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Volume 17, No.1 Pages 38 - 41

3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS

SACLAの供用について
SACLA Opened for Public Use

後藤 俊治 GOTO Shunji

(財)高輝度光科学研究センター XFEL研究推進室 XFEL Division, JASRI

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1.はじめに
 SPring-8に併設して2006年度から建設が開始されたX線自由電子レーザー施設(SACLA)は、5年間をかけて2010年度に完成した。2011年3月にアンジュレータからの自発光を確認した後、4月以降電子ビームの調整およびアンジュレータを通る電子ビーム軌道の精密な調整が進められ、2011年6月7日に波長0.12 nmでファーストレージングを達成した。マシンの調整状況について、詳しくは本報告と対をなす田中均氏の報告をご覧いただきたい。
 さて、SACLAの建設完了後、加速器およびビームラインのコミッショニングと並行して、2012年3月の供用開始に向けた各種の準備が進められてきた。財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)は、2011年3月にSACLAの登録施設利用促進機関に決定し、この後、利用者選定・利用支援に関する具体的な検討と作業を進めてきた。こうして、2011年10月に第一期2012A期(2012年3月〜7月)の利用研究課題の募集を開始、2012年1月末に実施課題を決定し、そして3月からの供用運転をむかえることになった。
 ここでは、SACLAの利用にあたり必要と思われるSACLA供用に関する情報を提供したい。



2.供用開始当初の共用機器
2-1 利用可能なビームライン、実験ステーション
 2012A期では、BL3の4つの実験ハッチおよびBL1の光学ハッチが共用装置として提供される。図1にその範囲を示した。なお、BL1は広帯域の自発光のみが利用可能であり、SASE光は利用できない状況にあるため、主たる利用の舞台はBL3ということになる。利用に際して特に関心の高いと思われるパラメータについて以下に示す。
 1)フォトンエネルギー:4〜20 keV
 2)パルスエネルギー:0.1 mJ/pulseのオーダー(フォトンエネルギー依存性あり)
 3)繰り返し:10 Hz(定格60 Hz)
 4)XFELパルス幅:〜30 fs
 5)ビーム発散角:1〜2 μrad

図1 2012A期に共用に供されるビームライン・実験ステーション
フォトンエネルギーとしては概ね上記の領域で供用運転時の利用も可能になる見込みであり、主として電子ビームのエネルギーとアンジュレータの磁石列のギャップの二つのパラメータにより制御されることになる。利用者による実際のフォトンエネルギー選択・変更の具体的な方法については現在検討中であるが、効率的な運用ができるようなシステムを早急に整備する予定である。実際の使用に際しては、施設側と相談して適切なフォトンエネルギーを選択した上で実験に臨んでいただきたい。繰り返しについては加速器のコンディショニングの状況などにより、少なくとも2012A期の供用運転においては10 Hzでビームを提供することになっている。今後の加速器の状況に応じて、2012年秋(2012B期)以降、現仕様での最大の60 Hzまでの運転を目指すことになる。ミラーによる集光の無い状態ではビームサイズとして実験ハッチ1〜4において100〜200 μmの空間的にコヒーレントなビームが利用できる。
 2012年1月に安全インターロックを含めSACLA-SPring-8相互利用実験棟の利用の準備が整った。SPring-8のBL32XUからとSACLA BL3からのビームライン延伸により、XFELとSPring-8の放射光の同時利用を可能とする。2012年度上旬からは主としてSACLA BL3側の延長としての試験調整が進められる。2012B期もしくは2013年度から供用になる見通しである。



2-2 SACLAにおける共用実験装置
 共用に供される実験装置に関して、これまで、
・文部科学省「X線自由電子レーザー利用推進研究課題」(2006年度〜2010年度)
・理化学研究所「SACLA利用装置提案課題」(2011年度〜)
などのプログラムにより施設内・外の研究グループの協力を得ながら整備と試験調整が続けられてきた。このなかで、まずは供用開始時点において利用可能な装置が公開され、2012A期の課題募集が開始されることになった。表1に主要な共用装置の概要をまとめた。

表1 2012A期にBL3において共用に供される主要機器

  実験ハッチ1 実験ハッチ2 実験ハッチ3 実験ハッチ4
共用実験
システム
・XFEL先進光学装置開発システム ・ポンプ・プローブ計測システム ・コヒーレントイメージングシステム
・時間分解多元分光システム
・大型持ち込み装置
集光光学系 1 μmコヒーレント集光装置
同期レーザー CPA,OPA出力が利用可能 CPA出力が利用可能


 実験ハッチ2におけるポンプ・プローブ計測システムにおいては、試料周りのアタッチメントを変更することにより、気液固相を問わず様々な状態の試料に対応できるようになっている。実験ハッチ3に整備されるコヒーレントイメージングシステムにおいては、試料照射部としてクライオ固定照射装置と、液相・気相試料導入装置が整備される。同じく実験ハッチ3に整備された集光ミラーにより1 μmのコヒーレントな集光ビームの利用が可能になっている。また、共用の同期レーザーとして、チャープパルス増幅器(CPA)および光パラメトリック増幅器(OPA)が実験ハッチ2、3において利用可能である。一方、現在共用になっていない装置についても試験調整を継続し、順次可能なものは共用化される予定であり、また、新規装置の開発と共用化も継続して行われる予定となっている。
 試料については、SPring-8にはないXFELの新たな利用の観点から、より多様な試料が持ち込まれることが想定される。利用研究課題申請書には、想定できる試料の種類、形態、量、取り扱い方法などについてSPring-8の申請よりもより詳しく記述していただくことになっており、また、JASRIおよび理化学研究所の安全管理室を中心とした安全審査をクリアした上ではじめて実施可能となる。特にウィルスなどの生体試料の取り扱いに関しては、厳しい審査をクリアしていただく必要がある。場合によって外部の委員を加えたバイオセーフティ委員会による審査をクリアした上での課題実施となることを付記しておく。施設者側としても事例を蓄積しつつ、柔軟に対応し、必要に応じて装置等の整備をしていくことが今後の課題である。



2-3 運転スケジュールに関する考え方
 2012年度はSACLAの総運転時間の半分程度を共用実験に提供する予定となっている。一方で、同程度の時間を加速器、ビームライン、実験ステーションのさらなる整備、調整、安定化、および高度化に使用する予定となっている。特に、加速器の状態を把握・調整し、レーザー発振を維持するためには、2週間に一度程度の調整が必須であり、施設での立上げ、調整、高度化と供用運転のバランスを考慮して2週間モードでの運転を実施することを計画している。SPring-8では1シフト8時間で1日を3シフトに区切ったビームタイム配分が行われているが、SACLAでは、1シフト12時間、1日を昼夜2シフトで区切りビームタイム配分が行われる。原則として、一週目の水曜日午前10時から二週目の水曜日午前10時までの14シフトが供用運転にあてられる。



3.利用研究課題選定など
 SPring-8と同様にSACLAにおいても選定委員会、およびその下で実際の利用研究課題を審査する利用研究課題審査委員会が設置されている。選定委員会では、国の基本方針などに基づいた課題選定に関する基本的な考え方などが策定された。この中で、「X線自由電子レーザー利用推進計画(中間報告)」(平成23年6月27日、X線自由電子レーザー利用推進戦略会議(文部科学省))の考えを踏まえ、2012Aでの課題募集については一般課題と重点戦略課題の二つのカテゴリで課題募集することになった。重点戦略分野は
1)生体分子の階層構造ダイナミクス(5課題)
 ・創薬ターゲット膜タンパク質のナノ結晶を用いた構造解析
 ・細胞全体およびその部分の生きた状態でのイメージング
 ・超分子複合体の一分子構造解析
 ・一分子X線回折実験とスパコン解析を融合させたダイナミクス研究
 ・ポンプ−プローブ法を適用した動的構造解析
2)ピコ・フェムト秒ダイナミクスイメージング (5課題)
 ・気相・液相・固相反応ダイナミクス
 ・界面反応の超高速過程
 ・電荷発生・電荷移動ダイナミクス
 ・極端条件下の超高速過程
 ・動的X線分光科学
であり、また一般課題は特定のテーマ等を設定せずに公募する課題である。これらは、いずれも成果を専有せずに公開する義務を有する「成果非専有課題」のみに限られている。
 利用研究課題については、科学技術的妥当性、研究手段としてのSACLAの必要性、実験内容の技術的な実施可能性、実施内容の安全性などが、総合的かつ専門的に検討評価され、課題が選定されることになった。
 JASRIではこのような基本方針に基づいて、また理化学研究所とも協議をしながら2012A期における課題募集に関する要領を定め、2011年10月6日に課題募集を開始した。課題応募は12月15日に締め切られ、上記の基準による審査が行われ、総合的な判断に基づいて実施課題の採否が決定された。2012年2月初旬に最初の課題選定の採否の結果が各課題応募者に伝えられた。2012A期においては応募55課題のうち25課題が採択された。
 また、引き続き2012B期(2012年9月〜2013年3月の予定)についても2012年5月ごろから課題募集が開始される予定である。詳しくは、Webなどにより最新の情報を参照されたい。2012B期においてもほぼ同様の考え方で利用研究課題の募集が行われることになるだろう。当面はSPring-8と同じように基本的に年に二回の課題募集・利用ということで進められると思うが、利用の状況と成果の出方を見つつ選定方法が議論・修正されていく可能性もある。



4.おわりに
 SACLAは第一期の課題選定を終え、2012年の上期の供用運転をむかえることとなった。コミッショニング、安定化、および高度化を経て刻々と立ち上がり、さらに整備が進んでいる施設の技術情報に加えて、供用に関する情報もWeb、講習会、シンポジウム等を介して利用者に情報提供を行っている。また、本誌を通じて適宜ビームラインや共用装置の情報を、利用成果も伴いながらお知らせできるようにしたいと考える。SACLAの利用を検討される皆様には、本誌の今後の記事や以下に示すチャンネル、その他の手段を通じて、常に最新の情報を入手していただきたい。またSACLAの利用に対する要望や期待が寄せられることをお願いする次第である。
 無事供用開始をむかえるにあたり、独立行政法人理化学研究所および財団法人高輝度光科学研究センターの関係各位のみならず、選定委員会、利用研究課題審査委員会の委員の方々、その他外部機関の関係各位のそれぞれのご尽力があったことを最後に申し添えたい。



問い合わせ:
1)電子メール
 ・利用一般に関すること:sacla.jasri@spring8.or.jp
 ・技術的なこと:sacla-bl.jasri@spring8.or.jp
2)ホームページ
 ・利用制度/募集案内:http://sacla.xfel.jp/proposal
 ・技術情報:http://xfel.riken.jp/users



後藤 俊治 GOTO Shunji
(財)高輝度光科学研究センター XFEL研究推進室
TEL:0791-58-0877
e-mail:sgoto@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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