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Volume 22, No.1 Pages 36 - 38

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

61st Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials報告
61st Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials (MMM2016)

鈴木 基寛 SUZUKI Motohiro

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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SPring-8

 

1. 会議概要
 今回で61回目を数える磁性分野の会議、Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials(以下、MMM会議)が2016年10月31日から11月4日にかけて、米国ルイジアナ州ニューオリンズ市で開催された。MMM会議は、AIP PublishingとIEEE Magnetics Societyが共催し、米国物理学会の援助を受け、アメリカの主要都市で毎年開催されている。米国内および海外の磁性研究者に門戸を開いており、1,700件もの講演数を数える。国際会議と銘打ってはいないものの、実質的にはIEEE International Magnetics Conferenceと並ぶ最大級の磁性国際会議という位置付けである。実際、アメリカ国内だけでなく、ヨーロッパ、アジアから多くの出席者があり、とくに日本、韓国、中国(米国在住の中国系研究者も含む)からの参加者が目についた。国内の磁性専門の会議といえば日本磁気学会だが、MMM会議では、日本磁気学会の学術講演会に比べて基礎的な研究分野の比重が大きいことが特色である。日本物理学会の領域3磁性セッションの一部、応用物理学会の磁性セッション、日本磁気学会を融合したような会議となっている。たいへん広い分野をカバーしているため、口頭発表では連日多数の並行セッションが進行していく。会場であるホテルマリオットニューオリンズの全9室の会議室で朝8時半から夕方17時まで並行セッションが行われた。このようにMMM会議では広範囲の国際的な研究報告が毎年行われるとあって、最先端の情報収集の場として定着している感がある。

 

 

2. 注目の講演から
 上で書いたように、膨大な並行セッションの全てを網羅することはできないが、以下では放射光を利用した研究発表のうち、印象に残ったものを紹介する。なお、SPring-8を用いた研究成果には(※)印を付けた。
 “Anisotropy effects in thin films”のセッションでは、Y. Idzerda氏(モンタナ州立大)による垂直磁化膜のX線磁気円二色性(XMCD)解析法の講演があった。強い垂直磁気異方性を示す薄膜試料について、磁化困難軸方向で飽和磁化に満たない条件でもXMCDによる元素選択的な磁化測定を正しく行うための方法が検討、提案された。Idzerda氏はXMCDの黎明期から磁性薄膜のXMCD研究を行っている。そのようなベテラン研究者が、ある意味地味な技術的課題に意義を見出し取り組んでいることに敬服した。
 “Ferromagnetic resonance”のセッションでは、菊池氏(東北大)からCo/Pt多層膜ドットの強磁性共鳴(FMR)励起状態の時分割XMCD観測の報告があった。これまでのXMCDによるFMRの研究では振幅角の小さい定常励起状態の観測が主であったが、菊池氏らは傾き角が60°もある大振幅角の歳差運動の非線形的な励起開始の様子を時間領域で直接観測し、外部磁場による励起時定数の変化を報告して注目を集めていた。将来のマイクロ波アシスト励起磁化反転技術にもつながるため応用面でも期待される(※)。
 “Magnetic instrumentation and characterization”のセッションでは、G. Chen氏(LBNL)による招待講演“Spin chirality induced X-ray magnetic circular dichroism and new type of chiral spin textures in in-plane magnet”が非常に興味深かった。円偏光磁気回折を用いて、マクロには磁化を持たないスピンテクスチャのカイラリティを識別できるという新しい手法が紹介された。この手法を異なるカイラリティ(磁気モーメントの反転方向)を持つブロッホ磁壁に適用できることを示した。今後、実験的、理論的な検証が必要だが、スキルミオンやDMIによるスピンテクスチャの有力な解析手法になる可能性がある。
 “Novel magnetic order in thin films”のセッションでは、C. Klewe氏(ALS, LBNL)による、X線共鳴磁気反射率(XRMR)測定による多層膜構造の深さ方向磁化分布解析の講演が目を引いた。彼らのグループは近年XRMRによる非磁性/強磁性界面での誘起磁化分布の検出を精力的に行っている。この講演ではPtと酸化物磁性体界面での誘起磁化分布を0.01 µBという高い精度で決定していた。磁気反射率データをモデルフィッティング解析する際に、実際の試料での界面構造やラフネスを採り入れるため、磁気的なdead layerをモデル構造に採り入れるなどの工夫がされていた。
 上記のPt/酸化物磁性体はスピントロニクスやスピン流の制御で近年注目されている材料である。吉川氏(東北大)らのポスター発表では、Pt/Y3Fe5O12界面における強磁場、低温下でのPtの常磁性磁気モーメントのXMCD測定が報告された。5 T、5 Kの条件下では通常のパウリ常磁性の数倍もの磁気モーメントがY3Fe5O12との界面のPtに誘起されることが示され、多くの聴衆の興味を惹いた(図1下、※)。

 


図1 (上)ポスターセッション会場。ジャズの本場らしく、会議のロゴもスピンを音符に見立てて洒落ている。(下)ポスターセッションでも活発な議論が行われていた。

 

 

 最近注目を集める電圧磁気異方性制御に関しては、通常のセッションに加えて招待講演によるシンポジウムが開催され、大変盛況であった。本シンポジウムにおいて、三輪氏(阪大)は電圧印加状態でのXMCD解析の最近の結果を報告した。FePt/MgO界面での電圧磁気異方性効果に関するPtの磁気モーメント変化を明確に観測した。界面での電気四重極モーメントによって磁気異方性エネルギーの変化が生じることを、第一原理計算の結果と合わせて示した。これまで注目されなかった磁気双極子モーメントによる磁気異方性エネルギーの変化が電圧誘起磁気異方性変化に重要な寄与をしていることを指摘した(※)。
 “Low-dimensional Systems”のセッションではA. Rogalev氏(ESRF)が、ID12の17テスラXMCD装置によるIr分子錯体の強磁場、低温下でのXMCDおよび磁化曲線の報告を行った。2 K、17 Tの環境でのIr分子磁石の軌道磁気モーメントを評価しており、スピン軌道相互作用の大きい5d系分子磁石の磁気状態を元素選択的に評価できる手法として今後の展開が期待される。
 “All optical switching”についてのシンポジウムも開催され、光誘起磁化反転や関連する超高速現象について、広く情報収集を行う良い機会となった。この分野の第一人者であるA. Kimel氏(Radboud大学)の講演では、彼らが最初に観測したAll-optical磁化反転現象の基礎から、最新の結果までを網羅しており、非常に内容の濃い講演であった。なかでもガーネット試料における磁区構造をレーザー光の偏光によって制御する研究、大きな垂直磁気異方性と保磁力を有するCo/Pt系試料でも光誘起磁化反転が行えることが最近の話題として紹介された。つづいて、高橋氏(NIMS)から、同じく垂直磁気異方性を示すFePtグラニュラー膜に対する光誘起磁化反転の結果が示された。磁気記録媒体の実用材料として有望なFePtグラニュラー膜に対してもレーザー光によって磁化反転が行えることが示され、反転条件などについて豊富なデータに基づいた詳細な議論が展開された。
 シンポジウム以外にも、光誘起磁化反転に関して、時分割XMCDによる観測や時分割ホログラフィー磁気イメージングによる観測の報告が数件あった。とくに軟X線領域では、顕微XMCDや時分割XMCDは日常的に利用されるツールとなっていることをあらためて認識した。この背景には、Advanced Light SourceやSwiss Light Sourceが活発に推進しているFZPによる結像型や走査型の軟X線顕微鏡、S. Eisebitt氏(ベルリン工科大)らが主導しているフーリエ変換ホログラフィー法の発展によるところが大きい。ただし、これらの手法は基本的には透過法での測定となるため、観測可能な試料はメンブレン基板上に成膜された薄膜に限られる。彼らはその制限の中で有力な成果を排出しているわけだが、今後この分野に日本の放射光施設やユーザーが参入するならば、単に後追いではなく独自のアイデアを注入することが不可欠となろう。たとえば、透過法によらない観察法を開発し、バルク試料や厚い基板上に作製した実デバイスの観察を目標とするのが一つの方向性だと考える。

 

 

3. おわりに
 本会議ではスピントロニクス分野での中国系研究者の活躍が強く印象に残った。ポスターセッションでは、連日ベストポスター賞が発表されるが、ここでも中国や韓国を始めとするアジア系研究者の受賞が目立った。中国国内での研究開発の進展が著しいのに加えて、米国で学位を取得しそのまま米国の大学などでポストを得た中国系研究者が、母国からの留学生を中心メンバーとして研究室を運営している例も多いようである。このような正のスパイラルサイクルが、中国系研究者台頭の原動力なのかもしれない。実際、中国の若い学生たちの発表は自信に満ちている。彼らの多くは流暢な英語をとても早口で操り、複雑な研究結果を手際良く紹介してみせる。発表時間を超過しても決して動じない ・・・。放射光分野ではスピントロニクス分野ほど中国系の台頭はまだ実感としてないが、今後脅威となることが十分予想される。台湾ではTaiwan Photon Source(TPS)が建設され、アジア随一の高輝度・低エミッタンスリングが稼働し始めている[1][1] http://www.nsrrc.org.tw/。中国でも電子ビームエネルギー5 GeVのBeijing Advanced Photon Source(BAPS)の計画が採択され、早ければ2022年の運転開始を目指している[2,3][2] http://english.ihep.cas.cn/prs/ns/201610/t20161019_168824.html
[3] http://www.aps.anl.gov/Upgrade/Workshops/2014/uploads/conf/Presentations/Breakout-1-Acclerator/BAPSQingQin.pdf
。今後もアジア各国の放射光施設の動向を注視しつつ、国内の放射光利用や光源建設を進めていくことが必須となるだろう。
 ところで、会議が行われたニューオリンズはジャズ発祥の地として知られている。会場のホテルから5分とかからないフレンチクオーター地区でも、ジャズの路上演奏を耳にすることができた。夜になれば多くの店で本場の生演奏を楽しむことができ、トランペットやサックスといった管楽器が活躍するディキシーランドジャズの魅力を堪能した。
 次回のMMM会議は2017年11月、ペンシルベニア州ピッツバーグ市で開催される。磁性研究に携わる方にとっては、いち早く最新情報が得られる機会として、参加を検討されてはいかがだろうか。

 

 

 

参考文献
[1] http://www.nsrrc.org.tw/
[2] http://english.ihep.cas.cn/prs/ns/201610/t20161019_168824.html
[3] http://www.aps.anl.gov/Upgrade/Workshops/2014/uploads/conf/Presentations/Breakout-1-Acclerator/BAPSQingQin.pdf

 

 

 

鈴木 基寛  SUZUKI Motohiro
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2750
e-mail : m-suzuki@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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