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Volume 24, No.3 Pages 288 - 290

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

Mediterranean Conference on the Applications of Mössbauer Effect(MECAME2019)報告
Report on Mediterranean Conference on the Applications of Mössbauer Effect (MECAME2019)

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 5月19日から23日までフランス南部モンペリエで開催されたMediterranean Conference on the Applications of Mössbauer Effect(MECAME2019)について報告する[1][1] https://mecame-gfsm2019.irb.hr/
 今回の会議は、国際会議であるMECAMEとしての初めての試みで、フランス語圏のメスバウアー分光に関する会議(Workshop of the French speaking Group of Mössbauer Spectroscopy, GFSM)との共催として開催された。このため、本会議の正式な略称はMECAME-GFSM2019であることをあらかじめお断りしておく。MECAMEはメスバウアー分光の会議としては比較的新しく、2015年の第1回のザダル(クロアチア)に始まり、ツァブタット(クロアチア)、エルサレム(イスラエル)、ザダル(クロアチア)と会議の名前のとおり毎年地中海岸で開催され、今回が5回目である。会議の規模としては50名から100名足らずとそれほど大きな会議ではないが、ヨーロッパを拠点に研究活動を行う研究者が主に参加する会議である。その一方で、この会議にはヨーロッパから遠い日本の研究者が招待講演者を含めて毎回10名前後参加している。今回も全参加者の約1割にあたる10名ほどの日本人が参加した(図1)。

 

図1 学会会場玄関での集合写真

 

 

 過去4度開催されてきたMECAMEはクロアチアの首都ザグレブにあるRuđer Bošković InstituteのMira Ristić氏のイニシアチブの下で開催されてきた。しかしながら、会議の1ヶ月前にこの会議を先導してきたMira Ristić氏が急逝されたという訃報が届いた。急逝された彼女に代わって彼女の元上司であったSvetozar Musić氏が急遽組織委員に加わることになった。直前までプログラムの公表が無いなど会議の運営に若干の混乱があったようであるが、会議は無事に開催された。
 MECAMEという会議は、若手への測定技術の継承やencourageという目的が比較的ゆったりした会議のスケジュールや運営方法の中に垣間見られる。今回はMECAMEと同様の趣旨で運営されるフランス語圏のメスバウアー分光に関する会議(GFSM)からのオファーを受ける形で開催されたと、前述のSvetozar Musić氏から開催の経緯をお聞きした。GFSMの歴史的経緯については、Jose F. Marco氏の講演中に示された。GFSMはそもそもフランス国内の会議ではあったが、フランス国内のメスバウアー分光研究に関する研究規模が縮小していく過程でフランス語を話す隣国のベルギーやフランス語のコミュニティがあるポルトガル、アフリカ諸国、最近ではカナダのケベック州などを取り込む形で現在の形となってきた。また、GFSMの会議の特徴で一つ興味深かったこととして、毎回参加者の一定数以上の研究に大きな関わりがある他の手法を専門とする研究者が必ず招待講演者として招聘されることである。その目的として、Jose F. Marco氏は「メスバウアー分光の長所をよりよく若手に知ってもらうためである」と話されており、今回は主催者であるMontpellier大学のPierre-Emmanuel Lippens氏のグループが精力的に研究を進めているリチウム電池について光電子分光で研究されているPau大学のRémi Dedryvère氏が招待講演者として招かれた。

 

 

2. 会議報告
 会議に関する前置きが少し長くなったが、今回の会議そのものについて報告する。MECAMEもGFSMもメスバウアー分光という手法の会議であるため、メスバウアー分光に関わる新たな手法開発に関わるものだけではなく、対象となる物質群は多岐にわたる。無機化学、錯体化学、固体物理や産業利用まで様々である。本会議の主催者であるPierre-Emmanuel Lippens氏がリチウム電池に関する研究を精力的に進めていることもあって、今回のMECAMEにおいてはリチウム電池に関する講演が多い印象も受けた。また、実験室の装置を用いた放射線源による研究が多く、数少ない企業からの参加者であるSaint-Gabain社のJulien Fourcade氏による同社の研究所におけるメスバウアー分光研究の活動紹介に関する招待講演等で119Snや121Sb核を用いた研究紹介などいくつかの講演を除けば、ほとんどはメスバウアー分光研究として最もよく知られた57Fe核を用いた研究による発表であった。放射線源を用いた研究で恐らく参加者の多くが様々な点で興味を持って聴講したであろう講演は、Johannes Gutenberg大学のPhilipp Gütlich氏によるGöstar Klingelhöfer氏の追悼講演であろう(図2)。Klingelöler氏の大きな功績は火星に送り込んだ探査用ローバーに搭載されたメスバウアー分光器を用いて水が存在したことを証明するのに鉄ミョウバンを発見したことである。その際に役立った分光器のレプリカが会場に回覧される形で講演が行われた(図3)。しかしながら、メスバウアー分光が元素選択的測定ということで、同じく元素選択的手法であるXAFSはメスバウアー分光の研究者には馴染みやすい実験手法である。このため、フランスのSOLEILやイギリスのDIAMONDで行った結果もメスバウアー分光の結果とともに発表されていた。

 

図2 Philipp Gütlich氏による講演の様子

 

図3 講演中に会場に回覧された火星に“派遣された”メスバウアー分光器のレプリカ

 

 

 本会議の開催地がESRFのあるグルノーブルから陸路で4~5時間であり、現在同施設は改修工事でユーザー運転がないことから、今回の会議に参加するに当たってESRFの核共鳴散乱グループの研究者による参加をある程度予想していた。しかしながら、実際にはESRFからの参加者は無く、放射光を用いたメスバウアー分光である核共鳴散乱に関する講演はESRF以外の施設を主として利用している研究者による3件の招待講演だけであった。1件はドイツのPETRA-IIIを中心に研究を進められているKaiserslautern工科大学のVolker Schünemann氏による“Novel Approaches to Study Spin Crossover Systems and Single Molecule Magnets”と題する生化学分野への応用に関する講演を行い、もう1件はかつてベルギーのルーバンやドイツのユーリッヒを拠点に活動していたアメリカのOak Ridge国立研究所のRaphael Hermann氏が“The Spin Structure in Iron Oxide Nanoparticles as Seen by Neutron and Nuclear Resonance Scattering”と題するスピントロニクス分野への応用に関する講演を行った。最後の1件は私自身の講演で、放射光を用いてエネルギー分散型のスペクトルが得られる放射光メスバウアー分光と元素を特定したフォノン・スペクトルが得られる核共鳴散乱を希土類化合物に適応した“Electronic and Atomic Dynamics in Sm and Eu Cage-Structured Intermetallics”と題する講演を行った。
 前述のGFSMに関する歴史的背景を述べたJose F. Marco氏の講演にもあったが、参加者にとって放射光を用いる核共鳴散乱は今後是非とも利用したい実験手法であるということを講演後の質問や会議中の休憩時間やバンケット等での会話の中で強く感じた。それは以前の同会議でご一緒したドイツのPaderborn大学(当時)のGehard Woltmann氏からお聞きしたことであるが、東日本大震災を経緯として日本から遠く離れたヨーロッパにおいて放射性同位体を利用できる施設の閉鎖によりこの分野の研究者の活動の場が制限されているという切実な事情も影響しているように思える。一方で、この会議においてはロシアを含む旧東欧圏の若手の研究者の活発な活動が垣間見られ、従来の核共鳴散乱のユーザーに加えてこれまで放射線源を用いた研究に従事してきた若手の研究者にとっても放射光を用いたメスバウアー分光である核共鳴散乱の重要度が増してくる印象を受けた。

 

 

3. おわりに
 本会議の参加者の一部には14年前に同じモンペリエで開催されたメスバウアー分光や核共鳴散乱を用いた研究分野の最大の会議であるInternational Conference on the Applications of Mössbauer Effectの参加者も含まれていた。14年前の会議に参加したことのある参加者は、参加者同士または組織委員の方々との挨拶の際、口々に「前回の会議では会議のプログラムの変更が必要なほどのひどい大雨だったよね」と話をしていた。会期中の気温は例年より少し高めであったものの晴天続きで、会議場内での活発な研究に関わる議論に加えて、日も長いこともあって会議後にヨーロッパの初夏を楽しむこともできた。次回のMECAMEは、6月頃にギリシャのアテネで開催されることが次回の議長であるIoannis Sanakis氏より報告された。

 

 

 

参考文献
[1] https://mecame-gfsm2019.irb.hr/

 

 

 

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802
e-mail : satoshi@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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