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Volume 25, No.2 Pages 154 - 159

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2020A期 採択長期利用課題の紹介
Brief Description of Long-term Proposals Approved for 2020A

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 2020A期は12件の長期利用課題の応募があり、5件が採択されました。採択された課題の審査結果および実験責任者による研究概要を以下に示します。

 

 

- 採択課題1 -

課題名 放射光X線を用いた巨大な自己集合中空錯体群の構造解明と機能創出
実験責任者名(所属) 藤田 誠(東京大学)
採択時の課題番号 2020A0168(BL26B1)、2020A0179(BL41XU)
ビームライン BL26B1、BL41XU(併用)
審査結果 採択する

 

[審査コメント]
 本申請では、前課題に引き続き、放射光を用いて初めて得られる結晶構造などを基に、中空構造を有する有機分子ないしペプチドの金属錯体化合物の設計および合成を実施することが目的となっており、以下の4つの内容として計画されている:(1)新規中空錯体の構築と構造解析、(2)巨大中空錯体の構築と構造解析、(3)巨大中空錯体へのタンパク質包接と構造解析、(4)ペプチド断片のフォールディングとアセンブリ。
 これまでの複数回にわたる長期利用課題の実施を含め、長期の取り組みが結実し、いずれの内容においても、独自性の高い研究で世界をリードしている。これらをますます拡大させることは、科学技術の発展において重要といえる。なかでも、この中空錯体の内部空間を利用した新たな反応制御法や構造解析法の開発の可能性を持ち、今後の継続的発展や新分野創成への期待も大きい。なお、タンパク質の構造解析への応用は内包分子の配列を結晶析出において制御するための新たな取り組みが必要と思われる。
 SPring-8の利用に関しては、標的となる分子がいずれもタンパク質やウイルス粒子に相当する大きな構造を有しかつ溶媒領域が多いために、結晶調製の難度が高く、回折能の低い微小結晶となるケースが多いため必須といえる。この種の研究では試料調製が律速であり、トライアルアンドエラーによるフィードバックで試料の性質を改善するために、計画的な実施が必要と理解できる。要求されているシフト数や頻度を考えると、PX-BLの利用制度を活用した一般課題でも実施可能かもしれないが、これまで以上に利用時間が増大しそうなことのほか、内容が複合領域研究のために、PX-BLをL1分科外の他分野から計画的に利用するために長期利用課題として実施する必要性は認められる。
 以上、申請者らは巨大な自己集合中空錯体の創製で世界をリードしてさらに発展させる計画を示しており、実施体制についても支障がないと判断されることから、「SPring-8の特長を活かし、科学技術分野において傑出した成果を生み出す研究、新しい研究領域および研究手法となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図る」長期利用課題として選定することがふさわしいと認められる。

 

[実験責任者による研究概要]
 我々はこれまで、配位駆動自己集合を基盤技術としてさまざまな中空錯体を構築し、その内部空間を活用した新しい機能創出を行ってきた。すなわち、孤立ナノ空間の内部における特異な物質変換、新物性の発現、巨大分子のカプセル化、および分子ナノ環境の内包などをこれまでに達成している。自然界における自己集合に迫るほど多成分の精密自己集合を達成することは、基礎科学的な興味にとどまらず、巨大かつ精密に構造制御された界面構造を利用した合成反応への応用や生体高分子との複合利用といった展開においても極めて重要となる。これまでの研究において、折れ曲がり二座配位子とPd(II)イオンとの自己集合により構築されるMnL2n型球状錯体について、構成成分数が90あるいは144に達する巨大錯体の構築と構造決定に成功するとともに、これらの錯体構造が4価の拡張ゴールドバーグ多面体とよばれる新たな多面体系列によって定義されることを発見し、ものづくりのサイドから理論(幾何学)に対する知見をフィードバックするに至った(Chem 1 (2016) 91-101、Nature 540 (2016) 563-566)。さらに最近では、配位駆動自己集合のさらに複雑な中空構造への展開(ACIE 59 (2020) 3450-3454)に加えて、特異なフォールディングを示す人工ペプチド鎖を主骨格とした配位子の開発により、24の交差数をもつ極めて複雑な[6]カテナン型の中空錯体の構築といった新たな潮流を生み出している(Nat. Chem. 10 (2019) 5687)。これらはいずれもSPring-8における単結晶X線回折測定により構造決定を行った。
 そこで本長期利用課題においては、これら種々の中空構造のさらなる開発を進めるとともに、タンパク質をはじめ生体ナノ分子の閉じ込め技術に主眼を置いた応用研究のさらなる推進に努める。これにより、生体分子の構造解析や他の手法では捉えることが困難な特異状態の観測に我々の技術を活用するとともに、これら生体分子の安定性や機能の改変とライフサイエンスにおける応用を目指す。

 

 

 

- 採択課題2 -

課題名 膜輸送体の結晶構造解析
実験責任者名(所属) 豊島 近(東京大学)
採択時の課題番号 2020A0171
ビームライン BL41XU
審査結果 採択する

 

[審査コメント]
 本課題は、前長期利用課題(イオンポンプの結晶構造解析:2018A0144~2019B0144)を継承しつつ、(1)生物学的に重要なカルシウムポンプ(Ca2+-ATPase)、(2)各種疾患にも関わるNa+/K+-ATPaseを対象に、それらの反応サイクル中に蓄積する各種中間体の結晶構造を決定するとともに、(3)脂質二重膜の可視化および(4)脂質分子の配置を制御するタンパク質の基礎研究をとおして、プロトンから脂質二重膜にわたるマルチスケール構造生物学を展開することを目的としている。
 申請者はCa2+/Na+/K+-ATPaseの構造解析に取り組み、Ca2+-ATPaseにおいては14個の反応中間体を解明するなど傑出した研究成果を挙げてきた。膜タンパク質の反応中間体の結晶は格子長が長くかつ回折能が低いため、それらの回折実験にSPring-8の光源と整備されたビームラインが必須であることは論を俟たない。また、本課題が目的としている難結晶性膜タンパク質の構造解析やコントラスト変調による脂質二重膜の可視化においては、回折実験の結果を次の結晶調製に反映させるフィードバックサイクルを加速させつつ安定的に回して行くことが鍵となる。そのためにも、長期間にわたって計画的にSPring-8を利用する必要があると判断される。
 複数の対象(1)~(4)を連携させながら研究を実施する利点を活かしつつ、進捗状況に応じてポイントを絞るなどの軌道修正を適宜行うことにより、「SPring-8の特長を活かし、科学技術分野において傑出した成果を生み出す研究、新しい研究領域および研究手法となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図る」長期利用課題として配分されたビームタイムから最大限の研究成果が引き出され、それらがSPring-8から世界に向けて発信されることを期待する。

 

[実験責任者による研究概要]
 これまでに、長期利用課題として(i)筋小胞体カルシウムポンプ(Ca2+-ATPase,SERCA1a)の種々の状態の結晶構造決定、並びにその薬物との複合体の結晶構造解析、(ii)ナトリウムポンプであるNa+,K+-ATPaseの結晶構造解析、(iii)膜蛋白質結晶中の脂質二重膜の可視化を遂行してきた。本長期利用課題では、さらに、(iv)脂質二重膜中の燐脂質を一つの層から他の層へと区別なく移層する蛋白質、スクランブラーゼの構造決定をも目指す。
 当面の重点は(i)のCa2+-ATPaseに関しては、2つあるCa2+結合サイトの段階的形成の構造生物学の完成と、最も広く発現し、重篤な皮膚疾患であるDarrier病の原因ともなるSERCA2bの複数の状態の構造解析の完成にある。SERCAは2個のCa2+を順に結合し、濃度勾配に逆らって輸送する。2個目のCa2+結合が化学反応(ATPからSERCAへの燐酸転移)を引き起こす。そのシグナルの構造的実体を知りたいのであるが、これまでの研究から、2つの結合サイトの形成過程はMg2+やK+も関与する予想外に複雑なものであることが判明してきた。本長期利用課題中での完成を目指している。(ii)のNa+,K+-ATPaseに関しては、Na+存在下、かつ燐酸アナログやATPアナログの非存在下で得られる結晶の構造解析が当面の目標である。これも予想外なことに3つのサイトのうち2つだけにNa+が結合した状態の構造も得られ、長年論争が続いている3つのNa+の結合順に結論を与えることができることが判明した。その完成を目指している。(iii)の脂質二重膜の可視化に関しては、溶媒コントラスト変調と重原子多重同型置換法の2つの手法の開発を続けている。2つの手法のどちらにも適した結晶が得られたので、本長期利用課題で本格的なデータ収集と解析を行いたい。

 

 

- 採択課題3 -

課題名 高強度金属材料の超高サイクル疲労における内部微小き裂発生・進展機構
実験責任者名(所属) 中村 孝(北海道大学)
採択時の課題番号 2020A0172
ビームライン BL20XU
審査結果 採択する

 

[審査コメント]
 本提案課題は、従来は破壊につながらないと考えられていた小さな歪が、107回を超える多数回繰り返されることによって発生する超高サイクル疲労破壊機構を解明するため、超高張力鋼やチタン合金等の高強度金属の疲労における内部微小き裂の発生および進展を、位相コントラスト結像型CTを活用し、200 nmを越える空間分解能で数~数十ミクロンの大きさの内部き裂を可視化することを主たる目的とした研究である。き裂と組織の時間変化を同時に観察することに特色がある。実験試料として(1)(α+β)型チタン合金:Ti-6AL-4V、(2)β型チタン合金:Ti-22V-4Al、(3)超高強度鋼(析出硬化型SUS630)を用い、基礎モデル実験を行うとともに、普遍的なき裂発生機構の提案を行うことを目指している。
 分科会としては、単に現象の観察にとどまらず、き裂発生機構の科学的な解釈と理解をしっかり行い、き裂の起こりにくい材料設計への指針と具体的な材料開発への応用に結び付けられるように研究を進めることを強く希望する。目標は明確であり、新しいin-situ高速ピエゾ疲労試験機の開発計画も妥当であるとともに、他分野への波及効果も認められることから、「SPring-8の特長を活かし、科学技術分野において傑出した成果を生み出す研究、新しい研究領域および研究手法となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図る」長期利用課題として推進すべきと評価し、採択する。

 

[実験責任者による研究概要]
 超高張力鋼やチタン合金等の高強度金属において、107回程度以上の繰返し数で疲労強度が大幅に低下する特異現象(超高サイクル疲労)が近年広く知られるようになった。これは材料内部を起点とするき裂の発生・進展により生じる。しかし、X線や超音波を用いた通常の非破壊検査技術では、超高サイクル疲労で問題となる数~数十μmの大きさの内部き裂の検出は極めて困難である。このため、その破壊機構には未だに不明点が多く、超高サイクル疲労の評価法は確立していない。そこで本研究では、位相コントラスト結像型CTを活用し、200 nmを越える空間分解能で数~数十μmの内部疲労き裂の発生・進展過程を非破壊で捉えることを試みる。超高張力鋼およびチタン合金を対象として、疲労試験とCT観察を繰返すことにより、微小疲労き裂の発生位置、発生寿命、進展速度、進展経路を明らかにする。また、in-situ高速ピエゾ疲労試験機を新たに開発し、対象とするき裂を確認しつつ、その開閉口挙動をリアルタイムで計測する技術を構築する。以下に本研究が有する3つの特色を述べる。
(1)超高超力鋼とチタン合金の2系統の材料を対象として、内部き裂の観察を試みること。
 内部き裂は、材料に含まれる数~数十μm程度の非金属介在物を起点とするタイプと、組織を構成する結晶粒や結晶粒界を起点とするタイプの2つに大別される。本研究では、前者の代表として、析出硬化型ステンレス鋼SUS630を、後者の代表として(α+β)型チタン合金Ti-6Al-4Vおよび、β型チタン合金Ti-22V-4Alを用いる。これらはいずれも工業的に重要な高強度金属であり、それぞれにおける内部き裂の発生、進展過程を明らかにし、介在物起点型と材料組織起点型の特徴を抽出することにより、材料によらない普遍的なき裂進展モデルを構築する。
(2)き裂と組織の同時観察を4Dで行うこと。
 位相コントラスト結像型CTを用いることにより、き裂と組織を同時に観察すること(3D観察)や、き裂が組織のどの部分をどのように進展していくかを捉える(+1D観察)ことが可能となる。このような4D観察をSEMに匹敵する分解能で行うことにより、内部き裂発生進展挙動に関する詳細な知見を蓄積する。
(3)ビームラインに設置するin-situ高速ピエゾ疲労試験機を開発すること。
 小型の高速ピエゾ疲労試験機を新たに開発することで、対象とするき裂をビームライン上で確認しつつ、その開閉口挙動をリアルタイムで計測する。これにより、疲労き裂の進展や停留に大きな影響を与えるき裂閉口現象を定量的に評価することができる。また、このシステムは超高サイクル疲労のみならず、様々な材料評価の研究へも応用が可能であり、X線CT技術の高度化に寄与する。
 機械の高速化、高経年化は年々加速しており、107回を越える領域における疲労信頼性の確保は工業的に重要な課題である。上記の特色をもつ本研究を着実に遂行することで、超高サイクル疲労の評価法や防止法の提案につなげ、この課題の解決を目指す。

 

 

- 採択課題4 -

課題名 宇宙地球化学試料のマイクロXRF-XAFS研究の新展開:高エネルギー領域への展開や超伝導転移端検出器の導入
実験責任者名(所属) 高橋 嘉夫(東京大学)
採択時の課題番号 2020A0174(BL01B1)、2020A0180(BL37XU)
ビームライン BL01B1、BL37XU(併用)
審査結果 採択する

 

[審査コメント]
 本長期利用課題は、環境問題や資源問題から惑星進化に至るまで、幅広い地球惑星科学試料を対象として、原子・分子レベルの化学素過程の視点からその理解を目指すものである。
 本長期利用課題で取り組む課題として、(1)はやぶさ2帰還試料の分析に基づく太陽系進化史の解明、(2)REE・レアメタル資源形成機構の解明、が挙げられている。いずれも地球惑星科学分野で重要な研究対象であると同時に、社会的関心も高い研究であることから、高い科学的重要性を持つものと判断できる。これらの課題の研究手法として、BL37XUの硬X線ナノビームを用いたXAFS・XRF分析による微量元素の組成や化学種の決定、および、イメージング計測による微小域の化学状態分布や元素の相関の計測が計画されている。また、これらの計測精度をさらに向上させるため、(1)妨害元素の影響の低減や定量評価精度の向上を目指した高エネルギーX線利用法の開発、(2)超伝導転移端検出器(TES)を用いた高エネルギー分解能XRF/XAFS実験が計画されている。いずれも微量元素の化学分析や、それらの局所解析技術の高度化を目指した挑戦的な課題であり、2年の研究期間を設定し、長期利用課題として実施することが妥当である。このように、提案された研究テーマはそれぞれ、地球環境科学において重要であると考えられると同時に、SPring-8における微量元素分析技術の向上に資するものであり、「SPring-8の特長を活かし、科学技術分野において傑出した成果を生み出す研究、新しい研究領域および研究手法となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図る」長期利用課題として選定する。
 なお、はやぶさ2帰還試料については、はやぶさ2が予定通り帰還できるか未知の部分があるため、状況に合わせて臨機応変に対応することが必要である。また、TES検出器については、検出原理に起因するカウントレートの低さなどの課題があり、その利用に当たっては未知の部分もある。高エネルギーナノビームの利用と合わせて、ビームライン担当者と十分な技術的打合せを行った上で、ビームタイムに臨んで頂きたい。

 

[実験責任者による研究概要]
 放射光マイクロ/ナノXRF-XAFS法は、宇宙地球化学試料中の微量元素マッピングや局所化学種分析として不動の地位を占めている。しかし、依然問題なのが計測目的とする極/超微量元素の微弱蛍光X線に対するそれ以外の元素からの高強度な妨害X線(蛍光X線や散乱X線)の干渉である。本課題ではこの解決のため、(i)これまでマイクロ/ナノビームが利用できなかった高エネルギー領域(40 keV以上)での本法の実施、(ii)これまで放射光への本格利用がなかった高エネルギー分解能を持つ超伝導転移端検出器(TES)の利用、の2つの革新的技術を用いて、極微量元素の超高感度マイクロ/ナノXRF-XAFS法を実現し、新規性の高い宇宙地球化学研究を推進する。またTESを用いた発光分光の併用による多元素同時化学種マッピングなどへの道も拓く。特に本研究では、高エネルギー領域計測の展開および超伝導転移端検出器導入による超高感度極微量計測の実現による新しいマイクロ/ナノXRF-XAFS分析法を開発し、持続可能な社会の実現に関わるレアアース(REE)資源の効果的な探査・抽出法の確立や、人類の夢に関わる「はやぶさ2」による小惑星リュウグウ採取の分析など、インパクトの大きな応用研究に展開する。これらの研究の手法的な意義について、以下の2点が挙げられる。
1. 新規マイクロ/ナノXRF-XAFS分析法:射光マイクロ/ナノビームを用いた蛍光X線検出による元素マッピング法および局所X線吸収微細構造(XAFS)法において問題となる目的極微量元素の蛍光X線に対するそれ以外の混在元素の高強度な蛍光X線や散乱X線の干渉の問題を解決するため、本研究では、(1)高エネルギーX線を用いたマイクロ/ナノXRF-XAFSおよび(2)TESを用いたマイクロ/ナノXRF-XAFS分析を展開する。
2. 定量分析や発光分光に着目したマイクロ/ナノXRF-XAFS分析法:ここで着目する高エネルギーマイクロ/ナノXRF-XAFS法やTES-XRF-XAFS法は、従来行われてきたマイクロ/ナノXRF-XAFS法に比べて、(1)微量元素の濃度定量が可能、(2)エネルギー分散型の検出器ではあるが発光分光に利用できる可能性がある、などの利点があると期待される。
 これらの研究で期待される成果として、以下が挙げられる。
研究1. レアアース(REE)資源の分析
 REEは、ハイテク産業に必須な元素である一方で、資源としては地域偏在性があり供給リスクが高いため、REE資源の開発や資源からの高効率な回収は、日本にとって急務な課題である。しかし、こうした資源中のREEのホスト相や存在状態は未解明であるため、効果的な探査や高効率な回収を進める上で問題となっている。そこで本研究では、今後重要なREE資源としてイオン吸着型鉱床(申請者らが国内で発見)や鉄マンガン団塊に注目して研究を進める。その際、地球化学試料を普遍的に含むTi、Mn、Fe、Baなどに干渉されることなくREEを検出することで、レアアースの濃集機構やホスト相の同定が可能になる。
研究2. リュウグウ試料の分析
 本研究で開発した分析を、はやぶさ2帰還試料(リュウグウ試料)に適用する。ここでもREEを主対象とするが、REEは惑星進化の研究にしばしば利用されており、その分析を行うことは、リュウグウがどの程度始原的な物質であるかの重要な情報になる。またCM2コンドライト類似のリュウグウ試料(Sugita et al. (2019))では、多量にある有機物相にREEが濃集する可能性もある。またCe、Tm、Ybなどで異常値が出る可能性もあり、これらは惑星物質凝縮時の元素分配を反映する。試料のサイズが小さく(30ミクロン以下)、非破壊局所分析が要求されるリュウグウ試料において、微量元素分析が可能なのはマイクロ/ナノXRF-XAFS法のみであり、研究1と同様の方法で、リュウグウ試料中のREEなどの微量元素組成や化学種解析を進める。
研究3. その他の環境試料への展開
 その他、福島第一原発事故で放出された放射性セシウム濃集粒子や生体中の水銀の化学種解明など、多様な環境科学への適用も期待される。

 

 

- 採択課題5 -

課題名 ミリ秒時間分解能マルチビーム4DX線トモグラフィの開発とその応用
実験責任者名(所属) 矢代 航(東北大学)
採択時の課題番号 2020A0176
ビームライン BL28B2
審査結果 採択する

 

[審査コメント]
 本研究は、SPring-8の偏向電磁石からの白色X線を複数のラウエ型分光器で独立に回折させ、ビームの方向を変えることによって試料に多方向からX線を同時に照射することを可能とし、試料を回転させることなくCT撮影を行う光学系の開発を目的としている。回転の必要がないため、ミリ秒の時分割CT撮影が可能である。これは独創的なアイデアであり、既に国際学会で高い評価を得ている。目標も計画も明確に設定されているが、限られた投影数しか得られない、方向によってX線エネルギーが異なるといったデメリットもあり、これらの問題に対応しつつ装置の開発改良を進めるには長期的な取り組みが必要であり、「SPring-8の特長を活かし、科学技術分野において傑出した成果を生み出す研究、新しい研究領域および研究手法となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図る」長期利用課題としての実施が適している。
 本研究は挑戦的な技術開発であるが、開発の目的は様々な応用分野での本技術の利用にあり、最終的には本手法を使って初めて本質に迫る未知の現象の解明を期待したい。一方で2年という期間で技術開発と応用研究の両方で傑出した成果を挙げることは困難であると予想され、本課題の期間内では応用研究を視野に入れて共同研究者を増やしつつ、手法を完成させることを主目的として実施することが妥当と考えられる。

 

[実験責任者による研究概要]
 非平衡系の内部には多くの未知の高速現象が存在すると考えられる。本研究では、X線のマルチビーム化と最先端の高度データサイエンス技術により、試料を回転することなく、前人未踏のmsオーダーの時間分解能、10 μmの空間分解能の4D(3D+時間)X線CTを実現するための基盤技術の確立を目指し、応用研究への展開を進める。さらには、マルチビーム化技術の派生技術(元素識別CT、EXAFS CT)の有効性についても検証する。生きた生物内部の現象や材料の破壊過程など、繰り返しが不可能な非平衡系のダイナミクスをそのまま観察できるという特長を活かして、生命・材料科学における新規現象の発見から、動的バイオミメティクス応用まで、基礎研究から新規イノベーション創出に至る新たなフロンティアの開拓をねらう。
 下図は、可視光に対して不透明な試料内部を三次元的に非破壊で観察する計測技術の時間分解能および空間分解能を概略的に示したものである。本研究が目指すmsオーダー時間分解能、10 μmの空間分解能は実は空白地帯であったことが分かる。一方で、ピンク色で示したゾーンは、例として、生物の運動観察に適した空間分解能、時間分解能を示している。このゾーンは、生物が運動に使用するエネルギーが、その体内での生命現象も含めて、概ね数[J/kg・s]であるとして与えたもので、人工物の機械的な運動に対応するゾーン(緑色のゾーン)は、それよりも1~2桁上であるが、我々が日常生活で触れる現象はほぼこれらのオーダーのエネルギーで生じており、科学技術上および産業上極めて重要な研究対象である。すなわち、本研究は、生命・材料科学における多様な現象を対象とするものである。例えば、生きた生物(昆虫など)内部の現象、材料の破壊過程、液体のふるまいの観察などのサイエンティフィックな研究から、インテリジェント材料の開発や動的バイオミメティクス応用など超スマート社会実現に向けた新規イノベーション創出に至る研究まで、様々な応用展開が考えられる。

 

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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