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Volume 25, No.2 Pages 135 - 137

2. ビームライン/BEAMLINES

冷凍食品への放射光X線CT応用
Application of X-ray Computed Tomography using Synchrotron Radiation to Frozen Food

佐藤 眞直 SATO Masugu

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

Abstract
 放射光を用いたX線CT測定の冷凍食品分野への応用を目的とした技術開発事例を紹介する。冷凍食品中の凍結組織を構成する氷と食材の密度差は小さく、管球光源の白色X線を用いた実験室系のX線CT装置ではその組織を識別することは困難である。この問題の解決手段として、放射光から得られる高輝度単色X線を活用することで凍結組織のX線CT断層像のコントラストを向上し、冷凍食品内部組織の非破壊観察を実現可能か、産業利用ビームラインBL19B2において技術検討した。まず、X線CT装置上で冷凍試料を凍結保持するための液体窒素吹付試料冷却装置を開発した。この装置を用いて冷凍マグロ試料のX線CT測定を行った。その結果、凍結組織中のマグロの筋肉成分の凝集組織と氷を明確に識別できるだけでなく、得られたX線線吸収係数の分布の定量的なデータから冷凍による組織の密度変化の評価にまで応用可能になることが示された。
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SPring-8

 

1. はじめに
 食品の冷凍保存技術は、現代の食品工業において、多様化する食生活に欠かせない存在となった冷凍食品、生産工程の低コスト化を目的としたプロセスの細分化に伴う原材料の保管、搬送時の品質維持、等様々な場面で重要な技術となっている。その技術開発における主たる課題は冷凍、保存、解凍の過程における品質劣化の抑制である。冷凍中の食材(肉、魚、等)の組織損傷の主因は氷結晶の粗大化にある。つまり、この冷凍組織の制御が劣化抑制のカギであり、そのため氷結晶の形態観察技術は冷凍プロセス開発において重要である。
 X線CT(Computed Tomography)技術は「そのまま」の冷凍組織中の氷結晶の形態を観察するための効果的な分析技術となり得る。しかしながら、冷凍組織の観察については、氷結晶と食材の密度差が小さいため、氷と食材のX線の透過率差が小さく、管球光源の白色X線を用いる通常の実験室系X線CT装置ではこれらを識別するための十分な吸収コントラストを得ることが困難である。そのため、従来の凍結組織のX線CT観察ではフリーズドライにより氷結晶部分を除去して空洞化して観察する手法[1,2][1] R. Mousavi, T. Miri, P. W. Cox and P. J. Fryer: J. Food Sci. 70 (2005) 437-442.
[2] R. Mousavi, T. Miri, P. W. Cox and P. J. Fryer: Int. J. Food Sci. and Tech. 42 (2007) 714-727.
が採られているが、フリーズドライ処理による組織への影響が懸念され、X線CTの利点である非破壊観察という特徴を活かしきれていない。
 我々は、高輝度な単色X線を利用可能な放射光を応用することで、冷凍食品のX線CT像における密度差の小さい氷と食材間のコントラストを向上し、凍結組織の非破壊3次元観察を実現することが可能か検討した[3][3] M. Sato, K. Kajiwara and N. Sano: Jpn. J. Food Eng. 17 (2016) 83-88.

 

 

2. 実験
 本技術検討に当たり、X線CT装置の試料ステージ上で冷凍試料を凍結状態で保持するための試料冷却装置を開発した。その仕様において検討するべき課題としては、以下の点があげられる。まず、X線CT測定はサンプルを180°回転させながらX線透過像を測定するため、試料環境制御装置にはこのサンプルを回転させる自由度を確保する必要がある。また、対象とする冷凍食品は多様な形態を持つ(肉、魚、麺類、等)ため、熱伝導型の冷却機構では対応が困難である。以上の点を考慮し、サンプルの冷却は液体窒素吹付を用いた。図1に開発した冷却装置の外観写真を示す。冷凍試料は凍結状態のまま太さ約5 mm角、長さ約20 mm程度の角柱状に成型し、X線CT装置の試料回転ステージの回転中心に垂直にセットする。この試料を、X線を透過させるための窓を上流側、下流側に設けた金属筒で上から覆い、その上方から液体窒素蒸気を吹き付けて試料を冷却する構造となっている。この構造を持つことで、吹き付けた液体窒素蒸気が外気を巻き込んで試料を霜付かせることなく凍結状態を維持することができる。また、この金属筒は2重構造となっており、液体窒素蒸気が通る内筒と外気にさらされる外筒の間にヒーターで室温に温度を維持した乾燥窒素ガスを通すことでX線窓を含む装置外部の霜付きを防止する機構も持っている。これにより長時間凍結状態を維持したまま安定的に冷凍試料のX線CT測定実験が可能である。

 

図1 X線CT用液体窒素吹付試料冷却装置の外観

 

 

 実験はBL19B2のX線CT装置で行った(この装置は現在BL14B2に移設されており、本稿で紹介する実験技術はBL14B2で実施可能である)。ここでは冷凍したマグロの凍結組織観察例[3][3] M. Sato, K. Kajiwara and N. Sano: Jpn. J. Food Eng. 17 (2016) 83-88.を紹介する。試料は凍結したまま5 × 5 × 15 mm3程度の角棒状に整形して回転ステージ上に設置し、開発した試料冷却装置で約-30°Cで冷却しながらX線CT測定を行った。実験条件はX線の波長 = 1 Å(エネルギー = 12.4 keV)、測定試料とX線カメラシステムまでの距離=約10 cmである。X線透過像の取得は、イメージングユニット:浜松ホトニクスAA40、CCDカメラ:浜松ホトニクスC4880-41Sの組み合わせで行った。取得した透過像の画素サイズは2.9 μmであった。測定試料を回転スピード1.2°/秒で180°回転させながら、露光時間0.12秒で258枚の透過像を測定した。1測定に必要な時間は約2.5分であった。測定したデータから断層像への再構成処理はFiltered Back Projection法[4][4] 橋本雄幸、篠原広行:「C言語による画像再構成の基礎」(医療科学社:東京、2006)245-261.を用いて行った。

 

 

3. 結果と考察
 図2(a)に測定したマグロの冷凍試料の断層像を示す。像の濃淡は下のカラースケールに示すように測定試料中のX線線吸収係数μの分布を示し、色が濃い程μが大きい、すなわち密度が大きいことを示している。比較のため、図2(b)に冷凍していない生のマグロの断層像も合わせて示す。この生の試料は直径約6 mmφのストロー内に封入して測定した。見てわかるように、生の試料の断層像はほぼ均一なμの分布を示しているが、冷凍試料では生の試料よりもμが小さい淡色の領域の中にμが大きい濃色の筋状組織を形成している凍結組織が明確に識別できる。これはすなわち、冷凍することにより生の試料よりも密度の小さい領域と密度の大きい筋状の組織に相分離した組織が形成されたことを意味する。これらは、氷の密度はマグロの筋肉組織の主成分である蛋白質よりも小さいことを考えると、μが小さい領域は氷、μが大きい筋状の組織は筋肉組織が凝縮して形成されたものと推定される。

 

図2 冷凍マグロ(a)、及び冷凍していない生のマグロ(b)の断層像[3][3] M. Sato, K. Kajiwara and N. Sano: Jpn. J. Food Eng. 17 (2016) 83-88.

 

 

 前述の推定に対し定量的な考察を行った。まず図2の各断層像の白い破線で示した領域について、画素値の頻度分布を評価した。図3にその頻度分布のグラフを示す。横軸はμ、縦軸が画素値の頻度分布である。黒点が冷凍試料、灰色の点が生試料のデータを比較して示している。生試料の頻度分布はその組成が試料内で均一であることを反映して、ガウス関数で表現される単一のピークを示している。これに対し、冷凍試料の頻度分布は、μの大きい側に非対称な肩を持っており、分離した組織の組成に対応する2つのピークの和になっていると考えられる。これら2つのピークをピークフィッティングにより分離した結果をグラフ中に実線と破線で示しており、それぞれ実線が淡色の領域、破線が濃色の筋状の組織に相当すると考えられる。ピークの中心値はそれぞれの組織のμの平均値に相当する。実線のピークの中心値は、μ = 2.59 cm-1となり、氷のμの計算値2.45 cm-1とほぼ一致することから、淡色の領域が氷に相当することが確認できる。さらに、生試料のピーク位置と冷凍試料の筋状組織の破線のピーク位置を比較すると、前者よりも後者の方がμの大きい方にシフトしていることから、冷凍によって筋肉組織が筋状の組織に凍結濃縮されて平均密度が大きくなっていることが推定される。

 

図3 マグロ試料の断層像(図2)の画素値の頻度分布[3][3] M. Sato, K. Kajiwara and N. Sano: Jpn. J. Food Eng. 17 (2016) 83-88.。黒点のプロットが冷凍試料データ。灰色の点のプロットが生の試料のデータ。

 

 

4. まとめ
 放射光をX線光源として用いることで活用することが可能となった高輝度単色X線の効果で、X線CTによる冷凍食品内部の凍結組織の非破壊観察が可能であることが明らかになった。また、実験室系のX線CT装置では困難であった密度差の小さい氷組織と食材との識別が可能となるだけではなく、X線線吸収係数の分布の定量評価が可能となることで、凍結濃縮による構成成分の濃度変化を定量的に評価することまで可能となる事が示された。この冷凍食品試料のX線CT測定を可能にするために開発した液体窒素吹付試料冷却装置は現在産業利用ビームラインBL14B2、BL46XUで運用しているX線CT装置においてユーザー実験に供している。この装置の利用に興味のある方は私もしくは上記ビームラインの担当者にご連絡ください。

 

 

 

参考文献
[1] R. Mousavi, T. Miri, P. W. Cox and P. J. Fryer: J. Food Sci. 70 (2005) 437-442.
[2] R. Mousavi, T. Miri, P. W. Cox and P. J. Fryer: Int. J. Food Sci. and Tech. 42 (2007) 714-727.
[3] M. Sato, K. Kajiwara and N. Sano: Jpn. J. Food Eng. 17 (2016) 83-88.
[4] 橋本雄幸、篠原広行:「C言語による画像再構成の基礎」(医療科学社:東京、2006)245-261.

 

 

 

佐藤 眞直 SATO Masugu
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0924
e-mail : msato@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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