Volume 17, No.1 Pages 42 - 45
3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS
SACLAの調整状況
Beam Commissioning and Achieved Laser Performance of SACLA
SACLAのビームコミッショニングは約4ヶ月に渡るRF機器の高出力コンディショニングを経て2011年2月21日から開始された。Fig. 1にビーム調整前に想定した調整スケジュールとマイルストーンを示す。ビーム調整は、電子ビームを最終ビームダンプまで加速し、システムの基本性能の確認を行う「初期調整」とレーザー増幅を目指した「精密調整」の2つの段階に分けられる。
初期調整では基本性能を速やかに確認するため、ビームを最短で最終ダンプまで出射することを目標に掲げ、スクリーンモニター等最小限の情報を使いラフな調整を行った。レーザー増幅を目指した精密調整では精度の高いより多くの情報が必要になるので、ビームポジションモニター(BPM)やオプティカル遷移放射(OTR)によるプロファイルモニター、電流モニター(CT)等が必要な精度で使用できるように電子ビームを用いた調整を最初に実施した。その後、Fig. 1に示すステップを踏みながら多段のバンチ圧縮プロセスの最適パラメータ設定を行った。5月中旬には加速器の調整を一通り終え、アンジュレータの精密調整へとコマを進めた。電子ビームを用いたアンジュレータラインのアライメントで手間取ったものの、6月7日には1.2 Åでのレーザー増幅の初観測を達成、夏前までにレーザー増幅波長を0.8 Åまで低減した。夏期長期停止以降は、レーザー出力の増大を目指して調整を進め、10月には1.2 Åにて0.15 mJ/pulse、2.3 Åにて0.5 mJ/pulseを達成すると共に、レーザー増幅最短波長を0.6 Åまで低減し、レーザー強度とレーザー波長に関し、ほぼ設計目標をクリアできた。Fig. 2に計画したビーム調整と実際に行われた調整を時間軸上のマイルストーンにより比較して示す。レーザー強度を引き上げるのに若干手間取ったものの、SACLAのビーム調整は、概ね計画通りに進展した事が分かる。
Table 1 Achieved SASE FEL performance
Pulse Energy* Ep | Sub-mJ @ λ ≥ 1 Å |
Electron Beam Pulse Duration* τe | 30~70 fs (FWHM) |
Intensity Fluctuation* | 10 ~ 20 % |
Spatial Coherence | Nearly full |
Repetition Rate | 10 Hz (Max. 60 Hz) |
レーザーの運転状況は現状次の様になっている。運転中の平均トリップ頻度は、10 Hzの繰り返しであれば30〜40分に1回程度である。レーザー波長が長くなる(エネルギーが低くなる)ほどRF高出力機器の使用数が減り、トリップ頻度は減少する。一方で、レーザーの繰り返しを増やすにつれて、単位時間あたりのトリップ数は増加する。トリップ頻度を低く抑える立場から、レーザーの繰り返しを10 Hzからスタートするが、できるだけ速やかにコンディショニングを進め、設計目標値の60 Hzへ引き上げる予定である。現状では、RF高出力機器のトリップからレーザー運転の再開には、おおよそ5分を要する。復帰後のレーザーの再現性は高く、トリップのレーザー特性への影響はないが、レーザー復帰までの時間を最小化するよう今後復帰手順の効率化を進める。レーザー運転に実績のある最大電子ビームエネルギーは8.3 GeVであるが、3月からのユーザー運転では、トラブル時の待機号機の確保も考慮し、当面は最大ビームエネルギーを8 GeVとして運転の信頼性を確保する。
アンジュレータのK値制御は、ギャップ変更に対するフィードフォワード補正テーブルの精度が不十分で、設定を変更する度に軌道調整を必要としてきた。この理由は、補正テーブル作成時に不可欠なビーム軌道変位測定に加速器不安定性に起因するノイズが混入しているからである。このノイズ除去の手順が最近確立したことで安定なレーザー増幅を維持できる補正精度を達成する見通しが得られ、ユーザー運転までには実験ホールから自由にK値を変更できるシステムを導入する予定である。Fig. 5にレーザー波長2.3 Åの約1時間にわたるレーザー強度変動の例を示す。この測定では、レーザー強度変動は約13%(σ)であった。
参考文献
[1]T. Shintake et. al.: Phys. Rev. ST Accel. Beams 12 (2009) 070701.
[2]H. Maesaka, T. Shintake, Y. Otake, T. Hara, K. Togawa, T. Tanikawa, M. Yabashi, H. Tanaka and SCSS Group: in Proceedings of the 3rd Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan, Sendai, Japan (2006) (Tohoku University, Sendai, Japan, 2006) 328–330, only title and abstract in English.
[3]K. Tono, T. Kudo, M. Yabashi, T. Tachibana, Y. Feng, D. Fritz, J. Hastings and T. Ishikawa: Rev. Sci. Instrum. 82 (2011) 023108.
田中 均 TANAKA Hitoshi
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