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Volume 29, No.1 Pages 76 - 81

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

専用ビームラインにおける評価・審査の結果について
Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 専用施設審査委員会において、京都大学の専用ビームラインを2023年11月に中間評価、産業用専用ビームライン建設利用共同体の専用ビームラインを2023年12月に事後評価し、それらの結果を2024年2月開催のSPring-8選定委員会に諮り、承認されましたので報告いたします。

 

 

中間評価
・先端蓄電池基盤技術開発ビームライン(BL28XU)
 (設置者:京都大学)

事後評価
・サンビームBMビームライン(BL16B2)
・サンビームIDビームライン(BL16XU)
 (設置者:産業用専用ビームライン建設利用共同体)

 

 

 詳細は、以下に示す各施設の評価報告書をご覧ください。

 

 

先端蓄電池基盤技術開発ビームライン(BL28XU)
中間評価報告書

 

 先端蓄電池基盤技術開発ビームライン(BL28XU)は、国立大学法人京都大学によって設置・運用されている専用ビームラインである。国⽴研究開発法⼈新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業(RISING、RISING2、RISING3)のもとで2009年度から設置され、⾰新型蓄電池開発に向けた研究が行われている。2021年度からのRISING3の開始に先だって京都大学より再契約の申請があり、2020年12月4日の第32回専用施設審査委員会で5年間(第3期)の再契約を認めるとともに、契約期間の中頃に中間評価を行うことを勧告した。この勧告を受けて京都大学から中間報告書が提出され、2023年11月6日の第37回専用施設審査委員会で中間評価を行った。
 京都大学より提出された中間報告書および口頭によるプレゼンテーションにもとづき、「装置の構成と性能」「施設運用及び利用体制」「研究課題、内容、成果」「今後の計画」の4項目について評価を行った。⾰新型蓄電池開発の重要性に加え、プロジェクトの目的に沿った実験装置が着実に整備されている点などを高く評価し、契約の継続が妥当と判断した。ただしいくつかの重要な指摘・提案もあったので、それらを踏まえた今後の運営に期待する。
 以下に、各評価項目について評価結果をまとめる。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL28XUは、光源として真空封止型テーパードアンジュレータを備えており、光学ハッチ、実験ハッチ1(EH1)、および実験ハッチ2(EH2)を実験ホールに有している。光学ハッチのビーム輸送光学系として、1対の横集光ミラーと2組のコンパクト分光器(チャンネルカット結晶分光器)があり、ピンクビームと4-50 keVの単色ビームの利用が可能となっている。コンパクト分光器は高速エネルギースキャンが可能であり、テーパードアンジュレータの広帯域ビームと組み合わせた時間分解測定に利用されるなど、このビームラインを特徴づけるものとなっている。
 EH1には1対の縦集光ミラー、グローブボックス付回折計、大型多軸回折計が設置されており、XAFS、XRD、共焦点XRD、SAXS、X線反射率測定などを実施することができる。電池動作下でのオペランド計測を中心に活発に利用されており、XAFS、XRD、SAXSについては複合計測も可能となっている。EH2にはHAXPES装置の他にフリースペースが設けられており、持込装置を用いた多様な実験が可能となっている。HAXPES装置群の一部の移転によりフリースペースが増えたことで、より自由度の高い実験が可能になった。
 上記装置の大半は第2期までに整備されていたものであるが、第3期ではRISING3の目的に沿う形で高度化と新規測定手法への応用が進められている。局所的な回折像を高速に取得できるピンクビーム共焦点XRDや共焦点全散乱法の開発については、まだ課題は残っているものの、実証実験で良好な結果が得られるなど、概ね順調に進んでいる。高度化が進められている回折・分光複合測定システムは、フッ化物全固体電池などの複雑な反応機構を解明するためのマルチプローブ・オペランド計測に有効であり、早期に本格的な利用が開始されることを期待したい。他にも、共通試料セルの開発、測定のオートメーション化、電池材料のコンビナトリアル合成とハイスループット評価基盤の構築など、より効率的な研究開発に向けた取り組みも高く評価できるものである。このように、蓄電池研究に特化した専用ビームラインとして特色のある装置群を有し、RISING2からRISING3への移行による開発ターゲットの変更にも柔軟に対応して高度化を進めており、適切な整備と運用がなされている。今後は速やかに本格利用の段階に移行し、多くの成果が生まれることを期待する。
 一方で、中間報告では当初計画に対する達成度が明確に示されず、整備の進捗に関する評価が困難であった。また、BL28XUだけで技術開発を進める計画のように見受けられ、必ずしも効率的なプロジェクト遂行につながっていないことが懸念される。実際に少し遅れが見られる開発項目もあるため、他のビームラインの装置や技術的アプローチの活用も検討していただきたい。具体的な例としては、USAXS装置の整備や、共焦点測定でゲージボリュームに制限をかける方法などがあげられる。革新的蓄電池開発は国家的なプロジェクトとして進められている重要なものであり、共通的な課題については施設も巻き込んで取り組むことが期待される。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 2021年度からRISING3に引き継がれた際に、ビームラインの運用面でも大きな変更が加えられた。まず、外部普及枠として、全ビームタイムの20%を上限として蓄電池に関係する他のプロジェクトやコンソーシアムに対して共同利⽤が開始された。運営組織に関しては、RISING2までの運⽤を引き継ぐ組織として、京都⼤学産官学連携本部のもとに「RISINGビームライン運営委員会」が設置されている。また、外部普及枠に関連する利⽤を管理するための「量⼦ビームライン運営協議会」が発⾜した。こういった取り組みは、一連のRISINGプロジェクトを継続的に推進するだけでなく、ユーザーの裾野拡大や人材育成の観点からも有効なものと高く評価できる。また、RISING3メンバーによる利用と外部利用を管轄する組織が明確に分かれており、よく整理された組織となっている。さらに、外部団体である「量⼦ビーム分析アライアンス」と共同し、外部利用枠の活用、量子ビーム関連手法の利用促進および人材育成を進めている点も高く評価する。ただし、外部普及枠の利用については、現状では初心者の教育に偏っているように見受けられる。人材育成に活用されることは非常に重要であるが、プロジェクトとは異なる先端的な研究テーマも幅広く取り込めるようになると、本来の趣旨に沿ったものとなるであろう。
 課題選定に関しては、申請課題数が順調に増えて不採択課題が出てきているものの、ほとんどの申請課題が採択されている状況が続いている。プロジェクトの遂行に必要なビームタイムが十分に確保されていると肯定的に捉えられる反面、課題選定が適切に行われているか不明瞭である。この点については、一方では成果公開を基本としたオープンな課題選定プロセスを建て前としながらも、他方では熾烈な国際競争の中でトップダウン的な研究遂行が求められる状況があり、運営にひずみが生じていることが懸念される。オープンな課題については申請課題数を増やす取り組みを継続しつつも、トップダウン的に実施する研究テーマについては成果専有利用も積極的に活用すべきである。また、プロジェクト内に限定して成果を共有し、対外的には非公開とする成果専有利用の形も検討するなど、より戦略的な運営にむけた取り組みを期待する。
 ビームラインの維持管理およびユーザー支援については、京都大学のスタッフを中心に問題なく行なわれている。プロジェクト枠利用はRISING3参画メンバーによって、外部普及枠は量⼦ビーム研究部⾨のスタッフによってユーザー支援が行われており、適切な支援体制となっている。安全管理の観点からも、化学物資管理や緊急体制などを含めて、十分に配慮された運用がなされていると評価された。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 RISING3が扱う⾰新型蓄電池の開発に対して、共焦点XRD法など有用となりえる放射光分析技術の整備と導入を行い、研究の加速が期待できる成果が示されたことは大いに評価できる。また、プロジェクトが進む中で新たに必要となったオペランド測定用セルの再開発への対応がなされ、その結果が新規電極材の設計指針を与えた点など、多くの取り組みに対する努力に敬意を表する。多岐に渡る要素技術の開発により、個別の成果が着々と得られている段階にあると見受けられる。一方、これらの重要性は理解できるものの、プロジェクト全体の達成目標に対する位置づけが明確に示されなかったため、研究成果においても現時点での達成度が十分に評価できないという点が委員会で指摘された。BL28XUは、蓄電池研究に関して特色のある専用ビームラインとして認められることから、プロジェクトの目的達成において、より包括的かつ戦略的な利用推進の検討を期待する。
 具体的に成果面に踏み込むと、前契約期間(2016~2020年度)の最終評価以降にSPring-8に登録されている公開論文(査読付き)は20報に留まっており、決して多い数とは言えない。また、2023年度の論文に関しては、報告された成果登録が皆無であった。さらに、RISING3として新聞・雑誌等で成果が公表され、特許取得に至っているものの、BL28XUでの実施結果を含まない成果がほとんどである。これまでにBL28XUで多くの結果が得られているので、これらが着実に刈り取られ、実りとなるよう、プロジェクトであることを活かした取り組みが求められる。
 また、前述したように、京都大学に量子ビームコンソーシアムを設置して研究を推進していることと、量子ビーム分析アライアンスで利用成果が得られていることは高く評価できる。⾰新型蓄電池の開発を多角的に推進するのみならず、量子ビームの相補利用を促す点で歓迎すべきことである。しかし、放射光と中性子の相補利用による成果は未だ限定的で、体系だった成果も見えておらず、得られている個別成果が如何にプロジェクト推進の動力として貢献しているかが必ずしも明確ではない。この点に関しても、RISING3プロジェクトの目標達成に対するビームライン活用の位置づけや成果の意義をより明確にし、強いリーダーシップの下に大所高所から課題解決を遂行されることが重要であると考える。今後は、苛烈な世界競争の中で、専用ビームラインを存分に活用したからこそ得られる先進的な成果(非公開成果を含む)の創出、SPring-8における他のビームラインとの連携による効率的なプロジェクト推進にも期待する。高く評価されているRISING3プロジェクトであり、BL28XUにおける成果の十分なアピールが、プロジェクト全体の理解や推進の後押しにもなると考える。高度化されたビームラインから発出される成果の報告を大いに期待するものである。

4. 「今後の計画」に対する評価
 革新的蓄電池の研究開発が世界的な競争にあるなかで、RISING、RISING2の成果を引き継いだRISING3のもと、専用ビームラインとして設置されているBL28XUの意義は極めて大きい。BL28XUでは、これまでに蓄電池開発に特化した基盤技術の改良や高度化などを進め、一定の研究成果をあげてきた。今回の計画では、これらの開発された測定技術や手法、および、プロジェクトで得られた知識を基盤とした、装置のさらなる高度化や測定のハイスループット化が掲げられている。革新的蓄電池開発の促進と目標とされる電池性能の達成へ向け、広い時間と空間の領域でマクロ反応分布・固体内反応・界面反応を解明するという放射光分析の役割も示されており、総じて妥当な内容であると評価される。ただし、プロジェクトの後半になる今後は、成果の刈り取りとRISING3で掲げるブレークスルー技術の創出がBL28XUにおいても重要である。そのために、優先的に取り組むべき課題や実用化する技術を絞り込んで、集中的に取り組むことの検討をいただきたい。また、他のビームラインとの連携や外部普及枠による核心テーマの取り込みなども含め、プロジェクト全体の最適化がなされることが重要であると考える。強いリーダーシップによるプロジェクト・マネージメントと施設側との密なコミュニケーションにより計画が着実に推進し、日本の蓄電池関連産業と量子ビーム利用技術の発展に資する成果が得られることを期待する。

以 上

 

 

サンビームBM・IDビームライン(BL16B2・16XU)契約期間満了に伴う専用施設事後評価報告書

 

 産業用専用ビームライン建設利用共同体は民間12企業と1グループ(13社)が任意団体の共同体を形成し、BL16XUおよびBL16B2の2本のビームラインを建設して運営してきた。同共同体は電機、自動車、通信、情報、電力、素材などを基幹ビジネスとする企業から構成されている。SPring-8利用の活動開始はSPring-8創設間もない1998年であり、一貫して13社の資金拠出、利用時間配分などすべて平等の原則で運営を行っている。第一期契約期間(1998年8月~2008年8月)、第二期契約期間(2008年8月~2018年3月)を経て、現在、第三期契約期間(2018年4月~2024年3月)の終わりを迎えており、第三期の終了をもって2本のビームラインの専用施設としての利用を終了する旨申し出があった。これに基づき2023年12月21日に第三期の事後評価を行った。
 第二期終了時の次期計画の評価(2017年10月24日評価会開催)において、「利用成果の公開が必ずしも十分とは言えず、提案された次期計画では利用成果創出の実現に懸念がある」「産業利用を標榜するビームラインとして成果専有課題、成果非専有課題を適切に判断したうえで実施することが必要である」等の強い意見が出されていた。今回の事後評価報告書はこれらを念頭に置いた活動結果が報告され、評価委員会として産業界の利用者として十分妥当な成果をあげることができたと結論付けた。

〇第三期の活動について
 設備については、第三期の期初の2018年度および2019年度に合計で2.1億円(1社あたり1,600万円)の投資を行い、共焦点X線顕微鏡、分光マイクロX線CT装置、ノイズフリーX線イメージングシステム、多素子検出器、大気非暴露実験装置の5点について整備を行っている。参画企業は研究設備投資を4年償却で進めているため、2020年度以降は2023年度末の活動終了を見据えて設備投資はゼロに抑えられており、運営管理費のみの拠出になっている。これらの新規設備を用いた成果あるいは日常的な成果として、評価会において各企業1件ずつの成果が報告されたが、とくにScientific Report誌に掲載された論文も1件紹介された。
 2017年の評価で問題となっていた原著論文の数はSPring-8/SACLA利用成果集への掲載も含め、2018~2022年度の年平均で28.8件、2023年度予測を含めると年平均30.3件であり、第二期の年平均10.9件を大きく上回ったほか、成果専有利用時間も半年毎の利用期あたり平均350時間以上と第二期の同平均30時間弱の10倍以上の実績となっていた。原著論文の絶対数はそれほど多いとは言えないが、学術機関に比べて論文作成が必ずしも評価されない産業界の利用において、さらに成果専有利用分を差し引いて考えれば十分な実績であると考えられる。また、第三期中における取得特許の件数は11件、審査中、計画中の案件も含めると36件、プレス発表の件数は1件で、直接的ではないが関連するものを含めると9件との報告があった。プレス発表など戦略的にさらに工夫が必要と考えられる部分もあるが、これらは総じて第二期終了時の指摘を踏まえて十分な成果を上げられたと評価された。
 運営体制は、各社平等に共同体の委員を務める原則で1年毎に各委員を輪番でまわしていくシステムが取られている。第二期終了時の評価として、利用成果創出に向けた運用見直しの検討の必要性を指摘され、一部の利用時間を緊急利用枠として、各社成果に応じた配分枠として運用を行った。コロナ禍の影響で利用予定がキャンセルされた利用時間もこの枠で活用できたと報告された。また、第二期終了時において、第3者の研究機関との連携による成果が明確でない、との指摘があったが、第三期においては、コロナ禍あるいは新規設備導入の停止などの要素があったにも関わらず13社の共同作業として行う機器整備などの作業を中心に第3者との連携を増加させ、その成果のいくつかは原著論文として登録された。
 第三期においては、コロナ禍の問題のほか、BL16XUのアンジュレータの真空漏れ、BL16B2のFE真空値異常など、老朽化に伴うと考えられる大きなトラブルにも見舞われ、停止期間がそれぞれ53日間、11日間に及んでいる。これらにも関わらず上記のような成果をあげている点は評価できる。第三期の中間評価(2021年6月1日評価会開催)における「取り組みが格段に進んだことが見受けられ、専用施設審査委員会(以下、本委員会)は第三期後半も当該ビームラインの設置と運用を「継続」することを勧告することが妥当である」との評価に引き続き、第三期全体を通して産業界の利用として十分な成果をあげることができたと評価する。

〇第一期~第三期を通じて、および今後の活動について
 本委員会の責務は第三期の活動と成果を評価することであるが、委員会において全活動期間を通じて、あるいは今後の課題についての言及もあったので、それらについて記す。
 本共同体の活動は1998年から通算で26年間に及ぶ。活動の当初は放射光の産業利用はまだ一般的とは言えなかった。また、SPring-8の運営にも変化があり、共同体においても今回の報告のように運営に変化が必要であった部分もある。このような中で民間企業の共同体という形態で継続的にここまで活動し、各社に放射光利用の力を、ひいては材料解析の基礎力を養成してきたことは高く評価されて良い。
 今後に向けて委員会で指摘のあった点は以下のとおりである。
(1)放射光科学の一翼を担うメンバーとして、納税者(一般市民)という大きな対象に対してその効果をアピールする努力を行っていって欲しい。
(2)第二期の終了時にあった指摘は共同体内部からの問題意識の中で挙がってきてもおかしくないと考えられる。安全維持活動に見られるような、自身を自ら律する自律的な文化をより一層醸成していって欲しい。
 なお、一部の委員から、サンビームの運営は担当者の頑張りに(過度に)依存しているのではないか、との意見もあったことを付記しておく。サンビームは第三期において独自の努力だけで論文数および成果専有利用時間の増加を果たされたが、今後、各案件に取り組まれる際は、他の専用ビームラインにも共通の課題であるが、施設側とのコミュニケーションを強化しながら無理のない運営が進められる仕組みの構築を目指すなど、今後の活動で考慮すべき点と思われる。
 今後、サンビームはビームラインの運営を理研に移管し、あらたな形態で活動を継続する予定とのことである。上記の点を踏まえて活動を継続し、産業界としての成果をあげていかれることを期待する。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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