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Volume 24, No.3 Pages 284 - 287

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第10回国際粒子加速器会議(IPAC2019)報告
Report on the 10th International Particle Accelerator Conference (IPAC2019)

渡部 貴宏 WATANABE Takahiro

(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 2019年5月19~24日、第10回国際粒子加速器会議(10th International Particle Accelerator Conference 2019; IPAC2019)がオーストラリア・メルボルンで開催された[1][1] https://ipac19.org。IPACは、加速器関連の会合の中では最も大きい学会で、近年は1000人以上が参加する大規模なものとなっている。毎年1回開催され、アジア→ヨーロッパ→アメリカ→アジア…という順で3地域が持ち回りで開催している。今回はアジアン・ラウンドとしてオーストラリアで開催された(図1、2)。学会の対象分野は広く、高エネルギー物理学のためのコライダー関連、SPring-8をはじめとする放射光源関連、レーザープラズマ加速やUED(Ultrafast Electron Diffraction)をはじめとする新規加速器技術関連、産業利用関連など、様々であるが、近年は、放射光源関連(蓄積リング型放射光源、FEL、小型光源、他)の規模が大きくなってきている。今回の報告では、この放射光源関連に絞り、その中から興味深かった発表をいくつかピックアップするとともに、IPAC2019でも大いに議論された世界の次世代放射光計画に関する現況を、補足説明も交えて示す。筆者の現在の専門上、特にリング型放射光源に関することを主に紹介し、続けてFEL関係やその他についても簡単に紹介する。

 

図1 会場内の様子。Suzie Sheehy氏(Royal Society University Research Fellow、University of Oxford)によるOpening talk。

 

図2 ポスター会場の様子。

 

 

2. 興味深かった発表と世界の放射光計画の現況
 今回、放射光源関連の招待講演の1つは、MAX-IV計画[2][2] https://www.maxiv.lu.seの進捗報告であった。次世代放射光源の先駆けとして注目を浴びた本計画は、2015年夏に「コミッショニング」と呼ばれる加速器調整を開始し、その後、2016年末から2017年初頭にかけて利用運転へ移行してきたが、4年近く経った今も、目標としている筈の蓄積電流500 mAには届かず、250 mAで利用運転を行っている。これら様々な事情もあり、MAX-IVのこれまでの進捗は加速器界でも多いに注目され、今回の招待講演に至った。その結果、「250 mAで運転しているのは、高周波装置が完備されていないことが理由だが、予算上完備していないだけであり、利用者側からもこれ以上電流を増やす要望は出ていない」といったことが説明され、ここまでに至る問題や残された課題についてあまり多くを発表しなかったという印象を筆者は得た。
 その他にも、次世代放射光計画に関する発表が多く行われた。ESRFは、現在光源をシャットダウンし、アップグレードとなるESRF-EBS[3][3] https://www.esrf.eu/about/upgradeの準備が進められており、これに関する発表がいくつかあった。例えば、ESRF-EBSの装置が準備出来次第スタートするコミッショニングの準備のため、ESRFがシャットダウンする前に、敢えてビームを見失った状態(加速器的に言うと、ステアリング磁石を全てOffにし、他のパラメータも若干ずれた状態)からビームを蓄積するまでの試験を行った旨、発表があった。ただし、現在、ESRF-EBSの準備が忙しいのか、若干発表が少なかった印象を得た。同じ理由からか、現在建設が最終段階に来ているもう1つの次世代光源SIRIUS(ブラジル)についても発表は少なかった。
 野心的な目標を立てていることで知られるアメリカLawrence Berkeley National Laboratory、Advance Light Source(ALS)のアップグレード計画ALS-U[4][4] https://als.lbl.gov/als-u/overview/では、その挑戦的な加速器設計を成立させるべく、蓄積リングの内周側にAccumulator Ringと呼ばれる別の大型リングを構築する必要がある。そこで、シャットダウンによる利用者への影響を最小限にするため、現リングALSが動いている段階から停止期間などを利用して少しずつAccumulator Ringを構築していき、37ヶ月かけて完成させる長期的な計画について紹介があった。現段階において、本計画の実現には様々な課題があり、今後の開発の動向が注目される。同じくアメリカでは、2014年にアップグレードを終えたNSLS-II[5][5] https://www.bnl.gov/ps/nsls2/about-NSLS-II.phpが、現状の約1 nm.radというエミッタンスを1/10以下にするようなアップグレード計画を模索している旨、何件か発表があった。例えば、極力最小限のアップグレードで済ますことを念頭に、加速器における偏向磁石と呼ばれる電子軌道を曲げる磁石のみ特殊なものに置換する案であるとか、磁石のほぼ全てを置換する案などが示されていた。ただ、これらは現段階ではすぐに現実味を帯びたものではない。むしろ印象深かったのは、現NSLS-IIにおいて、ここ数ヶ月間にわたり、“Mysterious”な長期軌道変動が見られ、その原因の追求に何ヶ月も要したという報告であった。結果的に、加速器担当者の誰も知らなかったユーティリティ用の地下トンネル(Steam tunnel)があり、そこの機器故障によって地下の温度が急激に上がったことが原因であったそうである。また、高周波機器のトラブルによって現在、蓄積電流を半減させて運転しているという情報も得た。今回、例えばイタリアの放射光源Elettraなども現状のリングの状態、および将来光源計画の発表を行ったが、現Elettraの利用率は97%、Mean-time-between-failures(MTBF)は約60時間となっており(参考:SPring-8のここ5年間の平均利用率は99.3%、MTBFは192時間)、電源、高周波系、冷却系といった装置群を故障なく維持することの難しさは当然のことながら万国共通の課題となっている。
 筆者の印象では、今回のIPACにおいて注目を浴びた将来計画は、アジアにおける3つの計画であった。まず1つは、中国IHEP(中国科学院高能物理研究所:Institute of High Energy Physics, Chinese Academy of Science)の新規6 GeV計画HEPS[6][6] http://english.ihep.cas.cn/doc/2639.htmlである。周長約1300 mで、エミッタンスは60 pm.rad程度を目標とする本計画は、最近の中国の状況をよく反映し、多くの若い世代が、野心的な設計や詳細かつ広範囲にわたる開発を精力的に行っており、多くの発表がなされた。なお、現在中国ではHEPS計画の他に、USTC(中国科学技術大学:University of Science and Technology of China)などによる新規3 GeV計画も検討・準備が着々と進められており、FELも含めた多くの計画が並行して精力的に進められている印象を改めて得た。
 意外にもHEPS計画よりも注目を浴びていたのが、タイの新規3 GeV放射光計画SPS-II(Siam Photon Source-II)であった。本計画は、周長321 mとコンパクトながら、“Double-triple bend achromat”と呼ばれる日本の3 GeV計画のラティス(磁石配列)に似たラティスによってエミッタンス0.9 nm.radを目指し、セル長22.95 mのうち、通常直線部が5.02 m長、短直線部が3.10 m長という、直線部の長さを取ることに重きをおいた構成となっている(その定量的効果は別途議論が必要として)。現在稼働中の1.2 GeV放射光施設[7][7] https://www.slri.or.th/en/がスワンナプーム国際空港から北東に位置するのに対し、新規3 GeVリングは、南東の方向に新規建設予定で、既に予算がApproveされているとのことであった。今後、2019~2020年度にR&Dを行い、2023年度末までの3年間で建屋を建設しながら2024年度中盤まで最終設計および量産を行った後、2025年度にコミッショニングを行う計画となっている。タイの現放射光施設は、現段階では技術的・知見的に発展途上な部分もあり、また、タイ国内のメーカーの技術力の底上げなど様々な課題があるが、海外で経験を積んだ若い世代が学位取得後タイに帰国し、現リングの高度化、およびSPS-IIに向けた検討・開発を積極的に進めており、ASEANの中心的な存在として今後の発展が期待される。なお、最終日に行われたClosing Plenary講演の1つとして「Overview of Light Source Developments in Asia」という発表が、中国科学院上海応用物理研究所(Shanghai Institute of Applied Physics, Chinese Academy of Sciences)のDong Wang氏によって行われ、この発表では、SPring-8、SPring-8-II、SACLAなど、日本の放射光源について多くの時間が割かれて説明が行われたが、将来の展望として、SPS-IIを強調したスライドで発表が終わったこともあり、SPS-IIが広く知れ渡った学会となった。
 Wang氏の発表などを通してもう1つ印象深かったのは、東北の3 GeV計画であった。今回のIPACにおいて、東北の3 GeV計画に関する発表は、全体を紹介したポスターなどいくらか行われたが、最終日にWang氏が強調して発表したことにより、学会参加者に広く知れ渡ることとなった。なお、Wang氏の発表の中で、東北の3 GeV計画は、SPring-8-IIのために開発されてきたノウハウをベースに準備が進められている旨、紹介があった。その他にもSPring-8-IIに関する発表はいくつか行われており、当然、SPring-8-II計画も注目を浴びている計画の1つとなっている。
 将来計画だけではなく、現状の放射光源の高度化に関しても多くの発表があった。その中でも昨今の注目の高さを感じたのは、AI(Artificial Intelligence)、Machine learningなどに代表される研究であった。例えば、挿入光源の駆動によって電子ビームの軌道やエンベロープが変化してしまう現象をMachine learningによって制御する手法などが各所で提案、試験されており、今回のIPACでも多数報告されていた。
 さて、ここまでは蓄積リング型光源の話であるが、ここから簡単にFELについても紹介する。今回は、アジアン・ラウンドだったこともあり、XFELに関する招待講演は、韓国のPAL-XFELの全体報告、およびSACLAのシードFELに関する報告が行われた。前者は、コミッショニングからSASEの発振、更にはシードFELまでの過程が迅速に行われたこと、およびFEL光と外部レーザーとの同期が非常に高精度(~10 fsオーダー)で行われたことが報告され、XFEL関係者にとっては馴染みのある報告となった。後者は、理化学研究所の井上伊知郎氏によるシードFELに関する報告であった。本発表では、spectral brightnessが制限される透過型セルフシードFELのみでなく、チャンネルカット結晶を用いた反射型セルフシードFELもSACLAにて実践されていることが報告され、SACLAにおいて安定かつ明るいFELが利用者に供給され、今後も更に開発が進んでいくことが伝わる良い発表であった。現在、FEL業界はシード化や高繰り返し化に向けた大きな流れがあり、今回の学会でもこれらに関する多くの発表が各研究所から行われた。今後当分の間、光源性能の向上に向けた開発が各所で続けられることが期待される。

 

 

3. その他
 リング型放射光源やFEL以外にも、興味深い発表が多くあった。現在、アメリカのコーネル大学とBrookhaven National Laboratoryが共同で、CBETA(Cornell University Brookhaven National Laboratory Electron Energy Recovery Test Accelerator)と呼ばれるERL(エネルギー回収型線型加速器)のコミッショニングを行っている。本計画は、ERLの試験加速器であるだけでなく、加速器全体にわたり永久磁石を並べて、4つの電子エネルギーを1種類の磁場設定によって全て回そうといった特徴があり、現在、1周目の調整が行われている旨、報告があった。この他にも、近年のIPACでは永久磁石に関する発表が多く行われており、今回も多く行われた。SPring-8-II計画においても、(i)消費電力の抑制、(ii)電源や冷却水系トラブルの回避、といった特長を持つ永久磁石の導入を目指した研究開発が進められており、今後の加速器開発において1つの注目点となっている。
 近年、IPACではスマートフォンのアプリが多いに活用されている(図3)。プログラムの管理や検索機能に加え、予め登録しておいた発表のリマインダーなど、紙媒体では出来ない便利な機能が多いに役に立っている。更に今回のIPACでは、新たな機能が導入された。それは、会場からの質問をアプリを通して行うというものである。この1つの目的として、「英語を母国語としない参加者も質問しやすい」ということが利点であると発言した英語のネイティブスピーカーもいたが、個人的にはそれよりも、匿名による質問という新たな一面を感じた。学会中、これを如実に表すシーンがあった。現在、高エネルギー業界では、LHC(Large Hadron Collider)に続く将来の衝突型リング加速器として、FCC(Future Circular Collider)[8][8] https://home.cern/science/accelerators/future-circular-colliderと呼ばれる周長100 kmに及ぶ大型加速器の検討が進められているが、中国でも、基本的に同じ目的のCEPC(Circular Electron-Positron Collider)[9][9] http://cepc.ihep.ac.cnが検討されている。このCEPCの発表に対し、上述のアプリを用いた質問が会場からなされ、「FCCと基本概念になにか違いがあるのか?」という質問が行われた。当然、こういった質問も口頭で直接すれば良いし、匿名の質問をアプリを通して行うことについて必ずしも大歓迎ではないという見解も多々あると思うが、新しい試みではあった。なお、今回は、会場からアプリによって質問が出ると、座長の手元にあるタブレット端末にその質問があらわれ、座長は、発表者の発表を聞きながらこれらの質問をチェックし、発表が終わり次第、先にアプリによる質問を読み上げて皆の前で発表者に(代行)質問するか、会場からの挙手による口頭質問を優先するか、あるいはアプリによる質問は採用しないか決める、というやり方が取られた。筆者はセッションの座長を行い、これらのやり方については当日聞かされたのだが、特に英語のネイティブスピーカーではない筆者のような者が座長をする場合において、それなりに技量を求められる場面ではあった。今後も採用されていくか否かについて見守りたい。

 

図3 IPACのスマートフォン用アプリのホーム画面。

 

 

4. おわりに
 本報告書の主旨は、放射光将来計画各々の目標性能を比較することではないため、各将来計画が示した目標性能を詳しく書くことは敢えて控えた。詳細な仕様については、参考文献に示したウェブサイトや、その他のウェブサイトを検索して参照していただきたい。
 IPACに限らず近年の会合を通して実感することの1つは、昨今の研究は様々な国によって行われはじめており、昔のイメージから想像する限られた国だけが先を走っているのではない、ということである。光源施設においても、様々な国が精力的に取り組み、おそらく、良い光源を構築した国とその周辺には、良いサイエンスが続き、良い産業が育っていく。別の表現で言えば、例えば学会における招待講演、口頭発表の「アジア枠」なるものがあるとした場合、以前は日本を含めた1、2カ国の中の話であったものが、徐々に多国化していくことは避けられない。これは大変に結構なことだが、研究者が自ら(あるいは自らの組織・国)のプレゼンスを維持・向上させるには、こういった学会を通して情報を取得・発信し、先をいく研究、独自の研究、緻密な研究といったことをどのように計画し、実践していくか、考えていく必要があると改めて感じた。

 

 

 

参考文献
[1] https://ipac19.org
[2] https://www.maxiv.lu.se
[3] https://www.esrf.eu/about/upgrade
[4] https://als.lbl.gov/als-u/overview/
[5] https://www.bnl.gov/ps/nsls2/about-NSLS-II.php
[6] http://english.ihep.cas.cn/doc/2639.html
[7] https://www.slri.or.th/en/
[8] https://home.cern/science/accelerators/future-circular-collider
[9] http://cepc.ihep.ac.cn

 

 

 

渡部 貴宏 WATANABE Takahiro
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0803 ext 3352
e-mail : twatanabe@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794