10-13:30 X線自由電子レーザーSACLAを使った超高速サイエンスの開拓
片山 哲夫(高輝度光科学研究センター)
13:30-13:50 構造生物学におけるSACLA時分割構造解析の展望と課題
久保 稔(兵庫県立大学/理化学研究所)
13:50-14:10 放射光を利用した燃料電池・蓄電池反応の時間追跡
雨澤 浩史(東北大学)
14:10-14:30 金属材料のための放射光回折顕微鏡法の可能性
林 雄二郎(豊田中央研究所)
14:30-14:40 休憩(コーヒーブレイク)

 

セッションIX 利用トピックス <同 大ホール>
座長:櫻井 吉晴(高輝度光科学研究センター)

14:40-15:00 量子とじこめ効果により発現するPd薄膜の強磁性
櫻木 俊輔(東京大学)
15:00-15:20 ゼオライトの精密設計を目的とした非周期系原料及び結晶ゼオライトの原子・ナノスケールPDF解析
脇原 徹(東京大学)
15:20-15:40 光電子ホログラフィーによる半導体中のドーパント局所構造解析
筒井 一生(東京工業大学)
15:40-16:00 位相差イメージングによる心臓刺激伝導系形態解析-さらなる知見創出と社会貢献に向けて-
篠原 玄(東京慈恵会医科大学)

 

セッションX クロージング <同 大ホール>
座長:水木 純一郎(SPRUC会長/関西学院大学)

16:00-16:10 閉会挨拶
城 宣嗣(兵庫県立大学 生命理学研究科長)

 

 

 

田中 義人 TANAKA Yoshihito
兵庫県立大学 大学院物質理学研究科
〒678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町光都3-2-1
TEL : 0791-58-0139
e-mail : tanaka@sci.u-hyogo.ac.jp

 

木村 昭夫 KIMURA Akio
広島大学 大学院理学研究科
〒739-8526 広島県東広島市鏡山1-3-1
TEL : 082-424-7400
e-mail : akiok@hiroshima-u.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794