Volume 26, No.1 Pages 35 - 37
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
LEEM PEEM 11.5(オンラインイベント)参加報告
Report of LEEM PEEM 11.5 (Online Event)
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 Spectroscopy and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
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1. はじめに
International Workshop on LEEM PEEMは、1998年に米国アリゾナで開催されて以来、隔年で開催されている国際ワークショップで、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)や光電子顕微鏡(PEEM)を用いた表面・界面物性研究や装置の技術開発に関する情報交換や討議を行う場となっている。近年では200名規模の参加者となっており、日本からの参加はやや減少傾向にあるものの、LEEM、PEEM分野の研究者・技術者にとって最新の動向をアップデートする重要な機会である。SPring-8には軟X線ビームラインBL17SUに分光型LEEM/PEEMと汎用型PEEMの2台があり、円/線二色性を利用した磁気イメージングをはじめ、半導体・セラミック・有機物質・地球外物質など、ナノ領域の表面・界面物性研究に幅広く利用されている。利用研究分野の広さゆえにユーザーグループからの技術的要望は様々であるため、国際的な技術情報が役立つケースは多い。筆者が最近参加したのは2016年に米国カリフォルニア州で開催されたLEEM PEEM 10で、分野人同士のアットホームな雰囲気を持ちながら、装置開発・研究ともに飽きさせることのない最新の内容が盛りだくさんの充実した会議であった。私自身も、時間分解放射光PEEMを用いて、フェリ磁性薄膜において巨大なスピン波が発見された成果の発表を行い、また、当時、BL17SUに新規に導入の準備を進めていた汎用型PEEM装置の仕様の打ち合わせとして納入メーカー(FOCUS社)と議論した思い出がある。そのため、本年度の9月27日から10月1日にスペインのコルドバにて開催が予定されていたLEEM PEEM 12を、SPring-8での成果を準備しつつ心待ちにしていたが、COVID19の拡大に伴い、1年間の延期が6月頃に通知された。本年度のレギュラーの会議は中止となったが、waiting periodの臨時企画として、表題にあるように“LEEM PEEM 11.5”と称して、内容を縮小したオンラインイベントが開催されることとなった[1][1] https://leempeem12.secv.es/online-event/。実施日程は本来予定されていたのとほぼ同じ9月28日から10月1日の4日間で、最初の3日間は1時間程度のチュートリアル講演が1件ずつ、最後の1日はポスター発表という構成であった(図1)。いずれの日もスペイン時間15:00~16:00(日本時間22:00~23:00)の短時間のセッションであり、短文になるが、以下に概要を紹介する。
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図1 LEEM PEEM workshopホームページ上の、LEEM PEEM 11.5オンラインイベントの案内[1][1] https://leempeem12.secv.es/online-event/
2. 講演の概要
初日(9月28日)のチュートリアル講演は、T. de Jong(Leiden University)氏とP. Dreher(University of Duisburg-Essen)氏による講演“Data analysis in LEEM and PEEM”であったが、この日は飛び込みの装置対応に追われたため、残念ながら拝聴できなかった。概要を読んだところ、得られた画像の処理方法(バックグラウンドやドリフトの補正)や、スキルミオンなど複雑なベクトル構造を持った磁化に関するビッグデータ解析手法などに関する内容で、興味深かっただけに残念である。この講演の内容には含まれていなかったが、近年の物性分野では機械学習による解析や物性探索が一つの大きな潮流となっており、ピクセル単位で分光学的情報が大量に得られるLEEMやPEEMでも今後、インフォマティクスに関連した研究や開発に関する報告が増えてくるものと予想される。
2日目(9月29日)の講演はイタリアの放射光施設ElettraのO. T. Mentes氏による講演“Synchrotron-Based Cathode Lens Microscopy”で、放射光やX線分光、光と電子・スピンとの相互作用やX線顕微鏡について、その歴史も交えて分野外の研究者にも分かりやすい丁寧な解説がされた。後半は、Fe–Ni合金薄膜における相分離状態の、LEEMとPEEMと放射光を組み合わせた先端的なナノ材料解析の例が紹介され、終盤は、新規の装置開発として、分光型LEEM装置に反射光の回折パターンを結像するポートを増設し、電子像(LEEM/PEEM像)とコヒーレント回折像(CDI像)を同時に取得できるシステムの紹介があった。テスト測定の段階であるが、LEEM/PEEMのハイスループット性と、電子結像における弱点(ex. レンズによる分解能の限界、磁場中の観察が不可)を補完するCDIは共存の効果が高い上、即時に得られるPEEM像を位相回復計算の初期条件に組み込んでCDI像にハイスループット性を付与するといった技術も考えられるため、「デモとしてのシングルナノ分解能」を「実材料研究に使えるシングルナノ分解能」に昇華させる潜在能力を秘めているように思われた。
3日目(9月30日)の講演は、米国UC DaisのG. Cheng氏による“Spin-Polarized LEEM”で、スピン偏極電子を用いた低エネルギー電子顕微鏡(SPLEEM)についてのチュートリアル講演であった。SPLEEMは高コントラストの磁区構造を観察することのできる結像型顕微鏡で、X線磁気円二色性を利用したPEEM(XMCD-PEEM)の特徴である元素選択性はないものの、シングルナノの分解能と高フラックス電子線による高速リアルタイム観察などがXMCD-PEEMよりも優れた点である。講演ではそれに加え、スピン偏極電子のスピン方向を3次元的に制御して3次元の磁化マッピングが得意である点にも言及し、スキルミオンなど立体的なテクスチャを有するメゾスコピック磁性薄膜の観察、解析を数多くの実例で紹介された。
4日目(10月1日)は5セッション(計25件)のポスターセッションで、筆者は“MAG(磁性)”の7件のプレゼンテーションを拝聴した。発表者は学生が多かったが、各国からの研究成果が集まっていた。興味深かった発表をいくつか紹介する。ポーランドの放射光施設SOLARISのA. Mandziak氏は、Ru(0001)基板上のマグネタイトのナノ構造薄膜の磁化過程の観察について紹介したが、独自に開発した、外場印加が可能なPEEM用試料ホルダなどは参考になった。パルスならば55 mT、観察中には15 mTの印加が可能とのことである。中国の重慶大学のL. Yu氏の発表では、収差補正機能を有したLEEM装置を用いたスピン偏極LEEM観測により、W(110)上のFeメゾスコピック構造体のカイラル磁区を3 nm程度の空間分解能で解析することに成功している[2][2] L. Yu, et al.: Ultramicroscopy, 216 (2020) 113017.。The University of NottinghamのS. Reimers氏は、イギリスの放射光施設Diamondにて、反強磁性薄膜CuMnAsの表面構造と反強磁性磁区を、X線磁気線二色性によるPEEM(XMLD-PEEM)と明視野/暗視野LEEMを用いて鮮明に観測した結果を報告した。物質・材料研究機構(NIMS)の鈴木雅彦氏からは、SPLEEMを用いて、多結晶のNiO/Fe薄膜における磁区構造の膜厚依存性を系統的に解析した成果の報告があった。NiOは単結晶による研究が多くされているが、実用デバイスとして多結晶状態での物性を知ることは重要である。このセッションは後半に“2D”とのジョイントセッションとなり、加えて5件の発表を聞くこともできた。Jülich研究所のK. Hagiwara氏は、当研究所で運用されている、世界をリードするmomentum microscopy装置を利用して、ワイル半金属MoTe2のバンド構造とフェルミ面を明瞭に捉えた結果を報告した。これらのショートプレゼンテーションの最中にチャット上で質疑応答を募っており、全てのプレゼンテーションが終了した後に、発表者が順番に口頭で回答をする形式であった。
当初は、セッション間の移動も自由な閲覧形式を想定していたそうだが、各数分のショートプレゼンテーションと質疑応答だけでほぼ1時間が経過し、結果的には短い口頭発表、という形式となった。また、途中でセッションの並行数によるエラーが生じて発表が止まるトラブルもあったが、実行委員が臨機応変に対応し、大きなロスは発生しなかった。どの発表者も限られた時間と条件の中で効果的なプレゼンテーションを行っており、内容の濃い充実した発表であった。
3. おわりに
この企画は、延期となったLEEM PEEM 12ワークショップの繋ぎとして内容を縮小したイベントであったが、Zoomウインドウ上での参加者はパネリスト含めて100名程度となっており、期間全体での延べ参加人数は150~200名程度であったのではないかと推測される。これはレギュラーのワークショップに匹敵する参加人数であり、当分野の研究者にとってこの集まりの重要性が認識されていることを実感した。筆者はこのワークショップ以外にいくつかの国内学会・研究会に参加したので、共通して感じたことを述べると、口頭発表については現地開催での研究会とそれほど大差なく、普通にセッションを聞くことができると感じた(通信トラブルなどもたまに生じるが、これは現地開催でもPCとプロジェクターの通信不良などが起こることを考えると大きな違いとは思わなかった)。逆に、ポスター発表については、工夫次第では現地でのセッションよりも情報収集が便利になる可能性を感じた。現地では人気のある講演は、人ごみの中で遠目でプレゼンを聞く必要があることも多いが、オンライン上では、時間帯を気にすることなく自由にゆっくりと閲覧し、チャット上に質問を残すなどの方法がとることができる。一方で、やはり、現地に赴いて対面でセッションに参加するのにはやはり大きな意味があることも再認識した。まず、オンライン参加でいつもの職場に居ると頭の切り替えがうまくいかず、セッションの途中で通常業務の圧力が勝ってしまい戻れなくなってしまうこともしばしばある。また、セッション外のフリーディスカッションやポスター発表会場でのそぞろ歩きがあるからこそ、普段接点のない分野や新しい研究者との交流、新しい融合研究に関するアイデアが生まれるのだと改めて感じた。おそらく他の研究者の方々も同様に感じているはずで、コロナ禍が落ち着いた何年か後にはこれまでの形式の研究会が再開されるものと想像しているが、オンライン形式を余儀なくされたからこそ気付いた点を活かして、これまで以上に充実度の増した研究会が増えることを願いたい。加えて、プレゼンテーション素材における著作権への配慮や(特にポスター)、発表中のスクリーンショットの禁止など、倫理的なルールを再認識する機会にもなったと思う。筆者もこの規則に則り、プレゼンテーションをできるだけ頭に入れるよう集中して拝聴した。なお、チュートリアル講演を全て終えた3日目の終わりには“conference photo”ということで参加者に対してモニターのアクティブ化が促され、実行委員によるスクリーンショット撮影が行われた。この瞬間のショットについてはきっとお咎めなしであろう。記念として載せておくことにする(図2)。
![](https://user.spring8.or.jp/sp8info/wp-content/uploads/26-1-2021_p35_fig2.png)
図2 チュートリアル講演後のconference photoの様子
参考文献
[1] https://leempeem12.secv.es/online-event/
[2] L. Yu, et al.: Ultramicroscopy, 216 (2020) 113017.
(公財)高輝度光科学研究センター
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