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Volume 17, No.1 Pages 42 - 45

3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS

SACLAの調整状況
Beam Commissioning and Achieved Laser Performance of SACLA

田中 均 TANAKA Hitoshi

(独)理化学研究所 播磨研究所 XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN

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 SACLAのビームコミッショニングは約4ヶ月に渡るRF機器の高出力コンディショニングを経て2011年2月21日から開始された。Fig. 1にビーム調整前に想定した調整スケジュールとマイルストーンを示す。ビーム調整は、電子ビームを最終ビームダンプまで加速し、システムの基本性能の確認を行う「初期調整」とレーザー増幅を目指した「精密調整」の2つの段階に分けられる。

Fig. 1 Beam commissioning plan. The blue, cyan, green and orange squares represent rough beam tuning, monitor tune-up, precise beam tuning, and photon beamline tuning, respectively. The yellow stars represent the key milestones in the commissioning. BC, bunch compressor; AU, alignment using an alignment-undulator; BBA, beam-based alignment; UND, undulator.
 初期調整は3月中のフルエネルギー加速達成とアンジュレータからの自発放射の確認を目標に進められた。モジュレータ用インバータ電源のトラブルにより遅れていたRF機器のコンディショニングをカバーするため、加速器上流のビーム調整は、両立可能なRF機器のコンディショニングと同時並行で行った。電子銃の健全性を確認するため、500 kVで引き出された電子ビームの規格化エミッタンス(電子が静止している状態に外挿した2次元横方向位相空間の面積に相当し、横方向空間での電子ビームのシャープさを表す指標)を先ず計測し、ほぼ設計値の1p mm mradを実測した。初期電子ビームの健全性を確認した後、SCSS試験加速器で確立した手順に従い[1][1]T. Shintake et. al.: Phys. Rev. ST Accel. Beams 12 (2009) 070701.、ビームの初期条件の評価、238 MHzサブハーモニックバンチャー(SHB)の電圧校正とクレスト位相決定、476 MHzブースター空洞の電圧校正とクレスト位相決定、波長計[2][2]H. Maesaka, T. Shintake, Y. Otake, T. Hara, K. Togawa, T. Tanikawa, M. Yabashi, H. Tanaka and SCSS Group: in Proceedings of the 3rd Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan, Sendai, Japan (2006) (Tohoku University, Sendai, Japan, 2006) 328–330, only title and abstract in English.によるバンチアップ信号測定とビーム誘起信号によるクレスト位相決定の信頼性評価、磁気レンズの収束パラメータ設定と各部でのプロファイル確認等を行い第一圧縮器までの加速器パラメータの大まかな設定を実施した。S-band加速システムは設計値である−20度(クレスト基準)に、第2バンチ圧縮器以降のC-band加速システムは全てクレスト位相に設定しビームダンプへ加速電子ビームを出射する準備をほぼ1ヶ月で整えた。そして7.8 GeVまで加速された電子ビームを、3月23日にBL1の最終ビームダンプまで導いた後で、電子ビームの出射をBL1からBL3のビームダンプに切り替え、BL3に設置された18台のアンジュレータの1台、上流から16台目のアンジュレータギャップを5 mmまで閉め、自発光を発生させた。このX線を下流の光学ハッチの分光器システムに通し、スペクトルを計測し、0.8 ÅのX線が生成されている事を確認した。最後に18台のアンジュレータを所定のギャップまで閉じ放射を観測したが、この時点でレーザー増幅は観測できなかった。
 初期調整では基本性能を速やかに確認するため、ビームを最短で最終ダンプまで出射することを目標に掲げ、スクリーンモニター等最小限の情報を使いラフな調整を行った。レーザー増幅を目指した精密調整では精度の高いより多くの情報が必要になるので、ビームポジションモニター(BPM)やオプティカル遷移放射(OTR)によるプロファイルモニター、電流モニター(CT)等が必要な精度で使用できるように電子ビームを用いた調整を最初に実施した。その後、Fig. 1に示すステップを踏みながら多段のバンチ圧縮プロセスの最適パラメータ設定を行った。5月中旬には加速器の調整を一通り終え、アンジュレータの精密調整へとコマを進めた。電子ビームを用いたアンジュレータラインのアライメントで手間取ったものの、6月7日には1.2 Åでのレーザー増幅の初観測を達成、夏前までにレーザー増幅波長を0.8 Åまで低減した。夏期長期停止以降は、レーザー出力の増大を目指して調整を進め、10月には1.2 Åにて0.15 mJ/pulse、2.3 Åにて0.5 mJ/pulseを達成すると共に、レーザー増幅最短波長を0.6 Åまで低減し、レーザー強度とレーザー波長に関し、ほぼ設計目標をクリアできた。Fig. 2に計画したビーム調整と実際に行われた調整を時間軸上のマイルストーンにより比較して示す。レーザー強度を引き上げるのに若干手間取ったものの、SACLAのビーム調整は、概ね計画通りに進展した事が分かる。
Fig. 2 Comparison between the planed and performed beam commissioning schedules. The stars represent the key milestones in the commissioning.
 主要な光源性能をTable 1に示す。現状、利用可能なレーザー波長範囲は、約0.6〜3 Åであり、レーザーのパルスエネルギーは波長に強く依存し、長波長程高い強度が得られる傾向にある。レーザー波長が1 Å以上であれば0.1 mJを超えるパルスエネルギーが得られ、出力飽和領域での使用が可能である。同一のレーザー波長の場合、高いエネルギーで、かつ、大きなK値を用いる方がパルスエネルギーは高くなる。Fig. 3とFig. 4にほぼ同じ時期に取得した波長1.2 Åのレーザーのゲインカーブとスペクトルを示す。ゲインカーブからレーザー増幅利得は5×103程度であり、ゲインが10台目のアンジュレータ付近から横ばいとなる、並びに強度変動が20%以下まで低減する事から、レーザー出力が飽和領域に達したと考えられる。飽和時の強度変動は加速器の不安定性も繰り込んで16%(σ)である。Fig. 4のレーザースペクトルには、この増幅利得に対応した自発光からのピーク強度増大が見て取れる。

    Table 1 Achieved SASE FEL performance
Pulse Energy* Ep Sub-mJ @ λ ≥ 1 Å
Electron Beam Pulse Duration* τe 30~70 fs (FWHM)
Intensity Fluctuation* 10 ~ 20 %
Spatial Coherence Nearly full
Repetition Rate 10 Hz (Max. 60 Hz)
*Achieved values depend on the lasing wavelength

Fig. 3 Gain curve for a photon energy of 10 keV together with an intensity fluctuation. The laser intensity was measured by the developed backscattering-based monitor[3][3]K. Tono, T. Kudo, M. Yabashi, T. Tachibana, Y. Feng, D. Fritz, J. Hastings and T. Ishikawa: Rev. Sci. Instrum. 82 (2011) 023108.. The beam energy and K-value were set to 7.0 GeV and 1.8, respectively.
Fig. 4 Spectrum of 10 keV (1.2 Å) SASE FEL together with the spontaneous radiation. Each datum shows an average of 10 shots. The beam energy and K-value were set to 7.0 GeV and 1.8, respectively.
 レーザー増幅時における電子ビームの電流ピーク時間幅は、バンチ圧縮条件により異なるが30〜70 fs程度である。レーザーのパルス幅は、一般的にはこの幅に比べて狭く、しかもその中に多数のモードが混在し、スパイク上のスペクトルを構成する。最大ピーク出力は、このスパイク部に対応し、パルスエネルギーをパルス幅で割り算した平均値に比べ数倍は高く、現状でも10 GWは超えていると推定される。
 レーザーの運転状況は現状次の様になっている。運転中の平均トリップ頻度は、10 Hzの繰り返しであれば30〜40分に1回程度である。レーザー波長が長くなる(エネルギーが低くなる)ほどRF高出力機器の使用数が減り、トリップ頻度は減少する。一方で、レーザーの繰り返しを増やすにつれて、単位時間あたりのトリップ数は増加する。トリップ頻度を低く抑える立場から、レーザーの繰り返しを10 Hzからスタートするが、できるだけ速やかにコンディショニングを進め、設計目標値の60 Hzへ引き上げる予定である。現状では、RF高出力機器のトリップからレーザー運転の再開には、おおよそ5分を要する。復帰後のレーザーの再現性は高く、トリップのレーザー特性への影響はないが、レーザー復帰までの時間を最小化するよう今後復帰手順の効率化を進める。レーザー運転に実績のある最大電子ビームエネルギーは8.3 GeVであるが、3月からのユーザー運転では、トラブル時の待機号機の確保も考慮し、当面は最大ビームエネルギーを8 GeVとして運転の信頼性を確保する。
 アンジュレータのK値制御は、ギャップ変更に対するフィードフォワード補正テーブルの精度が不十分で、設定を変更する度に軌道調整を必要としてきた。この理由は、補正テーブル作成時に不可欠なビーム軌道変位測定に加速器不安定性に起因するノイズが混入しているからである。このノイズ除去の手順が最近確立したことで安定なレーザー増幅を維持できる補正精度を達成する見通しが得られ、ユーザー運転までには実験ホールから自由にK値を変更できるシステムを導入する予定である。Fig. 5にレーザー波長2.3 Åの約1時間にわたるレーザー強度変動の例を示す。この測定では、レーザー強度変動は約13%(σ)であった。
Fig. 5 Variation of SASE FEL intensity over 1 hr. The laser wavelength is about 2.3 Å.



参考文献
[1]T. Shintake et. al.: Phys. Rev. ST Accel. Beams 12 (2009) 070701.
[2]H. Maesaka, T. Shintake, Y. Otake, T. Hara, K. Togawa, T. Tanikawa, M. Yabashi, H. Tanaka and SCSS Group: in Proceedings of the 3rd Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan, Sendai, Japan (2006) (Tohoku University, Sendai, Japan, 2006) 328–330, only title and abstract in English.
[3]K. Tono, T. Kudo, M. Yabashi, T. Tachibana, Y. Feng, D. Fritz, J. Hastings and T. Ishikawa: Rev. Sci. Instrum. 82 (2011) 023108.



田中 均 TANAKA Hitoshi
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