Volume 29, No.1 Pages 42 - 44
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
登録機関による施設利用研究活動評価の実施について
Review of Research Activities as Registered Institution for Facilities Use Promotion


1. はじめに
公益財団法人高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」という)は、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(共用促進法)」に基づく登録施設利用促進機関として大型放射光施設SPring-8及びX線自由電子レーザー施設SACLAの利用促進業務を行い、これらの施設の共用を促進するための様々な業務を行っています。
放射光を利用するユーザーは増加し、その研究分野は多様化しています。ユーザーが短期間のうちに世界トップレベルの研究成果を創出するためには、高性能な実験装置とともに、専門的な視点や豊富な経験に裏付けされた「支援」が求められ、そのためには、財団職員が最先端の放射光技術を開拓しつつ、知識・経験を常に向上させることが必要となります。その必要性は文部科学省が定めた「特定放射光施設の共用の促進に関する基本的な方針(告示第9号 平成23年2月7日)」の中で「第2 施設利用研究等に関する事項/6 登録機関の研究機能の強化」として述べられています。
そのため、JASRIによるSPring-8及びSACLAにおける研究活動については、登録機関自らが施設を利用した研究手法の改善など施設利用研究を促進するための方策に関する調査研究等を行うものとして、共用促進法の第12条「登録施設利用促進機関による利用」に基づき、文部科学大臣の承認を受け実施しています。
この条項に基づき、JASRIでは登録機関が利用するビームタイム枠は「12条枠」、またその枠内で実施される研究・開発課題は「12条課題」と呼称し、同枠の利用、同課題の実施にあたっては、ユーザーの要望を反映させるとともに、JASRIの研究機能の維持・向上を図りつつ、適正な一般枠を確保するため、ビームタイムはSPring-8においては全体の20%、SACLAにおいては全体の15%を上限と定めています。
2. SPring-8、SACLAにおける12条利用研究活動の評価
12条利用については、外部有識者から構成される登録機関利用研究活動評価委員会を設置し、次項に記載した観点から評価することとしています。この度、2018A期から2022B期の12条利用の実施結果を対象として2023年9月14日に評価委員会が開催され、2023年10月5日付けで評価報告書が理事長に提出されました。今般、評価委員会から提示された評価結果の概要は以下の通りです。報告書の全文については、以下URLにアクセスの上、ご覧ください。(JASRIホームページ:登録機関利用研究活動評価報告書https://www.jasri.jp/content/files/koukai-jyouhou/231005.pdf)
なお、12条利用に対する評価は平成20年に第1回、平成25年に第2回、平成30年に第3回が実施されており、今回が4回目となります。
第4回登録機関利用研究活動評価委員会 委員一覧
委員長 | 野村 昌治 (高エネルギー加速器研究機構 名誉教授) |
委 員 | 足立 伸一 (高エネルギー加速器研究機構 理事) |
佐藤 衛 (総合科学研究機構中性子産業利用推進センター サイエンスコーディネーター) |
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志満津 孝 (豊田中央研究所 取締役兼CCO) |
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米田 仁紀 (電気通信大学 教授) |
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渡辺 義夫 (名古屋大学 招聘教員、光科学イノベーションセンター 理事長特別補佐) |
第4回登録機関利用研究活動評価委員会 開催概要
開催日:2023年9月14日(木)
議 事:概要説明、利用研究活動成果報告等の発表、評価・審議など
(1)運営方法について
支援に当たる財団職員が、ユーザーにとって、相補的な専門性を有する強力で信頼される研究パートナーであることが望まれる。そのためには研究支援に当たる財団職員が、担当する実験装置を利用する研究に精通し、新しい研究の可能性や新しい研究分野を開拓していくことが重要であり、12条利用は、このために不可欠な制度である。
前回委員会で指摘されたインハウス課題と一般課題の利用区分については、その趣旨を徹底し、インハウス課題に必要となるビームタイムを予め確保するなど改善が進められている。
専門的知見や技術を有するユーザーを財団の客員研究員として受け入れて、財団単独では困難な新しい技術開発を進め、12条課題の中に共同研究者として財団内外の研究者が参加することで研究の可能性を広げている。
12条利用による成果は、課題募集要項への反映、「SPring-8/SACLA利用者情報」の記事、SPring-8シンポジウムやワークショップ等での報告等を通して、ユーザーが把握できる仕組みとなっている点は評価できる。
その他、前回評価における提言、指摘事項等へ適切に対応されている。
(2)利用状況について
① 高性能化・調整枠の状況について
高性能化・調整枠の中で、機器入替、調整等の自動化・省力化が進められ、これらに充てるビームタイムは大幅に短縮されている。
② 12条利用の状況について
全ビームラインでの利用時間割合の平均(SPring-8が11.4%、SACLAが11.3%)については、SPring-8において目安よりやや低い数字であったが、COVID-19やビームライン再編の影響を考慮すれば適切であったと判断できる。
前回の指摘に基づき、実験装置の入替や実験条件の切り替えに要する時間は、12条利用の外数として適切に整理されている。
時期指定課題等を適時に実施するために、高性能化・調整枠を利用することは妥当であるが、12条利用が極度に圧迫され、必要な調査研究が滞ることは望ましくない。
一部のビームラインで実績に基づき高性能化・調整枠を拡大していることは適切である。


(3)実施体制について
① 人員体制について
高い研究成果を持続的に創出するためには、ユーザーから信頼できるパートナーと認められるような、高い能力と意欲を有する職員が必要であり、彼ら/彼女らが専門性を活かし、誇りを持って職務を遂行できる環境を作っていくことが重要である。
テニュアトラック制度を導入し、有能な若手人材を確保し、理事長ファンドなどで自発的な研究・開発を奨励している点は評価でき、更に発展させて欲しい。
職員が世界的な視野を持って職務に当たることは重要で、積極的に視野を広める機会を拡大することが望まれる。
② 予算について
獲得した外部資金の間接経費を活用して理事長ファンドなどの若手職員への支援の取り組みを進めることは評価できる。
職員だけで大型外部資金を獲得することは容易でないことも考えられ、有力ユーザーや設置機関と共同して大型の外部資金の獲得を行えるよう、更なる工夫を期待する。
12条課題実施のために充当している予算の裏付けを明確にしていくことが望まれる。
(4)研究成果について
【SPring-8】
報告された研究成果はSPring-8の特色をより高いレベルで発揮することを可能にし、新しい研究に繋がるとともに、実験の高精度化・効率化にも資すると期待され、また新たな研究成果を生み出している。
実験の自動化やリモート実験環境の整備推進、メールインサービスの充実は、今後活用されるものと期待される。この技術開発は重要であり、検討段階から共用まで、装置に対する専門的理解とともに高度のengineering workが必要な反面、論文化し難い面もある。技術を組織的に共有し、他のビームライン等で更に発展させられるように、具体的で充実した内容の技術資料を作成し、それらも十分に評価されることを期待したい。
【SACLA】
12条利用の成果はSACLAを活用していくために不可欠なものとなっている。
12条利用の前提として、世界的な競争力を一層高めるためにコミュニティと議論し、戦略を立てて欲しい。
(5)今後の運営について
① 各12条課題の位置付けの明確化
中長期的な全体計画の中での位置付け、目標や当初計画に対する達成度、利用研究への効果を一層鮮明にすることが望まれる。
インハウス課題として実施する技術開発等は中長期に及ぶことが多く、その計画についてユーザーが概要を知ることができるように工夫して欲しい。
② 内部評価について
インハウス課題の場合は、当初計画に対する達成度や課題など内部的に事後評価を行い、概要を示して欲しい。
当初計画通りの成果や効果が得られなかった場合、個人任せにするのではなく、組織的に英知を集めてその原因を明らかにし、改善していくことを期待する。
③ 高性能化・調整枠の運用について
必要に応じて時期指定課題の増大により12条利用が極度に圧迫されているビームラインにおける高性能化・調整枠を実績に基づき予め拡大するか、不足分については次期の高性能化・調整枠を増やすなどの方策を進めて欲しい。
④ 12条利用成果の普及・広報について
12条利用の成果について、利用者情報やSPring-8シンポジウム、各種セミナー等でも紹介されており、成果広報に進展が見られる。
各ビームラインのwebsiteから12条利用の成果の情報や成果報告にリンクを貼るなど、12条利用による成果(=研究環境の改善状況)を多くのユーザーが随時参照できるよう工夫して欲しい。
(6)総評
登録機関は将来計画の実現に向けて様々な開発を主体的に実施する必要がある。これらの活動を主に担うビームライン担当者が研究動向の変化を体感し、意欲的に活動を展開することが重要であり、そのため12条利用を一層活性化する環境を整え、更に活発に利用し、成果をユーザーに還元することを期待する。
3. おわりに
JASRIでは本評価報告書における指摘事項、提言等を踏まえ、以下の項目に取り組んでいきたいと考えています。
(1)12条利用の位置付けの明確化
中長期的な全体計画(SPring-8-II計画等)の中での12条課題の位置付け、達成度等を明示できる方法を検討します。
(2)高性能化・調整枠の柔軟な運用
インハウス課題の実績に応じて、ビームラインの高性能化・調整枠の運用をビームライン毎に検討します。
(3)成果発信の推進
論文発表、学会、シンポジウム等での発表の他、SPring-8/SACLA成果集、SPring-8/SACLA利用者情報誌での発表を今後も積極的に行っていくとともに、各ビームラインのwebsiteから12条利用の成果の情報や成果報告にリンクを貼るなど、アクセシビリティの改善方法を検討します。