Volume 22, No.1 Pages 84 - 85
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SACLA BL1共用開始について
Soft X-ray FEL Beamline at SACLA
(国)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center
1. はじめに
世界初のコンパクトXFELであるSACLA[1][1] T. Ishikawa et al.: Nat. Photon. 6 (2012) 540-544.は、2011年6月に光子エネルギー10 keVで初のレーザー発振を観測した。2012年3月からは、軟X線領域の自発放射光ビームラインBL1と、XFELビームラインBL3の2本のビームラインでユーザー運転を開始している。これまでにBL3ではSACLAの特色を生かした様々な研究成果が得られている[2-5][2] M. Suga et al.: Nature 517 (2015) 99-103.
[3] H. Yoneda et al.: Nature 524 (2015) 446-449.
[4] K. H. Kim et al.: Nature 518 (2015) 385-389.
[5] E. Nango et al.: Science 354 (2016) 1552-1557.。また2015年4月には、2番目のXFELビームラインであるBL2のユーザー運転を開始した。BL2とBL3への高速振り分け運転試験など、さらなる利用拡大へ向けた取り組みが続けられている[6][6] T. Hara et al.: Phys. Rev. Accl. Beams 19 (2016) 020703.。一方で、自発光であること、高エネルギー電子ビームを必要としない軟X線領域での運転はXFEL運転と排他的であること、などの理由から、これまでBL1では積極的な利用運転が殆どなされてこなかった。軟X線FEL(SXFEL)の本格利用を実現するために、2014年度より、SACLAのプロトタイプ機として活用されたSCSS試験加速器(SCSS)[7][7] T. Shintake et al.: Nat. Photon. 2 (2008) 555-559.を増強しながらSACLAに移設し、SXFEL専用加速器SCSS+として運用するための整備を開始した。2015年9月からコミッショニングを開始し、同年10月には早くもレーザー発振が観測された。世界初となるXFELとSXFELの同時並行運転が可能となったことにより、FELの利用機会の大幅な増加が見込まれている。
SCSSとは、世界初のコンパクトXFELを実現するためのプロトタイプ機として、SPring-8サイト内に2005年に建設された線形加速器である。2006年には、光子エネルギー25 eVでのレーザー増幅を達成し、2008年からは加速器のR&Dと並行して極端紫外FELの利用運転も行われた。コンパクトXFEL加速器の検証と、FEL利用のR&Dという2つの重要なミッションを達成したSCSSは、2013年に運用を一旦停止したが、今回の移設により再活用されることになった。
本稿では、SXFELビームラインとして新たに共用が開始されたSACLA BL1の現状について報告する。
2. SXFELの構成
2.1 光源
SCSSは、SACLA光源棟内のBL1振り分け部上流の約100 mの空きスペースに移設された(図1)。さらに、2016年夏季停止期間までに、計3台のCバンド加速ユニットを追加した。この結果、最大電子ビームエネルギーは250 MeVから約800 MeVへと増加した。また、3台のアンジュレータがインストールされている。2017年1月時点では、電子ビームエネルギー(400 MeV~800 MeV)とK値(1.5~2.1)を変えることにより、光子エネルギー(hν)として20 eV~150 eV程度の範囲が利用可能となっている。
図1 SACLA振り分け部の図面。
2.2 光ビームライン
BL1ビームラインには、光学ハッチ内に、YAGスクリーン、フォトダイオード、ガス強度モニター、スペクトロメーターなどのビーム診断機器やガスアッテネーター、基本波と高調波を選別するための金属薄膜フィルターなどの光学機器がインストールされている(図2)。これらのビームライン機器は、BL2/3と同様に実験ステーションから操作することが可能である。なお、ガス強度モニターおよびガスアッテネーターのチャンバーには、直径6 mmの差動排気用オリフィスが設置されている。光子エネルギーhν =100 eVでは、オリフィスの透過率は約90%であるが、長波長運転時は光の発散角が大きくなるため、例えば、hν =40 eVでは透過率は約50%と低下する。
図2 BL1ビームライン光学系配置図。FE slit: フロントエンドスリット、SCM: YAGスクリーン・PD複合モニター、AT: 金属薄膜フィルター、GM: ガス強度モニター、GAT: ガスアッテネーター、M: 平面ミラー。
ビームライン最下流部には、実験ステーションを設置し、波長可変フェムト秒同期レーザーシステムおよびKB集光ミラーを基幹実験装置として常設した。金ワイヤーによるナイフエッジスキャン法による測定では、集光ビームサイズは約10 µm(FWHM)となっている。
2.3 光性能
2016年11月現在、電子ビームエネルギー800 MeV、K値2.1のときに、hν ~100 eV(ΔE/E ~2% in FWHM)の光が得られている。また、ガス強度モニターによる測定では、平均して約80 µJ/pulseのエネルギーが得られている。なお、ガス強度モニターの較正には、産総研で開発された常温型カロリーメーター[8][8] T. Tanaka et al.: Rev. of Sci. Instrum. 86 (2015) 093104.を使用した。
3. まとめと将来計画
SACLA BL1は、2016年4月にSXFELビームラインと名称を変更し、2016年7月よりSXFELの共用運転を開始した。続く2016B期には7課題が採択されている。
今後の開発項目として、FELと同期レーザーのタイミングジッターによる時間分解能低下を補償するための到着時間モニター[9][9] T. Katayama et al.: Struct. Dyn. 3 (2016) 034301.や、FELスペクトルの非破壊計測が可能なオンライン型スペクトロメーターなどのビーム診断機器の導入を予定している。本ビームラインの最新の情報は、SACLAホームページ(http://xfel.riken.jp)を通じて随時発信していくので、参照されたい。
謝辞
本プロジェクトは、理化学研究所放射光科学総合研究センター、および、高輝度光科学研究センターを中心とするタスクフォースによって実施された。
参考文献
[1] T. Ishikawa et al.: Nat. Photon. 6 (2012) 540-544.
[2] M. Suga et al.: Nature 517 (2015) 99-103.
[3] H. Yoneda et al.: Nature 524 (2015) 446-449.
[4] K. H. Kim et al.: Nature 518 (2015) 385-389.
[5] E. Nango et al.: Science 354 (2016) 1552-1557.
[6] T. Hara et al.: Phys. Rev. Accl. Beams 19 (2016) 020703.
[7] T. Shintake et al.: Nat. Photon. 2 (2008) 555-559.
[8] T. Tanaka et al.: Rev. of Sci. Instrum. 86 (2015) 093104.
[9] T. Katayama et al.: Struct. Dyn. 3 (2016) 034301.
(国)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門
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