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Volume 23, No.4 Pages 364 - 368

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第15回SPring-8産業利用報告会
The 15th Joint Conference on Industrial Applications of SPring-8

佐藤 眞直 SATO Masugu

(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)、兵庫県、(株)豊田中央研究所、(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)、SPring-8利用推進協議会(推進協)の5団体の主催、及びフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)、SPRUC企業利用研究会、光ビームプラットフォーム、(一財)総合科学研究機構中性子科学センター(CROSS東海)、(一財)高度情報科学技術研究機構(RIST)、茨城県、あいちシンクロトロン光センターの協賛で第15回SPring-8産業利用報告会が9月6日、7日に兵庫県民会館において開催された。総参加者は240名であった。
 2004年の初開催から続く本報告会は、主催団体の4団体(サンビーム、兵庫県、(株)豊田中央研究所、JASRI)がそれぞれ運用する専用及び共用ビームラインにおける成果の報告会のジョイントとして構成され、その目的は(1)産業界における放射光の有用性を広報するとともに、(2)SPring-8の産業利用者の相互交流と情報交換を促進することにある。口頭発表やポスター発表、技術交流会において活発な議論と産業分野を跨いだ交流が行われ、今回も前述の開催目的に沿った、SPring-8の産業利用の現状を知ることのできる最良の情報発信の機会となった。また、SPring-8立地自治体の兵庫県がSPring-8の社会全体における認識と知名度を高める目的で2003年度より設置した「ひょうごSPring-8賞」の第16回受賞記念講演が今年も併催された。

 

 

2. 口頭発表(1日目)
 報告会1日目の口頭発表は9月6日の午後1時より会場9階のけんみんホールにおいて行われた。最初のセッション1の開催挨拶は、主催団体を代表してJASRIの土肥理事長から挨拶があり、SPring-8の産学両分野における堅調な利用状況と産業イノベーションに対する利用成果の貢献を評価されて年間予算を維持できているが、特に産業利用における利用料収入の増加を政府から期待されている状況を踏まえ、今後ますますの産業利用成果をアピールすることによる産業利用のさらなる拡大に対する希望を述べられた。
 次のセッション2では、「ひょうごSPring-8賞受賞記念講演」が行われた。今年度は新日鐵住金ステンレス(株)の秦野氏が、「水素脆化を克服するステンレス鋼の開発に資するナノサイズ結晶相の解析」で受賞された。講演では、水素社会実現に向けたインフラ整備用の構造材料開発における重要な技術課題であるステンレス鋼の水素脆化抑制を目的とした水素脆化発現メカニズムの研究において、脆性破壊の起点となる加工誘起相変態によって生じるε相への変態が水素添加によって促進されることを放射光X線回折測定により明らかにした研究成果を紹介された。
 次のセッション3の「第9回豊田ビームライン研究発表会」では、豊田ビームラインBL33XUにおいて豊田中央研究所が実施した研究成果2件が発表された。
 1件目の野中氏の発表では、「X線ラマン散乱分光によるLiイオン電池黒鉛負極のその場状態解析」というタイトルで、豊田ビームラインにおいて技術検討を行ったX線ラマン散乱分光技術が紹介された。本発表では、通常のXAFS測定では難しい大気下バルク中の軽元素のX線吸収端スペクトル測定を可能とするX線ラマン散乱分光の特徴を説明され、同技術を活用したLiイオン電池の充放電過程における黒鉛電極中のCの状態変化のその場観察の結果が報告された。2件目の橋本氏の発表では、「放射光イメージングによるナノ流体流動状態のその場観察」というタイトルで、熱輸送に用いられる媒体の新規材料開発において注目されている、液体にナノ粒子を分散させた固液混相流媒体において報告されている流路壁面への熱伝達効率向上の発現メカニズムについて、放射光を用いた透過X線イメージングによって検討した成果が紹介された。その結果から、熱伝達に影響を及ぼしていると考えられる流路壁面近傍におけるナノ粒子密度希薄層の存在を確認したことが報告された。
 続くセッション4「JASRI共用ビームライン実施課題報告会」では、最初にJASRI産業利用推進室の廣沢室長から共用ビームラインにおける産業利用分野の現状について報告が行われ、2014年度から領域指定型の重点研究課題として実施されてきた産業新分野支援課題が2017年度で終了したこと、来年2019年度から産業利用ユーザーの試験的な実験実施に対する希望に対応するための産業利用準備課題を実施すること、が報告された。この後報告された6件の共用ビームラインの利用成果の内、前半4件は前述の産業新分野支援課題として実施されたものであった。
 まず(株)日清製粉グループ本社の篠崎氏から、「SPring-8のX線CTによる冷凍パスタ組織の形状観察」というタイトルで、冷凍パスタにおいて対策課題となっている冷凍保管中にパスタが白く変色し食感が劣化する「冷凍焼け」の発現メカニズムについて、BL19B2のX線CT装置を用いた冷凍パスタ内部の凍結組織非破壊観察により検討した研究成果が紹介された。保管中の温度変化に注目して凍結組織の変化の保管環境依存性を検討した結果から、冷凍焼けが凍結組織内で相分離した氷結晶が昇華して空隙が生じることによって起こる事、その昇華の進行が環境温度の変動頻度が大きくなるほど早くなることが確認された事、が報告された。(株)サヌキフーズの小谷氏からは、「マイクロX線CTによる、油調済みパン粉の微細構造のその場観察」というタイトルで、パン粉の材料に裸麦粉を加えることにより油切れの良い(吸油率が低い)パン粉を実現できたことについて、油を添加したパン粉内部組織の油の分布の裸麦粉添加有無による違いをBL46XUのX線CT装置で検討した結果、裸麦粉を添加したパン粉の方が油で満たされていない空孔が多く存在していることが確認されたことを報告された。京都大学の村田氏からは、「X線CTR散乱法による石油増進回収技術への応用を目的とした油-鉱物二相界面の吸着構造評価」というタイトルで、油田から効率良く石油を回収するための技術として注目されている低塩分濃度水攻法について、地層に塩水を注入した時の鉱物表面の油の吸着状態の変化をBL19B2のX線回折計を用いたX線CTR測定で評価した研究成果が報告された。模擬的な鉱物表面として白雲母の劈開面を用い、その表面のカチオンをK+、Mg2+、Ca2+で置換した面にステアリン酸を吸着させた試料についてCTR測定を行い、その散乱プロファイルの解析から得られた表面吸着層の電子密度分布とMD計算によるシミュレーション結果を比較検討することによりステアリン酸の吸着状態のカチオン依存性について議論された。古河電気工業(株)の山崎氏からは、「小角X線散乱によるコルソン合金中の析出物の時効処理中におけるin-situサイズ変化測定」というタイトルで、電子機器の小型化、高性能化という観点から強度と伝導性の両立が求められている配線材料において注目されているコルソン合金について、その強化機構である析出物の分散状態の熱処理過程における変化を、BL19B2の小角X線散乱装置を用いて行った加熱下in-situ小角X線散乱測定によって得られた散乱プロファイルの変化から検討した結果を報告された。(株)大林組の人見氏からは、「非破壊CT−XRD連成法の開発とその応用」というタイトルで、放射性廃棄物の長期保存等において課題となっているコンクリートの寿命予測において重要なその主要組成であるセメント硬化体の劣化メカニズムについて、劣化過程におけるセメント硬化体組織の形態、結晶組成分布の変化を、BL28B2において開発されたX線CTとエネルギー分散型X線回折による局所X線回折測定の複合測定技術である「CT−XRD連成法」を用いて検討された結果について報告された。(株)豊田中央研究所の矢野氏からは、「非弾性X線散乱によるナノ流体中の溶媒分子の集団挙動の解析」というタイトルで、前述の豊田ビームライン研究発表会の橋本氏の研究発表でも報告された高効率熱輸送媒体として注目されているナノ流体について、その熱伝導率増大メカニズムについてナノ粒子添加による溶媒分子の高周波音速への影響をBL35XUの非弾性X線散乱測定により検討した研究成果が紹介された。その結果から、熱伝導率増大効果の大きい銅粒子/エチレングリコールと効果の小さいアルミナ粒子/水について得られたそれぞれの非弾性X線散乱スペクトルを比較すると、前者の高周波音速の増加が大きいことが確認されたことを報告された。

 

写真1 口頭発表の様子

 

 

3. 技術交流会
 この後午後5時20分から会場11階のパルテホールで技術交流会が開催された。総参加者の約半数近くの104名が参加し、活気あふれる雰囲気の中で行われた。例年同様、多様な産業分野と産学官の所属を跨いだ、SPring-8利用者間の幅広く熱い交流が行われた。

 

 

4. 口頭発表(2日目)
 2日目は午前9時よりセッション5の「兵庫県成果報告会」から開始された。まず横山放射光ナノテクセンター長から、SPring-8の兵庫県ビームライン(BL08B2、BL24XU)とニュースバルの現状の概要について報告があり、特に産業利用に向けた放射光利用計測と組み合わせた計算科学応用への取り組みに注力されていることを紹介された。その後、これら施設の利用成果について5件の発表があった。
 最初の発表は、(株)日産アークの今井氏より、「放射光によるエネルギー変換デバイスの解析」というタイトルで、近年ますます活発に進められているエネルギー変換デバイス(電池、パワー半導体、等)開発研究に向けた、同社の分析会社としての計測技術研究への放射光応用の現状を紹介された。さらに、その中での兵庫県ビームライン利用の位置付けを説明され、その利用事例として燃料電池用触媒の反応解析を電気化学反応セルを用いたオペランドXAFS測定の成果を紹介された。アイシン精機(株)の舟本氏からは、「樹脂成形品の結晶化度分布解析を用いた変形予測精度向上」というタイトルで、軽量化目的から需要が高まっている自動車用樹脂成型部品において、高精度化が要求されている製造工程の形状制御で重要な、射出成型時の温度変化による変形予測の為の樹脂変形メカニズム解明を目的として、変形に影響すると考えられる樹脂の結晶化度の分布と変形挙動の相関を検討するため、BL24XUのマイクロビームX線回折測定技術を用いた回折プロファイルマッピングによる樹脂中の結晶化度分布の金型温度依存性を調べた結果が報告された。京都大学の豊田氏からは、「NAP-HARPESデータを用いた多層積層薄膜界面の深さ方向分布解析法の開発」というタイトルで、半導体デバイス等の機能性多層積層薄膜において機能制御に重要な膜中の元素やその化学状態等の化学組成の深さ分布を硬X線角度分解光電子分光(HARPES)測定のデータから解析するための技術開発をBL24XUに導入されたNAP(Near Ambient Pressure)-HARPES装置を用いて行った成果について報告された。(株)コベルコ科研の森氏からは「二次電池材料におけるin situ XAFS/XRD同時計測システムの開発と取得データのインフォマティクスの適用」というタイトルで、二次電池の充放電特性制御メカニズムをビッグデータを用いたインフォマティクスを応用して多角的に検討する技術検討を目的として、二次電池正極材料の充放電時における結晶構造及び電子状態の変化のデータを効率的に取得するためにBL08B2で開発したXRD−XAFS同時計測システムについて紹介された。さらに同装置の活用事例として、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2を正極材としたラミネートセルを用いた充放電時のin situ実験で得たデータを、機械学習を用いて要因解析を行った結果が報告された。兵庫県立大の福島氏(当日、前日の台風及び北海道地震の影響をうけた交通トラブルで神田氏に講演者変更)からは「産業分析用ビームラインBL05の特徴とtender X-ray領域での運用」というタイトルで、産業用分析ビームラインとして合同会社シンクロトロンアナリシスLLCによって運営されているニュースバルのビームラインBL05について、同ビームラインで利用できるtender X-ray領域(1~4 keV)のX線吸収分光技術が紹介された。
 昼食休憩をはさんだ、ポスターセッションの後、午後2時30分より開始されたセッション6の「第18回サンビーム研究発表会」では、サンビーム共同体幹事の(株)東芝の吉木氏からの共同体の活動趣旨説明の後、同共同体が運用するSPring-8の産業用専用ビームラインサンビーム(BL16XU、BL16B2)を利用した共同体参加企業の成果について6件の発表があった。
 最初に(株)東芝の沖氏から、「リチウムイオン電池用新規負極材料のXAFS解析」というタイトルで、電気自動車の実用化において求められている充電時間の短縮化と高容量化の両立を目指した2次電池の新規負極材料として同社が開発されたTiNb2O7について、その高容量化のメカニズムを目的として充放電による同材料中のTi、Nbの価数変化をBL16B2におけるXAFS測定で検討した結果が報告された。日亜化学工業(株)の宮野氏からは、「X線回折による照明用LED実装時の応力評価」というタイトルで、照明用LEDのパッケージに実装されたGaNチップに生じている応力(反り)を、BL16XUにおける高輝度高エネルギーX線回折測定を用いたGaN 0008回折のマッピングにより非破壊で評価した結果が報告された。住友電気工業(株)の徳田氏からは、「「レドックスフロー」型電池電解液の金属イオン状態解析」というタイトルで、大容量2次電池として期待されている電解液中の金属イオンの酸化還元反応を電池反応として用いるレドックスフロー電池について、コストダウンを目的として開発中の安価なTi、Mnを活物質とした電解液の反応中の酸化還元挙動をBL16B2におけるXAFS測定及びBL19B2におけるX線散乱測定を用いて評価した結果が報告された。同電池はMnを活物質として用いた場合、反応中にMnO2が析出するという問題が生じるのをTiを混合させることで抑制したもので、この抑制メカニズムについて得られた結果から議論された。パナソニック(株)の長尾氏からは、「La3Si6Ni11:Ce3+系蛍光体におけるCe3+近傍局所構造の解析」というタイトルで、照明用白色LEDにおいて開発が求められている高出力光励起時に高い輝度を実現できる赤色蛍光体についてその材料設計指針を得るために、候補材料となるCe3+賦活蛍光体のCeサイトの局所構造解析をBL16B2におけるEXAFS測定により行った結果を報告された。(株)日立製作所の米山氏からは、「オペランドトポグラフィーを用いたSiC MOSFETの積層欠陥の動的な観察」というタイトルで、パワーデバイス用材料であるSiCにおいて対策課題となっている結晶欠陥について、MOSFET動作中におけるその挙動の観察を行うためにBL16B2において開発されたオペランド・トポグラフィー法を紹介された。
 最後のセッション7では東京大学の雨宮氏から報告会全体の講評をいただいた。まず、この産業利用分野における学術の参加をもっと促す取り組みが必要ではないかというご意見を示された。さらに、次世代光源計画が進む中で、政府からの産業利用への期待が大きいことに言及され、産業界の側からもSPring-8での利用成果をもとにもっと放射光への要望を積極的に示してほしい、という期待を述べられた。また、今後の若手の利用研究者の教育にSPRUC主催のSPring-8秋の学校を活用されてはどうかという提案もいただいた。最後に、JASRI山川常務理事から閉会の挨拶が述べられ終了した。

 

写真2 口頭発表の質疑応答の様子

 

 

5. ポスター発表
 セッション5の後、ポスター発表が昼食休憩をはさんで午前11時10分からと午後1時10分からの1時間ずつ2回のコアタイムを設けて会場11階のパルテホールで行われた。主催団体のサンビーム共同体から29件、兵庫県24件、豊田中央研究所8件、JASRI共用ビームライン30件、協賛のFSBLから2件の計93件のポスターに加えて、ひょうごSPring-8賞、あいちシンクロトロン光センター、茨城県、兵庫県、SPring-8利用推進協議会、SPRUC企業利用研究会、光ビームプラットフォーム、CROSS東海、RIST、JASRI産業利用推進室から合わせて11件の施設紹介や利用制度、利用者動向などのポスターが掲示された。展示方法は、多様な利用分野の発表がある中で参加者が興味のある分野を選びやすいように第11回から分野別で行われており、今回は(1)装置・施設(17件)、(2)高分子・有機材料(16件)、(3)機械・金属材料(15件)、(4)エネルギー・電気化学(14件)、(5)触媒(8件)、(6)半導体・電子材料(19件)、(7)食品・日用品(3件)、(8)資源(5件)、(9)その他(11件)、の分類で展示された。自分の分野と違う分野のポスターの前で質疑をしている参加者も見られ、分野間の交流も進んでいる様子がうかがわれた。

 

写真3 ポスター会場の様子

 

 

6. おわりに
 こうして本年の産業利用報告会が無事、盛況のうちに終えることができた。準備段階から当日の会場運営、さらに事後の取りまとめなど、主催5団体の事務局のご尽力と共催団体の関係者各位のご協力にこの場を借りて感謝の意を表したい。

 

 

 

佐藤 眞直 SATO Masugu
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0924
e-mail : msato@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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