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Volume 24, No.3 Pages 279 - 283

2. ビームライン/BEAMLINES

新しい共用タンパク質結晶解析ビームラインBL45XUの現状と運用計画
Current Status and Operation Plan of the New Public Protein Crystallography Beamline BL45XU

馬場 清喜 BABA Seiki[1]、水野 伸宏 MIZUNO Nobuhiro[1]、仲村 勇樹 NAKAMURA Yuki[1]、長谷川 和也 HASEGAWA Kazuya[1]、熊坂 崇 KUMASAKA Takashi[1]、竹内 智之 TAKEUCHI Tomoyuki[2]、湯本 博勝 YUMOTO Hirokatsu[2]、山崎 裕史 YAMAZAKI Hiroshi[2]、仙波 泰徳 SENBA Yasunori[2]、大橋 治彦 OHASHI Haruhiko[2]、後藤 俊治 GOTO Shunji[2]、平田 邦生 HIRATA Kunio[3]、山下 恵太郎 YAMASHITA Keitaro[3]、坂井 直樹 SAKAI Naoki[3]、山本 雅貴 YAMAMOTO Masaki[3]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI、[3](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center

Abstract
 BL45XUは、5.7 × 1012~1.7 × 1013 photons/sec@12.4 keVの高強度ビームを用いた自動での回折実験ができるタンパク質結晶解析ビームラインです。膜タンパク質を含む10 µmから数百µmまでの様々な大きさの凍結結晶を対象試料とし、ビームサイズを5(H) × 5(V)~50(H) × 50(V) µm2の範囲で切り替えて、試料の交換・X線照射位置の決定・データ測定・データ処理を自動化した高効率な回折実験に対応します。
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SPring-8

 

1. はじめに
 SPring-8には兼用も含めて7本のタンパク質結晶解析ビームライン(Macromolecular Crystallography(MX)ビームライン)がありますが、このうちの2本が共用ビームラインで、JASRIタンパク質結晶解析推進室が高度化・維持管理およびユーザー支援を行っています。共用MXビームラインは、国内のアカデミックユーザーに加え、海外のユーザー・産業利用(成果専有)など幅広いユーザーに利用していただいている特徴があります。
 近年、創薬ターゲットとなる膜タンパク質の結晶は、Lipidic Cubic Phase(LCP)法[1][1] M. Caffrey: Curr Opin Struct Biol. 10 (2000) 486-497. (doi: 10.1016/S0959-440X(00)00119-6)により得られることもあって微小化しており、1辺が数µm~数十µmの結晶の測定が増えています。このような微小結晶からの回折データ収集は、複数(何十~数百)の結晶からそれぞれ数度~10度分程度の微小角での回折データを収集し、それらを統計学的に融合することで可能となりました。一方、これまでも一般的に行われてきた可溶性タンパク質の結晶構造解析では、創薬ターゲットに対するスクリーニング実験の増加だけでなく、機能解明のために様々な条件(pH、基質結合など)で多様な構造変化(構造多形)を明らかにすることが必要となってきています。こうした解析を実現するためには、大量の凍結結晶の回折データ取得からデータの解析までを自動化し、解析のスピードを加速することも重要となってきました。
 こうした背景から、偏向電磁石ビームラインBL38B1が担ってきた1辺が100 µm以上のサイズを測定の対象としたルーチン的なデータ測定をさらに発展させ、数µm~数十µmの結晶から自動でデータ測定とデータ処理を可能とするために、この共用ビームラインをアンジュレータビームラインBL45XUへ変更しました。本稿では、2019年から共用として運用を開始したBL45XUについて報告します。

 

 

2. ビームラインの概要
 BL45XUは、微小結晶・低品質結晶などの難易度の高い試料の測定が可能なアンジュレータビームラインBL41XU、BL32XUを基に設計されました[2,3][2] K. Hirata, Y. Kawano, G. Ueno, K. Hashimoto, H. Murakami, K. Hasegawa, T. Hikima, T. Kumasaka, M. Yamamoto: J. Phys. Conf. Ser. 425 (2013) 012002. (doi: 10.1088/1742-6596/425/1/012002)
[3] K. Hasegawa, N. Shimizu, H. Okumura, N. Mizuno, S. Baba, K. Hirata, T. Takeuchi, H. Yamazaki, Y. Senba, H. Ohashi, M. Yamamoto, T. Kumasaka: J. Synchrotron Radiat. 20 (2013) 910-913. (doi: 10.1107/S0909049513022176)
(図1、表1)。真空封止型アンジュレータを光源とし、液体窒素冷却方式のシリコン2結晶分光器(DCM、光源から36.5 m)を用いてビームを単色化します。さらに水平方向の集光ミラー(40.4 m)で1次集光(48.0 m)し、実験ハッチ内に設置したKB配置の楕円筒ミラー(56.5 and 57.0 m)で試料位置(58.0 m)へ集光します。1次集光位置に設置された仮想光源スリット(48.0 m)の開口サイズとKBミラーを調整することで、ビームサイズは、5(H) × 5(V)~100(H) × 100(V) µm2の範囲で変更することができる設計です。利用可能なX線のエネルギー範囲は、6.5~16 keVです。

 

図1 BL45XUの光学配置

 

表1 典型的なビーム性能
エネルギー(波長)範囲 6.5~16 keV(1.9~0.77 Å)
ビーム発散角 < 1 mrad
ビームサイズ 5(H) × 5(V) µm2~100(H) × 100(V) µm2
ビーム強度 1012~1013(photons/sec@12.4 keV)

 

 回折計はX線ミラーによるビームサイズ変更で生じる集光位置の変化に追従可能な設計としました。試料交換ロボットとして、自動測定を効率化するためにBL41XUに実装されたSPACE(SPring-8 Precise Automatic Cryo-sample Exchanger)[4][4] H. Murakami, G. Ueno, N. Shimizu, T. Kumasaka, M. Yamamoto: J. Appl. Cryst. 45 (2012) 234-238. (doi: 10.1107/S0021889812003585)の改良型である高速タイプのSPACE IIを導入し、検出器はDectris社製PILATUS3 6Mを搭載しました(図2)。

 

図2 BL45XUに設置された回折計(左:試料周辺環境、右:装置へのアクセス部)

 

 

 立ち上げ調整は2018年度末から開始し、2019年5月より共用を開始しました。ビームサイズは、5(H) × 5(V)~50(H) × 50(V) µm2の範囲で使用しており、利用可能なX線のエネルギー範囲は、6.5~16 keV(1.9~0.77 Å)、ユーザーが最も利用するエネルギー12.4 keV(波長1 Å、ビームサイズ16(H) × 20(V) µm2)でのFluxは、1.73 × 1013(photons/sec)となっています(図3、4)。

 

図3 試料位置でのビーム性状(E = 12.4 keV)

 

図4 各エネルギーに対するPhoton flux(ビームサイズ16(H) µm × 20(V) µm設定)

 

 

3. 結晶回折自動測定
 本ビームラインの最大の特徴である自動測定を実現するために、理研ビームラインBL32XUで開発された自動データ収集/データ処理システムZOO[5][5] K. Hirata, K. Yamashita, G. Ueno, Y. Kawano, K. Hasegawa, T. Kumasaka, M. Yamamoto: Acta Cryst. D75 (2019) 138-150. (doi: 10.1107/S2059798318017795)を導入しました。ZOOシステムでは、(1)SPACEによる試料の自動交換、(2)X線を用いた結晶位置の探索、(3)重篤な放射線損傷を回避したデータ収集、(4)データ処理KAMOの機能[6][6] K. Yamashita, K. Hirata, M. Yamamoto: Acta Cryst. D74 (2018) 441-449. (doi: 10.1107/S2059798318004576)を統合し、自動かつシーケンシャルに測定が行われます。データ収集においては、1ヵ所で測定する「位置固定データ収集」、2点間を移動しながら測定する「ヘリカルデータ収集」、複数の結晶から数度~10度分程度の微小角で測定する「複数部分データ集積法」などが結晶の形状により選択可能です。この自動測定では、結晶を収容する共通規格トレイUNIPUCK(16試料収容)の1トレイの測定を1.5~2時間で完了します。したがって、SPACEにはUNIPUCKを8個搭載可能なので、最大で128試料を12~16時間でデータ収集ができることになります。現在さらにUNIPUCK自動交換システムを準備中ですので、さらに多くの試料を自動で効率的に測定することができるようになる予定です。2019A期に行われた実験の例として、成果専有一般課題の測定結果を表2に示します。

 

表2 ある自動測定の例
測定条件
-試料数 78試料/7 UNIPUCKs
-全測定時間 6時間49分
-試料あたり平均測定時間 5分15秒
-ビームサイズ 16 µm × 20 µm
-ビーム強度 1.73 × 1013 photons/sec@12.4 keV
-結晶サイズ 200 µm長
・ZOOによる自動測定
-ラスタースキャン:78試料(ピン)
・スキャンエリア:250 × 200あるいは400 × 300 µm
・露光時間 = 0.02秒/フレーム
・ビーム強度:上記の10%
・カメラ距離 = 180 mm
-データ収集:77試料
・Δφ = 0.1°/フレーム、全振動角 = 360°
・線量 = 10 MGy
・露光時間 = 0.02秒/フレーム
・カメラ距離 = 250 mm
・KAMOによる自動処理
-全処理数:77セット、うち76セットで完全性(得られるべき回折点に対して測定で得られた回折点)90%以上のデータを取得
-2.5 Å以上:36セット、3.5 Å以上:71セット、5セットは12.4~3.8 Å

 

 また、これらを用いた自動測定の運用を当ビームラインにて2019B期からスタートします。UNIPUCKをドライシッパーに収容してSPring-8に宅配便でお送りいただき、サンプル情報(測定条件など)をお知らせいただくことで、来所せずに自動測定を実施、測定後に試料と共に測定データと自動データ処理結果をお返しします。是非ご利用ください。

 

 

謝辞
 BL45XUの挿入光源の入れ替え、立ち上げには光源基盤部門挿入光源・フロントエンドG田中隆次氏、光学系の立ち上げに際しては、光源基盤部門の皆様にご支援・ご協力をいただきました。機器制御システムの更新にあたっては光源基盤部門制御G古川行人氏にご支援・ご協力をいただきました。ビームラインの改造では竹下邦和BL装置責任者、光源基盤部門基盤技術G成山展照氏、制御G石澤康秀氏にご支援・ご協力をいただきました。放射光利用研究基盤センター技術支援Gの皆様には実験ハッチの機器設置・立ち上げの全般にわたりご支援・ご協力をいただきました。BL45XUの自動測定の高性能化については、2019A2548の課題を利用しました。

 

 

 

参考文献
[1] M. Caffrey: Curr Opin Struct Biol. 10 (2000) 486-497. (doi: 10.1016/S0959-440X(00)00119-6)
[2] K. Hirata, Y. Kawano, G. Ueno, K. Hashimoto, H. Murakami, K. Hasegawa, T. Hikima, T. Kumasaka, M. Yamamoto: J. Phys. Conf. Ser. 425 (2013) 012002. (doi: 10.1088/1742-6596/425/1/012002)
[3] K. Hasegawa, N. Shimizu, H. Okumura, N. Mizuno, S. Baba, K. Hirata, T. Takeuchi, H. Yamazaki, Y. Senba, H. Ohashi, M. Yamamoto, T. Kumasaka: J. Synchrotron Radiat. 20 (2013) 910-913. (doi: 10.1107/S0909049513022176)
[4] H. Murakami, G. Ueno, N. Shimizu, T. Kumasaka, M. Yamamoto: J. Appl. Cryst. 45 (2012) 234-238. (doi: 10.1107/S0021889812003585)
[5] K. Hirata, K. Yamashita, G. Ueno, Y. Kawano, K. Hasegawa, T. Kumasaka, M. Yamamoto: Acta Cryst. D75 (2019) 138-150. (doi: 10.1107/S2059798318017795)
[6] K. Yamashita, K. Hirata, M. Yamamoto: Acta Cryst. D74 (2018) 441-449. (doi: 10.1107/S2059798318004576)

 

 

 

馬場 清喜 BABA Seiki
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : baba@spring8.or.jp

 

水野 伸宏 MIZUNO Nobuhiro
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : nmizuno@spring8.or.jp

 

仲村 勇樹 NAKAMURA Yuki
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : y-nakamu@spring8.or.jp

 

長谷川 和也 HASEGAWA Kazuya
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : kazuya@spring8.or.jp

 

熊坂 崇 KUMASAKA Takashi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : kumasaka@spring8.or.jp

 

竹内 智之 TAKEUCHI Tomoyuki
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : takeuch@spring8.or.jp

 

湯本 博勝 YUMOTO Hirokatsu
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : yumoto@spring8.or.jp

 

山崎 裕史 YAMAZAKI Hiroshi
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : yamazaki@spring8.or.jp

 

仙波 泰徳 SENBA Yasunori
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : ysenba@spring8.or.jp

 

大橋 治彦 OHASHI Haruhiko
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : hohashi@spring8.or.jp

 

後藤 俊治 GOTO Shunji
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : sgoto@spring8.or.jp

 

平田 邦生 HIRATA Kunio
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2839
e-mail : kunio.hirata@riken.jp

 

山下 恵太郎 YAMASHITA Keitaro
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2839
e-mail : keitaro.yamashita@riken.jp

 

坂井 直樹 SAKAI Naoki
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2839
e-mail : naoki.sakai@riken.jp

 

山本 雅貴 YAMAMOTO Masaki
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2839
e-mail : yamamoto@riken.jp

 

 

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