Volume 23, No.4 Pages 394 - 395
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2015A期 採択長期利用課題の事後評価について – 2 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2015A -2-
2015A期に採択された長期利用課題について、2017B期に3年間の実施期間が終了したことを受け、第63回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2018年6月29日開催)において、事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2015A期に採択された長期利用課題7課題のうち3課題の評価結果は、「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.23 No.3(2018年8月号)に掲載済です。また残り3課題の評価結果については次号以降に掲載する予定です。
課題名 | スピントロニクスデバイスの外場誘起スピン秩序現象の可視化 |
実験責任者(所属) | 小野 輝男(京都大学) |
採択時課題番号 | 2015A0117 |
ビームライン | BL25SU、BL39XU |
利用期間/配分総シフト | 2015A~2017B/194シフト (BL25SU:80シフト、BL39XU:114シフト) |
[評価結果]
本課題は、外場誘起スピン秩序現象を電子状態の観点から解明することを目標として、外場引加条件下におけるその場観察手法を開発し、それを用いて、電圧誘起磁性の元素・界面選択的観測およびスピン流に起因するスピン蓄積現象の可視化を目指す課題である。手法開発では、外場印加下における超高精度磁気分光計測技術の開発が計画通り実施され、複数の系への温度依存も含めた適用からその有用性を確認したことは高く評価される。本実験手法は汎用性があるため波及効果が期待される。研究面では、スピン流に起因するスピン蓄積現象の可視化については微小シグナルの測定限界という実験上の問題により成果は出なかったものの、外場印加下におけるXMCDおよびXASの測定からPt/CoのPtに誘起された磁性の電界効果の観測に成功し磁性誘起の機構をミクロスコッピックな立場で明らかにし、またジャロジンスキー守谷相互作用と電子分布の相関を明らかにするなどこれまでにない研究成果が得られている。これらの成果は、高インパクト論文を含む複数の論文として出版されており、情報発信も適切に行われていると評価できる。中間審査でのコメントについても、それを考慮して研究が進められていると理解できた。
SPring-8の特徴であるナノビームを生かした微小領域の選択的測定などの研究が進まなかった点は残念であるが、総合的には当初の目標は達成されており長期利用課題として評価できる。今後はSPring-8のXMCDの特徴をフル活用した研究が進んでいくことを期待する。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 33751
J. Okabayashi et al.: "Induced Perpendicular Magnetization in a Cu Layer Inserted between Co and Pt Layers Revealed by X-ray Magnetic Circular Dichroism" Scientific Reports 7 (2017) 46132.
[2] SPring-8 publication ID = 33961
S. Kim et al.: "Contributions of Co and Fe Orbitals to Perpendicular Magnetic Anisotropy of MgO/CoFeB Bilayers with Ta, W, IrMn, and Ti Underlayers" Applied Physics Express 10 (2017) 073006.
[3] SPring-8 publication ID = 35977
K. Yamada et al.: "Microscopic Investigation into the Electric Field Effect on Proximity-Induced Magnetism in Pt" Physical Review Letters 120 (2018) 157203.
[4] SPring-8 publication ID = 36238
S. Kim et al.: "Correlation of the Dzyaloshinskii-Moriya Interaction with Heisenberg Exchange and Orbital Asphericity" Nature Communications 9 (2018) 1648.