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Volume 20, No.1 Pages 88 - 89

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2011B期 採択長期利用課題の事後評価について – 1 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2011B -1-

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 2011B期に採択された長期利用課題について、2014A期に3年間の実施期間が終了したことを受け、SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会による事後評価が行われました。
 事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめますが、当該課題の実験責任者は、同一研究テーマの課題を2014B期からの長期利用課題として新たに申請したため、その面接審査と同時に最終期(2014A期)終了前に当該課題のヒアリングを第49回長期利用分科会(平成26年7月)において行いました。その後、当該課題の最終期(2014A期)が終了後、実験責任者より改めて提出された、全期間の研究成果をまとめた最終版の「長期利用課題終了報告書」およびヒアリングの結果を踏まえ、長期利用分科会による最終的な評価結果がとりまとめられました。
 以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌12ページの「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
 なお、2011B期に採択された長期利用課題3課題のうち残り2課題については、平成27年3月頃に事後評価を実施し、評価結果は「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.20 No.2(2015年5月号)に掲載する予定です。

 

課題名 超伝導元素の極限環境における構造物性
実験責任者(所属) 清水 克哉(大阪大学)
採択時課題番号 2011B0038
ビームライン BL10XU
利用期間/配分総シフト 2011B~2014A/195シフト

 

[評価結果]
 本課題は、全元素の超伝導化という目標に向けて、超伝導を示す元素の高圧・極低温下における構造を解明することを目的としている。これは高度な実験技術を駆使した、極めて先導的な物性物理学研究である。本課題では、主に次の2つの成果が得られている。(1)リチウムの超伝導相の発見。リチウムは密度に応じて結晶構造を変え、圧力を加えていくと超伝導体からいったん半導体になり、さらに高圧にすることで再び超伝導体に戻ることを発見した。これは、物質が密度に応じて半導体にも金属にもなりうることを立証するものである。(2)カルシウムは元素として最も高い温度で超伝導となるが、その超伝導状態における結晶構造を解明し、これが単一元素でありながら複雑かつ新しいホスト-ゲスト構造を持つことを発見した。これら2つの成果は物質の本質的な物性理解に貢献するものであり、新たな学術領域を開拓し、多くのプレスリリースにつながっている。また、流体水素から流体金属水素の生成を捉えるなど、今後の発展につながる成果も得られている。この研究には高度なマイクロビーム技術、超高圧・低温実験技術が必要であり、BL10XUにおけるこれら基盤技術の向上に貢献したことも評価できる。
 以上のように本研究は波及効果が大きく科学技術的価値の高い長期利用課題として、その目的を十分に達成したと判断される。


[成果リスト]
(査読あり論文)

[1] SPring-8 publication ID = 24385
T. Ishikawa et al.: "First-principles Molecular Dynamics Simulation for Calcium under High-pressure: Thermodynamic Effect on Simple Cubic Structure" Journal of the Physical Society of Japan 81 (2012) 124601.

[2] SPring-8 publication ID = 24394
T. Ishikawa et al.: "First-Principles Molecular Dynamics Study on Simple Cubic Calcium: Comparison with Simple Cubic Phosphorus" High Pressure Research 32 (2012) 11-17.

[3] SPring-8 publication ID = 24395
T. Ishikawa et al.: "First-principles Study on Superconductivity of Solid Oxygen" High Pressure Research 32 (2012) 457-463.

[4] SPring-8 publication ID = 27113
T. Matsuoka et al.: "Pressure-Induced Reentrant Metallic Phase in Lithium" Physical Review B 89 (2014) 144103.

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794