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Volume 23, No.4 Pages 384 - 385

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2018B期 採択「新分野創成利用」研究グループの紹介
2018B Newly Approved Research Groups for SPring-8 Epoch-Making Initiatives Projects

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 「新分野創成利用」は、SPring-8の利用研究成果創出を質的・量的に飛躍させるために、既存の研究分野の枠を超えた複合・融合領域等における未踏分野の開拓・創成およびそれに伴う利用の裾野を拡大することを目的としています。公募は、SPring-8で未踏分野の研究を展開しようとする研究グループ(構成は以下の図のとおり)を対象とします。採択されたグループは、代表責任者の裁量により有効期間(2年間)内に各分担責任者が複数ビームラインで「新分野創成利用課題」を実施することも可能となり、またビームタイムも認められた範囲内で期ごとに任意に配分(但し審査あり)することができます。

 

 

 

 2018B期は、1グループの応募があり、新分野創成利用審査委員会による審査の結果、採択されました。採択されたグループおよび新分野創成利用審査委員会からの審査結果を以下に示します。

 

[有効期間]
 2018B期から2020A期までの2年間

 

[採択された研究グループ]
 代表責任者(所属):藤原明比古(関西学院大学)
 ・分担責任者1(所属、利用BL):若林裕助(大阪大学、BL13XU)
 ・分担責任者2(所属、利用BL):山添康介(東京大学、BL47XU)
 ・分担責任者3(所属、利用BL):土井教史(新日鐵住金、BL27SU)
 ・分担責任者4(所属、利用BL):中島淳一(日産化学工業、BL01B1、BL27SUおよびBL28B2)
 ・分担責任者5(所属、利用BL):朝倉博行(京都大学、BL01B1、BL14B2およびBL37XU)
 ・分担責任者6(所属、利用BL):高谷光(京都大学、BL02B1、BL20XUおよびBL40XU)
 ※利用BLは、採択時(2018B期)のものを示す。2019A期以降は、実験計画の進捗状況に応じ変遷する。

 

[プロジェクト名]
 固液界面構造解明と可視化および溶媒溶質相関

 

[審査コメント]

 この提案は、基本的には先行する高尾グループの「新分野創成利用」研究「固液界面構造解明と可視化および構成物質間のダイナミクス」を引き継ぐものであって、その中の2つの課題である「メッキ」と「腐食」を取り上げ、主体メンバーはそのままで一部メンバーを入れ換えて高尾グループで開発された放射光利用技術を活用して実施しようとするものである。すなわち、今回の提案は放射光科学の新しい分野を提起しているのではなく、高尾グループで提案され研究された課題をより実用的な観点からさらに推進しようとするものと位置づけられる。

 この研究提案計画で取り上げている「メッキ」と「腐食」というテーマは十分魅力ある課題であり、それぞれ、固液界面構造とその物性を解明し、実用の基本要素を明らかにしようとしている。実用と学理の共同研究という観点からはよく考えられた研究である。それぞれの研究計画は具体性があり、主要な研究者の実績もあるので、それぞれの分野の成果は十分期待できる。個別の課題はよく練られていて、分担者の経験も深く、研究計画の実現性は十分ある。

 しかしながら、「メッキ」と「腐食」の研究計画は個別に取り上げられていて、それらの間の連携に関する観点は見受けられず、それらの間の論理的つながりは提起されていない。これらの課題を取り上げることによって固液界面の科学に新しい概念を確立しようとする視点の分析がない。「固液界面」という現象の中から研究上まとめ易い課題を並列的に取り上げただけのように見える。また、申請書にはメゾスコピック構造という表現があるが、これは単に研究対象がマクロ構造とミクロ構造の中間にあるということを言っているに過ぎなく、メゾスコピック構造とその物性を主要な概念として取り上げ、その解明を新分野形成の基幹として位置づけようとする観点はほとんど見受けられない。

 今回提案された「メッキ」と「腐食」の分野ではそれなりの成果がでるものと期待されるが、これらの研究を個別的ではなく深いところで統合しようとする論点やメゾスコピック系の物性という概念を形成しようとする方策を立てて、これらの研究によって「固液界面」という観点から新しい概念を形成し新しい研究分野を創成してほしい。これらの分野の間の繋がり概念の構築、および固液界面の新分野への発展については、既に行われているアドバイザリーグループも参加した構成グループ間の研究会などで、さらなる議論を進めることが必要と考えられる。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794