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Volume 17, No.1 Pages 61 - 64

5. SPring-8 通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

平成21年度指定パワーユーザー中間評価報告
Interim Review Report on Power Users Designated in FY2009

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 パワーユーザー制度は平成15年度より導入され、公募・審査を経て指定(指定期間は最大5年間)されています。パワーユーザー中間評価は、パワーユーザー審査委員会において、開始から3年目となったパワーユーザーを対象とし、あらかじめ提出されたパワーユーザー中間報告書に基づいたパワーユーザーによる発表とヒアリングにより、提案時の目的達成度と得られた成果および4年目以降の計画の妥当性を評価し、4年目以降を実施するかどうかが判断されます。今回は、平成21年度指定のパワーユーザー6名について、中間評価(平成23年11月15日開催)を行いました。
 以下にパワーユーザー審査委員会がとりまとめた評価結果等を示します。



1.澤 博(名古屋大学)
(1)実施内容
  研究テーマ:単結晶高分解能電子密度分布解析による精密構造物性研究
  装置整備:大型湾曲IPカメラの整備
  利用研究支援:当該装置を用いた共同利用研究の支援
(2)ビームライン:BL02B1
(3)評価結果:4年目以降を実施する
(4)評価コメント
 本課題は、単結晶の高精度・精密構造解析手法を開発・確立し、物性や機能の起源解明につなげていくことを目標にしている。粉末結晶ではなく単結晶を対象にしている点に特徴がある。このために光源や光学素子の安定性の問題点を洗い出し、JASRI職員と共同で精密構造解析が可能となるところまで改良したことは、表には現れにくいが、パワーユーザーシステムの意義を理解した活動として評価できる。また、検出器の問題点を見出し、その改良によってより高精度な単結晶構造解析が可能であることも示している。この3年間に実際に行われた構造解析は、凝縮系物理で注目を浴びている物質に関するものであり、いくつかの結果はすでに報告されている。これらの中には本グループだからこそ構造が解析された物質もあるが、その多くは本手法の有効性を十分にアピールするものであり、他の利用者に対してこの解析手法の威力を示すことに成功している。4年目以降も本課題を継続して実施することが適切と判断するが、今後は、新規物質の精密構造解析ならびに新規ユーザーの開拓を積極的に進めていただくことを期待、希望する。



2.久保田 佳基(大阪府立大学)
(1)実施内容
  研究テーマ:構造物性研究の基盤としての粉末回折法の開発
  装置整備:粉末結晶回折装置の整備および高度化
  利用研究支援:粉末結晶回折装置を用いた共同利用研究の支援
(2)ビームライン:BL02B2
(3)評価結果:4年目以降を実施する
(4)評価コメント
 本課題は、SPring-8を用いて初めて可能となる先端的な粉末構造物性研究を推進し、測定技術開発や装置の高度化を行うと共に、新奇性の高い研究成果を創出することにより、次世代のSPring-8を用いた粉末構造物性研究のグランドデザインを策定することを目標としている。また、本課題は、第1期(2003〜2005)、第2期(2006〜2008)のパワーユーザー活動の積み重ねと成果を踏まえて、申請された課題である。
 本課題の研究成果としては、分野のトップレベルのジャーナル論文を含む多くの成果(57報)が得られている。その中で中間報告書では、巨大構造歪みをもつ強誘電体でiso-structural相転移を見つけた研究、単成分からなる分子性金属の粉末試料の構造決定、について報告されている。また、「電子状態の違いを検知する新しい分子吸着現象に関する研究」と「ひねりの効いたガスセンサーの開発に関する研究」に関して、プレスリリースが行われている。いずれもBL02B2においてSPring-8の性能を有効的に活用して得られた研究に関連する成果である。研究成果においては、数・質共に優れており、高く評価できる。
 利用者支援に関しては、パワーユーザー課題と支援課題を合わせてユーザータイムの50%以上のビームタイムにおいてパワーユーザーグループが参加しており、BLの円滑な運営に貢献している。
 測定技術開発や装置の高度化に関しては、利用研究の推進が中心となったため、あまり進展しておらず、計画より遅れている。
 以上、本課題を総合して評価すると、4年目以降も引き続き実施することが妥当であると判断する。
 4年目以降は、測定技術開発や装置の高度化に関して、所期の目標を達成することに配慮して進めて頂きたい。動的な構造解析を行うため、横方向ミラーの導入を含め、要素技術開発を行うことが予定されており、この点の今後の進展を期待する。そのためには、開発、支援、利用研究のバランスを最適化する必要があり、この点における申請代表者のリーダーシップを期待したい。



3.瀬戸 誠(京都大学)
(1)実施内容
  研究テーマ:放射光核共鳴散乱分光法の確立およびその物質科学研究への展開
  装置整備:核共鳴吸収・散乱分光器の開発ならびに整備
  利用研究支援:当該分光器を用いた共同利用研究の支援、測定スペクトル解析ソフトの充実および解析サポート
(2)ビームライン:BL09XU
(3)評価結果:4年目以降を実施する
(4)評価コメント
 本課題は、実験責任者が2011年3月まで実施したJSTのCREST課題「物質科学のための放射光核共鳴散乱法の研究」との連携のもとに、(1)放射光吸収メスバウアー分光法、(2)核共鳴非弾性散乱測定用高分解能モノクロメータ、(3)超高分解能準弾性散乱分光法の高度化と測定時間短縮に取り組んでいる。これまでの課題実施により放射光吸収メスバウアー分光法においては、ドップラー駆動速度範囲±50 mm/sと4 〜 300 Kの測定温度範囲を有する分光器を開発し一般のユーザーにも供するなど装置の高度化の着実な進展とともに、高エネルギー核種(30 keV以上)を中心に多数の核種が新たに測定可能となった。更に、放射光吸収メスバウアー分光法が時間領域測定法と比較して解析が容易なことに着目し、低エネルギー核種にも対応する改造を行うことで核共鳴非弾性散乱測定用高分解能モノクロメータの開発では、35.49 keV(Te-125)および37.13 keV(Sb-121)でのバンド幅を1.7 meVとするなど他の放射光施設よりも数倍高いエネルギー分解能を達成している。また、超高分解能準弾性散乱分光器の開発では、一定速度で運動する透過体(核共鳴試料)を複数配置するマルチライン方式を開発して強度の増加による測定能率の向上と緩和時間測定精度の向上に成功している。以上は、SPring-8の有するポテンシャルを引き出し、より高度な研究を実施できる環境を整えた点で大きな成果と認められる。
 開発した測定装置を用いて“放射光吸収メスバウアー法および核共鳴非弾性散乱法によるFe系高温超伝導体の研究”や、“超高分解能準弾性散乱分光法による分子性液体の緩和時間に関する研究”、“超高分解能準弾性散乱分光法による両親媒性液晶による相分離の研究”を実施している。これらの研究を通じて7編の論文が投稿され、2011年11月の時点で2編が掲載済み、2編が掲載受理されるなど十分な研究成果が得られている。更に、15件のユーザー支援を実施して開発した装置・手法の利用拡大に努め、“Eu水素化物の高圧下放射光吸収メスバウアー分光法による研究”、“放射光吸収メスバウアー分光法によるパイロクロア酸化物の特異な磁気構造の解明”では論文が投稿、掲載されている。
 以上のように本課題は、これまでの実施を通じて装置・手法開発、ユーザー支援および研究成果で十分な実績が挙がっている。今後は、放射光吸収メスバウアー分光法の測定時間を大幅に短縮する分光器の開発、測定時間を1/10程度にまで短縮する超高分解能準弾性散乱分光器の開発、セットアップ時間短縮のための多チャンネルMCSシステム構築による核共鳴散乱計測器の開発など、パワーユーザー課題として適切な開発研究が計画されているため、4年目以降も本課題を継続して実施することが適切と判断する。課題の継続実施にあたっては開発研究の着実な実施と並行してユーザーや利用分野の拡大にも一層尽力されることを期待する。



4.廣瀬 敬(東京工業大学)
(1)実施内容
  研究テーマ:超高圧高温下における地球惑星深部物質の構造決定と複合同時測定による物性研究
  装置整備:レーザー加熱超高圧高温(LHDAC)回折実験に向けた装置開発
  利用研究支援:当該装置を用いた共同利用研究の支援
(2)ビームライン:BL10XU
(3)評価結果:4年目以降を実施する
(4)評価コメント
 本課題は、地球科学における懸案である地球深部の物質構成と物性を地表での実験で明らかにすることである。地球深部については、地震波速度と到達位置からなるトモグラフィーによってその圧力、温度、組成が推定されて来た。本課題はその推定とは独立した実験室系データで地球深部構造を解明していることに意義がある。本分野は世界的に競争も激しく、だれが一番先に地球中心の圧力・温度条件に到達するかという先陣争いの場所でもある。本パワーユーザーのチームは、ダイアモンドアンビルセルとレーザー加熱というツールを、X線強度が大きく、試料位置でのビームサイズを試料サイズより絞れるというメリットを活かせるSPring-8に設置して、温度圧力とも地球中心と同等以上である、377万気圧、5700 Kという未踏領域に世界で初めて到達した。その条件下で、主に鉄合金よりなる固体内核の結晶構造を決定し、圧力-温度状態図を完成した。本パワーユーザーの下部マントルのポストペロフスカイト相の同定に続く、SPring-8に相応しい成果といえる。
 ユーザー支援に関しては、レーザー加熱装置や圧力校正装置を広く他のユーザーに提供し、光軸合わせ等についても、チーム関係者が支援するなど、実績を積んでいる。
 今後の計画については、液体と考えられている外核中の軽元素の効果を、鉄−酸素系の状態図と下部マントルとの相互作用などから推定し、より詳細な外核の構造と熱・物質輸送の仕組みの解明を図るとされている。妥当な内容であり、成果を期待したい。
 本課題については、成果、ユーザー支援とも良好であり、4年目以降も継続することが相応しい。パワーユーザー課題としては、あと2年で相当の結果がでると思われるので、パワーユーザー指定期間終了後の本分野の将来展開・構想についても、研究者コミュニティでまとめ、施設側に提案するなどの作業を期待したい。



5.國枝 秀世(名古屋大学)
(1)実施内容
  研究テーマ:X線天文学新展開のための次世代X線望遠鏡システム評価技術の開発
  装置整備:X線天体観測装置の評価技術の高度化
  利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援
(2)ビームライン:BL20B2
(3)評価結果:4年目以降を実施する
(4)評価コメント
 本課題は、日本の次期国際X線天文衛星「ASTRO-H」に搭載予定のX線望遠鏡のX線光学特性の評価を目的とするとともに、宇宙科学研究利用の拠点として、欧米のプロジェクトとも連携を図りつつ、パワーユーザーとして利用支援・促進の役割を担おうとしている。
 大型ステージなどの評価システムは、本課題の前身である長期利用課題から継続して中尺ビームラインBL20B2に整備され、常設機器として効率的に利用されている。予備を含む3台のX線望遠鏡の評価は、個々のミラー素子数では6000枚にものぼり非常に手間のかかるものであるが、概ね衛星打ち上げスケジュールに合せて進捗している。数mmに絞られた平行ビームを用いたPt/C多層膜スーパーミラーの30〜50 keVの硬X線領域での反射率測定と、個々の湾曲ミラー素子の形状誤差評価が進められている。ここで得られる詳細なデータは、最終的に衛星搭載のX線望遠鏡としての応答を決定するための重要なものである。このように、SPring-8の中尺ビームラインの有する特徴を有効に活用して、ミラー素子の評価およびスクリーニングが適切に進められており、この分野での先導的な利用を推進していると評価できる。
 成果については、SPring-8でのミラー評価を含めプロジェクトの関連発表が適宜なされている。プロジェクトの成功に対しSPring-8が大きく貢献し、最終的にX線天文学の新展開に結びつくことを期待する。
 また、欧米の他の宇宙科学研究プロジェクトとも連携を図りつつ、X線望遠鏡評価やX線検出器の校正などにおいて利用を推進している。パワーユーザーの趣旨に基づいて、宇宙科学研究利用の枠にとどまらず、各種X線結像光学素子や二次元検出器の評価などの利用支援への拡大も期待したい。
 これまでの進捗からみて4年目以降の実施計画は妥当と判断し、本課題の継続を認めるものとする。



6.岡村 英一(神戸大学)
(1)実施内容
  研究テーマ:赤外放射光の次世代利用研究推進:高圧・低温での強相関電子構造研究および赤外近接場イメージング分光法の開発
  装置整備:BL43IRの高圧赤外分光装置の整備・高度化、近接場分光装置の開発・整備
  利用研究支援:当該装置を用いた共同利用研究の支援
(2)ビームライン:BL43IR
(3)評価結果:4年目以降を実施する
(4)評価コメント
 本パワーユーザー課題はBL43IRを使用するもので、二つのテーマからなる。ひとつはYbSなどの物質における、強相関f電子系およびd電子系のフェルミ準位付近の電子状態に関する研究である。これはダイヤモンドアンビルセルによる20 GPaの高圧・低温下で赤外分光測定を行うもので、実験技術は既に確立し、データ解析法を含めて着実に成果があがっている。もうひとつは近接場光学技術を用いた回折限界を上回る空間分解能を持つ顕微赤外分光法の開発で、ビームラインスタッフと共同で行われている。微弱な近接場光の検出が困難で開発計画に遅れが見られるが、非対称FT-IRの導入によってこの問題は解決される可能性があり、今後の進展を期待したい。本ビームラインは利用者が少なく、ユーザー拡大が必要とされている。4年目以降も本課題を継続して実施することが適切と判断するが、パワーユーザーの役割として、本課題で開発された技術を利用する利用者を探すことも必要であるだけでなく、それ以外に新しい研究テーマを持った利用者層を開拓することにも務めるべきであろう。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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