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Volume 24, No.3 Pages 298 - 300

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第40回真空紫外およびX線物理学国際会議報告
Report on 40th International Conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics; VUVX2019

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

 6月30日から7月5日にかけて、第40回真空紫外およびX線物理学国際会議(VUVX)[1][1] https://vuvx.lbl.gov/が、アメリカ合衆国、サンフランシスコ市ユニオンスクエア近くのWestin St. Francis Hotelで開催された(図1)。会議のChairpersonsは、Elke Arenholz(Cornell High Energy Synchrotron Source, CHESS)とHendrik Ohldag(Lawrence Berkeley National Laboratory)のドイツ出身の2人である。Arenholz女史は会議の準備期間中はBerkleyに所属していたが、会議開始前にはCHESSに異動したようで、会期中はその姿が見えず、Ohldagが、あらゆる準備を一人でこなし見ていてかわいそうなほど奮闘していた。Ohldagは、筆者が1993年から94年にかけてデュッセルドルフ大学に所属していた時から旧知の間柄で、当時は研究室の学部学生であり、その後アメリカでXMCD(磁気円二色性)やPEEM(軟X線光電子顕微鏡)などによる磁性研究の分野でキャリアを積んで世界的な研究者に成長して、本会議のオーガナイズを任されるまでになった人である。

 

図1 会場のユニオンスクエア前のホテル。サンフランシスコを訪れる要人はこのホテルを利用するとのことで、エリザベス女王やアイゼンハワー、レーガン大統領などの写真が飾られていた。

 

 

 以前報告したように[2,3][2] 木下豊彦:SPring-8/SACLA利用者情報 15 (2010) 264-266.
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=3236
[3] 木下豊彦:放射光 29 (2016) 265-267.
http://www.jssrr.jp/journal/pdf/29/p265.pdf
、本会議は、これまで独立に開催されていた、真空紫外線物理に関する国際会議(VUV)とX線物理に関する国際会議(X-series)を統合する形で開催されている。バンクーバーで開催された2010年の会議[2][2] 木下豊彦:SPring-8/SACLA利用者情報 15 (2010) 264-266.
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=3236
からこの形式が定着し、その後2013年合肥[4][4] 山根宏之:放射光 26 (2013) 291-292.
http://www.jssrr.jp/journal/pdf/26/p291.pdf
、2016年チューリッヒ[3][3] 木下豊彦:放射光 29 (2016) 265-267.
http://www.jssrr.jp/journal/pdf/29/p265.pdf
で開催されたのち、今回の開催となった。真空紫外線よりも高いエネルギーの光を用いた分光に関する最大の国際会議である。特に放射光による分光を行っている研究者にとっては、もっとも重要な会議のひとつとなっている。最近では放射光の高輝度低エミッタンス化、自由電子レーザーの利用などが進み、会議で議論される内容も、単なる分光にとどまらずコヒーレンスを利用したイメージング、構造解析や時間分解測定などにそのトレンドが変化してきている。また、レーザーの高調波を利用した時間分解光電子分光、吸収分光の進歩も著しい。
 会議の参加者(7月1日段階での登録者)の内訳は、表1にまとめたとおりである。以前のバンクーバーやチューリッヒでの会議に比べると参加者はかなり減少している。日本からは前回80名を超える参加者があったのに比べると半減しており、特にHiSOR関係のアクティビティの報告が少なくなったのはやや寂しい感があった。DIAMONDのような大きな施設を抱えている英国からの参加者もなく、これまでの存在感がなくなっていた。前回、前々回の会議まで、国際諮問委員を務めていたような研究者もあまり姿を見せておらず、世界的に世代交代が進み、また研究分野のトレンドも移り変わっている感を強く感じた。本VUVX会議の翌々週、強相関関係の光電子分光の国際会議がオックスフォードで開催されることになっており、HiSORをはじめとする日本の光電子分光分野の研究者やイギリスの研究者はそちらへの参加を優先させたものと推察される。また、台湾からの参加も目立っていたが、大陸中国の参加者はほとんど見られず、登録があったものの参加には至っていなかった人もいた。招待講演者といえどもアメリカ大使館での面接でVISAが下りずに渡航ができなかったようであり、昨今の米中摩擦の影響がここにも表れていた。純粋な科学の発展を目指した国際会議の場でもこのようなことが起こっているのは非常に残念なことである。また、開催国のアメリカからの出席者を含め、この分野での、ドイツ人の存在感は非常に大きく、会場のあちらこちらでドイツ語の会話が交わされていた。

 

表1 会議参加者数の国別地域別内訳
Europe The Americas Asia Total
Austria 1 USA 119 Taiwan 12 20 countries
Belgium 1 Canada 4 South Korea 8  
Czech Republic 1 Brazil 3 Japan 43  
Denmark 1     China 4  
Finland 1          
France 6          
Germany 46          
Italy 4          
The Netherlands 2          
Slovenia 2          
Spain 2          
Sweden 10          
Switzerland 9          
Total 86   126   67 279

 

 会議はPlenary、Invite、Oral、Posterの形式の発表で構成された。月曜日の朝から金曜日の夕方まで、フルにこれらの講演プログラムが配置され、非常に盛りだくさんの内容となった。バンケットは開催されたもののExcursionは計画されずに、サイエンスの議論に集中する構成となっていた。ポスターは、初日と2日目の午前午後、合わせて4つのセッションで、1セッション当たり30余りのポスターで、90分の時間がとってあったため比較的じっくり議論ができた。会場の様子を図2に示す。

 

図2 会場の様子。

 

 

 興味深かった講演は、初日のPlenaryで報告されたSLACのTaisia Gorkhoverによるホログラフィー実験である。ウィルスの高分解能実空間を観察しようとする試みであるが、参照波を作るために、ナノクラスターとサンプルのウィルスをジェットで同時に噴射し、コヒーレントな自由電子レーザー光によってホログラムを取得し、クラスターの大きさや距離などをパラメータとしながらも、ウィルスの像再生に成功していた。これまで放射光で実施されていたホログラフィーでは参照物質もしくはアパチャーとサンプルを近くに配置する工夫で実現していたものが、サンプルを固定することなく実現していた。In flightホログラフィーと呼んでいるようである。Ptychographyの発表もいくつかあったが、日本からの光電子ホログラフィー及び蛍光X線ホログラフィーの発表が数件あり注目を浴びていた。光電子分光の発表も相変わらず多かったが、RIXS(共鳴X線非弾性散乱)の実験が世界各地で盛んになってきた印象を強くした。特に分解能の向上は著しく、電荷移動、電荷秩序などの話のほかにマグノンやフォノンなどの素励起に絡んだ研究が数多くあった。
 ここ数年、関係者が動向を注目しているMAX IVからの報告もあったが、まだ実際のデータを用いたサイエンスの発表には至っていない。ただ、高分解能RIXSのビームラインではエンドステーションでの調整が進み、設計値よりはやや劣るものの実際の光が使えるようになってきた状況が報告されていた。光源関係の発表では、Zhentang Zhaoによって、世界の自由電子レーザーの現状と開発状況について報告があったほか、高調波レーザーの開発や時間分解分光の様子についての発表がいくつかあった。また、東北の3 GeV計画のほか、スイスのSLSの次期計画についてのポスター発表があった。スイスでもMAX IV同様MBA(Multi-Bend Achromat)ラティスを用いた改造計画をスタートさせるようで、2025年の完成を目指して500 pm・radのエミッタンスを実現しようとするものである。3年前の会議で注目を浴びたELI(Extreme Light Infrastructure)施設についての報告もあった。レーザーの高調波発生を中心に大強度の真空紫外からX線領域のコヒーレント光を出そうとするもので、東ヨーロッパの研究者たちが中心に建設が進んでいる。APSのアップグレード計画に関してはDirectorのStreiffer自身が発表した。アップグレードの予備段階の実験結果も報告し、放射光励起のSTM(走査型トンネル顕微鏡)の現状やイメージングなど、軟X線領域でもAPSの持つ優位性を生かした実験について報告したのち、アップグレードについて紹介していた。
 本会議ではVUVX awardsも設定されており、AMO(原子・分子・光学物理)分野では、ウプサラ大学のTatiana Marchenkoが、硬~軟X線領域で主にRIXSを使ってのCore-hole-clock spectroscopies(分子の光励起の挙動をフェムト秒以下の時間スケールで解明するために寿命フリーのRIXSを利用する手法)の功績で表彰された。本人はVISAが取得できず会議に参加できなかったが、代わりに研究室のPIであるMaria Novella. Piancastelli教授が研究の紹介を行った。AMO分野の学生賞はカンザス州立大学のTravis Severtが、水分子の乖離ダイナミクスの研究で受賞した。固体物理分野の学生賞はコロラド大学のWenjing Youのレーザー高調波を用いた時間角度分解光電子分光により、磁気相転移やCDW(電荷密度波)遷移を起こす物質の研究の功績に対して授与された。固体物理分野の本賞は、ALSのWanli Yangの軟X線分光による電池研究に関する功績に対し授与された。吸収分光、RIXSに理論計算なども組み合わせた研究が評価された。
 7月3日の夜には会場ホテルの最上階(32階)でバンケットが催された。サンフランシスコ市内を一望できる絶景の中、参加者は食事を楽しんだのち、NASAのThomas Bristowによる講演が行われた。火星の鉱物とX線構造解析に関する話題で会場からは数多くの質問があった。
 今回初めての試みとして、7月4日の朝のセッションではStudent Plenary Presentationが開催された。2光子光電子分光、XMCD、時間分解分光など質の高い発表が7件あった。学生さんたちには貴重な機会となったと思うが、会場の聴衆は独立記念日であったためか、60~70名余りで少し寂しかった。

 会期中はさわやかな天候に恵まれ、気温も20度前後で日本の高温多湿の環境に比べると過ごしやすかった。次回の会議は2022年8月22日からブラジルのアルマサン・ドス・ブージオス(リオデジャネイロからバスで2時間半くらいとのこと)でArnaldo Naves de Brito、Turio Rocha両博士がオーガナイザーとなって開催される予定である。そのころには建設中の次世代光源SIRIUSのビームラインも10本程度は稼働しているのではないかとのこと。SIRIUSはサンパウロの北のほうに位置し、地球の裏側にある国で、しかもブラジル国内の移動も大変そうであるが、日本からの多くの参加を期待しているとのことであった。空港から会場へのシャトルバスの準備も進めるとのことであった。

 

 

 

参考文献
[1] https://vuvx.lbl.gov/

[2] 木下豊彦:SPring-8/SACLA利用者情報 15 (2010) 264-266.
https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=3236

[3] 木下豊彦:放射光 29 (2016) 265-267.
http://www.jssrr.jp/journal/pdf/29/p265.pdf

[4] 山根宏之:放射光 26 (2013) 291-292.
http://www.jssrr.jp/journal/pdf/26/p291.pdf

 

 

 

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室
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e-mail : toyohiko@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794