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Volume 29, No.1 Pages 40 - 41

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

NanoTerasu・SPring-8合同シンポジウム報告
NanoTerasu/SPring-8 joint symposium

大端 通 OHATA Toru

(公財)高輝度光科学研究センター 企画室 Planning Office, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 去る11月20日(月)、量子科学技術研究開発機構(以下、QST)、光科学イノベーションセンター(以下、PhoSIC)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、理化学研究所(以下、理研)の主催により、NanoTerasu・SPring-8合同シンポジウムが開催されました。NanoTerasuは、日本で初めてマルチベンドラティスを採用する第4世代光源であり、2024年度からの運用開始を目前に控え、今まさに整備の終盤にかかっています。一方、SPring-8も同じく第4世代光源への改修により世界最先端の大型研究基盤として卓越した研究と産業の協働の場の構築を目指していることから、「放射光の新時代–第4世代光源の稼働に向けて–」をテーマとして、合同シンポジウムが開催されました。全国からの参加を募るため、東京駅に隣接するステーションカンファレンス東京で対面方式で開催しました。参加者の約25%が企業からの参加で、国研・大学等の学術及び文科省等官公庁からの参加がそれぞれ約65%、約10%と、SPring-8の利用状況を踏まえると産学官バランスの取れたシンポジウムであったと思います。

 

 

2. 主催者と来賓の挨拶
 プログラムとしては、最初にQSTの小安重夫理事長より主催者を代表して挨拶がありました。NanoTerasuの整備が順調に進んでおり、実験ホールに初めて放射光を導くファーストビームが当初の計画通り12月に予定していることの報告がありました。また、理研により同じ第4世代光源SPring-8-IIの計画が検討されていることを踏まえ、今が放射光が新しい時代に向かう時期であり、将来の放射光計測は測定と計算を融合させたサイバーフィジカルが重要になるため、関係機関との議論を活発にしていきたいとの提案がありました。また、田無のSOR-RINGに始まり、世界で50以上の放射光施設が稼働している状況を踏まえ、これからは見るだけではなく、「何故?」の疑問に答え課題解決に向かっていくことが重要であるとの考えが示されました。
 続いて、文部科学省の柿田恭良科学技術・学術政策局長から挨拶があり、NanoTerasuとSPring-8の高度化に関する国の取り組み状況について紹介がありました。NanoTerasuについては、先ごろ行われた国会衆議院文部科学委員会で、整備状況に関する質問があり、1ヶ月半前倒しで来年4月の運用開始に向け順調に進んでいることを報告したこと、また、SPring-8の高度化については、山本左近大臣政務官を座長としたタスクフォースを設置し、硬X線施設の更新についても検討を始め、戦略的広報の重要性が議論されたことなどの紹介がありました。文部科学省としては、SPring-8とNanoTerasuが世界の革新的な施設として、人類が直面する様々な課題に対するブレイクスルーをもたらすことに加え、施設を核とした人材ネットワークが構築されることを期待しているとの考えが示されました。

 

 

3. 講演概要
 最初の講演は、理研放射光科学研究センターの石川哲也センター長からMBAラティスによる極低エミッタンスを実現する第4世代放射光源について、光源技術の歴史的な発展から世界の動向を紹介しつつ、SDGsを踏まえSPring-8-IIが目指すグリーン化とデータサイエンスを取り込んだ課題解決のための高度化計画の重要性が述べられました。続いて、NanoTerasuにおける官民地域パートナーの枠組みに基づく国の主体機関であるQST次世代放射光施設整備開発センターの内海渉センター長からNanoTerasuの整備状況の詳細について報告がありました。整備計画の最終年度として突貫で作業を進めることで、計画より数ヶ月短縮して加速器のコミッショニングが進んでいることや、3本の共用ビームラインの測定装置の性能等についても報告があり、RIXSでは世界一の分解能を目指していることが紹介されました。また、NanoTerasuでは実験ホールを放射線管理区域から外す方針であることが改めて示されました。次に、地域パートナーの代表機関であるPhoSICの高田昌樹理事長からコアリション形成状況の報告と東北大学や自治体を巻き込んだイノベーションエコシステムの将来像について報告がありました。コアリション形成では、放射光実験において非専門家の利用障壁を取り除き、放射光未経験でも共創により課題解決を目指すという考え方が示されました。利用ニーズにスピーディーに対応する利用制度と合わせて、企業のお困りごとの課題解決から社会実装まで、NanoTerasuを中心とした東北大学や仙台市などの自治体を巻き込んだエコシステムで解決する取り組みについての紹介がありました。次に、SPring-8の施設者として、理研放射光科学研究センターの矢橋牧名グループディレクターからSPring-8のこれまでの歩みと近年のSDGsに向けた取り組みからSPring-8-IIに向かう高度化プロジェクトの概要について紹介がありました。世界の趨勢が第3世代光源から第4世第光源へ移行する中、最先端の分析能力を維持することの重要性が示され、現在のSPring-8が抱える課題を示すとともに、2050年までイノベーション創出を牽引するSPring-8-IIの革新的なテクノロジーとユースケースの将来像が示されました。講演の最後は、JASRIの後藤俊治コーディネーターよりSPring-8とSACLAにおける利用制度と利用状況及び成果の創出状況について報告がありました。2024年度からのNanoTerasuの運用開始により、国内のビームラインリソースが拡大することを踏まえ、SPring-8とNanoTerasuが利用情報や放射線管理などの連携、利用情報システムの一体運用、調査研究などにあたる支援要員の育成や技術力向上で協力することが重要であるとの考えが示されました。シンポジウムの最後には総合討論が行われ、課題解決のための充実したサポート体制や人材育成、利便性の高い課題制度などについて、多角的な議論が行われ、シンポジウムの最後に登壇者の集合写真(写真)を撮影して閉会となりました。

 

写真 登壇者の集合写真

 

 

 

大端 通 OHATA Toru
(公財)高輝度光科学研究センター 企画室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0960
e-mail : ohata@jasri.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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