ページトップへ戻る

Volume 25, No.2 Pages 143 - 147

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPRUC第2回BLsアップグレード検討ワークショップ報告
Brief Report of SPRUC 2nd Workshop on BLs Upgrade

横谷 尚睦 YOKOYA Takayoshi

SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/岡山大学 異分野基礎科学研究所 Research Institute for Interdisciplinary Science, Okayama University

pdfDownload PDF (1 MB)
SPring-8 SACLA

 

1. 概要
 SPRUC第2回BLsアップグレード検討ワークショップが、2020年2月21–22日の日程で、SPring-8放射光普及棟大講堂で開催された。本ワークショップ(WS)の目的は、第1回WSやSPring-8シンポジウム2019での議論を踏まえ、それ以降の技術開発動向やビームライン(BL)アップグレードの具体的なプラン、更には、検討事項を共有するとともに、今後の継続的なBLアップグレードに向けた議論を行うことである。212名の参加者(SPRUC会員101名、施設関係者109名、来賓・文部科学省2名)が全国から集まった。コロナウィルス感染の広がりが心配されており、マイクの消毒や会場の換気、さらには看護師常駐などの対応がなされる中での開催であったが、昨年を上回る人数の参加者が集まり、活発な議論が行われた。以下、プログラムに沿って本WSの様子を報告する。

 

写真1 会場の様子

 

 

2. 初日
 13:00より、主催者側から水木純一郎SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長、石川哲也理化学研究所放射光科学研究センター(RSC)センター長、雨宮慶幸高輝度光科学研究センター(JASRI)理事長、及び来賓の文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進の對崎真楠室長補佐の挨拶で、本WSが始まった。

 

2.1 総合セッション SPring-8の現状と展望
 総合セッションの前半「今後に向けたSPRUCの役割」では、水木会長から科学技術立国日本を牽引するSPring-8における施設とユーザー(SPRUC)の役割、SPRUCの重要性についてメッセージがあった。藤原明比古SPRUC庶務幹事からは、ビームラインの高度化・高性能化およびアップグレードに関する議論の経緯、施設側からの共用BL再編計画案などについての説明と、本WSの趣旨説明がなされた。
 引き続いて、総合セッションのメインテーマ「話題提供:先端放射光施設の動向」について、施設側から4名の講演があった。理研の矢橋牧名氏からは「施設側の最近の取り組み」と題して、BL再編・アップグレードに関する進め方、基本方針、Scheme、Objectiveについて、その背景となるSPring-8/SACLAを取り巻く状況も含めて説明があった。2020–2021年度のBL改修計画案として、(1)HAXPES(硬X線光電子分光法:Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy)ビームラインの集約、(2)NRS(核共鳴散乱法:Nuclear Resonant Scattering)/IXS(X線非弾性散乱法:Inelastic X-ray Scattering)の連携によるアクティビティーの強化、(3)BL20B2のアップグレードが進行中であることが報告された。加えて、SPring-8-IIに向けた高度化要素技術として、ユビキタス・ナノ(ナノ顕微、時間分解、多次元解析)、超高輝度高エネルギーX線(30-100 keV)の活用(BL05XU)、汎用分析の拡充、の重要性が指摘された。理研の初井宇記氏からは「検出器の開発動向と将来展望」と題して、現在開発が進行中の積分型CITIUS検出器などについての報告があった。性能比較から、CITIUS検出器は従来検出器(計数型)に比べて飛躍的に性能が向上していることが見て取れた。JASRIの城地保昌氏からは「DAQインフラ整備の課題と将来展望」として、今後のデータ量の急激な増加に対する取り組みに関して、大規模データの効率処理に向けてのデータプラットフォームの標準化、大規模データ処理のためのネットワーク基盤整備、実験系ネットワークの更新に向けての方向性などについての検討状況が報告された。JASRIの櫻井吉晴放射光利用基盤センター副センター長(為則雄祐氏の代理)からは「3極ワークショップ報告」と題して、3極ワークショップのハイライトであったESRF-EBS(Extremely Brilliant Source)を中心に報告がなされた。3極ワークショップはAPS、ESRF、SPring-8、PETRAIIIの研究動向などについて議論するWSであり、次回は2021年2–3月にSPring-8で開催予定ということである。詳細は、本誌の研究会等報告において掲載。質疑の時間には、SPring-8-IIが他の施設に対して有するアドバンテージに関する質問などがあり、SPring-8-IIではエミッタンス追求はしないが安定性は向上するかもしれないこと、電気代は削減される方向であり、浮いた予算はR&Dに使うことになるという回答があった。

 

2.2 個別セッション1
 休息と集合写真撮影を挟んで、後半のセッション「HAXPESを中心としたBL再編とアップグレードの現状」が始まった。理研の玉作賢治氏から「施設での検討状況・計画」と題して、HAXPES利用高度化ワーキンググループ(WG)の設立の経緯と本日までの活動についての報告と、WGでの検討事項(将来構想案、学術系HAXPESエンドステーションの集約プランの作成、運用・利用研究効率化プランの作成)について説明がなされた。BL09XU及びBL47XUのHAXPES担当のJASRI 保井晃氏からはBL09XUとBL47XUのHAXPES装置をBL09XUに統合して配置する計画について、計画内容(第1ハッチ:共鳴HAXPES、第2ハッチ:ナノ集光によるnano-HAXPESなど)、ビームラインの配置案、光学系の検討状況の詳細について説明があった。実質的なビームタイムの増加が見込めるだけでなく、これを機にBLの光学系を一新するため、性能も向上するとのことであった。
 ユーザー側からは、SPRUC・大阪大学の関山明氏より「研究会での検討状況・展望・要望」と題した報告があった。BL09XUとBL47XUの共用HAXPESの統合計画についての、SPRUC研究会における検討経緯およびSPRUC研究会から提出されたSPring-8のHAXPESビームライン計画の要望書の要点の説明があった。加えて、HAXPES2019会議からの最近のHAXPESのトレンドについて紹介があり、background解析、Tender(2-5 keV)領域のHAXPES、新しい装置光源の開発、外場印加HAXPES、HAXPESを実施する上での課題について話題提供があった。

 

2.3 意見交換会とランプセッション
 意見交換会は、SPring-8食堂において立食形式で行われた。藤原明比古SPRUC庶務幹事の司会のもと、月原冨武SPRUC顧問の挨拶により始まった。豪華な食事を囲み情報交換の場となった。
 その後、普及棟に会場を戻し、ランプセッション「SPRUC:これまで、これから~持続可能な組織への展望~」が始まった。高尾正敏企画委員長の司会のもと、趣旨説明がなされ、「若手中堅に20年後を語って貰おう!!」のお題のもと4分野を代表した若手・中堅ユーザーが講演した。ライフサイエンスの立場から講演された東北大学大学院生命科学研究科の田中良和氏は、構造生物学におけるSPring-8の役割や、クライオ電子顕微鏡の性能向上による構造生物学の動向変化について説明した。これまでの研究ノウハウの蓄積があるので、SPring-8とクライオ電子顕微鏡によりSPring-8が世界一の共用構造生物学施設になるとのこと。地球科学、高圧科学の立場から講演された愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの河野義生氏は、取り組むべきサイエンスのビジョンやどのようにESRF、APSと戦うのかについての戦略の必要性、分野連携の重要性を指摘していた。化学・材料の立場から講演された京都大学化学研究所の小川紘樹氏は「ソフトマテリアル材料の視点から考える今後の小角X線散乱法への期待(要望)」と題して、高分子材料の観点からみた今後の放射光SAXS法について、現状の課題と今後の方向性について説明した。高分子の構造と機能を関連づけるためには、構造の不均一性の理解が重要であり、そのための研究手法としてSAXS-Computed Tomography法の必要となる諸性能が示された。X線光学と計測高性能化の立場から講演された東北大学多元物質科学研究所の矢代航氏は、3Dイメージングを中心として10年後の予想、期待しているインターラクションフリーイメージング、20年後の研究テーマとして脳活動の可視化による脳の機能の研究について説明した。その後の質疑応答では、研究会間のコミュニケーションの重要性、20年後の研究テーマを考える上でコンピュータの発展を考慮に入れることの重要性が指摘されていた。

 

写真2 意見交換会の様子

 

 

3. 2日目
3.1 個別セッション2(前半)

 9:00より個別課題セッション2の前半「NRS/IXSを中心としたBL再編とアップグレードの現状」が開始された。土曜日ではあったが、会場の普及棟大講義室は参加者で埋まった。司会の田中行事幹事から、2日目のプログラムに関する簡単な説明がなされたのち、「施設での検討状況・計画(施設)」に関する講演がJASRIの依田芳卓氏と内山裕士氏よりなされた。依田氏は「NRS/IXS:BL再編とアップグレード:施設での検討状況・計画」と題して、核共鳴散乱実験(NRS)のBL09XUからBL35XUへの移設に関して、これまでの検討過程及び内容について説明した。NRS実験には強度が必要であるため、BL35XUを主として用い、測定できない核種についてはBL19LXUを用いる案が示された。また、BLアップグレードの詳細についても説明された。続いて、JASRI 内山氏より、BL35XUでのIXS研究の現状と、BL35XUへのNRS移設後の変更点と問題点について説明があった。マシンタイム減少を補うためには効率的な運用が必要であるとのこと。2021年1月から2021年7月のスケジュールについても説明された。
 SPRUC側から核共鳴散乱ユーザーの代表として兵庫県立大学の小林寿夫氏より「核共鳴散乱研究会での検討状況、展望、要望」と題する講演があった。利用者:SPRUCと施設:理研・JASRIの間でどのように情報共有や検討、議論が行われたかについて報告された。飛び入りで理研のBaron氏より、試料のサイズ(中性子との比較)と測定エネルギー領域(Low-Qは中性子では難しい)の観点からIXSの特徴についてコメントが出された。続いてSPRUC不規則系物質先端科学研究会を代表して、広島大学の乾雅祝氏から、高分解能IXSと不規則系物質についてESRFとSPring-8において行われたこれまでの研究のReviewがあり、フォノン研究におけるLow-Q領域の重要性が、複雑系やユニットセルの大きい物質を例にあげて説明された。
 JASRI 櫻井吉晴放射光利用基盤センター副センター長(上杉健太朗氏の代理)より、「BL20B2における多層膜分光器の設置とその影響(効果)」と題する講演があり、BL20B2多層膜分光器設置の検討の概要と、このアップグレードにより光束密度が現状より20-100倍になること、どのような革新的なイメージング分析技術導入が可能になるかについての説明があった。

 

3.2 個別セッション2(後半)
 10分間の休憩後に、「今後のBL再編とアップグレードに向けた課題の洗い出し」と題した午前後半のセッションが始まった。JASRIの櫻井放射光利用基盤センター副センター長より「施設での検討状況問いかけ」と題して、2018年SPring-8シンポジウムで確認された、方針及びBL再定義、についての再確認があり、実験ステーションの再編、ビームラインの高度化、共用理研専用BL間の連携強化の3つの検討課題について現状と本WSでの議論内容、今後の再編対象BL(予定)が示された。また、SPring-8再編の時期に当たる第5期研究会の役割に対する要望(科学技術の動向を踏まえた研究展開に対する議論、利用者側からの要望のとりまとめなど)が示された。
 引き続き、JASRI 鈴木基寛氏より「BL39XUマルチ結晶X線発光分光装置–開発状況と利用シーズ–」と題した報告があり、整備を進めてきたマルチ結晶X線発光分光器(2020年度からユーザー利用)の統計精度、スループット向上について、海外装置との比較ののち、測定オプション(高エネルギー分解能XAS、高エネルギー分解能X線発光XES分光、X線ラマン散乱)毎に測定例が紹介された。SPring-8-II計画を視野に、利用展開を考えてもらいたいとの要望が出された。ユーザーの立場からSPRUC・京都大学の朝倉博行氏より「化学分野での発光分光計測に対する期待」と題して報告があった。触媒研究を進める上での、発光と組み合わせたEXAFS(範囲拡張EXAFS)およびXASの高分解能化(ランタノイド元素のXANES)によるメリット、何ができるか、利用者からの要望、ビームラインへの期待が語られた。セッションの最後は、司会の田中行事幹事により総合討論のための要点整理が行われた。(1)BLアップグレードのメリットデメリット、(2)共用から専用BLへの議論、(3)BLアップグレードの先にSPring-8-IIがあるとの観点の必要性が指摘された。

 

3.3 総合討論
 午後は総合討論にあてられた。司会は、藤原明比古SPRUC庶務幹事(SPRUC副会長の坂田修身氏に代わり)が務めた。(1)システム、施設―ユーザー間の意見交換の課題、(2)HAXPES、(3)IXS、NRS、Imaging、(4)発光分光の4つの討論項目について順番に議論がなされた。今後の進め方に関して、藤原明比古SPRUC庶務幹事からは、議論の場を増やす必要性を感じるので、SPring-8シンポジウムと検討WSの他に、状況に応じて適宜検討会を行うのが良いのではという意見が出された。石川RSCセンター長からは、これは始まりで、今後BL再編が10年程度の時間スケールで起こること、議論の場を増やすことが重要であるとのコメントが出された。櫻井放射光利用基盤センター副センター長からは、ユーザーの要望はマシンタイムの利用から成果の創出へシフトしているので、利用制度の変更も必要とのコメントが出された。

 

3.4 ラップアップ
 次期SPRUC会長の木村昭夫氏の司会のもとラップアップが始まった。水木SPRUC会長より、持続可能未来を目指して、SPring-8はユーザーと施設が対等な立場で運営していくことにより科学技術先進国を牽引するということを再認識したというコメントがあり、今後のSPRUC活動への期待が述べられた。

 

写真3 集合写真

 

 

プログラム

2月21日(金)
13:00-13:15 開会式(主催者挨拶:SPRUC、理研、JASRI)
ご来賓ご挨拶(文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室)
【総合セッション】SPring-8の現状と展望(司会:副会長 本間穂高)
13:15-13:40 <今後に向けたSPRUCの役割>
1. 会長からのメッセージ(会長 水木純一郎)
2. 経緯と論点整理(庶務幹事 藤原明比古)
13:40-15:10 <話題提供:先端放射光施設の動向>
1. 施設側の最近の取り組み(理研 矢橋牧名)
2. 検出器の開発動向と将来展望(理研 初井宇記)
3. DAQインフラ整備の課題と将来展望(JASRI 城地保昌)
4. 3極ワークショップ報告(JASRI 為則雄祐(櫻井吉晴))
5. 質疑
15:10-15:30 集合写真撮影・休憩
【個別課題セッション1】(司会:利用委員長 有馬孝尚)
15:30-17:00 <HAXPESを中心としたBL再編とアップグレードの現状>
1. 施設での検討状況・計画(理研 玉作賢治・JASRI 保井晃)
2. 研究会での検討状況・展望・要望(SPRUC・阪大 関山明)
3. 自由討論
17:15-19:00 <意見交換会(有料)>(食堂)
【ランプセッション】(司会:企画委員長 高尾正敏)
19:15-    <SPRUC:これまで、これから~持続可能な組織への展望~>

 

2月22日(土)
【個別課題セッション2】(司会:行事幹事 田中義人)
09:00-10:40
<NRS/IXS/イメージングを中心としたBL再編とアップグレードの現状>
1. 施設での検討状況・計画(施設)(JASRI 依田芳卓・内山裕士)
2. 研究会等での検討状況・展望・要望(SPRUC・兵庫県立大 小林寿夫)
3. 研究会等での検討状況・展望・要望(SPRUC・広大 乾雅祝)
4. 多層膜モノクロメータの設置によって期待される新たな研究展開(JASRI 上杉健太朗(櫻井吉晴))
5. 質疑応答・自由討論
10:40-10:50 休憩
10:50-11:50 <今後のBL再編とアップグレードに向けた課題の洗い出し>
1. 施設での検討状況・問いかけ(JASRI 櫻井吉晴)
2. 新整備された発光分光装置の新たな利用展望(JASRI 鈴木基寛)
3. 化学分野での発光分光計測に対する期待(SPRUC・京都大 朝倉博行)
4. 質疑応答
5. 総合討論のための論点整理(行事幹事 田中義人)
11:50-12:40 昼食休憩
【総合討論】(司会:庶務幹事 藤原明比古)
12:40-14:10
1. 検討項目確認
2. 各検討事案についての自由討論(次期アップグレード対象の顕在化、これまでにない新たな領域創出の議論含)
3. 全体討論(議論しなかった項目含)
【ラップアップ】(司会:次期会長 木村昭夫)
14:10-14:20 まとめと研究会への依頼(会長 水木純一郎)

 

 

 

横谷 尚睦 YOKOYA Takayoshi
岡山大学 異分野基礎科学研究所
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3丁目1-1
TEL : 086-251-7897
e-mail : yokoya@cc.okayama-u.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794