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Volume 24, No.3 Pages 350 - 354

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームラインの再契約」について
Renewal of Contract Beamline Agreement

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8に設置されている専用ビームラインは、登録施設利用促進機関であるJASRIの専用施設審査委員会において、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、評価・審査等を実施し、その結果はSPring-8選定委員会で審議されます。2019年8月に開催しましたSPring-8選定委員会において、以下の2件について、2019年6月に開催した専用施設審査委員会(以下、本委員会という)での評価・審査結果等を審議し、承認されましたので報告します。

 

 

利用状況等評価/次期計画審査
・広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)
 (設置者:物質・材料研究機構)
・フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(BL03XU)
 (設置者:フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体)

 

 

 物質・材料研究機構が設置した「広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)」、フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体が設置した「フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(BL03XU)」は、いずれも契約上の設置期間満了前に「再契約」の意思表示があったことから、本委員会で利用状況等評価および次期計画審査を実施しました。
 評価・審査の結果は、ともに6年間の再契約は承認するものの、3年後を目処に中間評価を行うことが妥当との判断となりました。特にフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体には、成果管理や安全管理についての運営体制等の改善を求めることとなりました。
 詳細については、以下、各施設の「契約期間満了に伴う利用状況等評価・次期計画審査報告書」を参照ください。

 

 

広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)契約期間満了に伴う
利用状況等評価・次期計画審査報告書

 

 設置者である国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下、NIMS)から提出された利用状況等報告書、次期計画書及び口頭による報告発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、及び次期計画について、6月12日に開催した第29回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。その結果、施設運用に特段の不安はなく、利用状況及び利用成果も十分なビームタイムの活用と論文発表等がなされていることが確認された。次期計画については、NIMSのミッションに沿った計画がされており、今後の利用成果創出についても十分期待できることから、申請どおり契約期間は6年間とし、3年後を目処に中間評価を行うことが妥当であると判断する。
 以下、項目毎の評価・審査結果の詳細を記載する。

 

1. ビームラインとステーションの構成と性能に対する評価
 本ビームラインは、円偏光用磁石列と水平偏光用磁石列の切り替えが可能な全長4.5 mのリボルバー型アンジュレータを光源とし、光学ハッチに二結晶分光器とさらにその下流に切替式高分解能モノクロメータを配置し、2.2 keVから36 keVまでの幅広いエネルギー領域において、単色X線の利用を可能にしている。硬X線光電子分光測定用には集光ミラーが設置され、試料位置で縦25 µm × 横35 µmのビームサイズを達成している。測定装置としては、高分解能粉末X線回折測定装置、PDF測定装置、薄膜構造解析用6軸精密回折装置、硬X線光電子分光装置、試料自動交換・自動測定型硬X線光電子分光測定装置が整備され、物質や材料の原子構造解析や電子状態解析に利用されている。このように材料評価に必要な装置群を効率的に整備している点は評価できる。また、運営の主体であるNIMSにおける材料評価・開発研究の方針のもと、運用が順調な装置は現状維持に努め、無人復旧システム、MOSTAB導入など確立された技術を活用して、利用環境の効率化、高性能化を進めている点は高く評価できる。

 

2. 施設運用及び利用体制に対する評価
 物質・材料科学を牽引するNIMSは、基礎研究および基盤的研究開発、国家的・社会的な課題解決に貢献することを目的として、本ビームラインを運営している。同機構は本ビームラインに10名+αの常駐スタッフを配し、装置利用のみならず、課題申請から論文執筆に至るまで幅広く利用者の支援を行っている点は非常に高く評価できる。また、広報活動や課題申請相談を実施し、「元素戦略」など国家的課題への関わりやNIMS以外のユーザーを積極的に取り込むなど、戦略的な運営を行っている。利用者へのきめ細やか、かつ、柔軟な対応を実施しており、このことが利用者からの高い評価を得て、成果創出につながっていると考えられる。機構内での連携も示され、本ビームラインへの機構内での評価と期待が高いことも伺える。一方で、本ビームラインだけで物質・材料科学研究全体をカバーすることは難しいと思われる。同機構の可能性を最大限に引き出しつつ広く材料研究を展開する観点からは、他のビームラインとの相互利用連携を検討されることを期待する。
 安全確保に関しては、同機構およびSPring-8のガイドラインに沿って対策が施されおり、高く評価できる。本ビームラインでは、安全管理を重要していることを報告書に明記しており、独自の電気保安検査や安全教育の実施等を行っている。また昨年度行った専用ビームラインの安全管理状況調査結果を見ても、管理状況は上位である。特に問題はみられず、安全管理に関して模範的なビームラインの一つと言える。

 

3. 利用成果に対する評価
 NIMS内の研究に留まらず、機構外利用者に対しても広報活動を積極的に行い、ナノテクノロジープラットフォーム事業、東工大元素戦略拠点事業による共同研究を推進し、国際的レベルの成果創出につながっていることは特筆に値する。また、整備された装置からバランス良く成果が出ており、論文数においても専用ビームラインでは最上位にある。この成果創出の背景には、上記の装置構成、および利用者支援に対する一貫したコンセプトが組織で共有され実行されていること、現状の体制を鑑み、利用分野を硬X線光電子分光測定とX線回折測定等に集約していることなどが、有効に働いていると考えられる。本ビームラインの設置目的に照らして、研究の方向性、成果としての論文の質および量の水準は高く評価できる。

 

4. 次期計画の審査
 NIMSのミッションと運営方針に沿って、本ビームラインの今後の計画が適切に検討されていると判断できる。次期計画では、より高いエネルギーのX線の利用によるPDF解析、2次元波数空間イメージング型スピン分解光電子分光装置の新規導入、測定系の自動化・高度化を行い、高輝度放射光を用いた原子配列構造および電子構造の解析・評価を通じ、機構内研究者が進める電池材料、磁性材料、構造材料などに対象を拡大し、その開発・創成のための基盤研究の成果最大化を目指すという戦略は評価できる。
 本ビームラインには平均構造を測定する装置群が整備されているが、実構造を観察するX線イメージング装置は整備されていない。特に、メゾスケールの実構造観察は材料の機能発現の解明に有用であり、同機構内の潜在的利用者は多いと予想される。潜在的利用者の開拓は、放射光を用いた材料科学の新分野開拓に結びつくものと期待されるため、共用ビームライン等のX線イメージング技術との連携利用を進めることも望まれる。
 ナノテクノロジープラットフォーム事業のセンター機関として、機構外利用者、すなわち産、学、国立研究開発法人などによる共用利用を積極的に促進することは評価できる。また機構が進めるデータ駆動型の物質・材料研究については、統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)とSPring-8から得られる原子・電子構造データとの連携を推進し、データーベース化の取り組みを進めていることは高く評価できる。
 今後、SPring-8-IIや3 GeV高輝度光源が建設されることも視野に入れ、リボルバーアンジュレータの更新、他の施設との連携、共用ビームラインとの棲み分けおよび連携、特色あるスピン分解光電子分光装置の有効活用についても積極的に取り組むことを期待する。
 安全管理については、これまでも積極的に取り組んでおり、次期計画においてもレベルの高い安全管理が期待できる。

 

 以上のことから、再契約は申請どおり、6年間を承認した上で、次回の中間評価は3年後を目処に実施することが妥当であると本委員会は判断する。

以 上

 

 

フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(BL03XU)契約期間満了に伴う
利用状況等評価・次期計画審査報告書

 

 設置者であるフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(以下、連合体)から提出された利用状況等報告書、次期計画書及び口頭による報告にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、及び次期計画について、6月12日に開催した第29回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。その結果、当初計画された機器整備は計画通りに進行し、利用成果も着実に積み重ねられていることは評価できる。引き続きフロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(以下、FSBL)の特色を活かした利用成果の創出が期待できることから、再契約は妥当であると判断する。ただし、運営体制には成果管理や安全管理の面で一体性や主体性を欠いている点が見られることから、連合体内ならびに業務支援を受託しているJASRI等と十分な協議の上、改善することが必要である。また、将来計画においては長期的な計画が示されておらず、SPring-8の将来計画を踏まえた長期計画を検討することが必要である。そのため、次期計画の契約期間は6年間で承認するものの、3年を目処に運営体制や、その後の将来計画を中心に中間評価を行い、契約継続の是非を見極めることが妥当であると判断する。
 以下、項目毎の評価・審査結果の詳細を記載する。

 

1. ビームラインとステーションの構成と性能に対する評価
 本ビームラインは、高分子の動的構造物性の解明及び次世代高分子材料開発を目的として、ソフトマター開発に特化してビームラインがデザインされている。SPring-8標準型真空封止アンジュレータを光源として、液体窒素冷却方式二結晶単色器ならびにKirkpatrick-Baez方式の集光ミラーが光学ハッチに設置されている。実験ハッチは、目的に応じて材料表面と試料本体(透過)の測定ができるよう、2つの実験ハッチが設置されている。薄膜構造物性を対象とする第一実験ハッチには、斜入射小角/広角X線散乱測定、斜入射X線回折測定、X線反射率測定システムが整備され、動的ナノ・メソ広域構造物性を対象とする第二ハッチには、小角・広角X線散乱測定、極小角X線散乱測定、マイクロビーム形成システムが整備されている。
 ビームラインの建設は当初の計画の通りに進行し、1 µm以下のX線ビームを用いた実験技術、異常散乱を利用した小角散乱や斜入射回折実験技術、1 µm以上の構造まで観測可能な極小角散乱・斜入射極小角散乱技術などを達成している。初期に目標とした性能は十分に達成されるとともに、一部には、初期の計画より高い性能を達成している点は評価できる。特に、大型の製造装置を設置するスペースを確保することで、製造プロセスのin-situ測定を可能としたことは本ビームラインのユニークな特徴である。本仕様は産業界にとって重要であり、実際にこれらの技術が工業材料のプロセス研究に活用され、研究成果を挙げている点は特筆すべきである。さらに、その後も大型の公的外部競争的資金の獲得などを重ね、新たな検出器の導入やX線光子相関法といった新規手法を積極的に導入するなど、将来に向けた整備計画が継続して進められている。

 

2. 施設運用及び利用体制に対する評価
 本ビームラインの建設・運営予算は、産学連合体を構成する19の企業グループ(途中で合併が生じたため、2017年以降は18の企業グループ)により等分出資されている。産学連合体の運営は、共同研究関係にある企業と学術研究者が1対1でグループを構成し、両者が協力しつつビームライン利用のための技術開発、ならびにその利用研究を実施している。熱硬化研究分科会のような、グループ間連携による課題解決の取り組みも行われている。多数の企業と大学が産学連携して大型研究施設を主体的に利用する点において、FSBLは一つのモデルケースを明示したものと評価できる。
 運用においては、各種委員会を設置することでFSBLの運営を円滑に進める仕組みが構築されているが、本審査においては、複数機関の寄り合いである連合体運営の難しさも垣間見えた。例えば、安全管理全体については、FSBLは他の専用施設と比べても特段劣っている様子は見られず、むしろ大学の専用施設よりは充実した安全管理が行われている一方で、実験における安全確認、あるいは安全教育の一部が各機関ごとに行われているため、連合体としてこれらの安全管理が十分に行われているかどうか把握していない。また、成果発表についても各グループに任されている部分が多く、各実験課題における成果非専有/専有利用の基準が不透明であり、一体的な取り組みに欠けている。
 特に、安全対策については寄り合いであるからこそ連携を重視した安全管理体制が必要である。利用状況の報告において安全に関してほとんど説明できていなかったことは、連合体という組織内で安全管理の重要性の認識が共有されていないことを危惧させる。また、業務支援を受託しているJASRI等とのコミュニケーションも不足しており、互いに相手任せで安全管理が行われている現状では、思わぬ重大事故の発生や不適切な事故対応を招く危険性をより高くする。利用成果の扱いや安全対策などにおいては、連合体内ならびにJASRI等とのコミュニケーションを改善するとともに、一体の連合体として内外に対して運営の透明性を確保することを求める。

 

3. 利用成果に対する評価
 平均して年間約20報の学術論文が発表されるとともに、中間評価以降130件の特許申請が行われている。論文発表数はSPring-8の他ビームラインと比較して平均的であるものの、特許数が多いことは産学連合体であるFSBLの特徴であり、一定の利用成果は得られているものと判断する。特に、エコタイヤやCFRPの成果などは、産学連合体を組織したことによる大きな成果であり、国内産業への貢献も大きく、ビームラインの設置目的を達成している成果として評価できる。企業連合体である特徴を活かして学生の企業就職に貢献している他、受賞件数も多く、人材育成についても交流が進んでいる。
 一方、利用状況報告書の添付資料によると、学術誌に公開された成果の中で、SPring-8に成果登録がなされていない論文が多くみられた。また、成果の取扱が各グループに一任されているために、成果の非専有利用と専有利用の基準が不透明である。特に、登録されている特許数から推察すると成果専有利用に対する原則が正しく守られていないことが懸念される。施設者とも連携して成果発表の基準や原則を明確にし、産学連合体として成果の取扱についても透明性を確保することを求める。

 

4. 次期計画の審査
 次期計画においては、新規機能性高分子材料の迅速な創成を目標に掲げ、計算科学との協奏に主眼を置いたものとなっている。情報科学との融合に必要不可欠であるビッグデータの取得にむけて、装置の切替効率の向上を中心としたビームラインのハイスループット化が計画されている。高分子製造プロセスにおける動的な階層構造を理解する上で、幅広い時空間スケールでの構造変化や、微少な構造ゆらぎの解明は不可欠である。これまでに開発した測定機器のスループットを向上させ、計算科学との協奏により利用成果の創出を目指すことは適切な計画であると考える。ビームライン利用はこれまでの活動の延長線上にあることから、際だった新規性は見られないものの、計算科学と積極的に融合することで、成果創出に一定の効果があることは期待できる。ただし、提示された研究計画では情報科学がどのように利用されるのか、その具体的な内容が示されなかったため、更なる計画の具体化に向けて今後も継続的な検討が行われることを期待する。また、XPCSなど、開発要素が強い測定手法の実用化については、学術界の先導的役割を期待したい。その実現にはCITIUS検出器や大型計算機など、施設が持つ基盤資源の有効利用が不可欠であり、施設者を交えて利用のスキームを検討する必要がある。他機関との情報交換や技術交流は、SPring-8全体の技術水準の向上や成果創出に対しても重要な課題であり、これまで以上に積極的に取り組んでいただきたい。
 成果創出の促進に向けて、運営体制の見直しも継続的に行うことが必要である。新規企業の参入、過去20年にわたって実施してきた各社平等の費用負担、ビームタイム配分の運用方針の適否などといった根幹の部分についても、状況を常に分析し、最善な運営体制の模索を続けていただきたい。また、安全管理や成果公開基準の遵守など、産学連合体として一元的な運用が求められる点についても、運営体制の見直しが必要である。特に、安全管理については、次期計画資料には改善等について具体的に言及されていないことから、各機関に任されている安全管理(実験の安全確認や教育等)は、各機関任せを止めるか、もしくはFSBL参加機関共通の最低限の管理水準を定めるなど、どの機関であっても継続的に高レベルの安全管理水準を維持できる工夫を行うことを勧告する。また、継続して業務支援の一部を外部に委託する場合は、受託者とのコミュニケーションを密に行い、委託範囲を明確にすることが必要である。特に安全管理については、基本的に安全管理責任は連合体にあることを自覚し、連合体としての安全管理に対する考え方を明確にしていただきたい。成果の創出のさらなる促進においては、成果専有課題と成果非専有課題が適切かつ厳格に運用され、透明性が確保されていることが前提である。このことを十分に認識した上で、利用成果の拡大に向けて今後も継続的に努力していただきたい。

 

 以上のように、これまでの機器整備や技術開発を活かし、今後も継続的に特徴ある成果が創出されることが期待されるため、再契約は妥当であると判断する。しかし、SPring-8-IIを踏まえた設備の更新計画が示されなかったとともに、高度化を支える大型外部資金の期間が2021年度までとなっており、申請期間全体の計画が示されていない。また、成果公開基準の透明化や安全対策については、産学連合体として一体的な取り組みが行われるよう改善が必要である。したがって、次期計画の契約期間は6年間で承認するものの、3年を目処に運営体制や、その後の将来計画を中心に中間評価を行い、契約継続の是非を見極めることが妥当であると本委員会は判断する。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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