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Volume 22, No.1 Pages 22 - 25

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

(SPRUC 2014 Young Scientist Award受賞 研究報告)
高圧高温その場X線ラミノグラフィーで切り拓く新しい超高圧地球科学
High-Pressure Earth Science Explored by X-ray Laminography

野村 龍一 NOMURA Ryuichi

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター Geodynamics Research Center, Ehime University

Abstract
 地球内部の構造やダイナミクス、さらにはどのようにして地球が現在の姿になったのかを理解するためには、地球を構成する物質(ケイ酸塩や鉄合金)を地球深部に対応する超高圧高温環境におき、その物理的・化学的性質を調べることが必要である。ダイアモンドアンビル高圧発生装置によって地球中心までの超高圧高温極限環境を静的圧縮下で実験室に再現できるようになった今、高圧試料から「何の」情報を引き出せるかといった測定の新しいアイデア・技術進化が地球科学に新たな知見を与えてくれる。本稿ではそのような一例として我々が現在開発を行っている、超高圧その場でのX線ラミノグラフィーを用いた化学的3Dイメージング法について進展を紹介する。
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SPring-8

 

1. はじめに
 地球の内部はその中心から鉄合金でできたコア(深さ2,900~6,400 km)、ケイ酸塩でできたマントル(深さ約35~2,900 km)と地殻(地表までの深さ)からできている。マントルやコアといった地球深部は直接探査が困難で(ロシアのコラ半島超深度掘削抗が世界記録で深さ12 km)、観測手段が地震波など間接的なものに限られている。地球内部は深くなるにつれて圧力、温度ともに増加し、マントル最下部では136 GPa, 約3,500℃、地球中心では364 GPa, 約5,000℃に達する(1 GPaはおよそ1万気圧)。このような地球内部の構造や進化、ダイナミクスを知るうえでは、実際の地球深部の圧力温度環境を実験室に再現し、地球を構成する物質の様々な物理的・化学的な性質を調べることが重要となる。
 現在ではレーザー加熱式ダイアモンドアンビル装置(図1)を用いることで、地球中心までの圧力温度環境を実験室に再現できるまでになっている[1][1] S. Tateno, K. Hirose, Y. Ohishi and Y. Tatsumi: Science 330 (2010) 359-361.。ダイアモンドアンビル装置では、向かい合う二つの尖ったダイアモンドの間に微小な試料を挟み、圧力を封じ込めるためのガスケットとともに押し込み、圧力をかける。このようなジオメトリ上の制約の中で、様々な測定に関する試行錯誤や技術革新が常に地球科学に新しい知見をもたらしてきた。特に放射光X線を利用することで「その場測定」の幅が広がり、飛躍的にサイエンスが発展してきた。

 

図1 ダイアモンドアンビル装置(DAC)。目的に合わせて様々な型のDACが開発されている。右は本研究で開発したラミノグラフィー撮像用ダイアモンドアンビル装置。対抗する1対のダイアモンドアンビルの間に試料を挟み加圧する。白枠が組立後(実験時)の様子。

 

 

 その中で我々は、はやぶさサンプルにも適用された化学的なX線3Dイメージング法[2][2] A. Tsuchiyama et al.: GCA 116 (2013) 5-16.に着目し、高圧試料への適用を試みてきた。この手法では鉄のK吸収端を挟む二つのX線エネルギーを用いて試料のCT撮像を行い、比較することで試料の密度分布のほか、鉱物種や組成(特に鉄濃度)といった化学的な情報も得られる。我々は以前、マントル物質の部分溶融液が鉄に富むこと[3][3] R. Nomura et al.: Nature 473 (2011) 199-202.を利用し、この手法を用いてマントル物質の融け始めの温度(ソリダス温度)を全マントル圧力下で決定した[4][4] R. Nomura et al.: Science 343 (2014) 522-525.。これらの成果、地球科学的意義については本誌の過去の解説記事を参照されたい[5][5] 野村龍一:SPirng-8/SACLA利用者情報 20 (2015) 9-11.
 本稿ではその後の技術開発や、それによって展開されつつある新しい超高圧地球科学について紹介する。本研究はすべて大型放射光施設SPring-8のビームラインBL47XUで行われた。

 

 

2. 「高圧その場」化学的3Dイメージング
 我々はまず、ダイアモンドアンビル装置を用いた高圧その場でのイメージング手法開発を行った。従来、高圧その場での3Dイメージングには、X線CT法がよく用いられてきた[6][6] たとえば、H. Liu et al.: PNAS 105 (2008) 13229-13234.。しかしながらX線CT法ではそのジオメトリ(図2)から、(a) X線が封圧ガスケットを通過するため、ガスケット素材はX線が透過するような軽元素に限られること、(b) X線がサンプル室を横断するため、サンプル室の複雑化(サンプル室周りにヒーターや電極を埋め込むこと)が難しいこと、といった技術面・応用面で様々な問題があった。これらは特に、鉄のK吸収端近くの低いX線エネルギーを用いる化学的イメージングではクリティカルな問題となる。そこで我々は新たにX線ラミノグラフィーを用いた高圧その場イメージングの手法開発を行った[7][7] R. Nomura and K. Uesugi: Rev. Sci. Instrum. 87 (2016) 046105.。図2に示すように、ラミノグラフィーでは、入射X線に対して試料回転軸を傾けて画像を収集する。この手法ではX線が試料のほか、ダイアモンドアンビル内のみを最短パスで通過するため、(a) 試料以外でのX線の吸収が最小限に抑えられること、(b) 試料周りが複雑化可能になること、などX線CT法の弱点を克服できる。また、ダイアモンドアンビル装置では圧力を支える柱がどうしても1回転撮像中に影をつくるため、X線ラミノグラフィーの方が質の高い断面像を再構築できる[8][8] 星野真人、上杉健太朗、竹内晃久、鈴木芳生、八木直人:放射光 26 (2013) 257-267.。我々は現在までに地球マントルの全域をカバーする圧力での高解像度(ボクセルサイズ約40 nm)イメージングに成功している。

 

図2 X線コンピュータ断層撮影(CT)法(左)とX線ラミノグラフィー撮像法(右)のジオメトリの違い。ラミノグラフィー法では入射X線に対して試料回転軸が傾いている。

 

 

3. 高圧「高温その場」化学的3Dイメージング
 ラミノグラフィーを用いた高圧その場イメージング法を高温へ拡張するため、ファイバーレーザー、および抵抗加熱による高温実験系の導入を行った(図3)。レーザー加熱では超高温が発生可能である一方、非常に大きい温度勾配が付随する。また、試料によって加熱に適したレーザーの波長が違うため、試料以外にレーザー吸収材が必要となる場合もある。一方でジュール熱による抵抗加熱法は温度勾配が小さく、試料によらず高温を発生可能であるという長所がある一方で、レーザー加熱に比べると実験可能温度は低く、電極などの複雑なサンプル周りのセットアップが必要となる。そのため実際の実験では目的に応じて二つの加熱法を使い分けることが必要となる。

 


図3 (上)レーザー加熱実験系(2016A時点)と(下)金属鉄の融解実験の様子。スケールバーは20 µm。

 

 

 我々はBL47XUにレーザー加熱実験系を立ち上げた。図3に2016A時点でのレーザー加熱光学系とX線ラジオグラフィーによる圧力25.6 GPaでの鉄の融解実験の様子を示す。レーザー加熱によって鉄箔からバブルのようなものが生じているのが観察できる。レーザー加熱前後でX線ラミノグラフィー撮像を行うことにより、融解による3Dテクスチャの変化を追うことが可能である。鉄の融点は地球コアの形成や構造を知るうえで最も基本的で重要な情報であるが、現在までに様々な測定手法(表面スペックルパターン、X線回折、XANES)によって異なる結果が報告されている。イメージングと次節で説明するX線回折の複合測定によって、将来的にこれらの統一的な解釈が可能になるかもしれない。また、現在ではX線に透過なボロン添加ダイアモンドヒーターを用いることで、350度視野を遮ることがない抵抗加熱実験も可能になってきている。

 

 

4. 動的物性(レオロジー)研究への応用
 本プロジェクトで開発している化学的イメージングは参考文献[5]で扱った地球の形成や進化だけでなく、地球内部の動的物性(物質の塑性変形や流動)を知るうえでも強力な武器となる。物質の流動特性を理解するためには、試料の歪と応力をどれだけ精度よく決められるかが一つのカギとなる。応力はX線回折、歪は歪マーカーのX線イメージングにより高圧その場で決定される。このような研究は今までにD-DIA装置[9][9] Y. Wang, W. B. Durham, I. C. Getting and D. J. Weidner: Rev. Sci. Instrum. 74 (2003) 3002-3011.や回転ドリッカマー装置[10][10] D. Yamazaki and S. I. Karato: Rev. Sci. Instrum. 72 (2001) 4207-4211.を用いて、主に30 GPaまでの圧力で行われてきた。そこで本研究ではダイアモンドアンビル装置をベースとした変形装置である回転式ダイアモンドアンビル装置の技術開発を行った[11][11] R. Nomura et al.: Rev. High Press. Sci. Technol. (2015) 3B09.。新しくナノ多結晶ダイアモンド[12][12] T. Irifune, A. Kurio, S. Sakamoto, T. Inoue and H. Sumiya: Nature 421 (2003) 599-600.をアンビル素材として用いることで、全マントルをカバーする圧力での変形実験に成功している。ダイアモンドアンビル装置では加圧と回転による二つの変形が起こるため、3Dでの歪マーカーのイメージングが必須となる(図4)。下部マントルの代表的な鉱物であるブリッジマナイトとフェロペリクレース混合物の予察的な変形実験では、化学的イメージングによって高圧その場でマントル鉱物の粒サイズや形を決定することに成功している。

 

図4 ペリクレース(MgO)の約50 GPaでの変形実験の様子[11][11] R. Nomura et al.: Rev. High Press. Sci. Technol. (2015) 3B09.。上から変形実験の模式図、歪マーカー(白金)のラジオグラフィー像とラミノグラフィーによって再構築された断面像(代表例として加圧軸方向に11.91 µm離れた二枚の断面図が示されている。実際は約40 nm間隔で数百枚の連続した断面像がある)。左から右へ変形が進む。

 

 

 さらにフラットパネル(C9730DK-10, 浜松ホトニクス)を持ち込み、ダイアモンドに挟まれた試料のX線回折測定にも成功している。これらの技術を組み合わせることで、X線回折とX線3Dイメージングの複合測定系を完成させ、今後超高圧高温条件での地球深部物質のレオロジー研究を推進させていきたい。
 以上のように、本稿で紹介したX線ラミノグラフィー法を高圧地球科学の重要な諸問題に応用することで、地球の形成や化学進化[5][5] 野村龍一:SPirng-8/SACLA利用者情報 20 (2015) 9-11.、ダイナミクス[11][11] R. Nomura et al.: Rev. High Press. Sci. Technol. (2015) 3B09.に対し、新たな知見を得ることが期待できる。

 

 

謝辞
 上杉健太朗博士(JASRI/SPring-8)を始めとした共同研究者の方々(本稿で引用した論文の共著者の方々)へ深く感謝を申し上げます。ラミノグラフィー用ダイアモンドアンビル装置のデザイン・開発には株式会社シンテックの栗尾文子氏の貢献が大きい。本研究は大型放射光施設SPring-8のBL47XUを用いた一連の課題(2015A1640、2016A1114、2016B1176)を通じて行われた。X線ラミノグラフィーの画像再構築には、星野真人博士(JASRI/SPring-8)が開発したプログラムを用いた。

 

 

 

参考文献
[1] S. Tateno, K. Hirose, Y. Ohishi and Y. Tatsumi: Science 330 (2010) 359-361.
[2] A. Tsuchiyama et al.: GCA 116 (2013) 5-16.
[3] R. Nomura et al.: Nature 473 (2011) 199-202.
[4] R. Nomura et al.: Science 343 (2014) 522-525.
[5] 野村龍一:SPirng-8/SACLA利用者情報 20 (2015) 9-11.
[6] たとえば、H. Liu et al.: PNAS 105 (2008) 13229-13234.
[7] R. Nomura and K. Uesugi: Rev. Sci. Instrum. 87 (2016) 046105.
[8] 星野真人、上杉健太朗、竹内晃久、鈴木芳生、八木直人:放射光 26 (2013) 257-267.
[9] Y. Wang, W. B. Durham, I. C. Getting and D. J. Weidner: Rev. Sci. Instrum. 74 (2003) 3002-3011.
[10] D. Yamazaki and S. I. Karato: Rev. Sci. Instrum. 72 (2001) 4207-4211.
[11] R. Nomura et al.: Rev. High Press. Sci. Technol. (2015) 3B09.
[12] T. Irifune, A. Kurio, S. Sakamoto, T. Inoue and H. Sumiya: Nature 421 (2003) 599-600.

 

 

 

野村 龍一 NOMURA Ryuichi
愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター
〒790-8577 愛媛県松山市文京町2-5
TEL : 089-927-8197
e-mail : nomura@sci.ehime-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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